在宅スタッフ1000人超! 「家で真剣に働く」を20年前から実践する管理体制とコミュニケーション術
「働き方改革」なんて言葉が叫ばれるはるか前の20年前からリモートワーク・在宅ワークという働き方をしているイーライフ。社員は70人ほどだが、登録している在宅スタッフは1000人を超え(稼働しているスタッフは200人超)、大手企業のコミュニティ運営の戦略立案などを手掛けている。「家で真剣に働く」を実践するイーライフの取り組みに迫った。
在宅スタッフが1000人以上!
――1000人以上も在宅スタッフがいると聞きました。
折笠: 登録しているスタッフは1000人を超えますが、常に稼動しているスタッフは200人程度です。
――在宅スタッフは、どのような仕事をしているのですか。
折笠: 在宅スタッフの方のキャパシティ、稼動時間帯、本人のスキルや経験等をみて業務を依頼しているので、社員と同じクライアントへのコンサルテーションやプロジェクト全体のディレクションなどの業務から、隙間時間にできるタスク的な業務まで関わり方は多様です。たとえば、次のような仕事があります。
- コンサルテーションを行うクライアント窓口業務を行う方
- アクセス・コメントなどサイト分析業務を行う方
- チームをまとめて進行管理・ディレクションを行う方
- コミュニティサイトのウォッチ(いわゆる監視管理)を行う方
- メールサポート(メールでのお問い合わせ対応)を行う方
- 報告書などの資料作成を行う方
- メールやサイトの文面を考える方
- バナー制作をする方
- 翻訳をする方など
――本当に多岐にわたるんですね。仕事の内容はオンラインに限られているのですか。
折笠: オンラインでのお仕事が基本的に多いですが、直接クライアントとコミュニケーションをとるディレクションなどのお仕事担当で外出が可能な方は、月1回の定例会議などで地元から東京まで出張し、顔を合わせて会議を行うこともよくあります。たとえば、元々東京にいた社員が御主人の転勤で大阪や長野にいますが、彼女たちもそういう働き方をしています。もちろん、外出が難しい場合は、ビデオ会議などもありますが。在宅で働ける仕組みとカルチャーがもともとあるので、社員も場所を選ばずそのまま働き続けられます。
――転勤問題を仕組みでカバーできるのは理想的ですね。
在宅スタッフの管理も在宅スタッフが行う
――在宅スタッフが1000人もいると、イーライフさん側の仕組みがいろいろと気になります。まず、社内の管理体制から教えてください。
折笠: 社内にスタッフセンターがあり、契約からスキルアップ、業務のアサイン、働き方の相談など、在宅スタッフにまつわるすべての情報を集約しています。定期的に働く時間の増減の希望、やってみたい業種の他、困っていることなどをアンケートなどで聞き、フリーアンサーで気になる回答をされている方には個別ヒアリングを行っています。それ以外にも契約して半年の方へのヒアリングや、案件チームメンバーから要望があれば、随時ヒアリングを行っています。
――スタッフセンターが社内にあるそうですが、どのくらいの人数で対応しているのですか。
折笠: 社員2人と在宅スタッフ2人です。
――え! たった4人で対応ですか。
折笠: はい、その分スタッフセンターの担当者が1人1人ともコミュニケーションが薄くなりがちなので、定期的に話す機会を仕組みとして設けています。しかし、案件のほとんどを占める少人数プロジェクトでは、プロジェクトリーダーとしてまとめ役の在宅スタッフがそれぞれの在宅スタッフメンバーのケアや会社とのコミュニケーションのハブ的役割を担ってくれています。
――スタッフセンターは、管理のみを行う人なんでしょうか。
折笠: スタッフセンターの業務でいうと「採用」「育成」「管理」という感じですね。
――具体的にどんなツールでコミュニケーションを取っているのですか。
折笠: 基本はGoogleハングアウトのチャットとコール(電話)ですね。チャットは常に繋がっているので、プロジェクトメンバー同士で「雷すごいね。そっちはどう?」なんてちょっとした雑談もできるので、お互い社内にいるのとそんなに変わらない感じです。
未経験で在宅スタッフを一人前に育てる術とは?
