B2Bビジネスを拡大させる「ストーリーテリング」7つの利点(前編)
B2B業界で働いている人なら、B2Bは「Boring 2 Boring」(退屈なだけの取引き)の略だと揶揄されるのを聞いたことがあるかもしれない。しかし汚名を返上する方法がある。それが「ストーリーテリング」だ。
この記事では、B2Bマーケティング戦略をワンランク上にするストーリーテリングの技術について学んでいこう:
- B2Bマーケティングでストーリーテリングが重要な理由
- 知っておくべきストーリーテリングの7つの利点
- B2Bマーケティングにストーリーテリングを取り入れるテクニック(後編)
ストーリーを吹き込んだメッセージは、正しく行えば、君が思う以上にビジネスをすばやく向上させて拡大できる。
B2Cマーケのストーリーテリングを例に
生命保険会社のSanlam Life Insuranceはこの社会実験を、お金を適切に管理して金銭的により賢い判断をする方法を人々に教えるマーケティング戦術として取り入れた:
「One Rand Man」※は、南アフリカのケープタウンに住む30代の普通の男性だ。職業は建築家で、高級レストランで外食し、テーブルの全員にテキーラショットを何杯もご馳走し、最高品質の洋服に惜しげもなく大金を使うなど、人生をこの上なく謳歌している。お金の出入りはほとんど記録しない。
しかしある日、彼は突如として気づく ―― 自分が稼げば稼ぐほど贅沢な暮らしに散財していることに。そこで好奇心から、月給の全額を1ランド硬貨で支払ってもらうことにした。
そう、信じられない話だが、One Rand Manは現在、自分がいくら使っているかを把握しており、すべての買い物を硬貨で支払うことによって支出を減らそうとしている。
このストーリーはすぐに拡散されYouTubeでのアクセスは数千件に達し、多くのメディアで好意的に伝えられた。このB2CビジネスはOne Rand Manのストーリーを利用して「金融に関する正しい判断をすることの力」を消費者に教えたのだ。そして、実際に金銭的なサポートが必要になったとき、これらの消費者はどこに助けを求めたと思うだろうか?
もちろんSanlamだ。
ただ、B2Bビジネスの場合についてはどうだろう? 同じコンセプトが使えるだろうか? 多くの人は、次のように思うだろう:
こうしたマーケティング戦術の導入には時間がかかる
自分のビジネスのユーザー層には関係ない
しかし、実はおもしろいほど効果を発揮するのだ。
B2Bマーケティングでストーリーテリングが重要な理由
君はおそらくマーケティング活動で、次のようなお決まりの感情に目を向けてきただろう:
- 切迫感
- 恐れ
- 衝撃
顧客の弱点を、割引や優れたサービスによって攻略できるからだ。しかし、ストーリーが持つ力を活用すれば、そうした1回限りの顧客をブランドの伝道者に変えられる。
なぜこれが重要かと言えば、マーケティングの最も強力な形は口コミによる紹介だからだ。
ストーリーに基づくマーケティングは、心の琴線に触れて信頼を深める。それによって、
- 自社は顧客を売上と見なし、顧客からみた自社が単なる商品やサービスだと映る
のではなく、
- 大量消費主義の障壁を打破し、長期的な関係を築く
という違いが生まれる。
消費者に商品やサービスを理解されにくいB2Bビジネスにとって、これは特に有効だ。ストーリーテリングはブランドに人間性を与え、別の視点を提示することで複雑なB2Bのトピックをシンプルなものにできる。
知っておくべきストーリーテリングの7つの利点
ストーリーテリングをマーケティング戦術として活用すると、「顧客獲得コストの削減」や「販売サイクルの短縮」など、さまざまな利点がある。
具体的には、次の7つの利点だ:
- ブランドに人間性を与えて、個性を伝える
- オーディエンスとの感情的なつながりを生み出す
- 顧客をやる気にさせる
- 顧客を維持する基盤になる
- 新規顧客の獲得にも効果を発揮する
- 独特の刺激的なコンテンツにする
- 「商売気」を控えめにした一面を見せる
それぞれについて理解していこう。
利点1ブランドに人間性を与えて、個性を伝える
Doveは、肌の色や体型、顔色のタイプに関係なく、すべての人を包摂する表現をしている(インクルーシブ)。理想の見た目を女性に指南しがちなファッションブランドや化粧品業界において、ストーリーを盛り込んだDoveのメッセージは、変化をもたらすものとして新鮮に映る。
