1記事当たりの平均PV20倍に伸長! DNP 大日本印刷が取り組んだSEO施策とは?
大日本印刷(以下、DNP)と聞くと、「雑誌や本の印刷」以外に、どんなイメージがあるだろうか。社員数は3万8千人、公式サイトに掲載された製品・サービスは300件近い。その魅力と社会課題に対する解決姿勢、印刷の面白情報などを多くの人に発信したいと、同社は2018年にオウンドメディア「Discover DNP(ディスカバーDNP)」を立ち上げた。
部署をまたいだ各事業担当者がコンテンツ制作に取り組むにあたり、もっとも苦心したのは、自社の発信したい内容と、世の中の「知りたい」ニーズとを、どうやってマッチングさせ、記事の品質を高めていくか。インハウスSEOにも取り組み、1記事当たりの平均PVは20倍にも伸ばすことができた。その軌道に乗るまでの2年半を、Web戦略室の皆さんとともに振り返る。
「内部で知見を深めて外注できるように」と内製化
――DNPさんがインハウスSEOに取り組み始めたのはいつですか?
黒木崇匡氏(以下、黒木):2017年です。当時はビジネスサイトの検索流入が弱く、SEOを強化したい時期でした。DNPの企業Webサイトリニューアルを進める中で、ハウスエージェンシーを通じて一部のコンテンツライティングを外注していたのですが、自社のことやSEOをよく知らないライターさんに書いてもらうと、どうしても文章の質にばらつきが出てしまう。
そこで内部で知見を深めて、外注さんに統一したトーン&マナーとSEOを意識して書いていただこうと、11月にまず「MIERUCA(ミエルカ)」を導入しました。サジェストキーワードの分析機能がロジカルで面白いなと。
――スムーズにSEOの知識は社内に広げていけたのでしょうか?
黒木:実際やってみたら「社内教育が意外と大変だぞ」となりました。中央集権型のガバナンスをひいておらず、各事業部にいるWeb担当者が本業の傍らコンテンツを制作する体制だったので、「SEOっていわれても…」「苦労のわりに報われないのでは?」という意識が皆にありましたし。ここをどう学んで乗り越えてもらおうかと。
そんな時に、オウンドメディア「Discover DNP」を立ち上げることになり、「ここで最初に成功事例を作ろう」と考えたのです。
――「Discover DNP」はどんなメディアですか?
向野純一氏(以下、向野):DNPは業務の守備範囲が広いBtoB企業なので、何をやっている会社なのか、一般の方々にはわかりづらい面があります。コーポレートブランドイメージ向上の観点から、会社が今やっていることと、将来への展望を広く知らしめるために、3つの軸でコンテンツを書くことにしました。
- ソーシャルイシュー=社会的課題を解決するための活動
- テクノフロンティア=半歩進んだ技術の紹介
- “へえ”ネタ=「へえ~」といわれるような印刷にまつわる知識
――それぞれどんなコンテンツなのか、気になります。
①ソーシャルイシュー=社会的課題を解決するための活動
向野:ソーシャルイシューとしては、病気と闘う子どもを応援するチャリティーイベント「サンタラン」で、DNPが主催者側を黒子的にサポートしていることをお伝えする記事があげられます。
- 病と闘う子どもを笑顔に!「サンタラン」が紡ぐ、次世代育成支援の輪【前編】https://www.dnp.co.jp/media/detail/1193344_1563.html
また、フィリピンの貧困層の問題をテクノロジーで解決することを目指すモビリティ事業に関する記事などですね。
- フィリピンの貧困と物流課題に挑む! 新たなモビリティ事業https://www.dnp.co.jp/media/detail/10158354_1563.html
②テクノフロンティア=半歩進んだ技術の紹介
テクノフロンティアとしては、東京大学とDNPの研究チームが開発した、皮膚に貼り付ける伸縮型のデバイス「スキンディスプレイ」の紹介などが該当します。
- ウェアラブルからウェアレスへの進化系デバイス「スキンディスプレイ」https://www.dnp.co.jp/media/detail/1191194_1563.html
③“へえ”ネタ=「へえ~」といわれるような印刷にまつわる知識
“へえ”ネタは、活字や印刷技術が役立っている身近な事例を紹介する面白ネタです。この記事では「活じい」(印刷の活字のキャラクター)と「トンボちゃん」(印刷の版下にあるトンボからきたキャラクター)というキャラクターを使って、印刷技術を使った木目シートを紹介しました。
- 自宅のフローリングを見てみよう!“木目(もくめ)”にまつわる4つのウワサのウソ!?ホント!?
https://www.dnp.co.jp/media/detail/1193114_1563.html
堀川知恵氏(以下、堀川):この記事の狙いは、「印刷会社って紙の印刷だけじゃないんだ。普段生活の中で見ている床や壁などの空間にも、実は印刷が使われているんだ」と気づきを得ていただくことです。木目印刷は特に、元となる木材を海外から買い付けて、専門のデザイナーがこだわってデザインしていることを表現しました。
――へえー!専門デザイナーがいるんですね!
