PCの前に座っている「セカンドライフ」のユーザーは、オンラインゲームにログインしているのと同じような状態に置かれる。ただし、ゲームのようにストーリーやクリアすべきミッションがあるわけではない。ユーザーが好きな格好をして好きなときに好きなところへ行って好きなことをすればいいという点が、ゲームとは大きく異なる。
ゲームではないにしろ、3D画像の世界を歩き回るというバーチャル世界が、なぜビジネスで利用できるかもしれないという期待を持たれているのか。当初はITリテラシーの高い個人の趣味人のものだったブログやSNSが、今ではさまざまな手法でのマーケティングに利用されているのと同様のことが起こると考えられているからだ。
さまざまな業種がそれぞれの思惑で店舗を展開
期待できそうな低コストのマーケティング調査
セカンドライフ内に支社やプロモーション用パビリオンを開設する企業がじわじわと増えている。テレビのニュースなどでも取り上げられることが増えてきたので、目にした方も多いだろう。企業がセカンドライフに参入する目的は、大きく分けて2つあると考えられる。1つ目は、昨今注目されているセカンドライフに取り組んでいるということで、企業イメージを上げようという戦略。実際に、元手のかからないバーチャル空間であるセカンドライフ内に店舗を出したというだけで、テレビや雑誌に取り上げられるのだから、費用対効果は高いと言っていいだろう。また、テレビCMや新聞・雑誌などの広告掲載には契約料金が必要だが、セカンドライフ内に店舗を持つ場合にはそのような契約は必要ない。
もう1つは、セカンドライフ内でのビジネスを考えていて、そのための調査や実験のための参入という場合だ。リンデンドルを米ドルに交換できるため、米国ではセカンドライフ内のビジネスで大成功を収めれば、それなりの収益を期待することもできる。ただし、日本では現時点ではこのビジネスモデルはほとんど成り立たっていない。
しかし、セカンドライフ内でのマーケティング調査を現実のビジネスに利用することは可能だ。たとえば、現実の店舗とまったく同じレイアウトのバーチャル店舗をセカンドライフ内に作って、人の流れや緊急時の避難経路などをシミュレーションできる。各アバターは個性を持った現実の人間であることから、単純にデータを流したシミュレーションよりも信頼性の高い結果を期待できる。あるいは、自社のパビリオンの来場者にノベルティグッズのようなものを無料配布して、それを追跡するという調査も可能だ。オブジェクトにはスクリプトを埋め込めるので、どこに持って行ったか、どこで取り出したか、いつそれを動かしてみたかといったデータまで収集できる。いわばウェブのアクセス解析のようなものだが、ウェブではページを見たという情報でしかないのに比べて、セカンドライフでは何もキー操作をしなければアウェイとなってしまうため、そこに「いる」ことが確実である。
日本企業はセカンドライフでどんなことをしているのか?
すでにセカンドライフを利用している日本の企業がいくつかあるので、それらの事例をここでいくつか紹介しよう。
ブックオフSecond Life店
企業名:ブックオフ(書籍などの買い取り・販売)
http://slurl.com/secondlife/shibuya/91/233/22
米企業の参入が増え、日本語版サービスの公開を控えているということで、2月にオープン。新しいメディアとしての話題性の高さからビジネスチャンスが生まれると判断した。日本企業の参入はまだ少ないため、メディアに取り上げられることなどでのブランディングの向上を図った。
ブックオフSecond Life店では、同社のCM動画を10m×10mの巨大スクリーンでストリーミング配信するほか、店舗上空に本棚を配置した迷路を設置して、ゴールしたら特製エプロンをプレゼントといったアトラクションを展開している。また、アバター用のオリジナルTシャツの無料配布も行い、出店1か月で3500点を提供したという。現実のビジネスとの連携では、ネット買い取り窓口への誘導などを行っている。
SoftBank×SAMSUNG島
企業名:ソフトバンクモバイル(移動体通信キャリア)
http://slurl.com/secondlife/SOFTBANK SLIM JAPAN/128/8/24/
4月12日に開始された「SoftBank×SAMSUNG島」では、謎解きとそれを解明したユーザーへのスペシャルアイテム提供といったアトラクションが展開されている。広報部の赤澤 悠樹氏によれば「旧ボーダフォンでのmixiプロモーションと同じ考え方」とのことで、セカンドライフ参入の動機を「ユーザーとの意思疎通の手段として新しさを感じた」「携帯電話というネットワークコミュニケーションを扱う会社として、親和性を感じた」と説明してくれた。
3Dの再現性やアバターを通して接触するという身体性を活かし、より親近感や魅力を感じてもらう効果的な施策と捉えており、自社媒体や広告枠との有機的な連携を図っている。また、進化していくネットワークコミュニケーションであるセカンドライフにコンテンツを提供することで、企業姿勢をアピールできると考えたという。
