コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の九十参
日経平均が下落しても
米国サブプライムローン破綻の連鎖から世界同時株安となり、「世界恐慌」が来ると脅かす経済評論家も現れました。仮に世界恐慌となれば、私たち庶民に対抗する手だてはないので悲観しても仕方がありません、そして脅迫するほどのことはないだろうと楽観しています。第一、発言に責任を持たない「評論家」の言葉に右往左往してもくたびれるだけです。
とはいえ「不況」は来るようではあります。恐慌という天変地異はともかく、不況という災害はくるだろうという意見には反対できません。ですが、これはチャンスがやってくるということでもあります。不況は中小・零細、個人商店に可能性を与えてくれます。特にBtoBの「商売用ホームページ」にとっては。
本稿はダウ平均1万ドル割れ、日経平均1万円割れした日に執筆。10月8日に予定した原稿と急遽差し替えました。
マネーゲームの本質とは
本題に入る前に私が楽観視している理由を述べます。
大暴落といっても直前の「価格」に比した急激な下落のことで、同時に儲けている人がいるということです。「空売り」という投資技術の話ではなく、単純に「安く買っていた株を下がる直前に売った人」は儲けており、また数字上の暴騰(欲しいというリクエストだけで売買が成立していない状態)ならば誰も損をしておらず、「儲け損なった」だけのことです。そして、世界経済の荒波がそのまま庶民を直撃することはありません。ザックリというなら超大金持ち(ミリオネア)が100万ドルの損をしても、庶民が1億円の損をすることはできないからです。
必要以上に臆病になっていては好機を見逃します。報道はミリオネアの数字を引用して煽ります。街角に目をやるとミリオネアではない庶民は、世界恐慌が囁かれる中「H&M銀座店」の行列に並び消費を楽しんでいます。
不景気というチャンスタイム
人は変化を嫌います。昨日と同じ今日を迎え、明日も同じ朝陽が登ることを疑いません。好景気の風は気持ちをおおらかにし、見知らぬ企業の商品より、割高でも大手メーカーの商品を選びます。商品の実力の検証は棚上げにされ、名前から安心を買うのです。「新しい業者」との取引によるリスクを避け、「従来の取引」に安住します。好景気に新参者や弱小企業の食い込む隙間はありません。
風向きが変わればそうはいきません。DCブランドで決めていたエグゼクティブがユニクロのフリースにシフトし、バブルに夢を見た紳士はドンペリから発泡酒へとシフトしました。名よりも実をとり、取引は見直され、新しい可能性を開くために業者を探し始めます。不景気とは新しい取引先に出会うチャンスタイムなのです。
ピンチはビジネスのシーズ
不況による買い控えが懸念されますが、ビジネスシーンにおいては原材料や道具への支出を抑えるにも限度があります。そこで「より安く」と同時に「良いもの」を探しはじめますが、利用されるツールはもちろん「インターネット」です。
世界的な資源高からくる鋼材価格の値上がりが工具業界を直撃しています。ヤスリ屋の三代目が営む「ヤスリ.jp」に金型職人から注文がはいりました。40年以上のキャリアを超える職人は工具業者を探した理由をこう述べます。
「ヤスリがすぐ曲がるようになった」
つきあいの古い工具業者から仕入れたヤスリがです。質が悪い道具は職人の仕事にも影響しますが、積み重ねた歴史から不満を伝えにくいこともあります。そこで「ネットで検索」したのです。ヤスリが曲がるようになった理由を、三代目は「鋼材価格の高騰からヤスリの素材を薄くしたのではないか」と推測します。以前なら考えられない話しです。
ユニクロ、デパ地下(中食)、100円ショップ。みな不景気になり躍進しました。不況はビジネスのシーズ(タネ)を発芽させるのです。そしてインターネットもその1つ。
工夫はいくらでも
今から10年前の1998年は「貸し渋り」が横行した「日本全国総不況(平成大不況)」という時代です。今では死語となりつつある「ネットサーフィン」がブームとなった背景には不況がありました。テレホーダイ(通信コストの低下)やパソコンの低価格化とも連動しますが、不況下でお金がなく、持てあました時間が「自宅でレジャー」といわれたインターネットに投じられたのです。
不況下にチャンスが溢れかえります。ちょっとした「工夫」がビジネスとなるからです。たとえば小規模店では在庫スペースがないことから割高に仕入れをしていることがあります。そこに「在庫します」と提案します。不況で荷物が減った倉庫を安価に借り上げ、他のクライアントの在庫と共同で管理すればどうでしょうか。
これは机上の空論ではなく、大不況最中の10年前、当時の私は会社員でしたが、同様の方法で取引先を増やして新規事業立ち上げの先鞭をつけたのです。これが後の独立につながりました。
アンテナを張れば利子が0円
景気が悪くなると税収が落ち込み自治体は困り「景気対策」を打ち出します。経営感覚の乏しい役所はときどき、とんでもないことをやらかします。ちょっと前の足立区の話しです。「利息ゼロ」という施策を打ち出しました。区内での創業を増やし産業を振興し税収増にと願いを込めて、自治体が「利息」を援助してくれたのです。利息なしでお金が借りられるのはチャンスです。
たまりに貯まった有給休暇を使い独立準備をしていたとき「9.11米国同時多発テロ」が起こりました。混迷する世界情勢と景気不安から「タイミングが悪い」と独立の再考を促す人もいましたが、景気の悪いときだから得られた取引があります。景気が良ければ「インターネット」に取り組まなかったと告白したクライアントも。やっぱり「ピンチはチャンス」だったのです。
ただし、情報起業家にはご注意を。甘い話しには裏があり、不況のときほど「甘い話」が増えます。儲かった「証拠」とサイトに載せてある1億円の残高が記された銀行通帳の「写真」など、「フォトショップ」で簡単に偽造できること覚えておいてください。
♪今回のポイント
逆張りに商機アリ。
ダメと嘆くか、ダメに価値を見いだすかの違い。
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