Web広告運用を成果向上に導く実践手法
Web広告運用を成果向上に導く実践手法
続いて生田氏は「大きなPDCA」で再検討すべき「ゴール設定」、「ユーザー理解」の説明に移る。
1. ゴール設定
「ゴール設定」とは、Web集客で達成すべきゴールを改めて考え直すことだ。
- 定石を疑う
- 既存のゴールにこだわらない
- ゴールの有効性も検証し、見直す
生田氏は検討のポイントとしてこの3つをあげ、それぞれ事例を交え解説を行った。
①定石を疑う
最初に紹介したのは、サプリなどの健康食品通販を行うA社の事例。この種の事業では最初に単品またはサンプル商品を購入してもらい、そこから定期購入に引き上げていくというのが定石とされている。
もちろん単品購入だけでは利益はさほど出ない。なんとかして定期購入に誘導したい。つまりビジネスゴールは「いかにして定期購入を増やすか」だ。
同社はこれまで、サンプルや単品購入したユーザーに対しメルマガや電話セールスなどを行い定期購入へ引き上げるという、定石に従った戦略を取っていた。
だが、あるとき担当者は「本当にこの方法を続けてていいの?」と気付く。同社は商品の情報を説明した動画広告や、ポスティング/交通広告などを展開していることもあり、サイトにアクセスしたユーザーはある程度商品の情報を既に知っていることが予想された。それならサンプルではなくいきなり定期購入を促してもいいのではないかと考えたのだ。
そこで同社は動画広告および自然検索から流入したユーザーのLP(ランディングページ)を従来のサンプル購入ではなく定期購入を訴求するものに変更してみた。その結果は大成功、LPをサンプル購入ではなくいきなり定期購入にしたほうが、定期購入成約率が圧倒的に高かったのだ。
定石手法を疑い施策を見直したことで成功した事例である。
②既存のゴール(CVコンバージョン)にこだわらない
次は大手教育会社Bの事例。教育会社のビジネスゴールは当然「生徒を増やす」ことだ。同校では年に数回、授業を無料で受けられる無料体験レッスンのキャンペーンを実施しており、参加者は高い確率で入会に至っている。
当然サイトでもキャンペーン中のゴールは無料をフックにした体験レッスンの応募だ。ただし、オペレーションの都合上、通年でキャンペーンを行うことは難しい。そのため、キャンペーンを実施できない期間が存在する。
苦肉の策として、その期間は資料請求とレッスン見学の予約をゴールとしていたのだが、数字がまったく伸びなかったという。
そこで同塾は「既存のゴール」の見直しを行い、「資料請求・レッスン見学予約」の代わりに、キャンペーン期間が来たら改めてその時に連絡を行う「お知らせメール登録」をゴールとした。
この施策は爆発的に成功したそうだ。これは「資料請求・見学予約」という決まったゴールに固執していると出てこない発想だ。既存のゴールにこだわらず、成果の道筋を見直すのが重要だ。
③ゴールの有効性も検証し、見直す
次の事例はBtoBクラウドソフトウェアを販売しているC社。同社の設定したWebのゴールは「資料請求、お問い合わせ」いわゆるリード獲得だ。ここで獲得した顧客に対し法人営業部員が訪問し、最終的なビジネスゴールであるソフトの導入を目指している。しかしこの手法では資料請求を行うまでニーズが顕在化したユーザーしか獲得できない。
そこで同社はゴールを見直した。具体的には、潜在顧客の獲得を目指すためWebのゴールをTIPSやお役立ち情報を記載したホワイトペーパーの無料ダウンロードに変更したのだ。思惑通りホワイトペーパーのダウンロードは資料請求に比べ高いCV率を記録、Webゴールの達成率が向上した。
しかし、ここで獲得した多くの顧客はソフトウェアの購入に至らなかった。ダウンロード数が多すぎて営業部員の数が足らなかったという理由もあった。同社では結局Webのゴールを資料請求に戻したと言う。生田氏は次のように語る。
この事例からの教訓は、Webのゴールは固定化しなくてもよいということです
Webのゴールはあくまでも「仮説」であり、ビジネスのゴールを達成することが最大の目標だ。うまくいかなければWebゴールの有効性を検証し見直すべきだ。とは言え、見直したからといって必ずうまくいくわけではない、試行錯誤が必要だ。
2. ユーザー理解
次にユーザーを理解することの重要性だ。生田氏は指摘する。
ターゲットユーザー(自社のサービスを買ってくれるお客様)とはいったいどんな人なのか、非常に重要なことだが、多くのマーケターは十分に理解していない
性別、興味関心、年齢など広告のターゲティング配信だけでユーザへの対応は十分と言えるのだろうか。ターゲティングだけではユーザー「個人」が見えてこない。「ファクトをもとに具体的なユーザ情報を描く」ことがプランニングの精度を高める秘訣だという。
ここで生田氏はコーチ・ユナイテッド社の事例を紹介する。同社は英会話やギターなど習い事の先生と生徒をマッチングするCtoCプラットフォーム「サイタ」を運営する企業。データからユーザー行動を深く分析・理解し、正確な広告投資による集客を実施。CV数を半年で7倍にし、CPAは30%減らしているという。
生田氏は、同社取締役(当時)福崎康平氏によるWeb集客のポイントを2つ紹介した。
- ユーザー行動を見て、広告配信の調整に活かす
