インバウンドマーケティングを正しく理解してマーケ部と営業部の関係を良くしていく10のポイント
インバウンドマーケティングとはどういうものなのか、それがマーケターにどんなメリットがあるのか、どうすればうまく導入できるのか、どんな企業に向いているのか。10個のポイントを、HubSpot社インターナショナルHQのジーツー・マタニ氏に話を伺った。
「インバウンドマーケティング」とは、そもそも何なのか?
Q1 HubSpotでは、インバウンドマーケティングとはどのようなものだと定義しているのでしょうか?
インバウンドマーケティングを説明する前に、「アウトバウンドマーケティング」に触れておきましょう。
HubSpotの考え方としては、従来のマーケティング、つまり(企業からメッセージを送り出す)アウトバウンドマーケティングはもう徐々に機能しなくなっています。消費者たちはますます広告やダイレクトメールやありふれたセールス文句に耳を傾けなくなり、それらを避けようとします。インターネット広告をクリックする人はどんどん少なくなっていますよね。
では、企業はどうすればいいのでしょうか。
消費者の行動に目を向けると、「問題や必要なものがあるときに、ネットで検索して解決しようとする」という行動は、今や彼らにとって当たり前のことになっています。
HubSpotではこの点に注目して、消費者にとって有益で魅力的なコンテンツをインターネット上で提供することによって、見込み客をまるで磁石のように自分のサイトに惹き付けようと考えています。
しかし、単に(検索エンジンを通じて)来てもらうだけでは、マーケティングにはなりません。
見込み客に見つけてもらうだけでなく、サイトにやってきた見込み客のデータを分析し、それに基づいて戦略を立てて見込み客のニーズにあったコンテンツをさらに提供し、「見込み客」を「顧客」へと育てていきます。
この一連のプロセスが、(企業に向かって見込み客が近づいてくる)「インバウンドマーケティング」です。
消費者にとって有益なコンテンツを提供することで彼らに自社サイトを訪れてもらい、そのデータを分析してさらにコミュニケートすることで、「見込み客」を「顧客」に育てていく一連のプロセス
Q2 インバウンドマーケティングの手法を用いることは、企業(とマーケター)にとって、どんなメリットがあるのでしょうか?
この質問に対しても、アウトバウンドマーケティングと対比して説明するのがいいでしょう。
まずアウトバウンドマーケティングでは、不特定大多数の人をターゲットにしています。例えるならば、暗闇の中で銃を乱射しているような状態ですよね。この方法は、効率が悪くコストも高いものです。そして、マーケティングのために、たとえば広告などに絶えずお金を支払い続けなくてはなりません。
それに対してインバウンドマーケティングでは、自分の作ったオウンドメディア上のコンテンツによって見込み客を惹き付けるので、コストが低くなります。
我々の調査では、アウトバウンドに対して、インバウンドマーケティングではリード獲得に費やす費用が60%も削減できた例もあります。
そして、これがインバウンドマーケティングの大きな利点の1つですが、自社が作ったコンテンツは資産としていつまでもインターネット上に残り続けます。一度作ったコンテンツが資産として活用できている例を1つ紹介しておくと、HubSpotで今一番リードを獲得しているコンテンツは、5年前に書いたブログの記事です。
- 見込み客獲得のコストが下がる
- 作ったコンテンツは資産としてずっと価値をもつ
- 顧客を理解するためのデータも得られる
コンテンツ作成を(費用ではなく)投資として考え、その投資がいつまでもリード獲得に貢献してくれることになる、それがインバウンドマーケティングによってもたらされる利益なのです。
さらに、自分たちが管理するメディア(自社サイト)に見込み客が来るということは、これらの訪問者の性質や特徴を把握できるということを意味します。これも、外部のメディアに広告を出稿するやり方では得にくいメリットです。
欧米ではインバウンドマーケティングはどの程度浸透しているのか?
Q3 インバウンドマーケティングに関して、欧米と日本とで、マーケティング環境の観点や企業の文化の観点で違いはあるのでしょうか?
