ブロガープロモーション (ペイパーポスト) サービス利用ガイド――正しい使い方は? 選び方は?
ブロガープロモーションサービス利用ガイド
正しい使い方は? 選び方は?
このコーナーでは、ネットビジネスを強力に支援する製品やサービスについて、それを支える技術や市場動向を説明し、さらに各社から提供されている製品を紹介する。競合ひしめく市場で、他社に差を付けるための武器として、ぜひ導入を検討してみてほしい。今回は、ブログ記事として自社製品を広告してもらうための「ブロガープロモーションサービス」だ。
TEXT:河野 武(シックス・アパート株式会社 / WOM勉強会)
ブロガープロモーションサービスと
クチコミの正しい考え方
飛びついて失敗しないための基本知識
広告のクラッター化と 可視化されるクチコミ
昨今、クチコミがこれほどブームになっているのはなぜだろうか? それには2つの理由がある。
最初の理由として、「広告のクラッター化」があげられる。“クラッター”とは“混雑して溢れかえった状態”のことを指す。私たちの日常では、朝起きてテレビを見ればCMが流れ、電車に乗れば中吊り広告があり、町を歩けば看板が目に入る。雑誌を読んでも、インターネットでブログやSNSを見ていても広告が溢れている。私たちは、広告に囲まれているため逆に鈍くなり、いつのまにか広告は「いらないもの」として自然と視界から排除されていった。結果として「広告はもう効かない→だからクチコミが大事」となったわけだ。
もう1つの理由としては、ブログに始まるCGM(Consumer Generated Media)の普及によって、クチコミそのものが「可視化」されたことがある。
クチコミという行為は、これまでも行われてきた。学校で、会社で、いわゆる井戸端会議として、美味しい店や使い勝手のいい商品について情報交換したことはないだろうか。人を介して情報が広がっていく、これがクチコミだ。よくある「地元で評判の店」というのは、クチコミの代表事例だ。従来は対面での口頭や電話経由で伝わっていたクチコミが、今はインターネットを利用してメールやブログによって伝わっている。その結果、これまで以上のスピードで、これまで以上の規模で、クチコミが広がっているのだ。
このように、(テレビCMなど)既存の広告の効果が薄れているのではないかという危機感と、ブログの普及でユーザー間の会話が顕在化したことによって、クチコミに頼って商品を売ろうとするブームが起きている。
本来「クチコミ」というのは自然発生するものだ。英語圏では「WOM(Word of Mouth)」とクチコミを呼んでいるが、WOMMA(Word Of Mouth Marketing Association:クチコミマーケティング協会)という米国の団体は、クチコミには次の2種類が存在するとしている。
- Organic WOM(自然発生するクチコミ)
- Amplified WOM(増幅されたクチコミ)
「Organic WOM」は、顧客が製品について満足し、自らその企業を応援したい、サポートしたいと思ったときに起こる一般的なクチコミのことだ。一方の「Amplified WOM」は、あるコミュニティでのクチコミを促進させる目的で、企業側がプランニングしてデザインしたキャンペーンを行ったときに起こるクチコミだ。プロモーションとして括られることもあるが、今回のテーマである「ブロガープロモーション」は後者に該当する。
広告の本質から見る ブロガープロモーション
ここで少し本質的な話をしたい。みなさんは「広報」と「広告」の違いについて説明できるだろうか。「広報」はメディアを通して消費者にメッセージを届ける活動だ。掲載されてもされなくても無償である。一方「広告」は有償で消費者にメッセージを届ける活動だ。有償である代わりにメッセージの内容をコントロールできる。また広告は有償であるため、テレビや新聞などのメディアはそれが広告であることを明示し、責任の所在を明らかにしている。これが広告を語る上で非常に重要なポイントとなる(図1)。
米国には「PayPerPost」というサービスがあるが、この名前は象徴的だ。つまり「PayPerClick」が日本語で「クリック課金」と呼ばれ、クリックすればお金を支払う広告モデルであるなら、この「PayPerPost」は、記事を投稿(post)することに対してお金を支払う広告モデルなのだ。以前から、雑誌には「記事広告」と呼ばれるものがあるし、インターネットの世界でも、ヤフーなどは特集としてタイアップ記事を広告商品として販売している。広告手法としては特に目新しいものではない。
そして、この手法をブログに持ち込んだものが、PayPerPost型広告、いわゆる「ブロガープロモーション」だ。
ブロガーと企業から見る 基本的な仕組み
現在、日本国内には20社近くのブロガープロモーションサービスが存在するが、基本的な仕組みはどこも同じだ。
ブロガー側は、まずブロガープロモーションサービスに登録を行う。登録はメールアドレスとブログURLだけでよい場合もあれば、趣味や年齢・性別といった簡単なアンケートを求める場合もある。
登録が完了すると、あとは待つだけだ。サービスによって頻度はまちまちだが、不定期に企業からの掲載依頼メールが届く。多くの場合、このメールに各種の条件が明記されている。具体的には、報酬(記事を書いた場合にいくらもらえるのか)、紹介する商品やサービスの説明、記事を書く場合の注意事項や約束事項などだ。
メールを受け取ったブロガーは条件に沿って記事を書く。商品名で公式サイトへのリンクを求められたり、記事本文中に特定のキーワードを入れるよう求められたりするが、それらの指示を守って記事を書けば、平均すると200円程度の報酬が得られる。最近では、いい記事を書けば1名限定で1万円がもらえたり、さらにインセンティブを用意するといったケースもあるようだ。