- LTVでキーワードごとに 獲得ユーザとサービスの相性を分析
①ユーザー行動を見て、広告配信の調整に活かす
福崎氏はアクセスログを見て、ユーザーがどの流入経路で広告に触れ、何曜日のレッスンを受講すると出席率はどうなるかを、ひとりひとりチェックした。
その結果、Facebook経由のユーザーは土日のレッスンを、検索経由のユーザーは平日昼間のレッスンを受講する傾向が強かった。
その理由として、次のことが推測された。
- Facebook経由のユーザー
タイムラインでたまたま広告を目にしたユーザー
→「週末に試しに行ってみようかな」というマインドのライトユーザー - 検索経由のユーザー
習いたいものを自ら検索してたどり着いたユーザー
→「平日昼間にきちんと時間を作って受講する」目的意識の高いユーザー
このことから福崎氏は、
土日のレッスンに空きが出ている場合はFacebook広告に大目に予算を割く
といったように、曜日ごとのレッスンの集客状況・教室の空き状況にあわせて、広告配信を微調整しているという。
②LTVでキーワードごとに 獲得ユーザとサービスの相性を分析
福崎氏は検索ワードによってユーザーのLTV(Life Time Value、この場合は継続率)が異なることにも着目した。
たとえば同じレッスンの受講者でも、「写真教室」で検索したユーザーよりも「カメラ教室」で検索した人のほうがLTVが高いことがわかった。
後者は趣味としてカメラを楽しみたいライトユーザー、前者は高度な写真技術を習得したい本気のユーザーであると推測される。初心者向けの習い事を集める「サイタ」と相性が良いのは後者であり、LTVも高くなるのではないかという結論に至った。
これを受けて福崎氏は、予算、KW、LPはもちろんサービス名称からも徹底的に「写真教室」という言葉を排除し、すべて「カメラ教室」に統一するという最適化を行ったという。
福崎氏は次のように主張する。
ユーザー理解にしっかり取り組むことで、細かい改善ではなく数倍のリターンを得られる施策を考えられます
福崎氏はデータを細かくチェックすることはもちろん、実際に教室で「生」のユーザー(生徒)を見て話を聞くことでユーザーイメージをさらに具体化でき、流入経路やキーワードによる客層の違いも理解できたという。
最後に生田氏は可能な限りファクト(一次情報)に触れ、妄想や思い込みではない生のユーザーを理解することの重要さを改めて強調。ユーザー理解に役立つ有益なファクト情報を4つ紹介した。
- Webサイトでアンケートを実施する。
手軽に無料でアンケートを取れるツールがあるので、「何をしにこのサイトに来たのか」、「どういうニーズがあるのか」といった具体的なユーザー情報を取得することによって、アクセスログだけではわからない定性的なユーザーの情報(気持ち)を理解できる。
- アクセスログを一人ひとり見る。
PVやCVR(コンバージョンレート)のようなまとめた数字ではなく、アクセスログ(生ログ)を一人ひとり見てみるのも有効だ。時系列でみることによって因果関係やユーザーの動きが手に取るようにわかる。
Googleアナリティクスのユーザーエクスプローラーも役立つだろう。
- ユーザの購買データを見る。
細かく見ていくことでLTVと結びつけて考えることができる。
- 生のユーザを見る
実際に店頭に立ったり、コールセンターで電話対応してみたりすることで、データではなく生のユーザーを見ることも重要だ。店舗がない場合は知人や家族に見せて反応を観察するのでもいい。
自分ではない第三者がどう考えるかを理解できるだろう。
3. プランニング
あらためて「ゴール設定」と「ユーザ理解」を見直したうえであらためて「プランニング」を行うことで、今までと違った世界が見えてくるだろう。生田氏はここで事例を2つあげた。
- コーチ・ユナイテッド
以前は応募フォームに「受講する先生を選んでください」という項目があった。だが、アクセスログや申込みデータを見直してみると、特にFacebookから流れてくる気軽に受講したいライトユーザーは先生を選べず、結果として離脱するという問題がわかった。そこで、応募フォームをシンプルに作り直し、名前と電話番号だけを入力させることにした。
応募者には改めて電話をかけてヒアリングする形式にしたのである。この施策でCVRが2.5倍になったという。
- らでぃっしゅぼーや
宅配野菜サービスを運営するらでぃっしゅぼーやは、従来「最大8週間配送料無料」をセールスポイントにクリエイティブを作成していた。
もともと同社のユーザーは食の安全について意識が高いことがわかっており、2011年3月11日の震災をきっかけに、訴求の切り口を「安全な食材の継続入手」に切り替えた。その結果CVRが2.4倍になったという。
新しいサービスを作ったわけではなく訴求の切り口を変えただけでも爆発的な効果を得られることがあるという例である。
もちろん全部が全部成功するわけではないが、こういった大きなインパクトが得られる可能性があるというのが今回紹介した「ゴール設定」と「ユーザー理解」を見直したうえで「プランニング」を再度行うという手法だ。
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