ビッグデータ活用が進まない3つの理由、データを成果につなげるデータサイエンティストの役割とは/ソフトバンク・テクノロジー
ビッグデータ活用と聞いて何を想像するだろうか。バズワード的に多用されることもあるビッグデータだが、企業内での活用はなかなか進んでいない。ソフトバンク・テクノロジーの橋本翔氏は、ビッグデータ活用の課題や問題点を指摘し、ビッグデータの1つでもあるアクセス解析データを使った活用方法を解説した。
ビッグデータ活用の多くはレコメンドにとどまっている
ビッグデータとデータサイエンティスト、パーソナライゼーションについて、実際にどのように進めていくかという仕組みの話と、そのために組織や体制をどのように整えなければならないか、具体的に何をして売上などのコンバージョンを上げるのか。これらについて詳しく話していきたい(橋本氏)
登壇した橋本氏は、「ビックデータ活用に対して、すでに何らかの取り組みを行っていますか
」と会場へ問いかける。
ビックデータ活用の例として、Amazonの「レコメンド」、Facebookの「知り合いかも?」、ウェザーニューズの「ウェザーリポート」機能などを挙げる橋本氏は、いずれもユーザーが便利になる機能がビッグデータを介して提供されていると説明する。しかし一方で、大規模ECサイトの80%以上はレコメンドを利用しているが、それ以外にビッグデータを活用するケースはあまりにも少ないとし、ビッグデータがレコメンド以外に広がっていかないのはなぜか、と話を進める。
さまざまな企業に話を聞くと、どの企業もビッグデータを「会社として取り組まなければいけない課題である」と認識しているが、どう活用すべきかわからない状況だという。こうした企業の主な課題として橋本氏は次の3つを示す。
- データを集めると“何か”ができそうだが、「具体的な施策」と「費用対効果」が不明瞭である
- データを集めるうえで関係する部署や会社が多く、「部門横断」で指揮を取る人がいない
- データを「分析」し、正しく「理解」できる人が不足している
これらの課題を解決するためには、関係各所と調整するための武器(説得材料)を用意する必要がある。具体的にデータを活用して「何を実行・実現するか」を定義し、取り組みによってどれだけの効果が見込めるかを「試算」する。そして、データを基にした施策による「成功事例」を小さなものからでも創出することが重要だ。これらを踏まえたうえで橋本氏は、以下の3つのテーマを話していきたいと説明する。
- ビッグデータ活用を推進するために必要な基礎分析とは
- 行動ターゲティングを活用したWeb最適化の効果
- データが組織の意思決定スピードにドライブをかける
ビッグデータ活用に必要な基礎分析
1つ目の課題「ビッグデータ活用を推進するために必要な基礎分析とは」に対しては、まず成長させるセグメントを定義することから始める。
最も身近なビッグデータとして橋本氏は、大量のデータに行動履歴情報が含まれ、リアルタイムに行動データを収集できる「アクセス解析データ」の活用を勧める。拡張性もあり、さまざまなデータと組み合わせることでデータの価値を高めることができる。
アクセス解析データ活用では、基礎分析として、ロイヤルティごとにデータを切っておく必要があると橋本氏は言う。たとえば、ECサイトであれば購入回数ごとに「未購入者」「ワンタイムユーザー」「エントリーユーザー」「ミドルユーザー」「ヘビーユーザー」などの3~6セグメントに分類し、ターゲティングを行うことを念頭に、各ユーザーにどんなコンテンツを訴求するかを明確にしていく。
次に、セグメントごとに訪問者比率やコンバージョン率、ARPU(1人あたりの月間購入額)などを比較し、各セグメントのユーザーを次の段階に成長させていけば、顧客1人の引き上げによる売上増がどの程度かを算出することが可能となる。
続いて、引き上げ率の上昇による売上増の見込みを計算し、「引き上げ率を何%上げれば売上がいくら増加するか」という引き上げ効果(LTV)を明確にすることで、現在どのセグメントが成長しているか(鈍化しているか)がわかり、優先的にターゲティングを行うセグメントを絞り込むことができるようになる。
各セグメントのユーザーを次の段階に成長させるためには、「訪問回数」「購入回数」「時間軸」「商品軸」「顧客軸」などを多次元分析することによってターゲットとなるセグメントの行動傾向を把握し、特徴を見出していく必要がある。
たとえば、「時間軸」では初回訪問の人が購入しやすい月を分析し、「商品軸」では最初から商品IDで見るのではなく、大きなカテゴリから小カテゴリに落とし込みながらユーザー行動がどう変わっていくかを見ていく。このように、データによってユーザーの行動傾向を分析することで、次に行うべき施策が見えてくる。
ターゲティングの効果を明確にして次の施策につなげる
基礎分析を行った後は、2つ目の「行動ターゲティングを活用したWeb最適化の効果」を見ていく。ビッグデータ活用において、行動ターゲティングに注目している理由として、橋本氏は次の4点を挙げる。
- リターゲティング広告に代表されるプッシュ型の集客施策と異なり、買い物のしやすさや商品訴求で満足度向上を追求できる
