BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『そんなんじゃクチコミしないよ。ネットだけでブームは作れない 新ネットマーケティング読本』
評者:山川 健(ジャーナリスト)
ブログによるクチコミマーケティングは幻想
ネットに過剰な期待は禁物、最適な方法は?
挑戦的なタイトル。本文最初の見出しは「ネットクチコミでバカ売れの“ウソ”」。そして「通常、ネットの一部で話題になっているだけでは世間的な影響はありません」「ネットのクチコミでバカ売れするなんて話はありません。ウソです」と次々に繰り出される刺激的な文。ネットマーケティングの新しい手法としてブログを活用したクチコミ効果を信じる層の夢を、のっけからことごとく打ち砕く。
ニフティを経て、オンライン書店のビーケーワン専務や、ブログツールのシックス・アパートでマーケティング担当執行役員を務めた著者が書く「結論としては、『インターネットの影響力なんてたいしたことがない』ということ」の文には重みがある。例として挙げているのは、大企業の商品ブログが“炎上”しても関係なくその商品は売れている事実、広告の賞を受けた大企業の優れたネットキャンペーンでも知る人はほとんどいない状況――。ネットに過剰な期待を寄せる現状を、過大評価だと戒める。
私もそうなのだが、ネットの世界に浸かっていると、ともすれば木を見て森を見ない状態に陥りがち。冷静に考えれば、著者が放つとがった言葉は当たり前のことなのだろう。数少ない特異な成功事例だけを見て、ネットでクチコミを起こして売上増を図る、などと安易に考えて良いはずがない。大事なのは「インターネットの強み、インターネットの価値の本質を見極めて利用すること」。著者は「インターネットだけでなんとかしようとするのに無理がある」と、既存のメディアと組み合わせたマーケティングの必要性を説く。
「『ネットユーザー』が、すでに特別な人たちではないように、『ブロガー』という人もすでに成立していません」と、ブロガーを特別視しない視点も新鮮だ。ブログが一般化した今では、ブロガーは単なる生活者、消費者の1人に過ぎない。ブログに何を書かれても、一般消費者のサンプルとして代表性はなく、ネガティブな反応にも大きな意味はない。著者は「ネガティブな意見が書かれたブログを多くの人は誰も見ていないのです」と、バッサリ切り捨てる。「ブロガーを無視しても売れるものは売れる」ともいう。そもそも「ブログを使ったクチコミマーケティングは幻想に過ぎない」とのスタンスだ。
著者は、カネを払ってブロガーに記事を書かせるペイパーポストサービスがスパム化しつつある現状を憂いつつ「企業とブロガーの関係がこのところ汚染されてきていると感じています」と嘆き、企業とブロガー(生活者、消費者)の良好な関係の構築が重要だと訴える。その方法は、ブログやSNSに代表される消費者参加型メディア、CGM(Consumer Generated Media)と正しくコミュニケーションをとるために、味方のメディア=PGM(Partner Generated Media)を作る、という考え方。対象を既存顧客やファンに絞り、開発や販売のパートナーと位置付けて協調していくやり方だ。
ブログを使ったクチコミを否定する本書の姿勢には反論もあるだろう。しかし私は著者の考えに同感だ。よくここまで明快に書いてくれた、とさえ感じる。「インターネット業界にはうさんくさい人たちがたくさんいます。彼らにダマされないように、常に裏側に隠された真実を見極めてください」。あとがきに書かれているこの文章こそ、著者が最も訴えたかったことのような気もする。
コメント
ありがとうございます
紹介ありがとうございました。著者の河野です。
丁寧に取り上げていただき、心から感謝しております。
また、山川さんのような方が、きちんと評価してくださっていることをうれしく思います。
こちらこそありがとうございます
著者の河野さん、コメントありがとうございます。
書評を書かせていただいた山川です。
感謝の言葉をいただき、こちらこそ、ありがとうございます。
私が普段からぼんやり考えていたことが、この本によって体系的、理論的に明確になりました。その結果、このような書評になりました。
今後ともどうかよろしくお願いします。