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コメ兵を退職する藤原義昭が、転職先の企業選びで最も重視する「条件」

コメ兵の執行役員でマーケティング統括部長を務める藤原義昭さんが、新卒から20年以上勤めた同社を3月いっぱいで退職。退職に至る決断の背景や、次の会社選びのポイントについて聞いた。

コメ兵の執行役員でマーケティング統括部長を務める藤原義昭さんが、新卒から20年以上勤めた同社を3月いっぱいで退職します。

そこで今回は、退職に至る決断の背景や、ご自身のキャリアの総仕上げになるかもしれない次の会社選びのポイントについて、藤原さんにインタビュー。転職を考えている人や就活中の人、キャリアプランの立て方に迷っている人に参考になりそうなお話を聞くことができました。

ぜひご一読ください。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧)

イノベーションに必要な組織の「生態系」の変化

――退職されると聞いて驚きました。決断の背景を教えてください。

会社のデジタル化にひと区切りをつけられたことと、次の世代にバトンタッチをする時期だと考えたことが大きな理由です。

私の下のミドル世代が育っているのに加えて、会社のガバナンスが整っていく過程で、私もマーケティングの部署の責任者として、コメ兵のマーケティングの仕組みをしっかりつくることができたと思います。

――藤原さんとコメ兵の間に見解の相違が生じたわけではないのですか。

それはないですね(笑)。ある程度大きな会社ですから、私ひとりくらい見解の相違があってもあまり関係ありません。

――新型コロナウイルス感染症によって業績をはじめ、さまざまな影響があったと思います。これについてはいかがですか。

コロナによって決断の時期が早まった可能性はあります。なぜならDX(デジタルトランスフォーメーション)がコロナの影響で急速に進展したからです。デジタル化を進めること自体は以前から行っていて、ECとリアル店舗をより密接に結ぶ計画やコンタクトセンターの拡張などは当初、数年単位で考えていました。それがコロナの影響で、数年単位ではなく1年で目途をつけなければならなくなり、私ができることは最大限に手を尽くしたと思います。そういう意味では結果的に退職の時期が早くなったかもしれません。

――つまり、コメ兵のDXについてある程度やりきった感がある、と。

さらにデジタル化を進めるために次のステージへ行かなければならないということです。DXは、デジタライゼーションと呼ばれるような改善、効率化にとどまる話ではなく、ビジネスモデルや、お客さまとの付き合い方の変化を伴うもので、私はその地盤を作ったと考えています。おそらくこれから私以外のいろんな人がその地盤の上に自分たちが考えたさまざまなビルを建てていくことになるでしょう。

――藤原さんがコメ兵にもたらした最大の功績は何ですか。

目に見えるものではなく、ITやデジタル、マーケティングの分野で新しいことに挑戦する風土をつくることができたのではないかと思います。

例えば、あるソリューションベンダーの提案に対して、本来なら1カ月で導入できるところを社内の検討に時間を要して、結局1年かかったなどの話をたまに耳にします。そうしたことが起きないよう、リスクをコントロールしつつ、思い切った施策をスピーディに進められる風土をある程度つくれたと思います。

――新卒からコメ兵一筋で来て、今後のキャリアを考えたときに、藤原さん個人として、違う世界を見たい、これまでにない挑戦をしてみたいと考えたということですか。

会社を変わる・変わらないは、「手段」の話です。1社にずっといるほうが会社の文化もキーマンも、お金のこともわかっている分、何かとやりやすいでしょう。

一方、環境が変われば仕事も変わりますから、困難性が違いますし、成功確率も異なります。私は今までずっと同じ会社にいました。それは自分で何か新しい仕事を見つけて取りにいくことで、転職しなくても会社の中で環境を変えることができたからです。市場が伸びていて会社も成長していましたので、新しいことに挑戦できる環境が整っていました。

では、なぜコメ兵を出るのか。それは私が作った仕組みだけでずっと続けていても、イノベーションが起きないからです。もちろんそれは私以外の役員にも言えることですし、コメ兵以外の会社でも同じでしょう。特に大手企業の中には、役職が上の人の顔ぶれがなかなか変わらないところもあります。その間、ミドル層はどんどん成長しているわけですから、新たな発想を基にイノベーションを起こそうと思ったら役職が上の人も次の世代へバトンタッチしていくことが大事です。全員変わるとなるとまた別の話ですが、それでも「生態系」を変えるのはとても重要だと思います。

その上で、あらためて個人の話をすると、今後は自分の知見を別のところで活かしたいと考えました。優れたプロダクトがあるのにデジタル化が遅れていたり、マーケティングの仕組み化ができていなくて伸び悩んでいる会社があれば、お手伝いしたいですね。

――年齢的にも勇気がいると思いますが、恐怖心はないですか。

全然ないですね。うまくいかなかったら謝るしかありませんが、人生100年時代ですし、むしろ変わらないリスクのほうが高いのではないでしょうか。

会社選びで一番重視する「風土」とは?

