コニカミノルタ×コネクティの戦略的協業の狙いとグローバルサイトの未来
大企業のWeb担当者にとって、グローバルサイト構築における国内外の支社やグループ会社との連携は重要な課題だ。ブランドの一貫性を保ちつつ、各地域や組織に合わせた情報発信は難しい。
2025年3月、コネクティと、コニカミノルタジャパンの2社がオンラインイベントに登場。「Web担編集長が切り込む! コニカミノルタ×コネクティの戦略的協業の狙いとグローバルサイトの未来」と題し、協業による新サービスや業界動向を語った。

ライバルだった2社が協業で生み出す新しい価値
コニカミノルタジャパン(以下、「コニカミノルタ」)は、複合機やプリンター、ヘルスケア機器などの販売・ソリューション提供を主に行う企業であり、自社のプロセス改革で培ったノウハウを活かしたデジタルマーケティング支援事業も営んでいる。
コネクティは、自社開発の国産クラウドCMS「Connecty CMS on Demand(CMSoD)」や、データ総合マーケティングツール「CONNECTY CDP」を基盤に、コーポレートサイト構築から、Webデータ分析・コンサルティングまで、企業のWeb戦略をワンストップで支援する“伴走型”デジタル総合パートナーだ。
そんなコニカミノルタとコネクティは、2024年8月に戦略的協業を発表した。コニカミノルタの荒井氏は、協業の目的を次のように語る。
協業の目的は、「企業のWebガバナンスを実現する」です。Webガバナンスは、企業がWebサイトを効果的に活用するために欠かせない概念ですが、まだ社会に浸透していないのが現状です(荒井氏)

互いをパートナーとして選んだ理由
2社は、互いのどんな点に魅力を感じたのだろうか。
コニカミノルタが、大手企業のWebサイト支援を複数手がけるなかで、CMSやサーバーなどのバージョンアップ作業が毎年のように発生し、そこに多くのリソースを割いていた。常に最新の状態を維持しなければ、セキュリティリスクは増大するばかりだ。しかし、限られたリソースの中で、日々の運用業務に加えて、Webガバナンスを維持するのは困難だった。
コネクティが提供するエンタープライズ向けのクラウドサービスならば、CMSやサーバー管理、セキュリティ対策などを自動化できる。これにより、担当者の作業負担を大幅に軽減し、Webガバナンスの維持も可能なサービスであり、Web戦略の議論に集中できると荒井氏は考えた。
一方で服部氏は、コニカミノルタを選んだ理由を「これまでコネクティが大事にしてきた価値観と合致する点に加え、コニカミノルタが自社サイトの運用やリニューアルを通じて培った豊富な知見が魅力的」と述べた。特にグローバルな経験やWebガバナンスの整備など、運用面を含めた長期的な価値提供が、協業により実現できると考えた。

