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顧客体験の向上に不可欠なソリューション「CIAM」とは何か? 【電通デジタルコラム】

現代のビジネス環境で顧客接点の増加と共に顧客データ管理の課題が増加しています。CIAMはその解決策として重要です。
顧客体験の向上に不可欠なソリューション「CIAM」とは何か?

デジタル化が進む現代のビジネス環境では、企業が複数のオンラインチャネルやサービスを通じて顧客と接することが一般的となっています。しかし、これに伴い顧客データの分散や認証管理の煩雑さ、セキュリティリスクの増加といった課題が発生しています。これらの課題を解決し、顧客体験を向上させるための重要なソリューションが「CIAM(Customer Identity and Access Management)」です。本記事では、CIAMの概要と導入効果について、テクノロジートランスフォーメーション第2部門 DXP事業部の松村健志が、わかりやすく解説します。
 

CIAMとは、顧客IDおよびアクセス管理のシステム

「Customer Identity and Access Management」(顧客IDおよびアクセス管理。以下、CIAM〔サイアム〕)とは、顧客に特化したID管理と認証サービスを指します。具体的には、顧客のID登録、認証、アクセス制御、そして顧客データの管理を行うためのシステムです。顧客IDを統合管理することで、セキュリティ保護と同意管理に基づくパーソナライズを実現します。

画像は、CIAMの3つの要素を示す円形の図です。中央には「CIAM」のロゴがあり、その周りに3つの円が配置されています。円1は「顧客ID統合管理」、円2は「セキュリティ保護」、円3は「同意管理に基づくパーソナライズ」と記載されています。

CIAMが注目されている背景

企業が顧客との接点を増やし、幅広いチャネルでのブランド展開を進める中で、複数のWebアプリケーションやスマホアプリ、SNS、ポータルサイトを運用することが一般的になっています。現代において、これらは多くの場合クラウドサービスとして提供されており、複数のサービスを組み合わせて活用する「マルチクラウド環境」が主流となっています。

具体的な例を挙げます。

ある大手ヘルスケア企業は、「化粧品ブランドA」と「ヘルスケアブランドB」のブランドを持ち、それぞれの公式通販サイトを個別のクラウドサービスで提供しています。

化粧品ブランドAとヘルスケアブランドBに関する図です。 **化粧品ブランドA:** - 機能: スキンケア商品の閲覧、購入、レビュー投稿、トラッキングを提供 - 活用: エンタープライズ向けのクラウド型ECプラットフォームAで顧客データ管理 - 流れ: 化粧品ブランドA公式通販サイト → 顧客データ → 化粧品ブランドA顧客DB **ヘルスケアブランドB:** - 機能: スキンケア商品の閲覧、購入、レビュー投稿、トラッキングを提供 - 活用: エンタープライズ向けのクラウド型ECプラットフォームBで顧客データ管理 - 流れ: ヘルスケアブランドB公式通販サイト → 顧客データ → ヘルスケアブランドB顧客DB それぞれのブランドが独自のECサイトを持ち、顧客データをデータベースで管理しています。

各ブランドの通販サイトが独立したクラウドサービスを利用し、それぞれで顧客データベースを保持している場合、以下のような課題が発生します。

  1. 顧客体験の一貫性の欠如:管理するアカウントがブランドごとで異なるため、通販サイトにログインするたびに異なる認証情報を求められる。結果として、顧客のアカウント管理が煩雑となり、顧客体験の低下につながる可能性がある
  2. 顧客データの分散:各クラウドサービスで顧客データベースが独立しているため、データの統合や管理が困難。その結果、顧客の一意な識別ができず、データをマーケティング等に活用するときに障害となる
  3. セキュリティリスク:顧客が複数の認証情報を管理する必要があるため、同じパスワードを使い回すなどの行動が生じやすく、セキュリティリスクが高まる

CIAMの導入効果

マルチクラウド環境における課題に対して、CIAMを導入することで得られる効果を顧客側、企業側の観点で見ていきましょう。

顧客メリット:シングルサインオン(SSO)による利便性の向上

CIAMを導入することで、 複数のサイトやアプリケーションで使うIDを統合することが可能になります。これにより、顧客はシングルサインオン(SSO)機能を使って、一度のログインでさまざまなサービスにアクセスできるようになり、利便性が大幅に向上します。また、顧客が同意すれば、異なるサービス間で属性情報を連携することが可能になり、よりシームレスな体験を提供できます。

先ほど挙げた例の場合、顧客は一度のログインで化粧品ブランドAの公式通販サイトだけでなく、ヘルスケアブランドBの公式通販サイトにもアクセスできるようになります。顧客はアカウント管理の煩雑さから解放されるとともに、複数のデジタルサービスをシームレスに利用でき、一貫した顧客体験を享受できます。

シングルサインオン(SSO)機能に関する図です。 - ログイン画面から顧客がログイン - 次に、CIAM(Customer Identity and Access Management)システムを通じて認証 - シングルサインオン(SSO)によって、顧客は一度のログインで多様なサービスにアクセス可能 - 対象のサービスは化粧品ブランドAサイトとヘルスケアブランドBサイト SSOにより、顧客は簡便に複数のブランドサイトを利用できます。

