トップページの終焉――ウェブサイトのパーソナライゼーション事例
企業Webサイトのトップページを訪問者ごとにパーソナライズするのは、どうなのだろうか。Optimizelyのサイトでトップページをパーソナライズした事例から、その考え方やセグメントの分け方、クリエイティブ、そして成果を紹介する。
1998年、ジェフ・ベゾス氏はインターネットについてあるビジョンを抱いていた。同氏がアマゾンを設立してから4年が経った頃で、アマゾンは書籍や音楽の巨大オンライン市場として軌道に乗りつつあった。
その年に行われたワシントン・ポストとのインタビューで、ベゾス氏はウェブについて先見性のあるコメントをしている。同氏は次のように述べていた。
顧客が450万人いるなら、店舗が1つではだめだ。450万の店舗が必要だ。
それから19年たった2017年の今、私がアマゾンのトップページを訪問すると、その内容はかなりパーソナライズされている(2016年8月には、蛍光色に光るライトスティックと太陽電池内蔵のランプが表示されていた。野外イベントの「バーニングマン」に行く予定を把握されていたのは明らかだ)。
ベゾス氏のビジョンは、Amazon.comをはじめ多くのEコマースサイトにとって現実となったのだ。パーソナライズされた製品リコメンデーション機能は、すでにオンライン小売業にとって最低条件となっている。
しかし、小売以外のウェブではパーソナライゼーションはそれほど人気というわけではない。ほとんどの企業は単一バージョンのトップページであらゆる人々に対応している。これらのサイトは今なお、「1人でも大勢でも大歓迎!」と言っているのだ。
これは問題だ。マーケターは、顧客にしたい膨大な数のオーディエンスを対象としたペルソナやメッセージングの開発に、きわめて多くの手間と労力をかけている。しかし、だいたいがここまでで終わってしまっている。
今こそ、こうしたペルソナ主体のパーソナライズドマーケティングを、ウェブサイトに拡張すべきだ――特にトップページに。トップページは、ブランドにとっての玄関だとよく言われる。その多くはランディングページであり、最初にアクセスして企業情報や事業内容を確認するページとなっている。
不可解に思える事柄にどのように対処していくかについて、ブラックボックスをこじ開けるのが、マーケターの仕事だ。SEOという謎については? これはMozに任せればいい。ウェブサイトのパーソナライゼーションもまた、不可解な点があるものの1つだ。
- やり遂げるために解決すべき問題は何か?
- 費用はどのくらいかかるか?
- どれほど有益か?
私は、Optimizely.comをパーソナライズした実体験を公開することで、そうしたブラックボックスをこじ開ける手助けをしたいと思う。
Optimizely.comがトップページのデザインを刷新したとき、私はマーケティングチームの一員だった。私たちは、標準的な水準では最良ともいえる単一バージョンのトップページから、訪問者ごとにパーソナライズした26バージョンのトップページへと変更した。
ここでは、変更した理由や具体的な作業内容、どんな成果があがったか(これがわかるのは、当然ながら計測したからだ)について紹介しよう。
このキャンペーンは、Optimizelyのパーソナライゼーション製品を使用して実施した。
ウェブサイトのパーソナライゼーションに投資する理由
Optimizelyがトップページのデザインを刷新しパーソナライズしたのは、次の3つの理由からだった。
トップページをパーソナライズした理由と目的
現状を超える最大効果を目指すため
既存のサイトは、現在の方法で可能な限界にまで達していた。4年にわたる改善の繰り返しやコンバージョン最適化を経て、今のデザインで可能な限り最良のバージョンが出来上がっていた。ページのA/Bテストを繰り返しても、有意な結果は得られなかった。
そのため、コンバージョン率やエンゲージメントをさらに高くして最大効果を得るためには、根本的に異なるサイトをデザインする必要があった。つまり、登山をしていて小高い丘に達したのだが、目的はあくまで山頂に到達することにあった、ということだ。
リード(見込み客)の質を高めるため
既存のトップページでは、さほど質が高いとは言えないリード(見込み客)でセールスファネルがあふれていた。人々は、Optimizelyが何を提供するかについて十分な知識を身に着けてない販売担当者との会話に苛々させられることもしばしばだった。これはリードにも販売担当者にも望ましい状況ではない。
