「ダンボーバッテリー」を大ヒットさせたトーモの東さんが、メディアやブロガーと良い関係を作れる理由
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
漫画『よつばと!』の「ダンボー」というキャラクターを使用したモバイルバッテリー「ダンボーバッテリー」。シリーズ累計で350万台〜400万台という販売台数を誇る大ヒット商品だ。この「ダンボーバッテリー」の企画・PRを手がけたのが、トーモ 代表取締役の東 智美(ひがし・ともみ)氏。東氏が大事にしているのが広報活動。メディアやブロガーとの良い関係性を構築し、地道な努力で作り上げた「秘伝のプレスリスト」の作り方とは!?
※この記事は3月7日にフューチャーショップ主催で開催されたトークイベントを記事にしたものです。
ダンボーバッテリーはなぜ売れたのか?
「ダンボーバッテリー」の販売元であるCheero(チーロ)は東さんのお父さんが経営する会社で、東氏が「ダンボーバッテリー」の企画とプロデュースを担当した。2013年6月にAppBank Storeのリニューアルオープンがあると知り、開店時の目玉商品として扱うという確約を得て、『よつばと!』を発行する現KADOKAWAも含めた3社でプロモーションを行うプランを立てた。
プレスリリースを出して迎えた発売日がどうなったかと言うと……
- 6月4日 7:00 販売開始 → 9:00 1,000個完売。完売したことがまたニュースになって拡散。
- 6月16日 10:00 時販売開始 → 10:15 7,000個完売 → 「買えない!」「売れるんだからもっと用意しろ!」とプチ炎上発生 → 当日はトルコに旅行中だったが、土日の間に炎上が大きくなるのを避けるため、50,000台の追加生産を即決。現地で増産のめどを立て、この日のうちにプレスリリースで告知 → 炎上鎮静
- 6月25日 再販計画を告知 → 一連の流れがまた記事に。
「ダンボーバッテリー」は現在も続くロングラン商品に成長した。東氏自身はダンボーバッテリーが売れた理由を下記のように分析する。
- スマホの普及と共にモバイルバッテリーの需要が高まっていた
- 可愛いモバイルバッテリーが市場になかった。「モバイルバッテリーは飾り気がなく武骨なもの」という常識をくつがえす商品だった
- 「ダンボー」というキャラクターに手垢が付いていなかった
- 適切なタイミングで適切にPRを仕掛けられた
「いろいろ奇跡だった。もう1回仕掛けろと言われても無理」と語るが、そんな中で得た経験を、自社商品のスマホケース「RAKUNI(ラクニ)」に生かしている。
「秘伝のプレスリスト」の作り方
自社と自社製品を知ってもらうために、東氏はまずWebサイトやSNSで告知したり、PR TIMESなどのリリース配信サービスを利用して情報発信をしたりした。同時に、自社商品に合いそうなメディアやブログを探し、プレス連絡窓口にメールを送った。
自分がプッシュしなくても記事を書いてもらえることがある。そういう記事を見落とさないために、製品名や社名でエゴサーチをし、取り上げてくれたお礼をメールで伝える。
オフラインでは展示会やブロガーイベントに参加する。その場にライターや記者などがいたら名刺交換し、後日必ずコンタクトを取った。
これを2〜3年繰り返すと「秘伝のプレスリスト」ができます。秘伝のタレみたいに自分たちしか持っていないプレスリスト。リストの中で横のつながりができてくるので、それを丁寧に育てて増やしていく。実は狭い世界なので、リストの中の記者や編集者同士が知り合いだったりする。自分の名前が彼らの共通言語になれたら、飲み会に呼んでもらえたりしてまたつながりが増えます。
「紹介して」って言われることもあるんですが、それは全部断っています。なぜかと言うと彼らは私だから協力してくれるのであって、私が紹介する人は彼らにとっては負担にしかならないからです。(東氏)
恋愛も一緒だと思いますが、人間は顔を合わせてしゃべっていると好意が増えていく。足を使って会いに行って、会って、笑ってしゃべるだけで覚えてもらえる。(東氏)
「広告」と「PR」は似てるけど全然違う
「広告」も「PR」もどちらも自社の商品やサービスについて知ってもらい、応援してもらったりファンになってもらったりするための活動。では何が違うのか?
