みずほフィナンシャルグループに学ぶWebサイト品質向上のベストプラクティス
企業Webサイトは隙間風だらけの欠陥住宅?!
ビジネスにおけるWebサイトの品質管理の重要性を認識しつつも、実際には、それが実践・反映されていないのが現状だ。
※1 この調査でいう「クオリティ」とは、リンク切れや要素の欠落などHTMLの構成を意味する。調査には、Webサイト総合検査サービス「IBM Rational Policy Tester(アイ・ビー・エム ラショナル・ポリシー・テスター、以下 Policy Tester)」を利用した。
筆者の所属するバーチャルコミュニケーションズでは、上場企業300社を対象にWebサイトの品質検査を行い、「Webサイトクオリティランキング※1」を発表した。その調査結果によれば、調査対象100ページ内でのリンク切れが10件を下回った企業は73社(24.3%)。つまり適正な品質管理・維持が実現できているのは、全体の2割程度ということになる。8割近い企業では、リンク切れをはじめとするさまざまな問題点を抱えたままサイトを公開しているのが現状だ。
各企業のWeb担当者は、品質管理の重要性を感じながらも、「予算がない」「人員が確保できない」などの理由でその作業が後回しになっていることが多い。厳しい経済環境が続くなか、ぎりぎりの予算と人員でサイトを運営しているため、目の前にある業務をこなすことで手いっぱいとなり、品質のチェックや向上にまで手が回らない、というのが現場の大多数の声である。
※2 たとえば米国小売り大手Targetがアクセシビリティに関する最低限の基準を満たしていないとして集団訴訟されるなどの例がある。
実は、北米、とくに訴訟大国である米国ではWebサイトの不備が訴訟にまで発展するケースもあるため※2、多くの企業の品質管理に対して多額の予算を計上している。
ところが日本では、リンク切れなどの不備に対する企業のリスク管理意識は低く、「リンク切れはなくて当たり前」「Webサイトの品質が維持できないのはWeb担当者の責任」というような無理解や認識の欠如も多いだろう。Webサイトの品質管理や統制のための予算を獲得するためには、Webサイトの不備がそのまま企業のブランディングや業績に直結するという認識や理解を得るための社内的な啓蒙活動を、Web担当者が行っていくことが重要だ。ただ漠然と待っていても、経営者がその予算を割り当ててくれるわけではないのだから。
わずか1年間で品質向上を実現した事例
Web担当者の高い品質管理の意識によって、大幅な品質管理・統制を実現した事例を紹介しておこう。2009年6月にWebサイト総合検査サービスPolicy Testerを用いて実施された「Webサイトクオリティランキング」1位の、みずほフィナンシャルグループだ。
同社では2006年4月にWebサイトの品質検査を行ったのだが、その時点で数万件の問題点が発見された。リンク切れに始まり、企業のポリシーの統一、複数のページに同じタイトルが重複しているなど、大量の問題点が存在していたのだ。同社のWeb担当者はわずか2名でサイトを管理していたため、すべてを一気に解決することなど、とうてい不可能だった。そこで彼らは、1つずつ問題を解決できるように、まずは問題点に優先順位をつけていった。
彼らが何よりも先にとりかかったのは、リンク切れをゼロにすること。サイトを訪れた人を最も困らせる問題点だからだ。リンク切れがすべて解消されたら、次はページ内リンクのアンカー切れやタイトルの重複の修正といった具合に、少しずつ問題を解決していった。当初は数万件の問題点があった同社のサイトだが、優先して解消すべき問題点から順番に毎週少しずつ改善していくことで、2名の担当者によって1年間ですべての問題点を解消したのだという。
同社が利用した自動化ツールはPolicy Tester(当時の名称はWebSuites)。
それまで、同社とグループ各社のWebサイトは、サイトデザイン、カラーなどは統一されていたものの、ユーザビリティ/アクセシビリティなどのコーディング基準がなく、品質をチェックする人員も万全ではなかったため、ページごとの品質のばらつきが非常に目立っていたとのこと。そこで、2006年の全面リニューアルのタイミングで、Web標準に基づいた各社共通のガイドラインも定め、高水準なコーディング品質を実現したのだという。
