「スーパードライ」発売36年でフルリニューアル! 過去最大規模の広告費で、ユーザー数2000万人へ
1987年の発売以来、長年愛されているアサヒビールの「スーパードライ」が、フルリニューアルを行った。過去最大規模の広告予算を投下し、テレビCMだけでなく、YouTubeやTwitter、LINEなどのデジタルもフル活用するという。
守り続けた味とイメージを発売36年目にして変更するのは、並大抵のことではない。フルリニューアルに込めた思いと戦略を聞いた。
酒税法改正&コロナ禍で“本物の”ビール売上11%増
まずフルリニューアルの背景には、酒税法の改正があります。2020年10月に酒税法が改正され、ビールの税率が下がり、“第3のビール”と呼ばれる新ジャンルの税率が上がりました。これにより店頭での価格差※1が縮まりました(松橋氏)
ビール類の市場自体はゆるやかに縮小傾向にある。しかし酒税法の改正や、コロナ禍の巣ごもり需要により“プチ贅沢”の裾野が広がるなど、近年ビールへのニーズが急増している。
『本当はビールが飲みたいけど、懐事情から毎日飲むなら新ジャンル』だったユーザーも、『それならビールを飲もう』と乗り換えるきっかけになり、ビールの購入者は法改正後の1年で11%、約370万人も増えました(松橋氏)
今までの酒税は、麦芽の比率によって税率が異なり、ビール・発泡酒・新ジャンルの順に税率が高かった。しかし23年、26年にも酒税の税率改正を控えており、最終的には3つのビール類の税率は一本化される。ビールメーカーとしても、王道のビールで市場の巻き返しを図りたいところだろう。
「辛口」と聞いて「苦味」を連想されることがユーザー調査でわかった
松橋氏によると、約4年前から消費者の嗜好とスーパードライの目指していることにズレがあるのではないかと仮説を持ち、議論が始まっていたという。今回のリニューアルでは、「辛口」のコンセプトは変わらないものの、ホップを投入するタイミングを変えるなどして、飲みごたえを向上。よりキレの良さを感じられる味に仕上げた。
発売当時は、白ワインでも使われるようなスッキリ爽快な味を『辛口』と理解される方が多かったのですが、時代とともに『辛口』から連想されるイメージが『苦味』に変わってしまっていました。そこで、今一度消費者に『辛口』の意味をしっかりお伝えし、新しくなったスーパードライとして改めて訴求していこうと、今回のフルリニューアルに至りました(松橋氏)
新パッケージの裏面には、飲みごたえとキレのよさを表現した「辛口カーブ」を表現したほか、よりシンプルなデザインに変更。特殊インクにより、缶の手触りも異なる。またスーパードライの世界観も刷新した。
これまでのスーパードライは、ワイシャツ姿の男性たちが『仕事で目標達成した! 乾杯!』といった世界観だった。がむしゃらに仕事に取り組み、会社の中で出世をつかんでいくのが成功であり、自己実現ととらえるような時代背景に合わせていたからである。
最近の若年層は、独自の価値観を大事にされていて、『我々の広告訴求が今の時代とズレてきているのでは?』と疑問が生まれたのです。そこで『自分らしく好きなことに夢中になっている、そんな人たちを応援しているのがスーパードライ』という世界観にアップデートしました(松橋氏)
3月1日から始まった新CM「新スーパードライ、始まる」編ではロックバンド「ONE OK ROCK」の楽曲が起用されている。スーパードライの誕生日である3月17日から始まる新CMでは、史上最大規模の予算をかけて年間35,000GRP(延べ視聴率)のCMを展開していくという。
過去最大規模の広告予算を投下し、デジタルもフル活用
CM以外にも、さまざまな販促施策を実施する。3月17日から順次、YouTuber50組とのタイアップ動画の配信が始まる。きまぐれクック、ヒカキン、はじめしゃちょーら、YouTube界の大御所たちが軒並み参加する予定だ。
また発売翌年の1988年以来となる飛行船を「新スーパードライ号」として全国各地に飛ばす。
いま日本は閉塞感を抱えていると思います。久しぶりに空を見上げて、気持ち的にも上を向いてほしく、飛行船を企画しました。飛ぶ日時・場所はアサヒビール公式Twitterで事前告知します。飛行船にはカメラを積んでいるので、上空から撮影した映像をつなぎ合わせたCMも作りたいと考えています(松橋氏)
地上では、仮想現実(VR)技術を活用した工場見学や、できたてのスーパードライの試飲ができるコンセプトカーを全国に走らせる。キャンペーンサイトでは、それらの準備や新商品の出荷の様子、CM撮影の裏側などを発信し、カウントダウン形式で期待感を高めてきた。
松橋氏に、今回のリニューアルの最終目標を聞いた。
『生ジョッキ缶』も含めて、スーパードライ全体で年間7,070万箱販売するのが目標です。これは昨年より約1,000万箱増です。同時に、ユーザー数を1,900万人から2,000万人に増やしていきたい※2。最終的には、デジタル施策でお客様と1to1のコミュニケーションをとるのが理想です。これだけ情報も物もあふれている時代。お客様がほしいと思う情報を最適なタイミングで提供するには、即時性からいってもデジタル施策は不可欠です(松橋氏)
