Webサイトの集客にSEOは外せないという常識は正しいのか?
Web担当者にとって、Googleなどのネット検索の結果に自分たちのWebサイトを表示させ、興味関心の高い消費者を集客しようという検索エンジンマーケティング(SEM)は、コストを最適化して効率よくWebサイトへの流入を増やす手段として欠かせないものとなっている。
SEMには主にオーガニック検索の検索結果にサイトを表示させるSEO(≒Google対策)と、検索キーワードに対する広告枠を入札で購入するリスティング広告があるが、Web担当者は本当にこれらの手法の“使いどころ”を理解しているだろうか。
このほど開催された「サーチエクスペリエンス コンファレンス 2016」では、基調講演にWebマーケティングコンサルタントの住 太陽氏が登壇。「サーチマーケティング施策の使い分けで結果を出す」と題して、SEOとリスティング広告それぞれの活用シーンを、検索におけるユーザー体験から紐解き、解説した。
「集客にはSEOがマスト!」という常識は、もはや過去のものに
講演の冒頭、住氏が掲げたのは「Webサイトの集客にSEOは外せない」というWeb担当者の常識を覆す提言だった。サイトの性質や内容によって、SEOが向いているサイトと、そうではないサイトがあるというのだ。
どんなサイトにもSEOが適している、なんとことはない
これまで、SEOはHTMLに必要な情報を盛り込んだり、ページ内に効果的にキーワードを配置したり、被リンクを増やしたりといった技術的なアプローチが中心で、テクニックを駆使すればサイトの内容に関わらず効果を得られる時代だった。
しかし、Googleが検索アルゴリズムのアップデートを繰り返すことで、検索エンジンは「そのWebサイトがユーザーの検索意図に応えるコンテンツであるか」を最重視するようになった。
つまり、これまで信じられてきたテクニックはほぼ無意味となり、コンテンツを制作する能力を持たない、あるいはコンテンツを公開することを目的としないサイトの多くにとって、SEOでの効果は期待できないものになってしまったのだ。
検索とは、ユーザーが検索エンジンに「これがわからない」「これが知りたい」と聞くこと。
検索エンジンはこの質問に応えられるコンテンツであるかどうかを判断している。
つまり今のSEOは、ユーザーの疑問に応えるコンテンツを作り出していくことが唯一の方法だ。商品だけを整然と並べたECサイトにとって、SEOは効果的ではなくなったということだ(住氏)。
では具体的に、SEOが効果を発揮するサイトには、どのようなものがあるのだろうか。住氏は3つの条件を示した。
コンテンツを見せることが主目的のメディア系サイトや個人ブログである
※コンテンツ=教養または娯楽に属する著作物であること内製、外注を問わず優れたコンテンツを継続的に制作・更新していく才能、予算、時間、熱意がある
売るためのサイトよりも、情報源として調べものに役立つサイトを目指している
SEMを効果的にするために知っておくべき、検索キーワードの3分類
住氏の説明を踏まえると、ECサイトをはじめとした商用サイトの多くにとって、SEOの重要性は、これまでと比べると高くなくなったということになる。では、Web担当者はこれからどのように検索マーケティングを考えていけばいいのだろうか。住氏はリスティング広告とSEOの使い分けについて解説した。
まず理解しておきたいのは、ユーザーが検索をする際の意図=検索キーワード(クエリ)の分類だ。住氏はユーザーの検索クエリを大きく3つに分類した。
- インフォメーショナルクエリ(85%)
知識や解決策を知ることを意図とした「調べものキーワード」
- ナビゲーショナルクエリ(10%)
