御社のマーケティングはカスタマーエクスペリエンス成熟度(CXMM)のどのレベル?
カスタマーエクスペリエンス成熟度モデル(CXMM)という考え方をご存じだろうか。
- 集客状況を把握している
- チャネルごとに分析している
- ゴールに関連した指標で分析している
- 最適化している
- 顧客の状態に応じた段階的な態度変容を促している
- オフラインも含めた顧客情報と統合している
- 顧客理解と行動予測も含めてエクスペリエンスを最適化している
といった風に、企業がどんなマーケティング行動をしていて、それが顧客にどんなカスタマーエクスペリエンスを提供しているかによって、7段階の成熟度を定めたものだ。
デジタルマーケティング機能を統合したWeb CMS(コンテンツ管理システム)を開発・提供しているサイトコア社が提唱しているもので、複雑化・高度化しているいまのマーケ担当者には、自社の状態を改めて把握したり、自分たちが目指すべき場所を確認したりするのに有用だろう。
なぜサイトコアではこのようなカスタマーエクスペリエンス成熟度を定めているのだろうか? その背景と、同社が考えるデジタルマーケティングのあるべき姿について聞いた。
量だけでなく質を見極めれば、
「どの半分の広告費が無駄か」も見えてくる
広告費の半分が無駄なのはわかっている。
問題は、どの半分が無駄になのかがわからないことだ。
ジョン・ワナメーカー氏の有名なこの言葉を耳にしたことがある人は多いだろう。長らく真実だとされていたこの言葉だが、実際には状況が少し変わってきている。
そう話すのは、Sitecore本社のダレン・グアナチア氏。サイトコアでビジネス開発とアライアンスに関する責務を担うプロダクトマーケティングの上級副社長を務めている。
なぜ「どの半分が無駄なのかがわからない」が真実とは限らなくなってきているのだろうか。
それは、マーケティングの世界にデジタルの比率が高まってくるにつれ、さまざまなコミュニケーション施策それぞれの効果を判断できるようになってきているからだ。
ただし、そこで重要なポイントが2つある。次の2点だ。
施策単体で判断するのではなく、各施策が顧客の態度変容にどの程度貢献したかを全体で見ること
量だけではなく、質を判断すること
マーケターが対処しなければいけないチャネル(企業と顧客がコミュニケーションする経路)は、急速に増えている。
ソーシャルメディアといってもFacebookとTwitterだけではない。Google+もあるし、欧米ではLinkedInやPinterestも人気だ。日本ではLINEやmixiがある。
顧客はそうしたソーシャルメディアを自分たちの場として活動しているし、企業がつくるコンテンツをそこでシェアしたり見つけたりもしている。
モバイル環境も進んでいる。スマートフォンとタブレットでは利用シーンが違うし、モバイルWebだけでなくアプリケーションもある。北米やヨーロッパではSMS(ショートメッセージ)も重要なチャネルだ。
広告も有名メディアに掲出するバナーだけでなく、検索連動型、コンテンツ連動型、リマーケティングなど、多様化してきている。
Eメールは今でも企業と顧客のコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている。
ユーザーはオンラインとオフラインを透過的に考えている。オンラインで申し込んだイベントに行くし、モバイルで入手したクーポンを実店舗にもっていく。
しかし、問題は「企業が顧客とコミュニケーションするチャネルが増えている」ことにあるのではない。大切なのは、「顧客が利用しているチャネルが増えている」ことなのだ。
顧客は、各チャネルを分けて考えてはいない。生活やビジネスのなかで、いろんなチャネルのなかから、彼らは自然に適切なものを選んで使っているだけであり、あるチャネルでのコミュニケーションはそれ単体で完結するわけではなく、顧客に連続した影響を与えている。
だから、各施策をそれぞれ単体で判断するのではなく、結果に対してどれぐらい貢献しているかを判断する「アトリビューション」が大切なのだ。
しかしそこで単に量(数)だけを測り質を判断していないのならば、それは問題だ。
サイトに訪問者が何人いるのか、メールを開封したのが何人か、それは大切な指標だ。しかし、そうした顧客の行動を質的(定性的)な観点から見ているマーケターは、まだ多いとは言えない。
