BtoBセミナー、ただの宣伝で終わってない? 参加者に“学び”を届ける設計のポイント
参加者は課題に対する“ヒントを持ち帰りたい”という気持ちで参加しているはず。その気持を突き詰めていくと、セミナーの内容はサービスの説明にはなりません。
と話すのは、ミツエーリンクスの木達一仁氏。Web担当者Forumでは、年4回実施するイベントで集客・聴講者からの満足度が高いスポンサー企業の講演セミナーを「スポンサー部門最優秀コンテンツ賞」として表彰している。2024年11月に開催されたセミナー「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋」で受賞したのは株式会社ミツエーリンクス。
受賞を記念して登壇した木達氏にお話をうかがった。
自社セミナーで評価の高い内容をアレンジして登壇
木達氏は、1997年に宇宙開発関連組織でWebマスターとしての経験を積んだ後、学生時代にアルバイトをしていたミツエーリンクスに2004年に入社した。フロントエンドの設計や実装、関連ガイドラインの策定に携わり、現在はアクセシビリティや品質管理、ブランディングにかかわる部門を管掌している。「ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)」作業協力者としても活動している。
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Webサイトの構築や運用に関連して、アクセシビリティをテーマとした登壇も多い木達氏。今回の登壇でも、2024年4月に施行された改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティについて講演した。スポンサー部門最優秀コンテンツ賞については、その存在を知らなかったそうで、受賞は「青天の霹靂であり、光栄」と笑顔を見せた。木達氏の講演は、セミナー満足度ランキングで7位を受賞している。
満足度や集客率が高かった理由については、次のように分析している。
今回の講演内容が当社ビジネス・サービスと切り離された、言わば商売っ気のない、純粋な啓発目的に振り切った内容でした。また、多くの担当者が
- 「自信を持って改正障害者差別解消法を理解できていない」
- 「自分の担当業務と同法の関係を正しく理解できていない」
という状況があって、参加者の関心が高かったのだと思います。Webアクセシビリティは昔からあるテーマで、派手さはありませんでしたが、多くの方に参加いただきありがたかったです(木達氏)
今回の講演は、自社開催のオンラインセミナーで複数回実施し、満足度、集客率の高かった内容を元に作成したため、話しなれていたことも功を奏したようだ。サブタイトルに関しては、集客を意識して工夫した。
講演タイトルは、「施行から半年……正しく理解し、取り組めていますか?
改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティ」ですが、前半の「施行から半年」で時事性を表現しつつ、後半の「正しく理解し、取り組めていますか?」では担当者の自信や自負を問うような、ともすれば挑戦的なフレーズで、参加意欲を少しでも喚起できればと考えました(木達氏)
しかし、複雑な思いもあると木達氏は本音をもらす。
今回は法改正をセミナータイトルに入れたものの、法改正を“出し”に使いたくないというのが本音です。法律による“やらされ感”ではなく、Webサイトをアクセシブルに作ることがクリエイティブであることを伝えたいと思っています(木達氏)
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自社セミナーは細かく振り返りを行い、改善を重ねる
ミツエーリンクスでは、毎月1〜2回オンラインセミナーを実施している。メールで集客をしていることから、参加者は既存顧客が多い。
一方で、協賛型セミナーは年に1回程度参加しており、新規顧客を獲得するための機会、認知獲得の機会と位置付けている。自社の強みや魅力を表現できるテーマで接点を作り、もっと知りたい人には自社セミナーに誘導するようにしている。そのため、参加を検討するときには競合他社の参加や、講演テーマについて調査している。競合他社とテーマが重なってしまうと、新規リードの獲得という目的において、期待した通りの成果が得られない可能性があるからだ。
なお、協賛セミナーのKPIについては、獲得リードの数や質を確認している。今回、登壇者としての講演後のアンケートは実施しなかったというが、その理由は「気軽に聞いてほしい」という思いからであり、営業色を極力排除した。