アメリカとヨーロッパではもちろんインバウンドマーケティングを行っている会社数や規模の違いはありますが、ともに上手くインバウンドマーケティングを活用しています。
実際にアメリカでもヨーロッパでも、マーケティング予算が従来のマーケティングからインバウンドマーケティングへシフトしています。
そして、インバウンドマーケティングをただの1つのチャネルとして見るのではなく、きちんと会社全体の戦略と結び付けるようになってきています。
一方、日本では、インバウンドマーケティングはこれから拡大する大きなチャンスがあると思います。HubSpotはマーケティングエンジン社とパートナーシップを結んでおり、日本でのインバウンドマーケティングの拡大の結果がすこしずつ見え始めています。
特にB2B企業では、インバウンドマーケティングを導入してネット上にコンテンツを作ることで、より簡単にアジアの近隣諸国もしくはヨーロッパの市場に自分たちの商品をアピールしやすくなると思います。
消費者の購買プロセスに関していえば、そこには文化の違いはないと思います。どの国の消費者にしろ、大量の広告にうんざりしており、また自分が気になったものや事柄に関しては、グーグルやヤフーを使って検索しますからね。
Q4 欧米では、インバウンドマーケティングはどんな状況なのでしょうか? どんな企業が、どのように行い、どういった成果を出しているのか、現在の状況と、そこに至るまでの少し前からの推移を教えてください。
押し売り型マーケが効かなくなってきたため、実験的にインバウンドマーケティングを始めた。成果が見えるようになってきたので、少しずつ予算をシフトしているところ。
Q3ともすこし重複するのですが、アメリカでもヨーロッパでも、現在多くの会社が少しずつインバウンドマーケティングに本格的にシフトしていっているところです。
少し前まではアウトバウンドマーケティングが主流だったのですが、やはり「押し売り型」のマーケティングに消費者は疲れているので、思うように結果が伸びませんでした。
そこでインバウンドマーケティングを、初めはすこしずつ実験的に始めたところ成果が見え始めてきたので、アメリカでもヨーロッパでも予算をインバウンドマーケティングにシフトしているところです。
また、アメリカでもヨーロッパでも、企業がインバウンドマーケティングをきちんと理解するようになってきています。つまり、単にWebサイトへのトラフィックを増加させる方法としてではなく、会社全体の戦略や方針と結び付けたリードジェネレーションの戦略としてとらえるようになってきました。
インバウンドマーケティングは、リードを必要とする会社ならば、どこに対しても有効なマーケティング手法ですが、特にB2B企業と相性が良いのです。
というのも、B2B企業はビジネスモデル上、リードという概念を以前から活用しており、すでに自社にとってリードとなりうる人たちの定義がはっきりしているので、このようなマーケティング手法や戦略に馴染みやすく、比較的スムーズに移行できるからです。実際に、インバウンドマーケティングを導入したB2B企業は、より多くのリードを獲得できるようになっています。
Eコマース業界も、積極的にインバウンドマーケティングを導入しています。
Eコマース業界はお客さんに商品を売るビジネスをしているので、一見「リード」という概念とはあまり馴染みがないように見えるかもしれません。しかし、Eコマース業界ではリードナーチャリングを実施することによって、商品をいったん買い物かごに入れたにもかかわらず買わずにサイトを離れたお客さんを呼び戻すような施策を行っています。たとえば、メールなども含む別のコンテンツに触れてもらうことで、購買するキモチを高めてもらうといったことです。
このようにリードナーチャリングの手法としてインバウンドマーケティングを活用することにより、多くのEコマース企業が売上を伸ばしています。
Q5 旧来のマーケティングの考え方からインバウンドマーケティング的な考え方に、欧米ではどのようにマインドシフトしていったのでしょうか?
アメリカでもヨーロッパでも、まず大前提としてビジネスですから、商品やサービスを販売して利益を上げなければいけませんよね。そのために、マーケティングを行っていて、そこにかかる費用と、そこから得られる利益のバランスが大切なのです。
その点から見ると、アウトバウンドマーケティングでは効果が測定しにくく、費用対効果がわかりにくいと言われています。
それに対してインバウンドマーケティングでは、HubSpotを利用することによってデータを明確にすることができるので、1人のリードを獲得するために費やした時間や費用、また作成したコンテンツにどれだけの人が訪れたかなどがはっきりとわかります。これらのデータを参照すれば、よりマーケティングの効果を簡単に測定できるようになります。
これが多くの欧米の企業がインバウンドマーケティングを取り入れるようになったきっかけです。
今やっているアウトバウンドマーケティングをすべて完全にインバウンドマーケティングに切り替える、ということではないのです。
アウトバウンドマーケティングからインバウンドマーケティングへシフトするときに知っておいていただきたいことが1つあります。
それは、決して「今まで実行していたアウトバウンドマーケティングを直ちにすべて中止してください」と言っている訳ではないことです。
今までアウトバウンドマーケティングに投下していた費用を、初めは少しでいいのでインバウンドマーケティングに割り当ててみてください。そして、データを分析して、インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングを比較してみてください。リード獲得にかかるコストがインバウンドマーケティングのほうが安いようなら、少しずつインバウンドマーケティングへシフトしていけばいいのです。
どんな企業で、どの部署の人が、
インバウンドマーケティングをどう活用するべきか
Q6 インバウンドマーケティングが向いているのはどんな企業で、向いていないのはどんな企業でしょうか?
