カスタマー・マイオピアから脱却すべし:客は神様ではないし間違いも多々ある
今日は、「カスタマー・マイオピア」つまり「顧客近視眼」の話。マーケティングにしても営業にしても、「顧客を知り」「顧客の要望に応える」ことは重要ですが、顧客のいうことをうのみにして、すべて満たそうとすると、「顧客近視眼」になります。
『100円のコーラを1000円で売る方法』という書籍があります。IBMのマーケティングマネージャーの永井孝尚氏が執筆した書籍で、これが非常にわかりやすく、うちの営業にも全員に読んでほしいと思った内容でした。本書を通じて強調されているのが、「カスタマー・マイオピア(顧客近視眼)」からの脱却なのです。
中身はタイトルから想像されるものとはかなり異なり、顧客に対して価値を提供するというビジネスの本質を、企画・マーケティング・営業まで通して、わかりやすく解説した1冊で、あとがきに次のように書かれていることが、本書の方向性を示しています。
顧客中心主義とは、「顧客に振り回される」ということではなく、「顧客の課題に対して、自社ならではの価値を徹底的に考え、提供する」ということなのです。
本文は「もしドラ」以降に増えた小説スタイルです。宮前久美というイケイケドンドンな営業マンが会計ソフトの会社の商品企画部に異動してきて「お客さまのため」の新企画を提案するが、やり手の与田にことごとく却下され、ライバルの明日香を意識しながら、少しずつ「お客さまのため」の本質を理解して成長していくという流れ。
書籍を読み慣れた人なら、1~2時間程度で読めるはずですが、企画・マーケ・営業といった仕事をしている人は、読んでいるなかで「うはっ、あるある」とうなずいたり、「え? その考え方じゃダメなの?」と愕然としたりすることが、何度もあるでしょう。
というのも、この1冊のなかに
- 事業の定義
- 顧客絶対主義の落とし穴
- 顧客満足のメカニズム
- 市場でのポジションごとに異なる戦略
- バリュープロポジションとブルーオーシャン戦略
- 競争優位に立つためのポジショニング
- チャネル戦略とWin-Winの実現
- 値引きの怖さとバリューセリング
- コミュニケーションの戦略的一貫性
- イノベータ理論とキャズム理論
といった、かなり幅の広い内容がギュッと詰め込まれているのです。
私自身、かなり参考になりましたが、なかでも刺激になったのが、「顧客の要望リストの項目すべてに応える内容」かつ「価格はドーンと9割引」の提案を出したにもかかわらず、コンペで競合のバリューマックス社に負けた久美に、その顧客の部長が言った次の言葉。
バリューマックス社さんは、私たちが言ったことを鵜呑みにしないんです。私たちの要望が100%正しいとはかぎらない。むしろ的外れな要望や思い込みもあります。バリューマックス社の内山さんは、会計システムが本来あるべき姿を提案してきたんです。そして、私たちが見過ごしていた弊社の問題点を指摘して、それをいかに解決するか、具体的な解決策も提案してきたんですよ
そして、久美の9割引の提案を蹴って、最も価格の高い競合を採用したことについて、
全体のコストを大幅に削減できる提案をしてくれたんですよ。それに比べると、ソフトの価格差なんて、ゴミみたいなものです。
そして留めに、こんなことも。
たしかに、駒沢商会(久美の所属する会社)さんは私たちが言っていることには確実に対応してくれます。でも言い換えると、言ったことしかしてくれないんですよね。前向きな提案がありません。
現場の営業マンが陥りがちな、「顧客のために=顧客のいうことにそのまま対応する」が必ずしも良いとは限らず、「顧客にとってどうするのが良いかを考え、そこに対して提供できる自社の価値を考える」という、商売の原則を強く打ち出しています。
そして、「カスタマー・マイオピア」。「マイオピア」とは「近視眼」つまり、「顧客近視眼」のことです。
序盤で久美に対して
ところで、宮前さんは「お客さんのことは私が一番知っている」と口癖のようにおっしゃっていますね。でも、自分が本当にわかっているのか、考えたことはありますか? たとえば、以前もお聞きしましたが、お客さんは何で会計ソフトを使っているんでしょうか?
と問い掛けていた与田は、後半で次のように言います。
あなたのようにお客さんの言いなりになることを、最近、マーケティングの世界では、“カスタマー・マイオピア”と呼んでいます
要は、目の前のお客さんが言っていることだけを鵜呑みにして、それにすべてに対応しようとしてしまって、本当にお客さんが必要としていることに対応できておらず、長期的に見るとお客さんが離れていってしまう状態のことです。
たとえば子どもを相手にしている状況を考えると、子どもが「こうしたい」「これがいい」と言うことすべてにそのまま対応することがいかにナンセンスで子どものためにならないかは、語るまでもなく多くの人が理解していることでしょう。
また、自分の部署に入ってきた新人が業界や市場の理解がないままに「こうするといいと思います」と提案する内容も、かなりの場合に的外れであることでしょう。
しかし、お客さんが言うこととなれば、すべて従い要望を満たそうとすることが、いかに多いか。
私もよく広告営業と一緒にお客さんのところに行きますが、お客さんが「こうしたい」と最初に言うことが、本来その顧客が今の状態で行うべきことからズレていることが、意外とあるものです。
その場の売上をとるだけなら「おっしゃるとおりに」と案件化すればいいのですが、ついつい「本当にそれがいいんですか?」「本来のターゲットに対しては、そのアプローチでは案件のゴールを達成できませんよね?」と打ち合わせの現場をかき乱すこともしばしば。しかし、そうすることが顧客にとって良いことだと信じてやってるんですよね。
だから、「カスタマー・マイオピア」「お客さんの言いなりで、表層化した言葉を鵜呑みにする」ことに対する警鐘は、非常にココロに刺さりました。
おそらく、筆者の永井さんは本書のタイトルとして、『カスタマー・マイオピアからの脱却:日本企業が取り戻すべき“本当の顧客中心主義”』といったものを考えていたのではないかと思います。
しかし、わかりやすい本文に合わせて「もっと多くの人に届けられる響くタイトル」として、編集者が『100円のコーラを1000円で売る方法』としたのでしょう。
いまの出版事情では、このタイトル付けは正しいと思います。実際、この書籍はかなり売れているようですから。
しかし、私は「カスタマー・マイオピア」という、「顧客のために」と考えている人が油断すると陥ってしまう「顧客のためにならない」行動を、もっと強く世の中に訴えかけていけるといいのにな、と思います。
ということで、まずはうちの営業のみんなに読んでもらうために、まとめてこの書籍を買いましょうかね。
あなたも、もしまだ読んでいなければ、ぜひ『100円のコーラを1000円で売る方法』、読んでみてください。損はしないはずです。
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