コネクティのクラウドCMSの業界内立ち位置と強み
CMSには多様な選択肢が存在する。服部氏は、CMS業界を3つの切り口で分類し、そのなかでコネクティのクラウドCMS「Connecty CMS on Demand(CMSoD)」がどの立ち位置にあるかを解説した。
- 規模別:大規模サイト向けのエンタープライズCMS/小規模サイト向けのコンパクトCMS
- 提供形態:オンプレミス型(自社設置型)/クラウド型
- 製品の産地:海外製品/国産製品
CMS業界を規模別に見ると、大規模サイト向けのエンタープライズCMSか、小規模サイト向けのコンパクトCMSに分けられる。大手企業では、WordPressなどの小規模サイト向けのCMSはセキュリティやガバナンス対応等の観点から避けられるため、大規模サイト向けのエンタープライズCMSが選ばれることが一般的だ。
しかし、大規模サイト向けCMSはオンプレミス型が主流であり、クラウド型で大企業や大規模サイトに耐えうるサービスは少なかった。コネクティのCMSoDは、この大規模向けでクラウド型というポジショニングを取っている。
また、大規模サイト向けCMSは一般的に外資系の製品が多く、サポート面や撤退リスクなどから見直しが図られ、国産製品が評価されつつある。そこで、国産製品でかつ大規模サイトに耐えうる製品として、コネクティのCMSoDの需要が増している。
Web制作業界のトレンドとコニカミノルタの強み
続いて荒井氏は、制作会社の業界トレンドとコニカミノルタの強みについて解説した。
コーポレートサイトは、オーソドックスなデザインや構成が好まれるため、制作会社の企画提案書は似通る傾向がある。制作会社選びの決め手は、「プロジェクト進行中の合意形成の支援力」「プロジェクトへの寄り添い力」で、差が出ます(荒井氏)
コニカミノルタは、自らが「ユーザー企業」として培ったノウハウを強みとし、グローバル製造業、BtoC企業、サービス業など多様な顧客をサポートできる体制を整えている。
大規模なプロジェクトにこそ協業の強みが発揮される
続いて、今回の協業は、どんな企業に向いているのか、あるいは向いていないのかを聞いた。
協業による得意分野
- 大規模プロジェクト:関係者が多く、複雑な合意形成が必要な場合のサポートが可能
- システム統一が必要な企業:クラウド型CMSで統一化の実績あり、段階的導入も可能
- コスト重視の企業:コネクティの国産クラウドCMSはコストや運用面で好評
協業による不得意分野
- 派手なデザインを重視するプロジェクト:斬新なデザインや奇抜なアイデアを求めるWebサイトには不向き
- シンプルなコンテンツ更新だけが必要な場合:簡単な更新ニーズには不向き
サイトリニューアルに関するアドバイス
セッション後半は、サイトリニューアルの課題について四谷編集長が質問し、荒井氏と服部氏が回答した。
1. CMSの機能追加に関するお悩み
CMS機能表には「〇」があるのに、いざ導入しようとすると別途開発費用や時間がかかることがあるが、それは一般的なのか。
服部氏:オンプレミス型のCMSは、SIerによる機能のカスタマイズ開発を前提として○にしていることが多く、プロジェクトの進行に伴い見積もりが膨らむ傾向がある。
一方、クラウド型のCMSは、機能がサービスとして提供されるため、SIerの開発要素が少なく、見積もりとのギャップが生じにくい。さらに、新機能が無償でバージョンアップされるため、初期費用が高額になりがちなオンプレミス型と比較して、スモールスタートが容易であるという利点がある。
したがって、機能追加に伴う開発費用や開発時間を懸念するのであれば、クラウド型サービスの検討を推奨したい。
荒井氏:「機能の必要性の再検討」を推奨。担当者が過去のシステムや他国の要望を基にした機能リクエストは、必要性が検討されていないケースがある。必要性の再検討で、費用や時間を削減できる。
2. 合意形成に関するお悩み
“鶴の一声”に振り回されて、予算がオーバーしたり、納期が伸びたりしがち。
服部氏、荒井氏は「早い段階で方針や目的を共有し、すり合わせていくことが重要」という意見で合意した。
荒井氏:レビュー不足が原因であることが多い。社長や役員などの決裁者への「段階的なレビュー計画が大切」とアドバイスした。
服部氏:グローバルサイトでは海外メンバーとの調整に時間がかかるため、「早い段階での話し合い」や「進めやすい地域との実績作りからの拡大」が有効と述べた。
グローバルサイト運営において企業が直面する課題
グローバルサイトのWeb運営における課題には、どのようなものがあるか。
この質問に、荒井氏は「サイトの構造設計」と「組織の役割分担」の観点から、服部氏は「UI/UXの統制」と「言語の翻訳」の観点から回答した。
荒井氏の回答
グローバルサイト制作の悩みは、近年増加傾向にある。特に多い悩みを2つ挙げ、コニカミノルタグループが実際にどのように対応しているのかを実例を示しながら解説した。
- サイトの構造設計:グローバルで管理すべき部分と、ローカルに任せる部分をどのように分けるか
- 組織の役割分担:大国と小国で異なる予算やリソースを踏まえ、それぞれの役割や責任をどう配分するか
サイトの構造設計について
コニカミノルタグループはすべてのWebサイト共通のガイドラインを発行し、それに沿った形でグローバル/ローカルの管理部分を分けている。とはいえ、完全な統一性にはまだ課題があり、グローバル/ローカルの管理部分も手動で変更可能なため、管理には限界があるのが実情だ。
組織の役割分担について
コニカミノルタグループでは、日本にグローバル本部を設置しWebガバナンスを統括している。その下に地域統括本部を配置し、参加国を管理する階層構造にしている。この体制の構築には、約20年かかったが、これにより運用の一貫性を保ちながら混乱を防いでいる。
とはいえ、人による運用だけでは管理にも限界がある。プラットフォーム側でも制御が行えることが理想で、コネクティのCMSoDはそうした機能を備えていることも魅力的だと荒井氏は述べた。
服部氏の回答
そんな荒井氏の言葉を受け、服部氏がグローバルのWebサイト運営におけるトレンドとして挙げたのは下記の2つだ。
- UI/UXの統制とガバナンス
- 多言語サイトの管理
UI/UXの統制とガバナンス
複数の国で運営されるWebサイトでは、統制が取れず、ユーザー体験やデザインの一貫性が損なわれることがある。UI設計やUX体験を共有し、管理を徹底することが重要であり、その成功例として「寺岡精工のグローバルサイト」を紹介した。
また、CMSoDの「ブロックエディタ」機能は、共通パーツで構成されたサイト作成を容易にし、レギュレーションやブランディングの統制を効率よく実現することができる。
多言語サイトの管理
多言語サイトを効率的に運営するには、次の2種類の方法がある。
- 中央集約型: 本社で全ての翻訳を行い、各国はコンテンツを直接編集しない
- 共同編集(リレー)型: 本社が原稿を用意し、各国がそれを元に翻訳・編集を行う
近年、共同編集型のツールが登場している。CMSoDも、「ローカライズAI」機能で翻訳作業を支援し、グローバル運営の柔軟性と統制を両立している。
プロジェクト関係者間でデザインの解釈がずれたり、柔軟性の理解が不足したりする場合は、デモで変更可能部分と固定部分を具体的に説明することが効果的。コネクティでは英語での説明やマニュアルも用意しており、それが役立っていると服部氏は補足した。
AI・データ活用の観点から、注目すべき最新トピック
続いて、服部氏が、グローバルWeb運営における3つの重要なテーマを紹介した。
1. AI活用の動向
Webサイト制作でAIの活用が進んでいる。多言語ページの自動生成や、ヘッドラインの効果をシミュレーションする技術が進展し、生成AIによるコンテンツ制作も広がりつつある。また、検索方法が多様化し、AIを活用して調べ物をするケースが増え「AIに選ばれるWebサイト」を構築するための議論も進んでいる。
2. データ活用の動向
グローバルで「顧客データ統合」の動きが広がっている。その際、CDP(Customer Data Platform)が活用されるが、各国の法律やGDPR(EU一般データ保護規則)などの規制を考慮する必要がある。
3. セキュリティ強化の動向
DDoS攻撃やサイバー攻撃対策として、ファイアウォールやWAF(Web Application Firewall)などのセキュリティ技術が必要不可欠になっており、これらの対策がWeb戦略の中核に位置付けられている。
コネクティのConnecty CMS on Demand(CMSoD)は、高度なセキュリティ設定が可能なクラウド型CMS、攻撃からの保護や安全なサイト運用が可能な機能を多数保有しています。また、AIの活用が可能で、コンテンツやデータを統一して管理できるCDPもあわせて提供しており、グローバルWebをさらに効率的に運営したい企業のニーズに応えられていると思います(服部氏)

