企業Webに足りない「誘客」アプローチをメルカリ炎上CMに見つける
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の445
炎上したテレビCM
テレビ放送されたフリマアプリ「メルカリ」のCMに、批判が殺到しました。Webでも公開されている「買い物上手篇」と題された映像では、3万2,000円の「パンプス(靴)」を試し履きした女性が「ちょっと考えます」と購入を見送りながら、同アプリで見つけた同じ靴を1万3,000円で購入します。
店頭で商品を確認し、実際の購入はネットを利用するいわゆる「ショールーミング」です。購買行動として実際にあったとしても、それを全国放送で「買い物上手」だと、推奨するように紹介したことへの批判です。
ショールーミングは必ずしも悪ではありませんが、英国のカメラチェーン大手「ジェソップス」が2013年1月に倒産したときには、店頭で商品を確認し、より安い商品をネットで購入するショールーミングによって追い込まれたと言われています。
一方、Webに力を入れながら「リアル」のチャネルを疎かにしている企業サイトは少なくありません。多くの人がWeb上での取引を経験している時代ですが、ネット通販を好きか嫌いかで問えば「苦手」と答えるお客はまだまだ存在するもので、積極的に来店を呼びかけ、結果に結びつけている企業は少なくありません。
Webルーミングへの期待
私がメルカリのCMに登場する靴屋のWeb担当者だとします。ならば、自社サイトにこう案内を掲載しておくことでしょう。
ご来店にあたり、ご希望の商品がございましたら、あらかじめお申し付けください。ご来店まで「お取り置き」しておきます
不測の事態から在庫切れの可能性もあることや、「お取り置き最大日数」といった制限は必要ですが、Web閲覧者の来店を促すための「仕掛け」を、Web上に用意しておくということです。さらに、サイトと店内ディスプレイは、多くの店舗でリンクしていませんが、来店すればスマホ画面をもとに、希望の商品をピックアップして、並べて選ぶことができるなどと、リアルならではの特典をサイトで宣伝するのもありでしょう。つまり、Webで商品をチェックし、店頭で確認して購入を期待する「Webルーミング」です。
不足する来店者対策
試着したけど買わない客など、気にすることではありません。むしろ、「物欲」というのは、手に触れ、身に着けることで高まるものです。メルカリのCMのように、踏みとどまってより安い購入機会を探すタイプは少数派。この完全排除は不可能であり、気にするだけ損します。
BtoBでも同じです。商品案内ページを充実させてはいても、「ご来社」「ご来店」を希望するお客への案内が十分でないサイトが多いのです。取引先がどんな企業かを確認したいと、訪問を希望するお客だっているのに、こちらへの対策を施している企業はまれ。それ故に、ビジネスチャンスを逃しているケースも多いのです。
たった1行の誘客
どれだけ立派なパンフレットであっても、実体がかけ離れた会社は多く、パンフレットをホームページに置き換えれば以下同文です。Web担当者からすれば微苦笑を禁じ得ませんが、いまでも「ホームページ」を信じていない人はいます。「訪問」や「面談」をしてこそ、「仕事」と信じるタイプは絶滅していません。
そこで、最も簡単な手の打ち所として、
お近くにお越しの際はお立ち寄りください
と、来社の案内を記載しておきます。さらに、
最新の商品や事例を数多く取りそろえております
と添えておけば、何かのついでに足を運ぼうというお客も現れます。たったこれだけの、わずかの手間で来店確率はグッと高まるのです。
倉庫でガッポリを実現
「人手がなくて相手ができない」「突然、来社されても困る」という会社もあるでしょう。それならば、次のように案内を入れておきます。
十分なお時間をご用意致します。必ずご来社の○日前までにご連絡ください
指定された日に、どうしても対応できないこともあるでしょう。そんなときは非礼を詫びて、来社日の変更を求めればいいだけのことです。特に「リアル」を大切にするお客なら、互いの都合は「お互い様」という原則を理解しているもの。きっと都合に合わせくれます。
「事務所には機密事項があり、ご来社いただいても対応するスペースがない」など、理由はさまざまですが、「事務所に来られても困る」という会社もあるでしょう。そこで「倉庫」に案内し、ガッチリ収益を上げていた企業もあります。Web上での案内はこうです。
ガレージセール(フェア)随時開催! ご来社の前にご連絡ください!
メインは住宅設備施工の会社でしたが、マンションのモデルルームの解体にともない廃棄処分される、住宅設備の「中古品」を一時保管していた「倉庫」をショールーム代わりに集客していたのです。「倉庫」ですから、気取る必要もなく、むしろその飾り気の無さが「割安感」を演出し好評を博します。その「倉庫」も一時しのぎの間借りであることは秘密です。
工場が売り場になる
なにより、お客に来社させるメリットは少なくありません。わざわざWebで探し、時間を割き、移動コストを支払って来社するのは購買意欲の高い客が多いからです。経験則ながらポジティブな傾向が強くで、多少の条件違いがあっても、話し合いや妥協点を見つけて、解決しようとしてくれます。なにより、お客は時間と交通費というコストを投じており、元を取ろう的な意識が働き、密度の濃い商談となりやすいのです。
これを体現しているのが、ある機械製造企業です。工場に客を呼びつけて、オーダーメードの製造機械を受注生産しており、「商品」がないことを逆手に、図面や写真、ときには開発中の他社の機械を見せて口説いています。倉庫も工場も特別なことはしていません。本稿で紹介した「ご来社案内」を少し掲載しているだけです。それでも、高い確率で商談は進展しています。
動画での紹介も1つの手ですが、Web上で十分な説明が難しい商材を扱っているなら、Webルーミング、すなわちリアルの「誘客」は意識すべきです。そこから先、「来店した客に買わせるのは接客担当の腕の見せ所」とは、私が営業マンだったころの師匠の言葉。メルカリのCMに登場するショップ店員に教えてあげたい言葉です。
今回のポイント
Webに足りないリアルに客を呼び込む「誘客」
リアルのお客は商談に前向きなことが多い
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