逆に、広告を出す企業側から見てみよう。まずコスト面だが、掲載数に応じての成果報酬となっているサービスが多いようだ。100ブログに記事を書いてほしいのか、2000ブログに記事を書いてほしいのかによってコストが変わるわけだ。「先着○名」「抽選で○名」といったように自由に報酬を設定・制限できるので、予想より多くのブログが記事を書いても1000ブログ分しか支払わないといったようにコストコントロールが行いやすい。
サービス業者への支払いはブロガーへの報酬と同程度になる。つまり1000ブロガーに200円ずつ支払うなら総コストは40万円程度になる。これは掲載保証ブログ数が多くなるほどディスカウントされることもある。この他に掲載依頼メールの原稿作成費用や企画費用として別途請求する場合もあるようだ。これがブロガープロモーションの仕組みだ( 図2)。
ブロガープロモーションの メリットとデメリット
ブロガープロモーションにはどのようなメリットやデメリットがあるかまとめてみよう。
確実に効果を確認できるメリットとしては、まず「ブロガーへの認知」があげられる。たとえば1000ブログへの掲載を希望した場合、サービス業者は通常の記事化率(掲載依頼メールを送って、実際にブロガーが記事を書く割合)をもとに、数倍から10倍以上のブロガーにメールを送る。つまりこの場合、約1万人のブロガーにその商品やサービスの存在を知らせることができる。これ自体がダイレクト広告として有効かもしれない。
さらに「SEOの効果」が確実にある。先に示したように、たいていのブロガープロモーションでは公式サイトへのリンクを要求しているし、その際のリンクテキストまで指示しているから、指定キーワードでのSEO効果が見込まれる。ただしグーグルのPageRankの考え方からすれば、昨日今日作ったばかりのブログからリンクされてもそれほど効果はないだろうし、検索エンジン側から見れば明らかにこれはSERP(検索結果)の汚染なので早晩対処されると思われる。
次にデメリットだ。実はこれらのサービスでクチコミが起こる可能性はかなり低い。ほぼないと言い切ってもいいかもしれない。こうしたサービスに登録しているブロガーの大半は、読者があまりいないブログを運営しており、そこに商品の紹介記事を書いたところで、知られないまま読まれないまま終わってしまうからだ。もちろんブログでは記事がアーカイブとして残るので、半永久的に「誰かに影響を与える可能性」が存在し続けるが、あまり期待しないほうがよいだろう。
それ以外には、デメリットはあまりない。あえていうなら「ブランドイメージの失墜のリスクがある」というだけだ。特に「ブロガーに金銭を渡して提灯記事を書かせた」と受け取られた場合、ネガティブなクチコミが発生してしまう。残念なことに、ネガティブなニュースのほうが早く広まってしまうから、そうならないように十分注意してほしい。
ブロガープロモーションの 問題と正しいサービスの選び方
ブロガープロモーションにおいて一番大きいのは「広告表示」の問題だ。現在、ブロガープロモーションを運営しているサービスの大半は、広告表示を義務付けていない。つまり、その記事が依頼によって書かれた報酬付きの記事であることを伏せているのだ。これはステルスマーケティングと同じだ。この広告表示を義務化しないのは責任回避と受け取られる。間違った情報ならまだいいほうで、薬事法や著作権に違反した紹介記事がアップされ、その記事に企業が報酬を払っていたら、それでも企業の信用は守れるだろうか。
そういった点も含め、企業がブロガープロモーションサービスを利用する場合は、以下の点について十分考慮すべきだ。
- ブロガーへ広告表示を義務付けているか
- 著作権法や薬事法など、法令順守をブロガーに徹底できているか
- 他のブログをコピーしただけのスパム記事を排除してくれるか
- 悪質なブロガーを発見する努力をし、逐次登録抹消しているか
- 「情報」だけでなく「体験」を条件にしているか
マーケティングの手段として考慮される以上、費用対効果を考えるのは大切だが、自社の信用を失うことのないよう、広告のモラルも広報のマナーもわかった企業のサービスを選んでほしい。特に最後のポイントは重要だ。メールに書いてある紹介文をそのまま掲載するだけで、人を動かすような記事を書けるわけがない。そのような記事がクチコミを発生させることは絶対にあり得ない。実体験をともなった記事を読んだときに、私たちは「共感」し、自分もほしいと思い、他の誰かに伝えたくなるのだ。
ブロガーとの長期的な関係を 築くのが理想
どんなにすばらしい商品でも知られなければ売れない。同じような商品が世の中に溢れ、また広告も私たちの生活に溢れたなかで、商品の存在を知らしめることは年々難しくなっている。そうした中で、台頭するCGMを舞台にブロガープロモーションのようなサービスが登場したことは、ある意味では当然の帰結なのかもしれない。多くの企業がブロガーとのチャンネルを開きたいと思っており、それに応えるサービスとして需要があるのもうなずける。
理想的には、自社で担当者自らが窓口となってブロガーとの関係を築くことだ。しかしそれが難しくてブロガープロモーションを利用する場合は、くれぐれも慎重にサービスを選んでほしい。関係を築くのは、「ブロガープロモーションとの間」ではなく、「ブロガーとの間」であるからだ。御社とブロガーとの良好な関係が構築できることを、心から祈りたい。
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