こちらの価値を理解してもらうためには、体験を設計し直す必要があった。
アカウントベースドマーケティング(ABM)に対応するため
ABMとは、マーケティングや販売活動におけるアプローチで、重要な企業に意図的に焦点を合わせて売り込みやマーケティングを行い、ターゲット型のキャンペーンを展開することによって、これらのアカウントに働きかけていくものだ。
目的は、販売する相手を強く意識し、パーソナライズしたコンテンツによってターゲットとの交流を育むことにある。今回のパーソナライゼーションキャンペーンの狙いは、Optimizelyがターゲットとしている企業アカウントとのエンゲージメントを促進することだった。
何を、誰のためにパーソナライズするのか
なぜパーソナライズするのかを把握したら、次の質問は、何を、誰のためにパーソナライズするのか、というものだ。
この質問の「誰のために」という部分が出発点となった。いかなるパーソナライゼーションキャンペーンでも、これは最高の出発点となる。体験(どういったコンテンツにするのか)を決める前に、オーディエンス(誰に向けてパーソナライズするのか)を定義しなければならない。
オーディエンスの定義は時間のかかる作業だが、キャンペーンの基盤であるため、それだけの価値がある投資だ。私たちは、「良質の」オーディエンスに見られるいくつかの特徴を発見した。
良質なオーディエンスの特徴
識別可能でなければならない ―― 訪問者がなぜ特定のオーディエンスに属するかを厳密に識別できる手段を用意する必要がある。
価値ある存在でなければならない ―― ボリュームまたは戦略的重要性で測定した場合に、オーディエンスは何らかの価値のある存在でなければならない。私たちはアカウントベースドマーケティングのアプローチを採用したため、「特定の企業の人」というオーディエンス定義もあったが、その企業は私たちにとってきわめて大きな価値があるのだ。
個別の体験が受け入れられる差別化ができなければならない ―― 個別の体験が歓迎されるように、オーディエンスを識別しなければならない
これらの特徴を念頭に置いたうえで、2つの軸からオーディエンスを定義できる。その軸とは、次のものだ。
オーディエンスを定義する2つの軸
- 行動(訪問者が何をするか)
- 属性(訪問者が何者か)
私たちのトップページキャンペーンにおいては、以下のオーディエンスに個別の体験を生み出すことにした。
パーソナライズで個別の体験を提供したオーディエンスの切り分け
指定アカウント ―― ターゲットアカウントのリストに含まれる既存の顧客と見込み客。私たちは、Optimizelyにリストをアップロードし、Demandbaseを利用してこれらの企業からアクセスしている訪問者のIPアドレスを識別することで、これを定義した。
業界 ―― A/Bテストやパーソナライゼーションで強力なユースケースが見られるターゲット業界からの訪問者。ここでもDemandbaseのデータを使用したのに加えて、顧客関係管理(CRM)データも利用した。
地域 ―― 北米、ヨーロッパ、アジア太平洋など、訪問者はどの地域からアクセスしているのか。これにはOptimizelyのターゲティング機能を利用した。
顧客 ―― Optimizelyの顧客であることがわかっている訪問者。ブラウザにOptimizelyのログインクッキーが記録されている訪問者を識別することで、顧客を定義した。
エンゲージした訪問者 ―― 過去にOptimizelyのデジタルコンテンツ(ブログ、ウェブサイト、コミュニティ、ナレッジベースなど)のどれか1つ以上にエンゲージしたことのある再訪ユーザー。Optimizelyを通じた行動ターゲティングによって実行した。
オーディエンスを定義したら(これにいくらか時間がかかっても驚かないでほしい)、ページを分解して、パーソナライズすべき場所を決定する準備が整う。
パーソナライズできるコンテンツの場所を設けるためには、トップページのデザインを刷新する必要があった。元のサイトを見てほしい(この記事の最初で紹介している)。ページ上には、パーソナライズすべきコンテンツがほとんど何もないのがわかるだろう。
ウェブサイトをパーソナライズするには、パーソナライズされた体験を生み出すためのスペースが必要だ。
パーソナライゼーションの成果