たとえば実店舗のカーディーラーであれば、店舗に来て車を眺めて帰った人と、特定の車を指定して試乗した人と、さらにカスタマイズ案を検討していた人とでは、担当者から見た見込み度はまったく違う。おそらく、後者のお客さんは重要だとみなして、積極的に接客するだろう。
同様のことをオンラインでも行えるはずだ。見込み度の高い顧客がそこにいるならば、さらにビジネスにつなげるためのコミュニケーションを展開するべきだろう。
マイクロコンバージョンでスコア化したうえでのアトリビューション
では、それは具体的にはどうすればいいのだろうか。
そこでは、次の3つがポイントとなる。
- ユーザー単位でのトラッキング
- マイクロコンバージョンのスコア化
- コミュニケーションのシナリオ化と自動化
まずデータ分析を、セッション単位ではなく、ユーザー単位で行う必要がある。各ユーザーが過去に企業のどんなコミュニケーションに触れていたのかを、ある程度長い期間の全体で把握できるようにしておくのだ。
次に、マイクロコンバージョンの設定とそのスコア化だ。昨今ではアクセス解析のためにコンバージョンポイント(ゴール・目標)を設定するのは常識になっているが、大きなゴールの手前に、顧客の状態を判断するためのポイントをいくつか設けておくのだ。それがマイクロコンバージョンだ。
たとえば、旅行代理店が、ホリデーシーズンのツアーを販売したいとする。通常のゴール(コンバージョンポイント)は、ツアーをサイトで申し込んだサンキュー画面に設定するだろう。
しかし、その手間に次のようなマイクロコンバージョンを設定して、それぞれにおいて、顧客の自社への関与度を表すスコアとしての「エンゲージメントバリュー」を決めておくのだ。
第1マイクロコンバージョン:ツアーの一覧や旅行ガイドコンテンツの詳細ページ閲覧
エンゲージメントバリュー:1点
閲覧のみ、自社との関係性は測りづらいが、旅行に関して具体的な興味があることはわかる。第2マイクロコンバージョン:ツアーパンフレットの請求フォーム送信
エンゲージメントバリュー:5点
フォームで入力する情報量は少ないが、自社とちょっとした関係性をもった。第3マイクロコンバージョン:サイト上で休暇中のツアープランを作る
エンゲージメントバリュー:15点
過去のデータから、ツアープラン作成機能を使うと、そのうち30%ほどが実際に予約することがわかっているため、点数は高め。第4マイクロコンバージョン:休暇のプランをソーシャルメディア上でシェアする
エンゲージメントバリュー:20点
さらに予約の確率が上がることがわかっている。
そのうえで、ユーザーのスコアをそのユーザーが過去に接触したコミュニケーションに「貢献度」として振り分けていくのだ(アトリビューション)。SEOならばキーワード、リスティング広告やメールキャンペーンなど、施策ごとに貢献度を計算していく。
そうすれば、どの広告がどれぐらい効いているのかを判断しやすくなり、効果が低いと判断されたキャンペーンに使っていた予算を、効果が高いと判断されたキャンペーンに再配分できるだろう。
もちろんここに例として出したマイクロコンバージョンとスコアは、ビジネスが異なればまったく違うものになる。適切な設定を作るためには、自社のビジネスと顧客の行動をあわせたコミュニケーションシナリオ(カスタマージャーニーマップ)を作り、サイトごとやターゲットセグメントごとにマイクロコンバージョンを作っていくことになるだろう。
さらに言えば、ユーザー登録やCRMの情報、さらにはオフラインでの顧客の行動履歴も含めて判断し、同じサイト上での行動でもユーザー属性によって与えるスコアを調整するのも効果的な場合もあるかもしれない。
ユーザー単位で行動をトラッキングしてスコアリングすると、シナリオにもとづいてあらかじめ設定したコミュニケーションを自動的に発動する「マーケティングオートメーション」も可能になる。
たとえば、次のようなものが考えられるだろう。
非ブランドキーワードで検索して自社サイトを閲覧したあとに、後日ブランドキーワードで検索してサイトを訪れたユーザーには、旅行プランを作成する機能を推奨するレコメンデーションを表示する。
旅行プランの作成画面にはアクセスしたが実際にはプランを作らなかったユーザーに、旅行プラン機能の便利さを訴求するディスプレイ広告をサイト外で表示する。
旅行プランを作って2週間経っても動きがないユーザーには、個別に特別オファーのメールを送信する。
ツールだけでは不十分、担当者と組織が進化するための成熟度モデル