一方で自社セミナーの場合は、次のような項目をKPIとしている。
- 申込者数
- 参加者数/欠席者数
- アンケート回答者数
- 開催後のアプローチ件数
自社セミナーは、企画から集客まで完全に自社のコントロール下にあるので、その後の改善につなげるためにも多くの数値を見て振り返りをしています。参加者のフィードバックをもとに、1回あたりのセミナーの時間、内容の難易度、案内を送るタイミングなど、大小さまざまな改善をこれまで積み重ねてきました(木達氏)
同社の場合、リード獲得後商談化するまでの期間は長く、場合によっては3年以上かかることもあるという。セミナーの参加者がいつコンバージョンするかは読めないものの、満足度を高めていくことで、その可能性を上げているという。
なお、コロナ禍を経て自社セミナーはすべてオンラインで開催している。オンラインで1時間を超える場合は、集中し続けるのが難しいため、途中で5〜10分間、休憩を挟むようにしている。
今回のWeb担イベントは、対面形式でした。オンラインセミナーは、場所を問わず参加できますが、参加者がずっと集中して聞いているわけではないので、対面式のほうが意欲高く聞いている方が多いと改めて感じました。
対面式の場合、参加者からの非言語的な反応がリアルタイムでわかるので、退屈に思われていそうだったら話題を変えたり、もっと詳しく聞きたそうな人がいれば予定外に掘り下げたり、と臨機応変に対応できることが大きなメリットです(木達氏)
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参加者が喜ぶ“お土産”は、上司や同僚に伝えられるキーフレーズ
セミナーの準備期間については、以下のプロセスをすべて含めておよそ4ヶ月程度かけているという。
- 企画(構想)
- 社内承認
- 自社サイト掲載原稿作成
- 自社サイト掲載(集客開始)
- スライド作成・講演準備
- スライド確認&リハーサル実施
- セミナー本番の実施
- アンケート収集・開催後対応(個別アプローチ等)
社内セミナーについては、原則として集客期間は2ヶ月間を確保するようルール化しており、開催当日から起算して2ヶ月前に自社サイトに情報を掲載、集客を開始するようにしている。
セミナーで気をつけていることの第一は、「参加者(=Web担当者)目線を忘れないこと」と木達氏は話す。そのためには、「押し付けがましくならないようにすること」「商売っ気を出さないこと」を意識しているという。
参加者は課題に対するヒントを持ち帰りたいという気持ちで参加しているはず。その気持を突き詰めていくと、セミナーの内容はサービスの説明にはなりません(木達氏)
木達氏のスライドの作り方は20年前から大きく変わっていない。「Keynote」で黒のグラデーションのテーマを使い、白い文字を配置する。見出しのフォントサイズは100ポイント、本文のフォントサイズは52ポイントを基本として、1枚に含める文字量を決めている。
スライドでは改行を避けたいので、改行しない範囲で短く言い切るようにして、一文で伝わるようにしています。私のセミナーに参加して持ち帰ってもらえる“お土産”は、担当者が社内で説明する時に、そのまま使ってもらえるフレーズです。参加者が「これが言いたかった」と感じてもらって、使ってもらえるとうれしいですね(木達氏)
そしてもう1つ気をつけている点は、当然ではあるが時間オーバーしないこと。参加者の貴重な時間を奪わないように、必ず時間枠に話し切れるよう、事前に入念なリハーサルを行っている。
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外部露出を増やしつつ、自社セミナーは対面形式も復活予定
自社セミナーについては、これから対面形式のセミナーを復活させたいと考えている。対面&オンライン配信のハイブリッド形式も検討中だ。テーマや時間などによって、ベストな開催形式は変わるので、試行錯誤しながら効果を最大化していきたいという。
自社セミナーは、販促よりも、広報・PR、ファンマーケティングの側面の方が強いです。たとえ短期的にご相談やご依頼をいただけずとも、さまざまなテーマで開催を続けるなかで、セミナーを通じ当社の魅力や技術力、他社との違いに理解を深めていただき、ゆくゆくは当社のファンになっていただけたら嬉しく思います(木達氏)
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