デジタル戦略に力を入れる理由は「1to1のCRMのため」
「スーパードライ」は、これまでもデジタル戦略に力を入れてきた。過去の事例をいくつか紹介する。
YouTube音楽配信「THE FIRST TAKE」とタイアップ
ソニーのYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」とのコラボ動画は、スーパードライの缶に印刷された二次元コードを読み取ると、見られる仕様だ。Z世代に人気である「緑黄色社会」の長屋晴子やキタニタツヤ、AIなどのアーティストを起用している。
LINEでビールを贈る「SHARE SUPER DRY」
2021年12月、試験的に始めたのがLINE上でビールを贈れるサービスだ。LINEギフトのように、「おつかれさま」などのメッセージをつけて引き換えクーポンを送信すると、受け取った人がコンビニでスーパードライ(350ml缶)をもらえる仕組みである。
プレゼントキャンペーンはすべてLINEにシフト
これまでのプレゼントキャンペーンは、ユーザーが購入レシートやシールを集めて応募しなければならなかったが、それをすべてLINE応募に切り替えた。独自開発した画像認証の新技術を使い、商品の缶を撮ってアップロードすれば、写真1点につき1ポイント付与するマイレージキャンペーンも始める。
これまでのアナログな応募方法では、こちらからアプローチできない割に、予算がかなりかかっていました。しかしLINEを活用すれば、購買形態の調査が可能です。ユーザーの属性に合わせて情報も出し分けられるので、関係性の向上にも取り組めます。現在のLINE友だち登録は800万人と、アルコール飲料ではかなり大規模ですが、今回のリニューアルでさらに増やしていきたいです(松橋氏)
飲めない/飲まない4,000万人と一緒に考えるお酒の未来
アサヒビールでは、社会課題を解決する取り組みも行っている。“スマートドリンキング”と銘打って飲み方の多様性を推進するために1月5日、電通デジタルと共同で合弁会社スマドリ株式会社を設立した。
昨今、「責任ある飲酒」という考え方が世界的な潮流になりつつあり、アサヒグループも世界の大手酒類メーカーが加盟する「IARD(責任ある飲酒国際同盟)」の一員として、不適切な飲酒の撲滅活動をしている。では適正な飲酒とは、どの程度なのだろうか?
厚生労働省は節度ある適切な飲酒量を、1日あたり純アルコール摂取量で男性20g、女性10g以内にすることを推奨しています。摂取量20gとは、5%のビールなら500ml、日本酒なら1合、ワインだとグラス2杯程度です。しかし、どの商品に何g入っているかわかりにくい。そこで私たちは、まず各商品に純アルコール摂取量を表示することから始めました(元田氏)
ユーザーが適正飲酒量を守れるようにするためには、ノンアルコールや微アルコールのラインナップを強化し、組み合わせがきくようにする必要がある。そこで同社では、ビールテイスト飲料である「0.5%のBEERY」を開発。一度ビールをつくり、そこから風味を損なわずにアルコールだけを抜く、脱アルコール技術を確立した。
これが非常に好評です。ビール類やRTD※3、ノンアルコールテイスト飲料の販売容量構成比の20%をアルコール分3.5%以下の商品にしていくのを目指しています(元田氏)
またスマドリでは、国内に推計4,000万人いると言われる「飲めない」「飲まない」層も視野に入れたデータマーケティングを展開していく。「飲まない」とはお酒好きでも、たとえば翌日に重要な予定があったり、育児中だったりといった理由からあえて飲まない人を指す。
これまで飲める人のリサーチしかしてこなかったので、飲めない・飲まない人のインサイトは新鮮なことだらけでした。たとえば私は『飲めない人は飲みの場が苦痛』だと思い込んでいたのですが、そうとも限らないのです。ノンアルや微アルコールの商品開発には、彼らの味覚の調査やニーズの掘り起こしが重要です(元田氏)
2021年11月、飲めない・飲まないアーティストやクリエイターらとのトークセッションを開いたところ、次のような意見が上がったという。
- 飲める人が盛り上げてくれる飲み会は、飲まなくても楽しい
- コミュニケーションが目的なので、飲まなくても参加したい
- お会計の割り勘で割負けする
- ノンアルコールの選択肢がもっとほしい
量販店で買える商品はもちろんのこと、飲食店に卸す商品もラインナップも増やせば、お酒を飲む人にとっても『2杯飲んだから、次は微アルコールにしよう』などと飲み方を選べるようになり、メリットが広がると考えています。お酒を飲む人・飲めない・飲まない人、みんなが楽しめる飲み方を広げ、“スマートドリンカー”を増やしていきたいです(元田氏)
スーパードライのフルリニューアルと、スマドリの取り組みを通じて感じたのは、ユーザー1人ひとりの自分らしさを尊重する姿勢だ。「持続可能な社会に向けて、企業も進化が求められている」と感じたインタビューだった。
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