企業メリット:顧客データの一元管理によるサービスや情報のパーソナライズ化

企業はCIAMの導入によって、統一された顧客データを基に、パーソナライズされたサービスを提供することが可能になります。具体的には、各サービスに分散していた顧客データがCIAMにより一元的に管理されることで、顧客動向の分析が容易になり、それぞれの顧客に最適なコンテンツやプロモーションを提供できます。これにより、マーケティング活動の効率化や顧客ロイヤリティの向上が期待できます。

CIAMで統合された顧客データを活用し、ブランドを跨いだ顧客体験を検討・実施する流れを示す図です。 - 顧客はID登録/認証を行い、CIAMシステムで情報を管理 - CIAMはデータベースに顧客データを蓄積し、化粧品ブランドAとヘルスケアブランドBのサービスと連携 - 統合された顧客データは顧客データ管理(CDP)で処理され、機械学習やマーケターによる顧客動向分析に利用 - 分析結果を活用し、ブランド間でパーソナライズされた施策やクロスセル戦略をメールやキャンペーン情報として配信 - 広告活用などを通して顧客体験を向上 このプロセスにより、顧客に対して一貫性のあるサービス提供が実現されます。

具体的な例を3つ紹介します。

1つ目は、パーソナライズです。統合された顧客データを利用することで、マーケティング部門は異なるブランドでの顧客の動きを簡単に分析できます。たとえば、ブランドBでまだ商品を買っていない人に対して、ブランドAでの購買傾向を基に、個別にカスタマイズした打ち手をすぐに行うことができます。これにより、顧客へよりよい購買体験を提供でき、顧客満足度の向上へ繋がります。

2つ目は、広告活用です。統合された顧客データにより、ブランドAとBの両方での活動履歴を基にした、より的確なターゲティング広告を展開できます。たとえば、ブランドAで特定のスキンケアアイテムを購買した顧客には、ブランドBの同じ成分を含むサプリメントやプロテインの広告を表示するなど、関連性の高いプロモーションを実施できます。

3つ目は、クロスセル戦略です。ブランドAとブランドBの購買履歴や閲覧履歴を統合することにより、顧客が求める情報や商品をより正確に提案できるようになります。たとえば、スキンケアクリームを購買した顧客には、スキンケアのサポートに適したサプリメントをブランドBから提案します。CIAMの導入により、このような顧客のライフスタイルに寄り添った提案が可能になり、売上向上へ寄与します。 

顧客&企業メリット:セキュリティの向上

CIAMを通してシングルサインオン(SSO)と多要素認証(MFA)を実現することで、セキュリティリスクを低減し、顧客情報の保護を強化することも可能です。企業としては、セキュリティ強化と個人情報保護に関する法規制の順守により、信頼性を高めることができ、顧客としては、セキュリティが強化されることで顧客満足度が向上します。


おわりに

顧客IDとアクセスを一元化するCIAMは、企業が顧客に対して一貫したデジタル体験を提供するための重要なソリューションです。マルチクラウド環境の導入が進み、セキュリティの強化が求められる現在、多くの企業にとってCIAMは必須のソリューションとなっています。

また、CIAMの効果を最大限に発揮するためには、デジタルマーケティング基盤全体の戦略を策定することが不可欠です。その過程では、DXP(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)など、他のソリューションとの連携が求められ、それには幅広い知識と経験が必要です。

CIAMを中心としたデジタルマーケティングプラットフォームの図です。 **左側: 顧客データを取得** - CMS、アプリ、SNSプラットフォーム、ECサイト、オフラインチャネルから顧客データを収集 **中央: データ統合と管理・分析** - CIAMでログインと認証を行い、顧客データを一元的に管理 - CIAMは顧客データベースと連携し、データを活用 - 顧客データ管理(CDP)で詳細な分析を実施し、特定のニーズに基づいたデータ活用を展開 **右側: データを活用した情報提供** - CMS、アプリ、SNS、ECサイト、MA(マーケティングオートメーション)へ統合データを提供 - パーソナライズされたエクスペリエンスとキャンペーンを実行 全体として、CIAMを核にした効率的なデータ管理とマーケティング活用を示しています。

電通デジタルは、世界最大規模の顧客ID・アクセス管理(CIAM)ソリューション「SAP® Customer Data Cloud」を提供するSAPジャパン株式会社とパートナー契約を締結し、顧客ID統合管理の導入および活用支援を行っています。

[プレスリリース]
顧客ID・アクセス管理ソリューションを提供するSAPジャパンとパートナー契約を締結―SAP® Customer Data Cloudを活用し、顧客体験の向上を実現―

幅広いソリューションの知識と豊富な専門人材のもと、数多くのクライアント企業への支援実績がございます。CIAMを活用したデジタルマーケティング基盤の戦略策定から導入まで一気通貫でのサポートが可能です。お気軽にお問い合わせください。

筆者

松村 健志

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用語集
SNS / Webアプリケーション / クラウド / クロスセル / ターゲティング広告 / ロイヤリティ / 個人情報 / 認証 / 顧客満足度
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