コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の474
会話のピント
私、写真が下手なんです
行きつけのレストランで、隣の席に座った男性2人と女性1人の3人組みの声が聞こえてきます。飛び交う単語の内容から、Web関係者のようです。酒量が上がるに連れて声が大きくなり、すべての会話がダダ漏れ。機密レベルの話も飛び交い、他人事ながら守秘義務を心配します。
「写真が下手だ」という女性が、上司に写真をダメだしされたと落ち込んで見せると、すかさず男性の1人が「オレが教えてやるよ」と胸を張ります。実はカメラが趣味だと愛機の自慢をはじめ、露出やシャッタースピードといった撮影技術について、よどみなく語り始めます。
女性が「上手な写真」の例に挙げたのは、タレントのInstagramやTwitter。女性が求めていたのはスマホでもできる「上手な写真の撮り方」なのでしょう。
カメラを語った男性も、あまり写真が上手ではないと見るのは、会話のピントがずれていたから。今回のテーマは「上手な写真」について。
プロとアマの違い
本稿における上手な写真とは、「コンテンツ用」と「広告用写真」を指します。私はプロカメラマンではありませんが、広告代理店やWeb担当者として、多くの写真を取捨選択してきた経験から、「使える写真」を上手とし、「使えない」写真を下手と分類しています。
両者を分けるのは「テーマ」です。テーマとは「何を伝えるか、伝えたいか」における「何」です。なぜなら、コンテンツ用の写真の役割とは、文章を補足し印象を強化する「百聞は一見にしかず」にあるからです。
そもそも論として、テーマのない「上手な写真」はあり得ないということです。これはプロカメラマンとアマチュアの違いと言ってもいいでしょう。プロカメラマンは、テーマ(発注)に沿って撮影をしますが、アマチュアにその制約はありません。
定食のテーマとは
テーマがあっても、その理解を間違えると下手な写真になります。飲食店でありがちな、定食などを真上から撮った写真はその最たるものです。
定食の写真における「何」とは、大雑把にいえば食欲増進や好奇心の刺激であり、厳密にはそれぞれのメニューを「推す」ためのもの。「しょうが焼き定食」の写真なら、「しょうが焼き」のタレの色やツヤ、ロース肉かバラ肉といった部位の違いをビジュアルで伝え、お客に選ばれることを目指すというのが正しいテーマの理解です。
つまり「しょうが焼き」をメインに撮影しなければなりません。テーマを正しく理解すると、自ずと構図が決まってきます。
「しょうが焼き」以外を写すなといっているのではなく、どこに「ピント」をあわせるべきかという話です。ご飯、お新香、小鉢、味噌汁などは「文字情報」だけでも事足ります。
上司が求める写真とは
某グルメ系のスマホアプリには、タレントやモデルがInstagramなどに投稿する「真上から撮った料理写真」の再現を目指す機能が搭載されています。
しかし、にぎり寿司を真上から撮っても、あまり美味しそうには見えません。タレントらが紹介しているのは、「真上から見てオシャレに見えるように盛りつけしている料理」であって、その時のテーマは「オシャレ」です。あるいは、定食の配膳や盛りつけがテーマなら、真上からの撮影がベストとなります。
「テーマ」によって「構図」は変わるということです。先の女性が目指していたことも同じだとすれば、これも「下手な写真」を撮る人の特徴です。
ダメ出しされたということは、何らかの業務に要した写真だと推測されます。そこで上司が求めた写真が、「インスタグラムのオシャレ写真」である可能性は低いでしょう。
写真にもTPOがあります。つまり、写真の出来栄えというより、この女性が指示を正しく理解していなかったことへのダメ出しだったということです。それは文脈から女性の希望を汲み取らず、カメラ解説を始めた先の男性も同じです。
パンチパーマのハンサム
実際にある企業の求人コンテンツを作成したときのことです。
人物が写り込んだ職場写真の提供を願いました。下世話ながらも、可愛い女性や格好良い男性が映った写真をリクエストしたのは、求人コンテンツにおいて見栄えが与える印象が大きいからです。
その後、提出された社員の写真についての評価は、ノーコメントとしておきます。ただ、先方のWeb担当者に被写体をモデルにした選考理由を尋ねると「性格が可愛い」と答えました。
確かに人の良さそうな笑顔の持ち主でしたが、広告写真としては残念。同様のコンテンツで「ハンサム社員」の推薦を願ったところ、パンチパーマのいかつい兄ちゃんの写真が提供されたこともあります。
自分だけ、あるいは社内だけで通じる価値観からのテーマの理解も「下手な写真」を生み出します。
オシャレ坊主ありやなし
とはいえ、昨今、多様化が進む価値観が線引きを難しくしています。
茶髪はすっかり市民権を得ており、俗にいう「オシャレ坊主」に「オシャレヒゲ(無精ヒゲ風)」が容認されている企業も多くなり、ピアスどころかタトゥーの市民権を叫ぶ声も聞こえてきます。
こうした風潮は、ヘアスタイルやファッションに限ったものではありません。しかし、あえて「上手と下手」に振り分けるなら、判断に迷う写真は「下手」に分類します。写真に求められる機能は「わかりやすさ」だからです。
繰り返しになりますが「百聞は一見にしかず」のことわざの通り、写真の印象は強く、見る人によって評価がわかれる写真はいらぬ誤解を招きかねません。
キャプション(説明文)で補うという方法は本末転倒。テーマをわかりやすく伝えるためにあるのが「上手な写真」と考えるからです。もちろん、写真をメインにしたコンテンツならこの限りではありません。
テーマを正しく伝えるわかりやすい写真
これが「上手な写真」のまとめ。これを実現させるための現場のノウハウは、構図にあり……と、ここで時数が尽きました。続きは次回「誰でもすぐに使える撮影TIPS編」です。
今回のポイント
撮影の前に伝えたいテーマを決める(考える)
わかりやすさが上手と下手を分ける
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