コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の六十参
1年前の積み残し
年齢を重ねる毎に1年が早くなるのは「割合」だといいます。3歳児の1年は33%、30才なら3%、還暦では1.6%と今までの人生との割合が「体感速度」を決定するというものです。「心得」の連載も2回目の春を迎え、毎週の締め切りが早くなったように感じるのもきっと割合だと、自分の怠け癖を棚にあげております。
私の会社で運営している地域サイト「あだち生活どっとこむ」は春にアクセスが急増します。区花に「桜」を制定する足立区内には桜の名所が多く、それらを紹介しているページへのアクセスで、グーグルでは「足立区 桜」で検索すると1位表示(本稿執筆時)されます。
「桜」は地域コンテンツの華。多少の地域差はありますが使えます。昨年の「ご近所情報SEOという戦い方」では紹介しきれなかった「実践編」です。
ご近所SEOのおさらい
ご近所SEOとは地域情報をフィーチャーし、検索されることを目指します。インターネットで「近所」を検索する人は多く、店舗がある商売なら「地元客」は見逃せません。大手もそこに目をつけ、こぞって「地域サイト」に参戦しました。しかし、Web 2.0的というのか「投稿」主体のサイトはエロと宣伝の花が咲き、掲載情報のきめの粗さは否めず、均衡縮小傾向にあり地域SNSも打開策とはなりませんでした。また、「経済合理性」からみても「マス(大衆)」を相手にすることが求められる大手が、足立区の片隅の小さな公園を紹介していては株主に怒られてしまいます。
ご近所SEOとは地元の中小零細、個人商店しかできないゲリラ的な戦術です。
つくばエクスプレスの爆発
マスメディアは有名なものをより有名にします。理由は2つ。1つは情報伝播能力の高さで、テレビは現在最高峰に位置します。行列ができる焼き肉屋「スタミナ苑」の話は以前紹介しましたので割愛しますが、例を挙げればきりがないほど「テレビの力」は破壊的です。
2つ目が「後追い」。特に大手メディアの得意技です。彼らの主要な情報源は「同業者」です。物書きの端くれとしての暴露話ではなく、取材を受けた人に尋ねると「●●を見たが話を聞かせてほしい」という申し込みが多いといいます。「マスコミ有名店(スポット)」の舞台裏です。
ご近所SEOでは手垢のついていない情報に注力します。足立区の東部を南北に跨ぐ「つくばエクスプレス」の開業時に「足立区」がらみの情報はなく、あるのは秋葉原や筑波ばかりでした。そこである地元政治団体が「つくばエクスプレス開業!」と題し、コンテンツに足立区の文言を散りばめたページを用意すると、開業当日、過去最高のPVを記録しました。
ザリガニ越えもあとわずか
昨年の記事で、足立区の見沼代親水公園はザリガニ釣りスポットとして「見沼代親水公園 ザリガニ」と検索されるとしましたが、今は公園名だけで検索されます。足立区西部30年来の悲願の新線「日暮里・舎人ライナー」の終着駅「見沼代親水公園駅」となったことで検索数が増え、今年3月30日の開業を目前に右肩上がりに伸びており「ザリガニ」が多い夏休みを越す勢いです。また、その他の「区内各駅」を紹介したページへのアクセスも上がっています。
ご近所SEOの効果は地域の発展と連動することが「地元愛」を加速させます。
都内の一等地企業ではできない
区内の花見スポットを検索すると有名どころしかでてきませんでした。そこで「ないなら作る」と区内を回りコンテンツにすると翌年から爆発的なアクセスとなりました。地元の人間しか来ない「穴場」を中心にすることでライバル不在の「独占」となったのです。
ご近所SEOの「続編」を1年待った理由は「桜」です。地元の名所を廻り撮影し記事を書きます。とても簡単なことですので追随する(パクる)サイトがでてくる覚悟はしていました。ところが3年経っても4年目でも増えるのは有名スポットばかりです。史跡名所と違い「華の命」が短い桜で、また年度変わりのバタバタする時期に取材する物好きは少ないからではないかと推測しています。
ここも、狙い目です。都内の一等地に居を構える企業には難しいということです。
再度いう「地域の宝」だと
テレビ東京の「アド街ック天国」や日本テレビの「ぶらり途中下車の旅」といった地域にフォーカスを当てたテレビ番組の「大人の事情」をとやかくいうほど野暮ではありませんが、近所の人が集うと報じられた総菜店に人影はなく、行列ができる洋菓子店の商品が地元のスーパーで並ばずに買えることを知っていると苦笑が絶えません。地域SEOでメディアの後追いは危険です。後追いの後追いが得意技の大手メディアと競合するからです。
ご近所SEOに取り組むと「無名」を発掘する悦びを知ります。あだち生活どっとこむで紹介した「伊興公園」は、区の広報誌で花見の穴場として紹介され、「西伊興の桜並木」は花見スポットとして定着しました。リアルに波及した「実感」が、ネットへの情熱を更なるものにします。
ママさんデビューに最適な公園、子供が水遊びする噴水、ザリガニ釣りスポット。みんな「地域の宝」です。まずはこの春、地元の「桜情報」を集めてみてはいかがでしょうか。時の流れは今年より来年と早くなり、来年の春はもっと忙しいのです。手間も「アナログ」な手法を用いることで簡単に……とここで字数がつきました。次回は来年……ではなく来週号で。
♪今回のポイント
すぐ散る桜はエアポケット。
マス情報と地域情報の棲み分けを意識する。
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