コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の273
閉じられた世界というパラダイス
アマゾンのマーケットプレイスにて「プレミアム価格」で転売され続ける拙著『楽天市場がなくなる日』は、さまざまな形で出店費用の他に徴収される「楽天税」を嫌い、独自サイトに力を注ぐという見立てに基づき執筆しました。お客のネットリテラシーが高まれば「検索」が活用されるようになり、システムの重さや使い勝手の悪さから客離れが起こり、同じく出店企業のスキルが高まれば、独自ショップにチカラを注ぐべきだと。
しかし、ご存じのようにまだなくなっていません。それは、そもそもの見立てに誤りがあるからで、
よその世界(システム)を知らなければ、たとえ表示が遅くても、そんなものかと受け入れる。
ということです。執筆当時、人間の真実に到達していなかったことを告白します。そして利用者がいれば儲かる人がいます。ならば儲かる市場から離れる商売人はいません。
金がなければ成功しない?
楽天市場で儲かっている企業があります。楽天市場には膨大な数の訪問者があり、これを楽天市場は喧伝しますが、沢山の訪問者が均等にすべてのショップを巡回するわけではありません。多くは有名店や「広告」を出稿している店に流れていきます。つまり、新規参入店の場合、「広告」をうたずに成功するのは困難です。またすべての「広告」は楽天が管理販売しており「楽天税」には広告費も含まれます。
ところが「リサイクル」では事情がかわります。どのジャンルなのかはつまびらかにできないのですが、あるリサイクル商材を扱う店舗の担当者は、「広告を使わなくても出品するだけで高く売れるので、笑いが止まらないと」笑っていました。逆に売れすぎて販売を自粛していると眉根を寄せます。楽天市場ではそのジャンルの「新品」は掃いて捨てるほど取り扱うショップがあるのですが、「リサイクル」となると劇的に少なくなることから、このジャンルを求める膨大な訪問者を独り占めできているのです。
高くても売れる市場
リサイクルといえばアマゾンのマーケットプレイスやオークションサイトを思い出しますが、こちらは同業者がひしめき合う激戦区で、1円単位での値引き競争が常態化しており、あまり儲かりません。また、個人でも出品できるので、企業的利益を求めようとすると太刀打ちできないこともあります。ところが、楽天市場のなかなら競争相手は「新品」ですから、リサイクル市場において「高め」の価格設定でも飛ぶように売れるのです。
「なくなる日」では見落としていた点です。これは一般の商売における「出店立地」に似ています。「コジマ」を買収して業界2位に躍り出た「ビックカメラ」が地代や賃料が高くても、駅前出店にこだわり続けているのは、昼休みなどにフラッと立ち寄る客の旨味を知っているからです。同社の宮嶋宏幸社長は「郊外型店舗は目玉商品狙い(筆者要約)」とダイヤモンドオンラインの取材に答えています。フラッと立ち寄り衝動買いをしていく客と、特売品しか買わない客のどちらが儲けさせてくれるかという話です。
マーケットプレイスやオークションで商品を探す客は、ずばりその商品を探しており「目玉商品」狙いの郊外店の客層と重なります。一方、漠然と商品を探しにくる客も多い「楽天市場」は駅前店というわけです。
ケータイ決済という武器
もちろん、立地は楽天市場だけではありません。最近ではすっかりゲーム屋さんのイメージが強いDeNAが運営する「ビッターズ」もなかなかの立地です。ただし、こちらはより狭き門となります。
- 数千円~1万円未満
- 嗜好品や娯楽品
- 客層がケータイのヘビーユーザーと重なる
- 月単位で買い換える、買い増しする商品
ビッターズでは「ケータイ決済」が用意されており、上記商材で利用するユーザーが多いのです。回線会社により利用限度額が異なりますが、毎月月初にリセットされると一気に売上が上がります。現金を使わないことから、購入決断の心理的ハードルが低くなっているのでしょう。すいません。これも守秘義務の関係で業種は明かせませんが、取材した会社は笑いすぎてあごが外れそうでした。
案外分が悪いオークション
希少本、初版本、コレクターズアイテムといったレアものならアマゾンのマーケットプレイスが最適です。一見、値段がつり上がるオークションの方が有利に思えますが、オークションは運不運に大きく左右されるので、予想外の安値しかつかずに儲け損なうこともあります。また、オークションの利用者は先に指摘したように目玉商品を求める「1円でも安く」という心理が働くため、出品価格を高めにすると、そもそも見てもらえないという悪循環に陥るのです。
とにかく安く売りたいというのなら「カカクコム」に軍配が上がります。ちなみに、かつてカカクコムで最安値を競っていた「アマゾン」の名前を、最近はあまり見かけなくなりました。価格政策を変更したのでしょうか。
カローラ層が楽天をささえる
執筆時に欠けていた人間の真実がもう1つ。義理堅い日本人はカローラを乗り継ぎ、いまだにヤフーを使い続けます。初めてネットで買い物したのが楽天市場なら、そこに忠誠心を覚えるのが日本人です。彼らが「楽天市場」をささえます。
ショッピングモールにはそれぞれの顧客特性があります。楽天市場にはネットリテラシーの高くない客が多く、ビッターズはケータイの利用者が、マーケットプレイスにはマニアがいて、オークションには安値を探す客がいます。自社の商材にとってどれが適しているのかという視点から出店先を検討すると、おいしい立地が見つかるかもしれません。
今回のポイント
ショッピングモールごとに客層が異なる
商品と顧客属性で市場を選ぶ
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コメント
セキュリティと面倒臭さ
個人情報や決済情報(特にクレジットカード)を、あちこちに入力したくないというユーザーの心理も重要で、Amazonや楽天を支える重要な要素になっていると思います。