堀川:その「へえー!」が出る記事にするために(笑)、ミエルカを使ってユーザーニーズを掘り下げました。「木目印刷」の検索結果だけ見ると、フローリングの住宅でインテリアを手がけるプロ向けサイトばかりが出てくるんですよね。キーワード分析中はBtoBかBtoCか迷いましたが、すでにお付き合いのある建物、設計、インテリアに携わるプロも、あるいはもっと広くデザイン関連に携わる人でも両方「木目をデザインするこんな仕事があるんだ!」と面白がってもらえるものにしたいと思い、構成を組み立てました。
田口佳央莉氏(以下、田口):SEOを学ぶ以前だったらきっと「木目印刷はこういう風にできており…」と技術者に語らせていたと思います。でも、「木目印刷」で調べると一般の生活者がDIYで使う木目部材や壁紙をAmazonなどで買い求めたいニーズも見えました。堀川さんが今回、コンテンツ制作フローに沿って作ったコンテンツは、そういった生活者が見ても、インテリアのプロが見てもわかりやすい書き方になっていると思います。
プロダクトアウトからマーケットインに発想が転換
――制作の流れを教えてください。
向野:月に1度、編集会議を開いています。そこで我々Web戦略室だけでなく対外広報やCSR・環境部、マーケティング本部など別の部署の人たちも集まってテーマ出しをします。編集方針に沿ったテーマをニュースリリースの題材や社内報のネタ、CSR活動の予定などを活用して、スクリーニングしたあと、各部署の人たちにコンテンツ設計書を設計してもらって、タイトル、キーワード設計、メインテーマを整理してもらい、執筆に入ります。
初期段階では、会社として読ませたいものを作るというプロダクトアウトな発想が多かったのですが、回を重ねるにつれて、ユーザーの方の関心がありそうな「興味の勘所」が共通認識でつかめるようになってきました。
堀川:「Discover DNP」は伝えたいことが先にあって、そのテーマありきでユーザーニーズとすり合わせていきます。キーワードもそれに合わせて変えないといけません。たとえば簡単に開けられるパッケージの切り口を、業界用語だと「易開封(いかいふう)」と表現しますが、より検索されやすいキーワードを探して「開けやすいフィルムパッケージ」に変えたりしています。
日々迷いつつ工夫していますが、田口さんと大森さんとで立てた「コンテンツ設計書」のマニュアルを見て、アドバイスもいただきながらやっているので、構成も立てやすいですね。
誰でも対応できるよう、業務フロー、手順をマニュアル化
――社内の各部署の方々が対応できるようにマニュアルを作成されたんですね?
黒木:そうです。私たちで培ってきた知識を他部署にどんどん横展開していきたい。けれど、やはり社内教育にかける手間やコストはなるべく抑えたい。そこで動画という手法を活用しようとなり、教育コンテンツ管理プラットフォーム機能も併せもつ「Draw(ドロー)」の導入を決め、大森さんと一緒にマニュアルを作成していきました。
――ドローで作ったマニュアルとはどのようなものでしょうか?
大森和博(以下、大森):ドローはWebマーケティングの体制構築と業務フローのマニュアル化をお手伝いするソリューションです。ドロー専任スタッフが、業務内容とやりたいことをお客様にヒアリングして、まずすべての手順を洗い出し、一番効率よく業務が回るよう、業務フローを再構築して提案します。
それから各業務手順を動画撮影し、クラウド上に、ブロックに分けて載せておくことで、「誰でも視聴すればすぐに手が動く」動画マニュアルの完成となります。それによって新しくチームに入った方を教育する手間が省け、早期に戦力化することが可能になるわけです。
田口:各事業部門の方たちに「この本を読んで、この通りにやってください」ですと、なかなか実践しづらいものです…。経営層や技術者にインタビューをする時も、どんな視点で語ってもらうとより多くのユーザーに読んでもらえる記事になるのかを、あらかじめキーワード分析にかけて、ターゲットのニーズとの掛け合わせを考えてから臨むと、全然違った記事になってきます。
DNPに関心を寄せてくださる多くのお客様との双方向なコンテンツにしたくて、「こういう記事パターンの場合はこういう切り口で書く」と、DNPなりのレールを敷きました。ここの部分は他部署の方と認識を合わせるのが難しかったんですが、大森さんにすごく協力してもらいました。
大森:ドローは更新もしやすいツールなので、メディアの成長に合わせて最新版を更新していけば、あとから入ってきたメンバーでも成功パターンを再現できます。「教える」というアナログな業務をクラウド上で学べるようにデジタル化すれば、現場の負荷はだいぶ減るかなと思っています。企業文化としてDX(デジタルトランスフォーメーション)
ビジョンと結果を見せて、チームに根づいていった制作フロー
堀川:とはいえまったくのSEO素人たちなので、最初は大森さんと田口さんが会議でレクチャーしてくれたんです。投稿後の結果も数字で見せてくれ、「一緒に頑張ろう」って。実際にやってみて結果につながると、初心者でもモチベーションが続くんですよね。
田口:特に、「ユーザーの検索意図」とは?を皆さんに教えるのは難しかったですね。大森さんがみんなに教えてくださるときに「検索窓に『バレンタインデー お返し』と入力すると、検索エンジンは『ホワイトデー』の意図も含まれた検索結果を返してくる」といった説明がとてもわかりやすかったですね!