重要なのは、このパーソナライゼーションキャンペーンがA/Bテストであることだ。つまり、トップページへの訪問者のうち、半数には旧バージョンが表示され、半数にはパーソナライズされたバージョンが表示された。
パーソナライゼーションは、他のデザイン変更や機能変更と同じく検証を必要とする仮説であり、A/Bテストと同じく厳密に取り扱う必要がある。パーソナライゼーションは、体験やコンバージョンの比率や指標を改善するものであって、低下させるものになっていないからだ。
以下がA(オリジナルの表示)とB(パーソナライズしたテストバージョン)だ。
テストでは、
- リードコンバージョン率
- 作成されたアカウントの数
- リードクオリフィケーション率
などのほか、次のような主観的な評価データも測定した。
- 顧客との対話においてどれほど営業チームの助けになったか
- それに対して顧客がどのように反応したか
さて、パーソナライズしてどうだっただろうか。
まず質的データから始めよう。端的に言うと、人々はこの新しいトップページを大変気に入ってくれた。ツイートまでしてくれたし、チームに宛ててメールもくれた。
Optimizelyのサイト、イカしてる! 午前4:30に行ったら「まだ眠れませんか?」って挨拶された
#PracticeWhatYouPreach #Personalization @Optimizelyがすごい。午前4時半にアクセスしたら、「まだ起きてるの?」って挨拶された。pic.twitter.com/iuSs0DVPU9
? Vic Maine (@Vic_Maine) 2016年6月6日
Optimizelyうまくやってる! 超パーソナライズされたトップページだ! このコンピュータでこのサイトに来たのは初めてなのに、ぼくの会社がわかってる!
やったね、@Optimizely! トップページが超パーソナル仕様! このコンピュータでサイトを見たことはなかったんだが、それでも僕だって分かってくれた!pic.twitter.com/ElXJ5H8nC6
? Sean Kennedy (@Sean_Kennedy) 2016年4月14日
トップページのデザインについてわざわざツイートしてくれるような場合、それは素晴らしい知らせであるか、あるいは悲惨な兆候であるかのどちらかだ。私たちの場合は、すべて肯定的な感想だったので嬉しかった。
量的データを見ると、新たにパーソナライズされたトップページ体験は、元のものより優れた効果を発揮した。
全体として、次のような結果になった。
- エンゲージメントが1.5%増加
- 「ソリューション」ページへの移動が113%増加(このページを見てもらうことが大切なマイクロコンバージョン)
- アカウント作成プロセスを開始するCTA「試してみる」のクリックが117%増加
サイトをパーソナライズした直後、リードコンバージョン率に影響はなかった。ほとんどのオンライン企業と同様、Optimizelyも常にコンバージョン率の向上に努めている(もちろん、目的は適切なリードだ)。
この新たにパーソナライズしたトップページ体験によってリードの質がすぐに改善されるわけではない。とはいえチームは、この成果と今後における最適化の機会に十分な自信を持って、全トラフィックを新しいトップページ体験に移行した。つまり、A/Bテストを終了して本番反映したのだ。
次のステップ
こうしてOptimizelyは、かつてのトップページ(つまり、万人向けの単一バージョンしかなかったトップページ)を無事に葬り去った。今や、パーソナライズされたトップページの新たな基準を手にしており、それを基に最適化できる。
A/Bテストがそうであるように、1つのテストから次のテストが導かれる。テストで成功しても失敗しても、あるいは結果が得られなくても、常に何か学ぶことがある。
トップページは、パーソナライゼーションのほんの一部だった。トップページ公開以降、Optimizelyはパーソナライゼーションを利用して、ブログにコンテンツのレコメンデーション機能を追加するとともに、ターゲットアカウントに対象を絞り込んだ「Apple Watch」キャンペーン(事実上のABMキャンペーン)を実施したほか、潜在的な顧客に向けて関連する製品情報が表示されるようにした。
ジェフ・ベゾス氏が1998年に思い描いたウェブは現実のものとなっており、パーソナライゼーションを利用して優れたウェブ体験をデザインするための機会は拡大し続けている。
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