特定のサイトやコンテンツに移動するための「ブックマーク代わりキーワード」
- トランザクショナルクエリ(5%)
商品を物色するための検索で取引(トランザクション)を意図する「売れるキーワード」
住氏によると、ユーザーの検索行動のうち85%はインフォメーショナルクエリが占め、多くのユーザーは知識や情報を知ったり疑問を解決したりするために検索を行っているという。ユーザーの期待に応えるコンテンツを揃えてSEOが狙うべきターゲットは、この85%の「調べものキーワード」だ。注意すべきは、企業がこの領域でどこまで取り組むかというサジ加減だと住氏は補足した。
その企業がメディア会社であれば、やる意味はある。
しかし、商品を売ろうとしている企業が、インフォメーショナルクエリに対するSEOでオウンドメディアやコンテンツマーケティングに多くの人を集めても、そこからどれだけの人がトランザクションを生み出すかは考慮しなければならない(住氏)。
一方で、「売れるキーワード」であるトランザクショナルクエリは全体のわずか5%ほどで、やみくもにSEOをしても効果は限られることがわかる。この領域は、SEOではなくリスティング広告を活用して確実にユーザーの流入を抑えるのが効果的だと住氏は説明する。
ECサイトの担当者であれば、購入者がよく使う検索キーワードは理解しているはず。それがトランザクショナルクエリだ。
(特定のキーワードからの流入で)一定の割合で購買に繋がることがわかっているのであれば、検索結果に場所を確保しておくことが重要だ(住氏)。
ユーザーの検索意図とSEMのミスマッチが起きるとき
リスティング広告でターゲットにするのはトランザクショナルクエリであるということは、裏を返せばインフォメーショナルクエリやナビゲーショナルクエリをリスティング広告のターゲットにしては、大きな効果は期待できないことを意味している。住氏は、こうした“ユーザーの検索意図とSEM(リスティング広告)のミスマッチが起きる場合”について、「便秘」というキーワードに関する検索結果を並べて、それぞれの違いを説明した。
まずは、「便秘 原因」「便秘 解消法」「便秘 食べ物」という3つのキーワード。これらはすべてインフォメーショナルクエリだ。住氏はこの3つのキーワードの検索結果の特徴について、次のように説明する。
キーワードに対して広告の入札はあるのに、リスティング広告が表示されていない。実は、Googleではインフォメーショナルクエリに対して広告が出にくいという特性がある
つまり、疑問や課題を解決したいというユーザーの検索に対して広告を表示させることは、ユーザーにとっても不快になり、ユーザーが不快になることで企業にとっても不利益になり、ユーザーの検索体験が悪化することでGoogleの価値も下がると、Googleは考えているのだ。
インフォメーショナルクエリにリスティング広告で入札している企業は、実際に広告がどれくらい表示されているか検索してみてほしい。案外出ていないことが多い(住氏)。
では、トランザクショナルクエリの検索結果はどうなっているのか。「便秘 サプリメント」という検索結果を表示すると、そこにはリスティング広告が表示されているのがわかる。「便秘対策のサプリメントが欲しい」というユーザーの検索意図に対して、企業が商品を提案するという構図が生まれているのだ。
課題解決の方法を検索していて広告が出現したら、ユーザーにとっては邪魔もの以外の何物でもない。しかし、具体的な商品を探したいと物色しているときであれば、広告も違和感がない。売るための勝負はトランザクショナルクエリに集中し、リスティング広告で確実な露出を確保すべきだ。
モノを買いたい人たちは、Googleを使わない!?