- 適切なターゲティングが行えれば高い費用対効果が見込める
- レコメンド以外の最適化手法が実行されていないためトップページから始めるだけでも効果が出る
- リアルタイムに最適化施策を実行できて即効性が高い
行動ターゲティングの設計では、ターゲティング配信することがゴールではなく、しっかりとターゲティングを行った結果を評価して次の施策につなげ、継続して行うことが重要だ。また、ターゲティングの有効性を評価するためには、全ユーザーに対してターゲティングを行うのではなく、10%をノンターゲティング(デフォルト表示)とし、残り90%のターゲティングがどれだけの効果を上げたのか明確にすることも重要となる。
また、性年代などの情報が不足しているためにターゲティング条件に合致しないユーザーに対しては、ターゲティングを多階層に用意する手法を取る。たとえば、「会員/非会員」を分類し、最近の新サービスを閲覧した会員ユーザーには優先度高で新サービスのリターゲティングを行い、特定の商品やサービスのリターゲティングを優先度中にして、閲覧履歴から商品カテゴリベースでターゲティングするなどの施策が行える。会員であれば、性別などのプロファイル情報を利用した施策も可能だ。
情報が不足している非会員に対しては、コンバージョン率やクリック率を指標とした自動最適化ソリューションを有効活用できるという。特定のキーワードや特定の時間帯に来訪した、10%のユーザーに何を見せればコンバージョン率が上がるかを自動的に分析し、残りの90%に適用できるというのだ。
また、ソフトバンク・テクノロジーのソリューションでは、行動履歴データを統合してBIに取り込み、購入につながりそうなユーザーをロジスティック回帰分析などで統計解析して抽出できるという。さらにターゲティングツールとAPI連携し、会員IDベースでPC、スマートフォン、タブレットに最適化したページを見せることができる、と橋本氏は話す。
実際にソフトバンク・テクノロジーが手がけたターゲティングの事例として、橋本氏はアスクルのECサイト「LOHACO」の事例を示す。
この事例では、基礎分析の段階で「初回訪問時に注文をしなかったユーザーが、再訪時に初回訪問時に閲覧したカテゴリの商品を購入する率が極端に高い」ことがわかり、トップページのファーストビューをターゲティングエリアとして、再訪問したユーザーには前回閲覧商品カテゴリに応じたオファーを配信するようにしたという。
ここでは、訪問者10%にデフォルトのコンテンツを配信し、残りの90%には前回閲覧商品カテゴリに応じたオファーを配信するように設計した。RPV(ひとりあたりの売上高)と、CVR(コンバージョン率)の上昇率を比較して評価した結果、主要指標としているRPVやCVRが約2倍にまで向上し、なかでもベビー・キッズ、家電・AV機器などの特定のカテゴリでRPVが約3倍になったという。
データ分析をアクションにつなげるデータサイエンティスト
ビッグデータ活用のための基礎分析と行動ターゲティングによって効果が得られることを示した橋本氏は、「それでも最後の組織面の課題は残る
」とし、3つ目のテーマである「データが組織の意思決定スピードにドライブをかける」について解説する。
ビッグデータ活用の前に立ちはだかる組織の壁として、「部門横断で指揮を執るCMOの不在」「部門ごとに実現したいゴールが異なり、ビッグデータプロジェクトが点在している」「データ活用が進んでいる部門と、進んでいない部門の温度差が激しい」などを示した橋本氏は、データの専門家であるデータサイエンティストの必要性を強調する。データを分析するデータアナリストではなく、分析したうえでしっかりとしたアクションまでつなげられる人材が必要というのだ。
データサイエンティストについて、「データを基に“行動すること”を推進し、全社をつなぐ“鍵”となる人材」と定義する橋本氏は、データサイエンティストに求められる6つのスキルを説明する。
- 正しいデータが抽出できる
- データにごまかされない
- 統計解析が行える
- 仮説を立ててアクションプランを立案できる
- わかりやすいレポートが作成できる
- 説得力のあるプレゼンができる
しかし、6つのスキルをすべて持った人材はなかなかいないため、まずは1つひとつのポイントを押さえてほしいと橋本氏は言う。
また、データサイエンティストが成すべきこととして橋本氏は、「A2A(分析からアクションへ)を継続的にフォローして絶え間なく行い、成果の報告と共有を徹底すること」としている。そのうえで、分析結果から仮説を立てること、テストを行ってナレッジを共有すること、テスト結果を基にキャンペーンを実行すること、結果データを分析するサイクルを回していくことが重要だとした。
データサイエンティストが部門間の架け橋となり、全社的な重要資産としてのビッグデータ活用を推進できるかどうかが成否を分ける(橋本氏)
最後に橋本氏は、ビッグデータ活用の鍵はA2Aを推進するリーダーの擁立にあると述べ、講演を終えた。
ソフトバンク・テクノロジー株式会社
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