s30 Village(SL昭和30年代村)
企業名:ツカサグループ(不動産)
http://slurl.com/secondlife/dhsl02/33/222/33/
同社が、静岡県伊東市で町おこし的な意味で展開するテーマパーク「昭和30年代村」の、セカンドライフ版。主にプレス向けということで5月1日にオープンしたが、正式な開村は7月1日を予定している。参加者が村作りに参加できるとともに、実際の30年代村会員に疑似体験をしてもらうのが目的。また、実際に村を造る際のモックアップとしても活用する予定。一般のセカンドライフユーザー向けには、「昭和30年代村」の広報エリアの役割を果たす。また、計画のひな形としてマーケティング的な意味合いでの情報収集を行い、セカンドライフ内で効果を検証して伊東市の村作りに反映させていくという目論見もある。
セカンドライフへの参入は、ある30年代村会員に紹介されたことがきっかけ。「セカンドライフ自体を媒体と考えた場合、現時点で媒体自体にメディア価値があるので、広報としては高効率で高効果」とツカサグループ広報の渡辺 忠大氏は語る。近々「大手家電量販店でセカンドライフ対応モデルが出るのでは」との大きな期待も持っている。将来は「どうせ、仮想ならとことん行き着くところまでいってほしい」と、映画「マトリックス」を例に挙げた。
同社ウェブサイトからセカンドライフへのリンクを設置している。
ユーキャンSecond Life事業所
企業名:ユーキャン(通信教育)
http://slurl.com/secondlife/Ginza/39/155/31
バーチャル事業所内では、サイトやセカンドライフ内にある初心者向けコンテンツであまり扱われないが重要な題材やノウハウを、「まったくはじめてのSecond Life講座」として提供している。ビューアーの形で設置するほか、アバター用のHUD(Head-Up Display)での持ち帰りも可能。インターネットでの通信講座人気トップ10の紹介や同社取り扱いの映像商品のデモ映像を見ることができる。また、講座関連のオブジェクト(ボールペン、白衣など)の配布や、公共の施設として、更衣室とラウンジを提供している。
セカンドライフの可能性はまったく未知数としながら、日本語版のリリースを控えていることから、普及したときに備えて先行してノウハウを蓄えるため、3月15日からスタート。投資金額が現在のところ非常に安いので、人気が出なかった場合もリスクが低いとの判断もあった。集客状況はそこそこだが、ビジネス上の効果は今のところない。今後、教育コンテンツとしての活用を目指す。セカンドライフ利用者のような先鋭的なユーザーに向けて自社の良さをアピールするとともに、メディアに取り上げられることでの認知度向上も考慮しているという。自社サイトへのリンクは設置しており、音声チャットの利用も考えている。
セシールSecond Life店
企業名:セシール(カタログ通販)
http://slurl.com/secondlife/Ginza/96/179/31
3月に業界初のセカンドライフへの出店を発表した。目的は、今後世界規模で大きく発展する可能性のある仮想都市にいち早く進出することで、バーチャル世界においてもブランドの確立を目指すことだ。また、今後マーケティングやリクルーティング、ビジネスパートナーの獲得などの切り口でさまざまなチャレンジを行う実験の場として活用していく予定という。店舗では、カタログや商品の陳列、キャンペーン展開、アバターの提供、着信メロディーなどのデジタルデータ提供を予定している。カタログ販売で培ってきたノウハウと、仮想世界で展開する新しいサービスの両面をうまく活用し、顧客サービスの向上を目指している。
ミクシィ キャリア・インフォメーションセンター
企業名:ミクシィ(SNSサービス事業者)
http://www.slurl.com/secondlife/metabirds/128/111/22
2008年度の新卒採用への施策として、採用情報を提供するバーチャルオフィスとして3月1日〜31日の間開設されていた。同社では技術系学生の採用を予定していたため、進取の気性を持った「アーリーアダプター」層に対する採用情報の提供を目的にしたものだった。ミクシィスタッフとのコミュニケーション、スタッフインタビュー(ビデオ)の視聴、セカンドライフ内限定公開フォトアルバムの閲覧、来年卒業する学生に対するメッセージの閲覧、採用過程フローチャートの閲覧、新卒採用におけるよくある質問への回答、セカンドライフ内限定mixiノベルティアイテムのプレゼントといったことが行われていた。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ Vol.6』 掲載の記事です。
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