B2Bに取り入れるには
B2BのSaaS企業であるDubsadoは、チームの裏話をバイタリティにあふれたコピーで際立たせるという、実に粋な取り組みをしている。従業員の裏話を組み込むだけで、多くの同業他社より目立つことができる。
人は他者と関わり合うものだ。そこで、ターゲットオーディエンスとつながるために、自分のチームの背後にあるストーリーに光を当ててみてはどうだろうか。
利点2オーディエンスとの感情的なつながりを生み出す
Doveの別のキャンペーンでは、あらゆる美容広告に大きな影響を受けている少女の未来を示したうえで、保護者に「子どもたちが広告の影響を受ける前の段階で、この業界について子どもと話を始めること」を求めている。
これらの広告が少女たちの心に与えうる影響を説明することで、Doveは保護者との間に感情的なつながりを生み出す。保護者らは、
- 商品のメリットだけを考えてDoveを購入する
のではなく、
- インクルーシブで前向きなメッセージを発信しているブランドの商品だからこそ購入する
のだ。
B2Bに取り入れるには
Zendeskが作成した動画「Sh*t Support Agents Say」を見てみよう。Zendeskは、チームと顧客の両方にアピールすることでビジネスを改善するB2BのSaaS企業だ。この動画では、顧客サポート担当者の共感できる感情を取り上げている。
そこで君がターゲットにしている業界の、特定のグループについて考えてみよう。
どうすれば、感情に訴えるストーリーが主体の動画を作成できるだろうか?
どうすれば、君や君のターゲットオーディエンスにとって重要な時事問題や価値観を中心に据えたコンテンツを作成できるだろうか?
自らの立場を決めてブランドのメッセージに組み込むことで、持続的なインパクトを生み出し、オーディエンスに心から気にかけてもらうよう促すことができる。
利点3顧客をやる気にさせる
次の画像は、「Dollar Shave Club」のウェブサイトからのものだ。このブランドは、新規の顧客が商品やサービスに気軽に楽しく触れられるようにすることで知られている。
ウェブサイトの訪問者は、日頃の身だしなみの習慣など簡単な質問に答える「Easiest Quiz Ever(世にも簡単なクイズ)」を通じて、自分に合った商品や会員になる方法をすばやく確認できる。
こうすることで、顧客が自らワクワクしながら「Dollar Shave Clubの商品を使えば日頃の習慣がいかに効果的か」を知るようにできる。
B2Bに取り入れるには
「顧客をやる気にさせる」というこの考え方を、B2Bビジネスにも応用してみよう。やる気にさせるといっても、「今やっていることをやめて新しい質問ページを作る」必要があるわけではない。
プロジェクト管理ソフトウェアを手がけるClickUpの設立者であり最高経営責任者(CEO)のゼブ・エヴァンズ氏を見てほしい。同氏は毎週、ターゲットオーディエンスに向けた動画をLinkedInに投稿して、次のようなテーマをターゲットオーディエンスに呼びかけている:
- 職場の文化
- ローカライズに関する話題
- チームを拡大する中で得た最大の教訓 など
舞台裏の様子やその過程で得た教訓を共有することで、まずブランドに触れてもらうようターゲットオーディエンスに促すことができる。これが他の人にも影響し、君に対する親近感も増すことになる。
利点4顧客を維持する基盤になる
「Canva」は、コンテンツ作成において、B2BおよびB2Cのオーディエンスに愛されるすばらしい仕事をしている。同社は、顧客を維持するには「デザインの原則」や「テンプレートに関するサービス」だけでは不十分であることを理解している。
選りすぐりの記事を集めた同社のブログでは、次のようなトピックを取り上げている:
- ケーススタディ(デザイン変更がいかに非営利団体の影響力を高めたか)
- 効率的な整理術(学校の先生向けにデジタルノートの整理の仕方を解説)
- デザインのハウツーガイド など
Canvaは、アマチュアデザイナーの間でよく知られたブランドであるだけでなく、ユーザーが日々の仕事のさまざまな側面について詳しく学ぶためにアクセスする場所ともなっている。
B2Bに取り入れるには
ターゲットとする企業で働いている人々のタイプをマッピングしよう。たとえば、次のような肩書きの人がいる:
