フォロワー1人165円は得か損か。ツイッターボットと都市伝説
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百十八
自動販売機は稼働する
楽して儲かる。魅力的な言葉です。24時間、365日、寝ている間もお金が自動的に振り込まれているとしたら、どれだけ素敵なことでしょう。かつて、ホームページがそれを実現すると期待されました。客は勝手に訪れ、商品を見て、購入申し込みをしていく自動販売機。そしてインターネット上に自動販売機が乱立したある日、幻想だと気がつきます。つぎに各社は楽して儲けるために「集客」に力点を移します。
メルマガ、ブログ、ツイッター、Facebook。本来の目的はともかく、新しいネットサービスが登場するたびに、集客ツールとして転用され、「楽して儲かる」と囁かれました。しかし実際にやってみるとわかることですが、どれも「楽して儲かる」というものではありません。メルマガやブログはネタを探して作文しなければならず、ツイッターやFacebookは他人と絡んでナンボで、手間もかかれば、暇もなくなります。そこに「福音」が響き渡ります。「ツイッターボット」です。わずかな手間で、自動で集客してくれる。すなわち楽して儲かるのではないかと……。
本当に楽をできるのか、とある通販サイトをお借りして実験してみました。
ツイートし続ける実験
ツイッターボットとは、ツイッターに自動的に「ツイート(つぶやき)」し続けるプログラムやネットサービスの総称で、あらかじめ設定しておいた台詞をツイートしたり、関連するツイートを見つけては「リアクション」をとったりするものなど、さまざまなものがあります。通販サイトなら、すべての商品をURL付きでツイートするだけで集客できる、つまり「楽して儲かる」という皮算用です。最初に設定する手間がかかりますが、データベースの商品情報をテキストデータでエクスポートし、エクセルで編集すれば造作のないことです。
ツイッターでのツイートは、主に自分をフォローしている人間しか見ません。そこでフォロワーを増やすためにフォローします。フォローとは興味を持ったアカウントに対して自発的に行うものですが、人間には「お返しをしなければならない」とおもう「返報性」という性質があり、フォローに対して「フォロー返し」してくれる人が多いのです。全自動で無差別にフォローするツールを使えば、「何万人のフォロワー」を得ることはそう難しいことではありません。
フォロワー1人165円
無差別なフォローを嫌う人も少なくありませんし、私も好ましいとは考えていません。ユーザーとのコミュニケーションによって作り上げられてこそのソーシャルメディアですから、無差別フォローによって企業イメージを損なっても困ります。そこで、通販サイトの商品に興味を持ちそうなツイートを弊社のスタッフに人力で探しフォローさせていきました。
期間は4週間。在宅スタッフが述べ20時間ほどかけて、フォローした人数が591人。そして121人がフォロー返しをしてくれました。時給1,000円として、フォロワーの1人あたりの獲得費用は165円です。フォローするごとに「はじめまして」「フォローしましたよろしく」と絡めば、より多くのフォロワーを集めることができるのですが、実験の目的はあくまで「楽して儲かる」ですし、ツイッターのフォロー、リムーブ(フォローを解除)に許可はいらないという立場に私は立ちます。
ソーシャルネットワークの「つながり」は、しきい値を超えると指数関数的に広がることがあるので、この数字で結論をだすのは早計かもしれませんが、楽して儲かると胸を張れるものではありません。
検索エンジン最適化の微力に
4週間のあいだに323ツイートして、ツイートからのアクセスは15件。誰も購入しません。儲かるどころか、人件費はまるまる赤字です。まだまだ母数が少ないのかもしれません。もっとも、ツイッターを利用して300万ドルの売り上げを生み出したというデルの成功事例でも、成果は全売上における0.002%ほどに過ぎないことからも妥当な数字でしょう。またデルは、ツイッターを「フラッシュマーケティング」のツールとして使い、顧客窓口として活用するなど、積み上げた努力の結果であり、商品名の垂れ流しではありません。
そもそも「商品名」をツイートするだけで儲かるなら誰も苦労はしないのですが、私のところにツイッターボットの利用に関する相談が増えてきており、調べてみると「商品名垂れ流しツイート」が想像以上に多かったことが、この実験のスタート地点です。
1つだけツイッターボットの効果かと認められたのは検索エンジンのクロールです。クロールとは検索エンジンの情報収集作業で、ツイッターを始める前の4週間と比較すると27%多く収集されていました。
クロールされたすべてのページが検索エンジンにインデックス(登録)されるわけではありませんが「商品一覧」へ誘導する効果はあるかもしれません。実際、検索結果にツイッターのリンクが影響を与えるということが発表されています。
関連記事:TwitterやFacebookで共有されたリンクが検索順位に直接影響する――グーグルとBingが明言
都市伝説に振り回されるな
ネット系の「楽して儲かる」とは「都市伝説」です。「都市伝説」はまったくの虚構から生まれるものではなく、事実の一部が切り取られて創作されます。「井の頭公園でデートをすると別れる」など、その典型です。公園で開かれた花見で出会い結ばれた2人もいるはずなのに、実際に別れたカップルだけがフィーチャーされ、尾ひれがついて伝説となります。
切り取られた事実の一部は「黎明期」です。ヤフーディレクトリに登録され、SEOを施し、メルマガを発行してブログを書けば「楽して儲かる時代」は確かにありました。ネット未経験者が多かったころディレクトリ分類はタウンページの索引のようで馴染みやすく、検索エンジンの情報精査能力が低い時代にクローラを「導く」のは簡単でした。メルマガやブログを書くだけで読者が増えたのは「ブログの女王」が誕生するまえの黎明期。ツイッターの利用者が少なかった時代なら、商品名を垂れ流す「ボット」で集客できたのかも知れません。競争参加者が少ない時代にだけ(偶然)通じた方法が独り歩きし「楽して儲かる」という「都市伝説」が生まれます。
ツイッターボットを否定しているのではありません。工夫もなく垂れ流す、すなわち「楽して」も得られる果実は少ないということです。
今回のポイント
黎明期の成功例が都市伝説となる
ツイッターボットはインデックス対策に……は、なるかもしれない
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