ガバナンスや各国の法律への対策も大きな課題
Webガバナンスにおいて、特に課題となるのは、各国で異なる法律への対応だ。たとえば、EUのGDPRやアメリカのCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)など、個人情報保護に関する法規制は地域によって大きく異なる。
法律対応は非常に難しい課題です。各国でさまざまな法律が次々と施行・改正され、裁判事例が増え、多額の賠償金が科せられるケースも増えています。日本やグローバル本部だけで全世界の法律に対応するのは不可能であり、地域ごとのリーガルチームとの連携が欠かせません(荒井氏)
アクセシビリティ対応の現実的な解決策
日本のアクセシビリティに関する法整備は始まったばかりであるが、アメリカでは訴訟が多発している。アメリカ市場進出時に日本企業が訴訟される例もある。
服部氏は、アクセシビリティ対応には、大きく2つの方法があるとした。
- 基準に基づいてコーディングを行い、証明書を取得する
- 必要な部分を優先し、ツールを活用してハイブリッドな形で対応する
全ページの完全対応は時間やコストがかかるため、2の部分的なアクセシビリティ機能を実装する方法も最近よく選ばれている。基準に準拠したページ作成とともに利便性を確保することが重要だ。
コネクティはAIを活用してアクセシビリティ対応を簡単に行えるサービス「UserWay(ユーザーウェイ)」も提供しており、問合せが非常に増加している。
また、荒井氏は、担当者のスキル差により対応に差が出るため補助機能は必要としつつ、完璧を求めずバランスを取ることが重要と述べた。
セッション最後に荒井氏は、企業がWebサイトをデザイン中心に考えがちな点を指摘し、「重要なのはガバナンス」と強調。
大企業のWeb担当者はグローバル規模での連携負担が大きいため、コネクティとコニカミノルタは協業を通じて企業のWebガバナンス構築を全面的にサポートし、Webサイトを効果的に活用できる環境を整えたいと語り、セッションを終えた。

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