とはいえ、トランザクショナルクエリはユーザーのWeb検索全体のわずか5%しかない。その狭いターゲットだけに注力するのでは、売り上げの拡大を狙うことは簡単ではないのではないだろうか。そこで住氏が取り上げたのが、Google以外の検索シーンにおけるリーチの拡大。つまり、商品を購入しようとユーザーが集まる楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonといったオンラインショッピングモールの活用だ。
リスティング広告だけでは、Googleで商品を検索することはないユーザーにはリーチできない。そもそも商品を買いたい人がGoogleを使うかという点もよく考えるべきだ(住氏)。
商品を購入したいユーザーは、Googleの検索窓ではなく楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonなどお気に入りのショッピングモールの検索窓に検索キーワードを入力している。その検索結果に自社の商品が並んでいなければ、いくらGoogle対策のリスティング広告を展開していても、商品購入意欲の高いユーザーにはリーチできないのだ。
実は商品によっては、検索エンジン対策をするよりも、こうしたオンラインショッピングモールを活用するほうが、プライオリティが高いのではないか。「便秘 サプリメント」というキーワードを例にとっても、GoogleよりAmazonのほうが検索数は高いはずだ(住氏)。
実際、2015年に2万人を対象に実施された調査によると、ユーザーが1年以内に商品を購入したことがある比率は、中小サイトが7.3%、大手サイト(モール以外)が45.2%であるのに対して、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonの大手ショッピングモール3サイトでは87.0%にもなるのだという。
自社の顧客になる見込みのある、購入意欲を持って商品を探しているユーザーが、どこに集まり検索を行っているかを踏まえて、どこから対策を行えばいいのか戦略を考えることが重要なのだ。
調査結果を踏まえても、商品を売りたいという企業がどこから手を付ければいいのかは、明らかだ(住氏)。
SEOに代わるユーザーリーチ拡大の手段とは
この講演の冒頭で住氏は、「インフォメーショナルクエリに対するSEOは、トランザクションを生み出したい企業にとって本当に有効なのか」という疑問を投げかけた。しかし一方で、企業は商品を購入したいユーザーだけでなく、広いユーザーリーチで将来の顧客を生み出していかなければならず、SEOも注力したいところではある。
住氏は、こうした状況に対するひとつの代替策として、“コンテンツ製作やSEOを極力しなくてもいい方法”を提案した。
商品を購入するユーザーのカスタマージャーニーを簡単に整理すると、
- 解決すべき問題に気づく
- 解決のために必要な情報を集める
- 解決に役立つ商品を探し選ぶ
という3段階に分けられる。このうち、解決のために必要な情報を集める第2段階でインフォメーショナルクエリによるウェブ検索が生まれ、それに応えるためにはコンテンツ製作(SEO)が有効なのは、これまでの説明の通りだ。ただ、この領域で専門性・網羅性の高いコンテンツを継続的に生み出している既存のサイトに負けないコンテンツを企業が生み出すというのは、本来の目的ではない。
そこで、既存の人気コンテンツと張り合うのではなく、それらすべてをディスプレイ広告の媒体として活用することで、幅広くリーチを活用できるのではないかというのが、住氏の提案だ。
実は米国のネット広告市場では、リスティング広告が“ネット広告の王者”として堅調に伸びている一方で、ディスプレイ広告も急速に追い上げて今年はついに逆転すると言われている。
その背景にあるものとして、インフォメーショナルクエリで検索結果の上位に来るサイトに多くの企業がコンテンツターゲティングやインタレストターゲティングのディスプレイ広告を展開していることが挙げられる。これによってユーザーリーチが飛躍的に伸びているのではないか(住氏)。
大手メディアや人気ブロガーなどが検索結果上位を激しく争っているインフォメーショナルクエリで勝負を挑むのは、売り上げを目的としている企業にとっては不毛な勝負だと言える。本来の目的は、コンテンツを生み出し続けることでも、検索結果で1位になることでもなく、利益を上げることである。そのためには、ディスプレイ広告の活用も重要な選択肢になるのだ。
商品を売るためには、SEOよりもトランザクショナルクエリに対するリスティング広告を優先せよ
Google対策が最優先とは限らない。自社の商品を買うユーザーがどこで検索をするかを考えよ
SEO・コンテンツ制作に代わるユーザーリーチの手段として、ディスプレイ広告も有効
住氏は最後に、次のように述べて今回の講演をまとめた。
最適なWebマーケティングの手法やその組み合わせは、サイトの性質や目的によって変わってくる。中でも、SEOが最適なケースは少ないという点に注意が必要だ
メディア系サイトや個人ブログのように、検索するユーザーの質問の答えとなる情報を発信することが主目的のサイトにとっては、今後もSEOは有効でありつづけるだろう。
しかし一方で、商品を売ることが目的のECサイトなどにとって、SEOは以前ほど有効ではなくなった。これらのサイトのWeb担当者は、昔の感覚のままSEOにしがみつくよりも、広告を中心とした他の集客手法に目を向けるべきだろう。
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