――引き続きBtoCに携わりたいということですが、希望の業界などはありますか。

BtoCなら業界や商品・サービスにこだわりはありません。そもそも「〇〇マーケティング」なんて存在しなくて、再現性をいかにつくるかがマーケティングの肝だと思いますので、業界などは意識していないです。

重視するのは会社の風土です。

――やはり挑戦する風土ということですか。

挑戦もそうですが、一番大事だと思うのが誠実さです。

ソーシャルメディアが社会に広く浸透し、嘘はすぐ見破られる時代になりました。例えば、「ESG経営」(※)を掲げている会社の中にも、いろいろなソーシャルメディアで取り上げられる話題を見る限り、「本当かな」と疑問を感じるところがあります。嘘やごまかしをする会社の信用できない雰囲気を生活者は敏感に感じ取ります。

※ESG経営:
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(管理体制、経営の透明性)に配慮した経営を行うこと。

その点、コメ兵は倫理観を重視してお客さまや取引先さまとの関係づくりを行っていて、本当に誠実な会社だと胸を張れます。そもそもビジネスモデルが買い取りですから、信頼なしには買い取りさせていただけません。「儲かればいい」の発想があるとどこかで無理が生じてしまい、長続きはしないものです。誠実さはこれからの時代にますます注目される要素だと思いますし、次の企業選びにあたって第一のポイントとして捉えています。

――わかりました。次に、藤原さんがこれから挑戦するBtoCビジネスに関連して、ニューノーマルの時代における消費行動の変化をどのようにお考えになっているか教えてください。スマホ1つで多くのことができる時代に、在宅勤務が広がり、飲食はデリバリー、休日はYouTubeやNetflixを見て過ごす。そんなライフスタイルが浸透しつつある世の中で、今注目していることは何ですか。

まず注意しなければいけないのは、世間で言われるニューノーマル時代の世の中の動きの中には、ほぼ東京などの都市部しか視界に入っていないものも少なくないということです。

デジタル化はもう元に戻ることなく、そのまま進んでいくでしょう。一方、コロナによるニューノーマルに関して言うと、マスクは皆、着用しているかもしれませんが、地方に行くと在宅勤務している人は少数派だと思います。これから全員在宅勤務になるわけでもなさそうですし、誰も外に出なくなったら飲食店がさらにつぶれますから、揺り戻しもあるはず。しばらくは行きつ戻りつしながら新しい生活様式が出来上がっていくのではないでしょうか。その際、東京一極だけを見てそれが全てと考えると、マーケティングの施策を考える際に間違えるおそれがあると思います。

BtoCのビジネスについては、その時代によって生活者が求めるものが変化しますので、10年先を読んで施策を打つことはあまり現実的ではありません。だからマーケターは大きな流れを想像しつつも、今何が起きているか、生活者が何を考え、どのように動いているかにフォーカスして、事実をしっかりと観察することが重要です。

――具体的に今何が起きているとお考えですか。

1つ挙げると、いろいろとリサーチしたり情報交換したりする中でわかったのは、サステナビリティ(持続可能性)の重要性です。サステナビリティに具体的にどう取り組むかが企業に求められています。日本では現在、サステナビリティは購買の第一条件になっていませんが、ヨーロッパの動きなどを見ていると、この流れは日本にも来ると思います。

先ほど申し上げた「誠実さ」もサステナビリティにつながります。自分たちの会社が世の中でどのような存在であり、何をなすべきか、表面的なサステナビリティではなく真摯に考えるべき時代が来ていると感じます。

――その例が先日、東京・南青山に出店したサステナブル店舗「KOMEHYO AOYAMA」ですね。とはいえ、サステナビリティについては正直まだピンときていない人も多いと思います。

会社のコア事業と全然違うことでサステナビリティをしようとすると、大した成果もなくコストばかりかかってしまいます。「KOMEHYO AOYAMA」は、リユースというコメ兵のコア事業と画廊経営のコラボレーションになっていて、経済的な部分をきちんと計算した上で参入しています。サステナビリティを前面に打ち出すだけでなく、新規事業として成功、継続させることの重要性を忘れないことが大切です。

リユースとアートを扱う「KOMEHYO AOYAMA」。内装の98%が廃材のリサイクルというサステナブル店舗になっている。(画像提供:株式会社コメ兵)

――ソーシャルメディアに関連して、D2Cについてはいかがですか。

ゼロイチの話ではなく、ほぼ全ての企業がダイレクトでコンシューマーに商品やサービスを買っていただく動きが出てくると思います。理由は2つあります。1つはマージンが大きいこと。もう1つは広告と宣伝のコミュニケーションだけではお客さまと十分な関係性をつくりづらい時代になっていることです。

これから先、原材料の調達からものづくり、販売、コミュニケーションまでバリューチェーンの全てを自分たちで担ったほうがお客さまとの関係性を構築しやすいと考える企業はもっと増えてくるでしょう。もともと「お客さまと直接つながりたい」「お客さまを直接感じたい」とコミュニケーションへの欲求を強く持っている企業は多いと思います。

私自身、新しい世界に踏み出すことになりましたが、これからもBtoCの会社で誠実さをもって仕事と向き合い、お客さまとより良い関係性を築いていきたいと考えています。

――ますますのご活躍を期待しています。 

Profile
藤原 義昭(ふじはら・よしあき)
株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長。
1999年コメ兵に新卒で入社し、ジュエリーの事業部に配属。2000年からECサイトの立ち上げに参画。2016年執行役員。出店からデジタルまでの全社マーケティングと社内の情報システムを統括。2021年3月末同社を退職する。

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