HubSpotのホームページに載っているさまざまな企業のケーススタディを見てもらうとわかりますが、インバウンドマーケティングは業界や分野に関係なく効果的なマーケティング手法です。
それでもあえて挙げるとすれば、インバウンドマーケティングに向いているのは、リードの定義がはっきり決まっているB2B企業です。また、自社のサービスを理解してもらうためにコンテンツやeBookを通して見込み客を教育し育てて顧客へと転換させるような技術系企業、ソフトウェア企業、コンサルティングファームも特に向いているかと思います。
反対に、サイトの訪問者に特定の行動を促していないニュースのポータルサイト(たとえばCNNなどのような)とはあまり相性が良くないかもしれませんね。
Q7 インバウンドマーケティングを理解して進めるべき職種やポジションは? 営業? マーケティング? 宣伝? 経営者?
成功しているのは、やはり経営トップがインバウンドマーケティングを理解して支持しているケースです。
そういう意味では、取締役、営業部門の部長やマーケティング部門の部長がインバウンドマーケティングを理解し、推進するのが望ましいでしょう。
ただインバウンドマーケティングというのは部署間での協力が必要ですから、どこか1つの部署だけで推進するものではなく、部署を横断して組織が一体となって推進するのが理想であり、あるべき姿です。
インバウンドマーケティングは部署間での協力が必要なので、組織全体で進めていくべき。
Q8 企業が顧客とのコミュニケーションをインバウンドマーケティング的なやり方に変えていくときの、典型的な障害(バリア)にはどのようなものがあり、それをどう乗り越えればいいのでしょうか?
インバウンドマーケティングを導入することで今まで以上に多くの人たちがWebサイトにやってくると思います。しかし、これらのWebサイトへやってきた訪問者は見込み客だけではなく、まだ購入する段階ではないが、展開しているサービスや商品に対して興味があるので、調査や研究をしたい人も多くサイトに訪れます。
最初にインバウンドマーケティングを始めたときに難しいと感じるのは、訪問者が購買サイクルのどのステージにいるのか(購入する準備ができているのかまだ研究している段階なのか)を見極め、ステージごとに合ったアプローチをとることです。HubSpotを使うと訪問者のWebサイト上での動きが把握でき、ある訪問者がどのブログ記事を読み、どのeBookをダウンロードしたかがすべてわかります。それらのデータを元に、一人ひとりにその人が必要とするものを提供し、彼らが抱えている疑問点を解決してあげることが重要です。
もし、ある訪問者がeBookをたくさんダウンロードしている場合は、「それらのeBookが果たしてその人の疑問を解決できているだろうか、その人は次に何を必要としているのだろうか」と考えてみてください。こうしたことを考えることでどうやって訪問者や見込み客との関係性を構築し、購買までつなげていくかが少しずつわかってくると思います。
また、インバウンドマーケティングを導入する際に、取締役など決定権を持つ人に納得してもらうのが難しい場合もあるでしょう。そういうときには、こういった決定権を持つ人たちが何を重視するか考えてみてください。
売上、投資収益率やコストパフォーマンスですよね。
そこで、こんな風に質問してみてください。
今までのアウトバウンドマーケティングの投資収益率やリード1人当たりのコストがいくらかご存知ですか?