その際に並行して、リニューアル完了後も膨大なページ量の品質の水準維持・向上を図るための方法を検討していたところ、Webサイトの品質などをシステマティックにチェックするツールの存在を知ったのだという。
担当者によると、ページ数が多い同社サイト群において、目視によるチェックなど人的な部分でカバーできない点も含め、Webサイトの隅々まで自動的にチェックして問題点を探し当ててくれる自動化ツールは、業務の効率化という面でも魅力があったのだということだ。
5000ページ以上からなる同社サイトだったが、まずPolicy Testerのような品質チェックツールを利用することで、
- 問題点をリストアップする
- 発見された問題点の種類分けを行う
という作業を自動化し、さらに問題点の種類をベースに作業優先度を設定することで、毎週少しずつ作業するプランを立てられたのだ。こうした自動化がなければ、少人数でこれだけ多くの問題は解決できなかっただろう。
いったん、問題点をゼロにしてしまえば、その後は1週間に1回チェックするだけだ。更新によって新たな問題点が出てきても、すぐに対応できるため、常に問題点・不備をゼロにしておくことができる体制が整った。この品質管理フローが、「Webサイトクオリティランキング」1位という結果をもたらしたのである。
品質管理のベストプラクティスとは
現在、みずほフィナンシャルグループで実践しているWebサイトの品質管理は、毎週末にWebサイトをクロールしてレポートを更新するサイクルになっている。毎週月曜の朝に更新レポートを確認して、新たな問題点が発生している場合には、エクセルファイルに問題点を抽出し、担当部署にメールで送信して担当者が解決する。このシステムであれば、問題点確認後、1件につきわずか5分~10分程度で解決することができ、Webサイトの検査・確認・改善がスムーズに行われることになる。週1回の検査・改善というサイクルが、品質管理のベストプラクティスだ。
これがたとえば1年に1回、あるいは3か月に1回という頻度で検査を行った場合、検査ごとに発見される問題点の数も多く、そのたびに特別な作業として一気に問題を解決しなければならないという問題がある。毎週のワークフローに品質チェックを組み込めれば、日々の仕事を進めるなかでWebサイトの品質を保てるのだ。また、1年に1回のチェックであれば、各問題点は平均して6か月間サイトに存在していることになる。毎週のチェックであれば、問題は最大でも7日間しかサイト上に存在しないことになる。この違いはビジネスへの影響も大きいだろう。
そもそも、数百ページ~数万ページにもおよぶWebサイトを展開している企業であれば、問題点がどこに潜んでいるかを発見することも難しい。そういった大規模サイトではもちろん、さほどページ数が多くないサイトであっても目視チェックによる漏れを避けるために、まずは専門ツールを活用することで、現状のサイトにどんな問題点があるのかを洗い出すことは、現代のWebサイトでは必須だといえる。それが、「利用者に信頼されるWebサイト」を実現する品質管理の第一歩なのだ。
そして、重要な問題から順番に着手していくことで、現在抱える問題点をゼロにしたうえで、週1回の検査・更新を継続していくこと。これが、Webサイトの品質管理を維持・向上させる最良の方法であり、これが実現できたサイトでは、訪問者を落胆させてブランドに傷を付けることはなくなるだろう(もちろんコンテンツが力不足だった場合は別だが……)。
実際に、こうしたフローを通じて品質管理を向上させた企業のなかには、日経パソコンの「企業サイトランキング」で品質向上が認められ、それに伴い企業内でのWeb運営チームの評価も上がったという例がある。また、品質管理に取り組む意識・姿勢が変わることで、制作を担当するスタッフやベンダーの意識も高まり、ミスそのものが減ったという例もある。さらに、納品後の修正にかかるコストや時間が削減でき、本来の業務に充てる時間が増えることで業績を伸ばしている企業もある。Webサイトなくしては成り立たないビジネスだからこそ、その品質管理が、そのまま企業の業績に結びついているのである。
次回は、人手不足でも問題を解消できる具体的な品質管理ツールを紹介する。
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