BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

ウェブビジネスに必須のトレンドを集約/書評『ウェブを変える10の破壊的トレンド』

ブックレビュー

BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊

『ウェブを変える10の破壊的トレンド』

評者:山川 健(ジャーナリスト)

ウェブビジネスで生き残るために知っておきたい潮流
ユーザーや他の企業に依存する他人任せの姿勢が重要

『ウェブを変える10の破壊的トレンド』
  • 渡辺 弘美 著
  • ISBN:978-4-7973-4644-2
  • 定価:1,600円+税
  • ソフトバンククリエイティブ

たとえば昨年初め、「セカンドライフ」と言えば、引退後の第2の人生と考えるのが一般的だった。ところがわずか1年で、3Dの仮想空間として認知された。インターネットの世界には次々に新しいサービスや技術が登場し、その中からセカンドライフのようにブレイクするものが現れる。「大事なことは破壊的トレンドになり得る小さな変化を見逃さずに捉えることだ。日々伝えられるイノベーションに関する情報が、これまでのトレンドの延長線上にある動きを示すものなのか、これまでの延長線上から外れた新たなものなのかを判別する必要がある」と著者は強調する。

本書では米国を中心としたIT分野の破壊的イノベーションの登場と、背景にあるユーザー主義への変化を「破壊的トレンド」と表現。インパクトが大きくIT関係者が無視できない10のキーワードを取り上げ、最新情報の分析と対応策を示した。著者は、日本貿易振興機構(JETRO)のニューヨークセンターで2007年6月までIT調査を担当。米国で新しいサービスや技術に直接触れ、反応を肌で感じていただけに説得力がある。

取り上げられた10のトレンドの中で最も興味深いのは、2番目の「フリー」と3番目の「クラウドソーシング」。

フリーは、半導体、ストレージ、帯域幅のなどIT資源あたりの価格が無料(フリー)に近くなったことに起因するトレンド。フリーによって経済モデルが変革した。ビジネスを立ち上げるとき、自社でプランを練り、投資利益率(ROI)を検討してからスタートするのが従来の方法だが、これからは最も良いものを知っているのは企業(自分たち)ではなく「You」というスタンスを採る必要があるという。

Youは、ユーザーだけでなく他のサービスを提供する企業を指す。マッシュアップが典型的な例。自分ですべての情報を集めず、コントロールを放棄する。自社にない情報やソリューションは他社やユーザーに任せた方が早い。さらに、ビジネスモデルや投資利益率の検討に時間をかけず、実験的に製品を出してみて、後で改良する。時間との勝負のネットビジネスで生き残る方策だ。著者は断言する。「ユーザーやほかの企業に依存する他人任せの姿勢を取り、また、とりあえず製品をリリースするというベータ版的なアプローチに舵を切ったほうがよい」

クラウドソーシングも、他人任せのこと。外部の企業や個人から製品やサービスを調達するアウトソーシングと違い、ITインフラを活かして面識のない多くの人の知恵や知識を活用する。代表例がウィキやアマゾンの評価。不思議なことに、プラットフォームを持つサービス提供者がコンテンツを提供するより、集合知にコンテンツを委ねた方が、ユーザーに支持される。ユーザーが楽しんで評価する仕組みを作れば、報酬も不要だ。

そう考えると、ミクシィの成功はまさに破壊的トレンドを先読みしていたことになる。ミクシィ自身は仕組みを作っただけで、自ら提供している情報はない。コンテンツはユーザーが勝手に作り上げる。そして、今でも「ベータバージョン」と謳っている。

ウェブビジネスでこれから必須になるキーワードや概念が集められている本書は、インターネットの流れに取り残されないための実用的ガイドブックの性格を持つ。1年後のことは簡単には予測できないが、おそらく、今年大きくブレイクするサービスや技術も本書の中で紹介されているはずだ。ウェブビジネスに関わる者なら読んでおきたい1冊だろう。

用語集
IT / オープンソース / クラウド / クラウドソーシング / クリエイティブ / トレンド / ビジネス / ミクシィ
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