おそらくはっきりした答は返ってこないはずです。なぜなら、アウトバウンドマーケティングというのは、その効果をはっきりとした数値としては計測・分析しにくいからです。
そこで、次のようなことを伝えるのです。
- インバウンドマーケティングは明確にそういった指標を測定しやすいこと
- 従来のマーケティングに比べて投資収益率やコストパフォーマンスが高くなる傾向があるということ
そして、実験的にインバウンドマーケティングを導入して、その投資収益率、リード1人当たりのコストを従来のアウトバウンドマーケティングと比べてみてください。そうすることで、どちらがいいのかがわかります。
また、インバウンドマーケティングでは明確なデータをとれます。それを分析することで、現在なにをどのように改善するためにどんな戦略を立てていけばいいかがわかります。
こうした利点を示すことで、インバウンドマーケティングが長期的にみてより優れた戦略だと理解してくれるはずです。
マーケティング部と営業部の距離感を縮め、協力できるようになっていく効果が、インバウンドマーケティングにはあるのです。
また日本だけではなく、世界的に見てもマーケティング部門とセールス部門(営業部門)では意思疎通が難しいというケースも多く見受けられ、これがインバウンドマーケティングの導入のネックとなっていることも多くあります。
しかし、知っていただきたいのは、たとえばHubSpotのようなツールを利用してインバウンドマーケティングを導入すると、マーケティング部門とセールス部門は距離感を縮め、協力できるようになるということです。
私たちはこうしてマーケティングとセールスが上手く連携している状態を「スマーケティング(smarketing)※」と読んでいます。
マーケティング部と営業部の間でSLAを設定するというのはどうでしょうか?
具体的には、インバウンドマーケティングを実施する際に、マーケティングとセールスの両部門間でSLA(サービス品質保証制度)のような取り決めを結ぶことをお勧めしています。
たとえば、「マーケティング部門はより多くの見込み客を獲得すること」、そして「セールス部門はそれらの獲得した見込み客に対してフォローをして顧客に転換すること」といったように、それぞれの部署での仕事を明確にし、どの部分に対して責任を負うかを決めるのです。そうすることで、両者が協力できる体制を確立できます。
また、セールス部門はお客さんに近い立場なので、お客さんの意見、現状や課題に感じていることなどをマーケティング担当者に伝え、それらの情報に基づいてマーケティング担当者がお客のニーズに合ったコンテンツを作ることでより多くの質の高い見込み客を獲得し、セールスにつなげることができます。
その他にも、HubSpotを使用することで営業に役立つデータや見込み客に関する情報をたくさん集めることができます。これらのデータをマーケティング部門がセールス部門に提供すれば、セールス部門の人にも価値があるはずです。インバウンドマーケティングによって、セールス部門が今までよりも楽に仕事をできるようになることをわからせてあげてください。そうすることで、よりスムーズにインバウンドマーケティングを遂行できるようになるはずです。
インバウンドマーケティングを実践するためにHubSpotはどう役立つのか
私たちは、マーケティングを人々に愛されるものに変えてみせます。
Q9 HubSpotは、そもそも「どんな人のための」「何のための」サービスなのでしょうか? そのフィロソフィを教えてください。
私たちHubSpotが提供しているのは、オールインワン(全部入り)のマーケティングプラットフォールで、私たちの使命は、マーケティングをアウトバウンドなものからインバウンドなものに変えることです。
HubSpotは、顧客リストや見込み客リストを購入することに意味があるとは信じていません。私たちが信じているのは、自分たちの資産、つまりコンテンツを作り、見込み客を生みだし、顧客と信頼関係を構築することです。これらを通して私たちはマーケティングを人々に愛されるものに変えてみせます。これが私たちの使命です。
HubSpotでは現在9,000人の顧客と400人の社員がいます。オフィスはボストンに1か所、ダブリンに1か所、そして9か月後にはアジア太平洋地域にもオフィスを開設する予定です。より詳しく日本に限定していえば、HubSpotはマーケティングエンジンのような鍵となるパートナーとの関係を強め、日本のマーケティングをインバウンドなものに変えることを目指しています。
Q10 B2Bマーケティングオートメーションツールはいろいろありますが、HubSpotとそれらの違いは?
他のオートメーションツールとの違いというよりも、ここで皆さんに理解していただきたいのは、HubSpotはオートメーションツールではなく、インバウンドマーケティングを実行するためのツールだということです。
HubSpotは魅力のあるコンテンツによって新しいリードを生み出し、見込み客や顧客のニーズに合わせたコミュニケーションを取ることで、企業とお客さんの長期的な信頼関係を構築し、そして、お客様に愛されるマーケティングを実施するためのツールです。
ですから、HubSpotはオートメーションツールではないのです。
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