――そういうメンバー同士の会話って大事ですよね! 在宅スタッフの教育はどうしていますか。
折笠: 最初に「イーライフで働くこと」「在宅で働くこと」についての心構えの説明を必ず資料を示しながらして、意識統一をはかっています。主な業種については、個別の研修を受けていただいています。その他ツールの使い方などは動画も含めたマニュアルを用意し、スムーズに業務になじんでもらえるようにしています。
――対面でも、なかなか教えることの難しさを感じるのですが……。
折笠: 基本的には業務ごとにマニュアルがあり、1~4回かけて、マニュアルを元に研修を行います。進行管理などの複雑なものは4回行っています。だいたい1回の研修当たり1~2時間程度なので、しっかり時間をかけていますね。その際も、ハングアウトで資料を画面共有したり、コール(電話)も使ったりしながら説明しています。その研修も在宅スタッフが行っていることがほとんどです。
――すべてが体系化・マニュアル化されているって、すごいなと思います。
折笠: そのマニュアル作成も在宅スタッフがメインで行っています。もちろん、業務を進めていくと、内容もどんどん変わっていくので、在宅スタッフが提案型で自主的に自身の経験などを踏まえつつ、つどブラッシュアップやバージョンアップを行っています。在宅スタッフには、研修のたびに「気付いたことは提案してくださいね。上下関係ではないからお互いフラットに意見交換し、改善していきましょう」と、しつこいぐらい言い続けています。(笑)
――しつこいぐらい伝えることは、大事なことですよね。在宅スタッフの報酬形態はどうなっていますか?
折笠: 時給ではなく業務に対してお支払いをしています。ただし、対等な関係になるよう、不満がある場合や事前の条件と違った場合はスタッフセンターに連絡を入れてもらうようにしています。報酬のカタチも目安がある程度一覧で共有されているので、見える化されています。たとえば、プロジェクトリーダとしてのディレクションはいくら、コミュニティサイトの監視ならば、サイトに寄せられる監視するコメントの上限を定めていくら、といった具合です。また、半年毎に評価機会があるのですが、基本的に皆さんどんどんできる業務の幅が広がるので、評価毎に報酬が上がっています。働く内容や時間にもよりますが、お小遣いや家計の補助ではなく、在宅でも生計を立てれるほど報酬も得ている人もいます。
登録者が1000人を超える採用術とは?
――採用はどうしているのですか。
折笠: 媒体掲載もしくは社員やスタッフからの紹介です。在宅スタッフの9割以上はコミュニティ運営未経験者です。そもそも世の中的にコミュニティ関連の業務経験者はかなり限られていると思いますので。過去の職務経験やスキルなどから、プロジェクトのディレクションやデータ分析などから始める方もいれば、サイトの文面作りや監視管理など始める方もいます。
――確かにそうですね。
折笠: 未経験の人は、3年かけて育てるぐらいの感覚でいます。ここでいう育てるというのは、最初は監視管理しかできなかったスタッフが、プロジェクトメンバーとして業務全体の視野をもってコンテンツの提案やディレクションもできるようになったなど、業務範囲そのものが広がるイメージです。
――在宅スタッフは役職的なものはあったりするんですか? 人間って承認欲求の塊なので……
折笠: いえ、うちは社員にすら役職がないんです(笑)。なので、社員含めて上下関係をあまり作らないようにしています。ただ、業務範囲が広がる=信用される範囲が広がっているということになるので、そこで承認欲求を満たしているという部分はあるかなと思います。あと、半年に1回評価でも、基本下がらず上がるだけの評価なので、ここでも承認欲求は満たされるかなと。
――役職がない!? では、在宅スタッフの評価はどうしているのでしょうか。
折笠: 社員と直接やりとりの多い在宅スタッフは、社員と同等の評価(コンピテンシー評価)を行っています。プロジェクトリーダの在宅スタッフからの指示で動く方は、社員では評価しづらいため、在宅スタッフ同士のアンケート評価内で、自己評価、他者評価をしてもらい、それをスタッフセンターが総合的にみています。ただしあくまでもプラス評価とし、マイナス評価はしないようにしています。
在宅スタッフ誕生秘話
――どうしてそのような働き方をみとめるようになったのでしょうか。
