企業ホームページ運営の心得

僕が1,000円のランチを食べなかった理由、メニューの多様化で増す写真のニーズ

飲食店における写真の重みが増しています。店頭・店内で注文する料理をスマホ検索する姿は珍しくありません
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の411

たったひとつの理由

BrianAJackson/iStock/Thinkstock

打ち合わせの外出ついでに美味しいランチを食べようと、訪問先近くの飲食店をネットで検索すると、小洒落たレストランを見つけました。週替わりのランチは千円(税別)。3玉入り79円のチルド焼きそばで自炊する、平時の生活と比較すれば豪華なランチタイムですが、オジサンと呼ばれる年齢にもなれば、たまに「豪遊」する余裕ぐらいは持ち合わせております。

しかし、このレストランでの食事を断念します。価格ではありません。サイトに「写真」がなかったからです。今回は飲食店サイトにおける「写真」の重要性と、超簡単にワンランク上の写真を撮るテクニックを紹介します。

食の多様化の問題

社会環境の変化が、飲食店における「写真」の重要性を高めました。スマホを含めたデジカメの普及によって、写真が身近になったことだけが理由ではありません。

かつて「スパゲッティー」といえば、「ミートソース」か「ナポリタン」の二者択一でしたが、「カルボナーラ」「たらこ・明太子」と選択肢は増えていき、やがて「スパゲッティー」は「パスタ」と呼ばれるようになります。「カレー」にしても牛豚鳥の三択問題をはじめ、キーマやスープといったバリエーション、チーズやソーセージと応用問題が常態化します。

最たるものが「ラーメン」です。豚骨や魚介といったスープの違いに加えて、ご当地ラーメンの一般化、各種の独自流派が旗揚げされ、もはや首都圏では昔ながらの「醤油ラーメン」を探す方が困難です。

いわば「定番メニューの絶滅」。料理が多様化するに従い、メニューの名前だけで、中身を想像することが困難になったのです。その結果、飲食店における「写真」の果たす比重が重くなります。もちろん、Webサイトでも同じです。

ロッソとビアンコの違い

候補に挙げたレストランのサイトにあったのは、イメージカットだけです。目的のランチメニューは文字のみ。「有頭エビのフライ」だけでは「甘エビ」の可能性も排除できず、「阿波尾鶏のグリル」だけの記載では、付け合わせを確認することは不可能です。ちなみに、「ボンゴレロッソ」と耳にするたびに「赤か白か?」と尋ねてくるのはウチの妻。「ロッソ」はトマトなどをいれた「赤」を指し、白は「ビアンコ」を指します。

また、ちゃんとしたレストランでは、それなりの調理時間が必要で、あらかじめ「時間」を確保していなければ楽しめません。その「時間」を要素に加えたとき、後方から猛烈なまくりで「立ち食いそば」が「レストラン」を抜き去り「ランチダービー」を制しました。

店側にも写真掲載のメリットがあります。なぜなら、サイト上に写真を掲載した商品は、売り上げ増加が期待できるからです。来店前にお客の消費意欲=食欲を刺激するからだけではありません。

ある飲食店でお客に紛れて観察していると、スマホを使い店のサイトにアクセスする姿をいくつか発見し、「写真あり」のメニューを注文する傾向が強いことに気がつきます。特に初来店のお客に顕著な行動で、サイトで「ブツ(商品)」を確認しているようです。

目に見えるものを欲しがる理由

デパートのレストランの入口に並ぶ、「食品サンプル」を見て注文する料理を決めた経験は、だれもが持っていることでしょう。ビール会社が店内向けのポスターを販促品として配っているのも、売れるという経験則からかもしれません。人は目にしたものを食べ、飲みたくなる習性、いや本能があるのです。「写真」はこの本能を刺激します。

さらに機動的な活用もできます。冒頭から登場するレストランは、週替わりのランチメニューで肉料理2つ、魚料理、パスタ2種の5つのメニューを提供していました。確かに、このすべてを写真で紹介するのは大変です。個人商店ならば、撮影用の食材だってバカになりません。そこで、撮影するのは「一番売りたいモノ」に絞り込みます

撮影は戦略的選択

Rasulovs/iStock/Thinkstock

たとえば、調理時間が短いメニューは、人件費の節約と、提供時間の短縮によって客席の回転率を高めることが期待できます。あるいは食材の使い回しが効くオーダーは、食品の廃棄ロスを減らすことができます。つまり店側の「儲かる商品」だけを写真に収める方法もあるということです。それを「オススメ」として掲載し、あるいは「きまぐれ」や「おまかせ」と冠したメニューに仕立てることもできます。

高価な撮影機材は不用です。特に差し替えが必要なランチメニューなどで、Webの掲載や家庭用プリンターでの印刷ならば、手軽なスマホで十分です。実は、私が手伝っている飲食店のメニューの大半は「ガラケー」で撮影しています。「Photoshop」で加工することもありますが、ちょっとした工夫をするだけで、「プロ」っぽい写真に仕上げることができるからです。

しずる感のだしかた

主に、みずみずしさ意味する「しずる感」が食品写真の命です。これを簡単に得るには食品の「てかり」、すなわち「光」に注目します。ラーメンなら「油」ですし、漬け物の盛り合わせなら、ナスの光沢やキュウリのイボに反射する光です。実戦では蛍光灯などの室内灯と料理、そしてカメラの位置で「しずる感」は決まります。被写体により多くの「細かな光」が映る角度がベストショットといっていいでしょう。

「角度」にもコツがあります。いくら「しずる感」がでても、料理を真上から撮影するのはNGです。奇をてらわず、食べる人の視点の周辺から「ベストアングル」を探してください。料理人なら感覚的にわかっていることですが、食べる人に最もよく見えるように配置するのが「盛りつけ」の基本だからです。

さらにワンランクアップさせる小技が「十円玉」です。お皿の高台(皿の裏にある台)に撮影する側から見た奥に、十円玉を数枚はさみます。お皿を斜めにすることで写真に奥行きが生まれ、同時に全体像を収めることができます。おサイフケータイに「ナナコ」といったキャッシュレスの時代、ポケットに小銭がなければ、「おしぼり」で代用することもできます。

今回のポイント

見たら食べたくなるという欲求

定番の崩壊によって高まった写真の重要性

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