- グラフィックデザイナー
- コンテンツマーケター
- 事業創始者 など
これらの人々について考え、こうした特定の分野にアピールするブログコンテンツを作ろう。
たとえばコンテンツマーケターにアピールするならば、「コンテンツマーケターが君の商品やサービスを使うことで、日々の暮らしでいかに生産性を高められるか」に焦点を当てた記事をシリーズ化できるかもしれない。個々のストレスに対する解決策を提示すれば、自分を見てくれて話を聞いてくれると感じてもらえるため、持続的な関係を築ける可能性が高まるだろう。
利点5新規顧客の獲得にも効果を発揮する
利点4で挙げた点に付け加えると、Canvaのブログは非常に有益なので、さまざまなチャネルで共有され、無料のプロモーションになる可能性が非常に高い。
たとえばVeryGoodCopyを設立したエディ・シュレイナー氏は、ストーリーを盛り込んだ簡単なライティングのヒントを短い記事にして毎週公開している。そして記事の最後に、読者に対して記事を他者と共有するよう呼びかけ、実際に共有しやすくしている。
B2Bに取り入れるには
ターゲットオーディエンスの特定の個人に向けて「リッチ」で「教育的」、かつ「簡潔」なコンテンツを作成し、それを知人に共有しやすくすることで、さまざまな場所で紹介してもらえるようになるのは間違いない。
利点6独特の刺激的なコンテンツにする
多くの人は、1日休みをもらって焼きたてのポップコーンがあれば、嬉々としてNetflixを一気見するだろう。私たちは心からストーリーを欲している。だから、好奇心をかき立て、共感できるものに時間をかける必要がある。
その好例が、英国のB2Bソフトウェア企業Advancedだ。同社はブランド認知度の向上を狙ったキャンペーン「right the first time」で、文字通り「ジャックと豆の木」などから童話の要素を組み込んだ。
これは、複雑な業界をよりわかりやすく説明するのに役立った。実際、このキャンペーン後に発行された法律ITの業界紙で、国際法律テクノロジー協会(ILTA)のCEOが自分たちのソフトウェアについて、次のように述べている:
ゴルディロックス(英国の童話「3びきのくま」の主人公)の話のように、熱すぎず、冷たすぎず、ちょうどよいものにしたい
B2Bに取り入れるには
個々のB2Bビジネスに応用する場合は、子どもの頃に読んだ物語を思い出して、それを「ストーリーテリング」のアニメーション動画(またはブログ)シリーズに組み込もう。ただし、元々のキャラクタではなく、自社のキャラクタを使うことだ。「顧客が主人公で、君が信頼できる友人」という設定でもいい。
ストーリーテリングを利用すると、コンテンツへの共感を得てエンゲージメントを促すことになるため、ブランドメッセージに独特の刺激的な要素が加わる。日頃から子どもたちに話している物語を、発売予定の新商品やサービスにどう利用できるか検討してみよう。
利点7「商売気」を控えめにした一面を見せる
メッセージを発信するときには、商売気が前面にでた次のようなCTAを添えることが多いだろう:
今すぐ購入!
ここから購入!
しかし、こうしたCTAで無理強いするのではなく、次のようなコピーに力を入れてみよう:
- 顧客の笑いを誘い
- 好奇心をかき立て
- その気にさせる
たとえば、BarkBoxはユーモアの使い方が絶妙だ。このツイートでは、CTAでいかにオーディエンスをその気にさせられるかがわかる。
B2Bに取り入れるには
B2Bのコピーをもう少しウィットに富んだものにするには、どうすればいいだろうか。より親しみを感じてもらうには、次のようなやり方はどうだろうか:
- ソーシャルメディアで何がトレンドになっているかを調べる
- 人々の日々の暮らしの中で起きている大きなストーリーの流れに乗る
たとえば、デイブ・ハーランド氏は英国で著名なB2Bのコピーライターで、コピーライティングのスタイルとスキルがうかがえるウィットに富んだ皮肉なLinkedIn投稿で人気を得ている。
この記事は前後編の2回に分けてお届けする。前編ではストーリーテリングがもたらしてくれる利点を7つ見てきた。
後編となる次回は、B2Bマーケティングにストーリーテリングを取り入れるうえで役立つテクニックをいくつか紹介する。
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