折笠: 1999年に創業しましたが、もともと創業期に「各地にいるその分野のプロにWeb上で語ってもらう」というようなサイトを運用していました。そのため、地方の方にお仕事をお願いすることが多く、そこから自然と在宅で働くスタッフが増え、逆に在宅スタッフを生かす文化と体制になっていきました。
――1999年ってADSLが登場したくらいですよね? その時代からこの働き方をしているとは……
折笠: 当時は、企業にもインターネットを活用できる人材が少ない時代でした。でも、全国には個人でサイトを作り情報発信している人たちがたくさんいて、そういう素晴らしい人たちの知見を企業のHPなどに活かせないかとの思いから、立ち上げ時のサービスは始まったそうです。今でいうAllAbout的なサイトですね。そうするうちに、だんだん事業領域が変わっていきました。
――社内ではこの働き方について、どう受け止められていますか。
折笠: 創業当時からこの取り組みを行っています。また社員自身も在宅が認められているため、社内ではずっと「当たり前のこと」として受け止められています。また、クライアントも普通に受け入れてくださるところが多く、時代の変化を感じています。
――在宅スタッフさんの男女比は。
折笠: 圧倒的に女性が多いですね。残念ながら、子育て、家族の転勤、介護などが全てにおいて女性が負担することが多い現実なので。95%と5%ぐらいか、もっと男性は少ないかもしれません。
――年齢的にはどんな感じですか? やっぱり子育て世代が多めですか。
折笠: これもちゃんと統計とったことはないですが、ボリュームゾーンとしてはやはり30代40代が多いと思います。ただ会社を20年やってるため、創業当初から業務に参加してらして、今50代ぐらいでもバリバリやってる方もいますし、いろいろです。
――この体制のいい点は?
折笠: 大切な人材をライフスタイルが変わっても長期雇用できることです。出産、育児、家族の転勤、介護などで、会社をやめざるを得なかった状況の方も、弊社であれば続けられます。実際に、ご家族の転勤が多い方から「在宅であればずっと働ける」というお声をいただいたこともあります。また、お子さんが長期入院された方からも「イーライフだから働きながら子供のケアもできた」と言われたこともありました。昨今流行のクラウドソーシングは出会いの場を作る「点」に対して、弊社は「線」できちんと繋がっていけると思っています。
――大変だったけども乗り越えてきたことなどありますか?
折笠: いわゆる「ブログライター」や「アフィリエイター」が世間に出始めた頃から、「在宅で真剣に働く」という方より「お小遣い稼ぎ」気分で登録に興味を持たれる方が増えました。でも、そこからいかに在宅スタッフの意識を変えていくかということを常に工夫してきました。今でも完全な方程式はありませんが、今、一緒に働いている在宅スタッフは、意識が高い集団になっていると思います。
――仕事をするうえで、やっぱり求めていた成果と違うとかズレなどは、起こるものだと思います。そういうのをどう解決しているのでしょうか。
折笠: そうですね。そういうズレが起こった場合は、基本的にはコールでお話しします。ただ、大抵「ズレ」が起こる原因は、説明する側にもあったりするので、お互いの言い分をきちんと聞いたうえで、具体的に事象を説明して、理解してもらうという流れを作っています。
――なるほど、伝える側にも問題があるという認識を持つことは大事ですね。
折笠: はい、業務を分ければ分けるほど、実はそこが大変だと思ってます。たとえば、今行っている仕事、コミュニティの目的とかキャンペーンの目的とかきちんと話さずにただ「集計して」と言っても「ズレ」るのは当たり前です。ですから、「ちゃんと目的共有をする」ということをしつこく言ってます。
――人に仕事をきちんと依頼するって実はかなり難易度高いってことですよね。
最後に
――これからの抱負を教えてください。
折笠: 最大の課題は「まだ出会えていない人材がいっぱいいる」ということです。上記のように育児、転勤、介護等で会社は辞めざるを得なくなったけれど、真剣にお仕事をしたい方はまだまだ全国にいると思います。そういった方の選択肢に「イーライフでの在宅の働き方がある」ということが、まだまだ気づかれておらず、スキルが眠ったままの方がいると思うので、そういった方たちにどうやったら出会えるかが今後の課題ですね。
――ありがとうござました。
ソーシャルもやってます!