企業ホームページ運営の心得

ツー・ステップ営業。商品開発はネットマーケティングの古典へと回帰する

通販だけがネットではなく、ネットを活用できない商売はありません。それを助けるのが「入口商品」というアプローチです
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百十八

売るモノがない商売とは

「売るモノがない」

商売用ホームページを立ち上げる際によく耳にする声です。「物販」以外の企業に多く、「ネット=通販」という思いこみから何を掲載すればいいかわからないというのです。あるオフセット印刷業者がホームページ開設に当たり、ペット用品の販売を始めたのも「通販」という思いこみからです。つてを頼りにペット用品を仕入れ、ブログシステムによるホームページ開設から数年。まったく更新されない月も多く、現在は「連続未更新10か月記録」を樹立中です。「もちろん」という表現は残酷ですが売れていません。

売るモノがなければ作り出すのが「商売」です。それを「商品開発」と呼び、ネット戦略の古典にたどり着きます。

本業に注力して商品開発を

本業から「商品開発」をするのが中小企業の鉄則です。先ほどの印刷屋を例にします。オフセット印刷の取引はBtoBがほとんどでBtoCは未経験です。ペット用品を販売するためには「BtoC=小売り」のための接客ノウハウを身につけ、戸別配送から入金確認、仕入れに在庫管理を学びながらとなります。それに加えて「ホームページ」の更新作業です。中小企業の多くは慢性的な人手不足で「本業」から解放されることはないでしょう。異分野への取り組みはすべてが「片手間」となり、「共倒れ」というリスクを抱えることになるのです。

「ネット=通販」という呪縛は想像以上に根深いのですが、通販だけがネットではなく、極論すればネットで売れない……正しくはネットを活用できない商売はありません。それを助けるのが「入口商品」というアプローチです。

5万円パックで軌道に乗せた

カタカナが好きな方には「入口商品」ではなく「フロントエンド商品(アイテム)」でもOKです。このアプローチは入り口と出口フロントとバックという2つのステップから成り立っており、好条件を提示するのが前者で、売りたい商品が後者となります。

両者の実践例を私の会社員時代より紹介します。チラシの企画を立て版下をデザインし、B5判で印刷・新聞折込(配送)まで行う「5万円パック」が入口商品でした。ちょっと凝れば数十万円かかるチラシを5万円で配布できるというのは破格です。チラシの効果を知ることで配布回数が増え、サイズは大きく、色数が多く(カラー)なればより儲かるという皮算用が出口です。また、すでにチラシを利用している企業は「コスト削減要求」が激しく、平たく言えば「値引き要求」が苛烈です。しかし、「ウブ(未経験)な企業」なら価格主導権を握れるという狙いも当たり、新規事業は軌道にのりました。

ツー・ステップで風呂釜からリフォームへ

入り口と出口の二通りの商品を用意する手法はマーケティングの古典で「ツー・ステップ・セリング」や「ツーステップ営業(マーケティング)」など様々な呼ばれ方をしており、「試供品」や「お試し価格」と基本は同じです。しかし「プレゼント」や「値引き」ではありません。

リフォーム業者が「風呂釜洗浄」を入口商品にしたのは次の理由です。

「毎日掃除をしていても数年も経てば風呂釜に汚れが溜まる。それを業務用機材で洗浄する。家も同じ。丁寧に使用しても必ず修繕が必要となる。その客を拾う」

いきなり「リフォーム」という高額商品を売るのではなく、安価な洗浄サービスから客との接点を持つ戦略です。入口商品とは、次に提供する商品やサービス=出口のために用意するものだということです。ここを取り違えるとプレゼントや値引きに成り下がります。

入口商品に欠かせないもの

入口商品を開発する際は出口も同時に考えなければなりません。「入口商品」だけ用意することを「本末転倒」といいます。そして「商品」といっても、必ずしもモノを販売する必要はありません。業界動向や利用者レポートといった「情報」は立派な入口商品となりBtoB、BtoCのどちらでも使えます。中身については何十ページという大作は不用でA4判1枚ほどの「我田引水」な内容で結構です。学術レポートではなく客の興味を惹くためのものだからです。

この時、忘れてはならないのが「アプローチ」です。入り口から出口につなげなければなりません。レポート提供や入口商品の取引終了後も顧客と接触する手段が「アプローチ」で、E-mail、FAX、ハガキ、封書、または訪問など様々な方法があります。これを入口商品の開発と同時に検討し、あらかじめ準備しておかなければ日々の業務に忙殺され手薄となり、出口への道が閉ざされます。繰り返しになりますが、中小企業の人手不足は慢性的です。

そしてネットマーケティングの古典へ

実は入口商品を用意する手法はネットビジネスの古典です。今でも強力な「メルマガ戦術」がこれにあたります。情報提供という入口商品を用意して出口受注を目指すもので、メルマガの継続発行が「アプローチ」です。「メルマガは役立たず」という主張するのは、この入り口と出口という戦略的発想がないからで、「メルマガを発行する」ことが目的化しては、いつまで経ってもゴールにたどり着きません。

最後に商品開発の際に忘れてはならないのが「費用対効果」です。仮にオフセット印刷の入口商品として「原価で印刷」という破格のプランを用意したとします。チラシのようにリピートが期待できれば初回の赤字も次の受注で賄えますが、メニューや開店案内なら出口は期待できません。回収できなければただの「値引き」です。入口商品は「チラシ限定」にするなどの工夫が求められます。

メルマガの場合、人件費が費用です。週1回以上発行するのが理想ですが、その執筆時間を人件費に換算して出口を下回ればやめます。赤字を続けながらの「特売」は利益を生みません。メルマガ以外の「アプローチ」を考え、要点をまとめた「レポートプレゼント」を選択する方が利益を期待できます。

売るモノがない商売はありませんが、売り方を知らない商売人が多いことには時々首をひねります。

♪今回のポイント

売るモノがない会社なんてない。

まずは入り口から考える。メルマガもその入り口の1つ。

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