「NPSはB2Bでも使えますか?」企業間取引でもNPSで顧客ロイヤルティを高められる3つの理由[第5回]
「企業を顧客としたB2Bビジネスにおいても、顧客ロイヤルティをNPSで測ってよいのか?」これは、日々お客さまとお話させていただくなかで最も多い質問の1つです。
確かに「家族や友人にお薦めしたいと思いますか?」という質問は、企業間取引ではイメージしづらいものでしょう。また、B2Bの取引では多数のステークスホルダーが関係してくるので、担当者1人が好感を持っているからといって契約が決まるわけではありません。
しかし、NPSは数多くのB2B企業においても活用が進んでいます。結論から述べると、それには次の3つの理由があります。順に解説していきます。
- B2BでもNPSと収益性に高い相関がある
- 複雑な顧客関係をシンプルに測定できる
- 顧客との対話ツールとして活用できる
理由1B2BでもNPSと収益性に高い相関がある
1つ目の理由は、B2Bにおいても、やはりNPSと収益性との相関が高いという事実です。以下の図1は、日本のある情報システム会社における、推奨者/批判者ごとの売上の伸び率です。
アンケート後2年間にわたって回答企業からの売上額を調査し、その伸び率を測定したところ、推奨者からの売上の伸び率は、中立者の2倍に達することがわかりました。この企業では解約率においても同様に有意な差が出ており、推奨者の解約率は批判者と比較して大幅に低い結果となりました。
ロイヤルカスタマーが企業の成長を支えていることは明らかであり、この結果が、顧客ロイヤルティプログラムを推進するに当たって、大変重要なデータとなりました。
ベイン&カンパニーによるB2B企業への調査では、次のようにいわれています。
「推奨者」の平均生涯価値は「批判者」と比べ、3倍から12倍に達する
NPSは売上成長率や利益率と正の相関がある
- シェア・オブ・ウォレット(顧客の同カテゴリー商品への総支出額に占める自社のシェア)
- 営業/販売効率
- 市場シェア
- 従業員のエンゲージメント
これらの調査結果は、顧客ロイヤルティが企業間取引においても購買行動に重大な影響を与えていることを表しています。
製品そのものの品質や価格だけでなく、個別のニーズにカスタマイズされたサービスの提供や迅速な顧客サポートなど「個客に寄り添ったサービス」が、B2Bにおいても差別化の要因になっているといえます。
なお、先述の情報システム会社ではNPS調査票の質問を工夫しており、「家族や友人に」ではなく「同僚や、信頼している取引先にも推奨したいと思いますか?」と表現としています。回答者にとってなるべく想定しやすい、違和感のない表現を考えることも重要です。
理由2複雑な顧客関係をシンプルに測定できる
B2Bの取引では、B2Cとは違って担当者個人の判断で購買が決定することはほとんどありません。次のような人が購買に影響を与えます。
- サービスの導入を検討する担当者
- サービスを実際に使うエンドユーザー
- 決裁をする意思決定者
- 関連する他部署の人
このように複雑な顧客関係を、NPSを使えばシンプルに測定できることが2つ目のポイントです。
図2は、さきほどの情報システム会社の顧客のうちのある1社について、複数の関係者に推奨意向を聞いた結果です。普段対面で接している担当者に対して意見を聞くだけではなく、その上にいる意思決定者や他部署の関係者からもフィードバックを得ることで、購買への影響レベル別にロイヤルティを測定できます。
たとえば、現場の営業レベルでの手厚いサポートによってエンドユーザーから高い評価を得ていたとしても、実は意思決定者はより高次元な期待を持っている可能性もあります。それが満たされていないと、結果としてアカウント単位で見ると総合的な評価は低かった、といったことが明らかになります。
では、実際にはどんな立場の人の声をどれくらい聞けばいいのでしょうか。
図2の例では1つの企業内で10名程度のステークホルダーの声を聞いています。もちろん顧客との関係性や取引の規模によって、対象者の数は変わってきます。また、最初はこれらの人々の連絡先がわからないケースも多いと思いますので、目安として意思決定層3名、影響者3名、エンドユーザー3名の3層×3名に対して意見を聞くことを目指すとよいでしょう(図3)。