サイトコア社は、コンテンツ管理システム(CMS)とアクセス解析やA/Bテスト、さらにパーソナライゼーションやメール配信といった機能をすべて統合した「マーケティングスイート」としての製品「Sitecore Customer Engagement Platform (Sitecore CEP)」を提供している。
サイトコアの最大の特徴は、統合ソフトとして、前述のようなマイクロコンバージョンの設定とエンゲージメントバリューの設定、さらにそれらの情報を利用したセグメント別のアトリビューションやパーソナライゼーションという機能を備えていることだ。
そして、それに加えてもう1つあるサイトコアの大きな特徴が、「現場のコンテンツ担当者やマーケティング担当者が、(システム担当者の助けを借りなくても)自分でテストやパーソナライゼーションを設定して行えること」だ。
同社では、そうした担当者のためのトレーニングやワークショップも行っている。また、エンゲージメントバリューを可視化するようなツールも提供しており、売上に紐づけにくいものでも、その価値を分析する「テスト→検証」のメカニズムをもっているのだという。
企業のマーケティングを改善していくためには、Sitecore CEPというソフトウェアの完成度を高めるだけでは足りない。それを使う人や組織の成長があわせて必要なのだ。
「ツール」と「人・組織」の両輪を進化させるためにさまざまなアナリストと協力して作り出したのが、冒頭で紹介した「カスタマーエクスペリエンス成熟度モデル」なのだ。
同社では、自社やパートナーが行うトレーニングやワークショップを通じて、サイトコアのユーザー企業がこの成熟度モデルの段階を進める手助けをしているのだという。
サイトコアは自動学習と自動最適化へ
サイトコアはすでに高機能なマーケティング統合ツールを提供しているが、さらにその先についても道筋を立てているのだという。
カスタマーエクスペリエンス成熟度モデルの最上段階にある「予測アルゴリズム」や「自動最適化」などだ。
同社では、この先3年~5年ほどで、自動学習機能によって自動最適化をするサイトが普及してくるとみている。
サイトコアではすでに、マーケティング施策を改善するためのマーケティングパフォーマンスレポーティングを提供している。その先の自動最適化のための機能強化も、かなり形ができてきているということだ。基本的な予測マーケティングの機能は、今後1年ほどでリリースできる予定だという。
最初に提供する機能は、経路分析のためのもの。複数チャネルにわたってのユーザーの動きを経路として分析し、エンゲージメントバリューをもとに最適な経路を見つけることで、「この顧客には、どういったオファーを、どのチャネルで、どのタイミングで出せば効くか」を予測し、顧客ごとに適切な経路に向けてのレコメンデーションを行うというものだ。
とはいえ、テクノロジーの進化のスピードは速いが、マーケター側がそうした予測や自動最適化への動きに慣れるのには時間がかかるはずだ。
同社では最初のバージョンではレポートとして「こうするといいだろう」とマーケティング担当者に提案するようにする予定だという。そうした提案にユーザーが慣れたころに「勝手に自動化する」仕組みにしていくのだ。
ただし、こうした機能は、マーケターの“仕事を置き換える”ためのものではなく、彼らの“作業を部分的に置き換える”ためのものであることをグアナチア氏は強調した。
マーケターは、施策のなかで繰り返し行わなければいけない“作業”に時間を費やしていると、クリエイティブなことに割く時間がなくなってしまう。こうした自動化を使うことによって、マーケターが顧客理解やイノベーションに使う時間を増やすことが目的なのだという。
企業と顧客がコミュニケーションするチャネルは、今後も増えていくだろう。マーケターは各チャネルに対して施策を行い、そのデータを分析していく必要がある。そのためにも、(世の中でビッグデータと呼ばれているような)さまざまなデータを統合的に管理し、分析し、最適化していくためのプラットフォームの重要性は今後さらに高まっていくだろう。
そして、ツールが進化すればするほど、そのプラットフォームを活用してカスタマーエクスペリエンス全体を改善していく人と組織の成長が重要になる。
御社は現在、カスタマーエクスペリエンス成熟度モデルのどの段階にあるだろう。そして、今後3年~5年でどの段階に進むだろうか。
ソーシャルもやってます!