堀川:私たちDNPの商品で「粘接着フィルム」という異素材同士を接着するためのフィルムがあります。液体の接着剤を使っているメーカーや機器メーカーの方々だけでなく、多くの人に見てもらうためのアドバイスを大森さんと田口さんにもらいました。できた記事が「未来の産業変革を支える粘接着フィルムを開発」です。
最初は、決めたキーワードにちゃんとヒットしているのかを調べる「Google Search Consoleでの流入ワードの見方」もわからない状態でした。でも、ケーススタディが増えていくにつれて、この記事はまだ伸びそうか、どう改善すればいいか、コツがつかめてきました。
紙メディアの場合は、出した後に「改善する」ってありえないですよね。でも、Webは違う。手を加えると変わることが、数字でわかると意識も変わります。たとえば一度取材した人に再取材をお願いする時も、「こういうユーザーの意図に応えたいのでもう一度話を聞かせてください!」と打診もできる。部署間を超えた説得材料を手に入れた感じでした。
1記事あたり平均PV数が1年で20倍!社内から「書いて」が殺到
――実際に数字でどれぐらいの変化がありましたか?
田口:たとえば、大森さんのサポートもコンテンツ設計書もなしで書いた2019年3月の記事と、2020年3月に、大森さんのサポートとコンテンツ設計書ありで書いた記事の1ヶ月間のアクセス数を比較すると、10倍の検索流入の差がありました。テーマが違えば結果も違うこともありますから、1記事あたりのアクセス数の平均を同期間比較で比べたところ、PVは20倍になっていたのです。1年でしっかり成果が出ました。
――すごい成果ですね!社内の雰囲気は変わりましたか?
向野:外部からのPVが増えるのと比例して社内のオウンドメディア認知率が上がりました。これまで週報を見てネタをこちらから探していたのに、向こうから「うちの商品/この人を取り上げて」という“売り込み”が増えてきました。いい傾向です。
――発信力を期待されるメディアになったのですね。
向野:テーマを出してくれた人に田口さんが解析したデータで「こんな人に見られていますよ」とフィードバックすると、すごく喜ばれますし盛り上がります。協力者が増えるのに比例して、ネタも広がっていますね。
黒木:Discover DNPの目標は、いわゆる一般的なBtoB企業のWebサイトでのCVとされる問合わせやリード獲得ではなく、「会社のブランディング」なので、数値的な目標が設定しづらいところはありました。しかし社内認知が広がるにつれて、採用のために就活中の学生向けの発信もしたいというニーズが広がりました。たとえば社員食堂の紹介などをし始めたのもそれが理由です。
黒木:コンテンツを活かして企業ブランディングできるんだ!という社内認知が広がったのは1年半の成果だと思います。さらにつなげるとしたら、よりCX(カスタマーエクスペリエンス)を向上させるようなコンテンツを出していきたいですね。
――サービスページについても運用は広がっていますか?
黒木:はい。製品リリースに併せて各事業部で効果的なコンテンツを発信することが大切なので、自身の担当コンテンツを定量的に評価できる「コンテンツ通信簿」を各部門のWebメディア担当者に周知・展開しています。
――「コンテンツ通信簿」とは、どのようなものですか?
田口:一方的な会社発信にならないよう、ミエルカ式コンテンツ制作で重要な4つの指標、①集客力(検索からどれぐらい流入したか)、②閲覧力(ユーザーがどこまで読んだか、滞在時間はどの程度か)、③回遊力(内部リンクへ誘導ができているか)、④成果力(ゴールに導いているか)をもとにコンテンツを評価する通信簿を作りました。
田口:通信簿を作ることで、携わっている人たちにも目標ができ、さらに「ユーザーの気持ちをきちんと考えなきゃいけない!」という共通認識が生まれつつあります。自社発信のすべてのコンテンツが「100点」に近くなれば、製品の特性やコアな人しか知らないような技術ワードでも、かみ砕いた面白い情報発信をしていけるはずです。
――堀川さん、今後の抱負はいかがでしょう。
堀川:まずは、田口さん、大森さんの視点が自分たちも身につけられるよう、がんばります。
田口:これからどんどん記事も増えてきますから、記事全体を管理されている堀川さんが「コンテンツ設計フローが通ってないよ!」「ここ改善されていないよ!」というアラートを、記事を書く人たちに出せるようサポートしていきたいと思います!
――本日はありがとうございました!
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