もう1つの注意点として、階層ごとに質問の内容を変えることも重要です。たとえばエンドユーザーには「サービスの使い勝手」や「サポートのレスポンスの速さ」を聞き、意思決定者には「その会社の課題を深く理解した提案ができているか」「長期的なパートナーシップを結ぶに値するか」などを評価してもらうといった具合です。同じサービスでも、意思決定者とエンドユーザーでは顧客体験が異なるためです。
理由3顧客との対話ツールとして活用できる
最後は、アンケート自体を営業活動の接点として活用しやすいということです。顧客が上げた声に対して、対策を考えフォローアップすることを「クローズドループ」と呼びますが、日々顧客と接触する機会が多いB2Bでは、その重要性がより高くなります。
意見を言っても何も反応しない企業には、「再び時間を取って意見を言いたい」と思う顧客はいなくなるでしょう。逆に意見に対してすぐに反応すれば、顧客の離反を防いだり、次の提案を行うことも可能です。
アンケート結果で意思決定者の評価が思いのほか低いことがわかった場合には、すぐさま営業チームの責任者から連絡を入れ、解約危機を回避したり、根本的な不満を解消するための提案につなげたりすることができます。NPSのアンケートそのものが顧客との重要な接点になるのです。
回答をすぐに確認できる仕組みが必要
この場合、「顧客から得たフィードバックをどれだけ早く社内の関係者に共有できるか」がカギとなります。アンケートが終了してから、さまざまな分析と社内報告のエスカレーションを経て「実際に顧客と接している営業担当者に結果が伝わるのは1か月後だった」ということでは、すでに顧客は離反しているかもしれません。これを避けるためにはある程度テクノロジーの力を使って、顧客の声に即応できる環境を整える必要があります。
たとえば弊社が取り扱っているクラウドサービス「NPX Pro」では、顧客がアンケートに回答した直後に関係者にアラートのメールを飛ばし、リアルタイムに顧客の声を把握できる仕組みを備えています。
やりすぎは禁物。1人あたり年2回まで
注意点としては、いくら顧客接点として活用できるからといっても、1人の顧客に対して1年に何度もアンケートを依頼することは避けなければなりません。ブランド全体を評価してもらうリレーショナル調査の場合には、1人あたりの頻度は最大でも年2回までとするのが良いでしょう。
理由は、単純に何度もアンケートに答えるのは顧客にとってストレスになるからです。また短期間に何度も質問をした場合は、前回の回答に対してアクションを起こせていない可能性も高まるため「前に指摘したことを直していないのに、何でまた同じような質問をしてくるのだろう?」とネガティブな印象を持たれてしまいます。
ただし、経営指標として進捗を管理するには、年に2回の測定では不十分なため、次のような工夫を施します。たとえば顧客企業数100社、各社平均3名の計300名の対象者がいる場合、それを150名ずつの2グループに分け、一方のグループには第1・第3四半期に、他方には第2・4四半期にアンケートを実施します。こうすることで、1人当たり年2回のアンケートにとどめながら、四半期に一度NPSを測定することができます。
B2B企業で形骸化していた調査をNPSで再活性化できる
今回はB2B企業でNPSが活用されている理由についてお話しました。
冒頭の「B2BでもNPSは使えるのか?」という質問は、B2Bマーケティングの担当者からだけではなく、カスタマーサポートや、品質管理を担うISO担当者の方からもよく尋ねられます。
「今までも実施してきたから」「ISO 9001の要件を満たすために必要だから」のように半ば形骸化した調査の現状に課題を感じている場合は、NPSはとても有効な手段となりえます。顧客の声は、本来「お客さまが喜んだことによって得られる良い利益」を最大化し、企業の継続的な成長を実現するための起点となる情報です。
そして、収集した顧客の声を自社の成長につなげるためには、単にデータを集計して終わるのではなく、お客さまの声からアクションを起こす必要があります。今回紹介した「回答直後のフォローアップ」のような動きをはじめ、NPS分析を踏まえた組織的な改善アクションを通じて、本来のVOC(顧客の声)プログラムを再活性化できます。
次回は、NPSを活用した顧客ロイヤルティ向上ブログラムの中長期計画の立て方についてご紹介します。
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