コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の八十伍
沖縄から帰れずに断念
「森の中で金の卵を見つけたらどうしますか」
答えは最後に述べます。
このお盆にスタッフを連れ沖縄離島への慰安旅行を計画しました。パンフレットを片手にネットでチェックします。幾つかのプランを「見比べる」のに紙媒体は重宝し、最新情報と掘り下げる力はネットの独壇場です。目的地を宮古島とし予約ボタンをクリックすると「不可」と表示されます。
そこでJALのサイトで確認すると、東京(羽田空港)出発便はあるのですが、帰りの沖縄(那覇空港)からの便に空席がありません。旅行日程で出発日は異なっても「帰り」はカレンダーにより集中してしまうのが理由です。旅行代理店の窓口で訊ねると「春頃には申し込まないと」と苦笑いされました。そして慰安旅行は近所のビアガーデンでの暑気払いに変更です。
半額以下で行く宮古島ツアー
この旅行計画策定中にある価格差を発見しました。JALツアー宮古島3泊4日(2名1室)を8月12日発で申し込むと17万9,800円で、同じプランを2週間後の8月26日発にすると8万5,800円と半額以下です。「ウチの会社はお盆しか休めないので関係ない」では卵を踏みつぶしてしまいます。どう活かすことができるか? これが仕掛ける側の発想です。
簡単な方法では「ブログのネタ」に使います。「え? 宮古島ツアーが半額?!」と銘打ち詳細をエントリーします。ピーク時が高いことは知っていても、短期間で2倍以上開くことを知らない人も多く、「年中無休」で営業している企業の社員は「夏期休暇」を分散させており、2週間遅れのお盆休みは珍しくありません。彼らにとっては「お得情報」となります。
Web担当者は「仕掛ける側」にあり、情報の取り扱い、豊富な選択肢、多面的な見方は標準装備しておかなければなりません。
ネットで検索のデメリット
情報は望む人の前に現れて価値が生まれます。訪問者に喜んで貰い、わずかでもアクセスが稼げれば儲けものです。また、情報発信は引力を生み出し「金の卵」を呼び寄せることもあります。
日頃、「ネットで検索」をする機会が多く「情報」に多く接しているであろうWeb担当者は、金の卵に出会う確率が高いといえます。しかしメリットだけ与えてくれる道具はありません。2つのデメリットを紹介します。
インターネットの発達で瞬時に情報が手にはいるようになり、特に「ホームページ」に関するものは技術まで無料です。「Google Analytics」のような高性能の「アクセス解析ツール」がタダで利用でき、掲示板では「××のサイトにあったよ」と、フリー素材やライブラリの活用が呼びかけられます。その手軽さが曲者です。
Google Analyticsが使えなくなったら
技術を身につける工程はロールプレイングゲームに似ており、スライムに負けるようではボスキャラに出会えず、基礎知識がなければ技術の本質は理解できません。「ネットで検索」で簡単に入手できる手軽さが基礎を身につける時間を奪います。
(アクセス)ログを取得するためにGoogle AnalyticsはJavaScriptを採用しています。つまり、訪問者のブラウザがJavaScriptを許可していなければページビューなどを記録できません。数年前にセキュリティなどを理由に「JavaScriptを使わない」ことを推奨する動きがありました。この動きが復活したらどうなるでしょうか。基礎知識があれば「JavaScriptを使わないログの取り方」という選択肢を知っているので慌てることはありません。
仕掛ける側の人間にとっての選択肢とは保険であり可能性を広げる武器となります。もしご存じなければ「ネットで検索」しておいてください。
ポイントは金の卵の再検証
Ajax全盛のご時世にJavaScriptが使われなくなるなどと一笑に付されるかもしれませんが、もう1つのデメリットは「IT系世論」は一方向に流れやすく「祭り」が始まると誰も「ノー」といわなくなることです。検索結果に埋め尽くされる礼賛と賛辞はまるで宗教。1年前の「セカンドライフ」の盛り上がりを思い出してください。多面的なももの見方は「金の卵」を見つける必須条件です。
昨年寄稿した「ポイントは絶対儲かる金の卵」はWeb担当者という「売り手」に向けて書いたものです。消費者の立場からすればポイントは「俺の金」となり怒り心頭に発するかも知れません。しかしその怒りは正しいのでしょうか。
多くの店や企業の本音を代弁します。
「身銭を切ってポイントを提供している」
つまり、身銭=利益を削って「囲い込み」をしているのがポイント制度で、本来は店の利益となる金を「俺の金だから値引きしろ」というのは「客の傲慢」です。商売は利益が出るから存続できるのです。もちろん、某ショッピングモールのように出店者から徴収した「税」を自分の金のように振る舞うのは別の話ですが。
お盆に隠れる「金の卵」
そして冒頭で触れたクイズです。
「森を歩いていて金の卵を見つけたら?」
あなたはどうしますか。
母校の都立足立西校の後輩に話をする機会に恵まれたとき、この質問をすると「逃げる」「(換金)売る」「食べる」と答えがあがるなか、ちょっとトッポイ風貌の男子生徒がこう答えました。
「ヒヨコにして(孵して)育ててもう1つ産ませる」
私は惜しいと大声を上げました。答えはこうです。
「(金の)卵を産んだニワトリを探す」
育てるのもアリですが、いまそこに卵があるのなら産んだニワトリもいるはずです。
目の前にあるもの、そこに見えているものの他に何があり、別の視点からはどう見えるのか。仕掛ける側のWeb担当者ならどうしてそうなるのかを考えてみてください。
17万円の旅行が2週間で半額になり、数年前だったら役立たずだったGoogle Analyticsが商用製品並の価値に、ポイントの裏には囲い込みと引き換えに流す店の血の涙が。
「金の卵」はどこにでも隠れています。森の茂みにもビルの影にも。
♪今回のポイント
情報は多方面からのアプローチが必要。
Web担当者ならニワトリを探せ。
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