大きな違いはお金がかかるかどうか。「広告」はお金を払って広告枠を買って告知をすること。「PR」はお金を払わない。「 広告」は投入額に応じて情報を届けられる範囲が広げられたり露出を継続させられたりする。「PR」は相手とのコミュニケーションによる信頼関係がベース。関係の構築には時間がかかるが、関係が構築できればメディアに自社の情報を伝えたり、企画を提案しやすくなる。
この2つが混同されて起こるトラブルはよくある。PRで相手が自分の時間を使って無料で書いてくれるにもかかわらず「こういうことは書いて欲しくない」とか注文を付けて嫌われたり、トラブルの原因になることがよくある。ここはすごく理解してもらいたいポイント。(東氏)
東氏がメディアとの付き合いで重視しているのは「その情報にメディア側のメリットはあるか?」という点。
メディアが掲載するのは、①PVが上がる ②PVとは直結しなくても媒体価値が上がる(社会貢献的な意義がある) ③アフィリエイトサイトの場合はアフィリエイト収入が見込める この3つのどれかに合うかどうかを確認してからコンタクトを取る。他にも、「書くか書かないかは相手に任せる」「内容に注文を付けない」「自社都合に合わせて書いて欲しいときは広告出稿する」といったことに気を付けている。
東流・メディアリレーションの勘所
「相手も人間」ということを忘れてしまうメーカーは多い。ただ単純に商品の内容を伝えて「書いて!」って頼む人が多いけど、メディアさんには日々色んなリリースがたくさん届いている※し、まずメールを開けない。開けたところでみんな同じようなことを書いているから読みたくない。そういう中で、「どうしたら自社のリリースに目に止まるか」というところを考えなきゃいけない。
絨毯爆撃のように同じ文面を送りつけるのではなく、相手のメディアを理解した上で「あなたのメディアはこうだから、こういう理由でこの商品を取り上げて欲しい」ということを伝える。そうすると「このメーカーはうちのメディアをよくわかってるな」と伝わると思う。
それでも、書く・書かないはメディアの自由。好きでもない相手から「好きだ好きだ」って言われても「気持ち悪い!」「連絡してこないで!」って思いますよね。でも、自分のペースを理解してくれて適切な距離感を保ちながら取ってくれるコンタクトは、誰でも嬉しいものだと思います。そこをすごく私は気を付けています。(東氏)
※編集部注:B向け・非ガジェット系の当サイトでも、1週間で5,000〜6,000通のリリースが届きます。
東氏がリリースを出すときに気を付けている点についても明かした。
- メディアをよく読んで特徴を知る
- 編集者や書き手にも注目し、得意分野などを知る
- 連絡するときは「私とメディア」ではなく「私とメディアの○○さん」
- 本文テキストをコピペしやすい状態にする
- 情報解禁日は冒頭に明記
- 連絡先もきっちり明記
- 想定される質問の答えはすべて記載する(質問・回答のラリーを極力減らし、メディア側の手間をかけない)
- 写真や動画などはできるだけたくさん用意する。宣材素材はまとめてダウンロードできるようにする
- 「推しポイント」を入れ込みすぎない(「ここが新しい」「ここが良い」を考えるのは書き手。メディア側の視点を奪わない)
- アフィリエイト対応ができている(AmazonのASINなどを記載)
ここまでもなかなか高度だが、メディアとの関係作りにおいて東氏がやっていることも、なかなか高度だ。
- 製品の開発過程をチラ見せして開発に巻き込んだりフィードバックをもらったりする
- リリースを出せるタイミングになったら製品を持って編集部に行く(キャラバン)
- 編集部やブロガー主催のイベント、他社の製品発表会などにも積極的に出席する(記者やブロガーと顔を合わせる機会を作る)
- 仲良くなった相手とは日々連絡をとって飲み会などを開催しつつ情報交換をする
炎上も「結果オーライ」
メディアリレーションだけでなく、各種SNSアカウントの運営、執筆、YouTubeチャンネルの運営なども、1人で行っている。
炎上騒ぎも経験した。
- 「AppBankにデザインをパクられた」iPhoneケースメーカー怒りの告発→生放送で全面謝罪 | BussFeedNews(2016/12/20)
https://www.buzzfeed.com/jp/harunayamazaki/appbank-rakuni
東氏側に落ち度はまったくないが、騒ぎに乗じた一部から非難を浴びた。でも「結果オーライ」と笑う。「デザインやアイデアを盗用されても泣き寝入りする小さな会社は多いが、泣き寝入りはしたくなかった。この炎上騒ぎのおかげで知名度が上がり、取引先が増え、購入してくれたお客さんもいた。それに、“あそこを怒らせると炎上させられる”と、業界に知らせることになり、変なちょっかいをかけられることもなくなりました」(東氏)
自社発信は「資産」になる
Twitterはリリースとコミュニケーションのメインツールとして、Facebookはニュースアーカイブとして、Instagramは「映え」を狙った写真で世界観を作り、ジワジワとファンを作るため……というように各種SNSを使い分けている。しかも個人アカウントとブランド公式アカウントをそれぞれ運営している。
すべてのアカウントのフォロワーを合わせると12,000〜13,000くらいの数字になります。10年くらいの間にコツコツ貯めた数字です。インフルエンサーとは言えないかもしれませんが、効果がないとも言えない数字です。(東氏)
しかし、SNSで発信した情報はアーカイブされていく。メディアが出す記事がバズれば効果が出るが、それも連発はできない。そこで、地道にファンを増やし、ロングテールな資産を作りたいという思いで、去年からブログを始めた。ブログを始めるにあたっては自社製品と相性が良さそうなペルソナ※を設定し、そのペルソナに向けた話題を掲載している。
※編集部注:「ペルソナ」についてはコチラの記事をご覧ください。
「忙しいのにそんなのいつやるんだ」って言われると思いますけど、社長とか経営陣が自ら運営することをおすすめします。なぜなら商品を一番わかっているし思いが強い。人に言葉を伝えて、人を動かす仕事をしていますよね。それに、文章や写真などのアウトプットが上手になると、仕事のいろんな領域で役に立ちます。
あと、「24時間働ける」っていうことも本気で思ってます。例えば夜中に「メディアの○○さんがあなたに興味があるから今からおいで」って言われたとして、部下に「行け」って言ったら完全にブラック企業ですよね(笑)。でも自分だったら行けますよね。24時間会社のことを考えて働けるのは社長だけなんです。(東氏)
オリジナル記事はこちら:「ダンボーバッテリー」を大ヒットさせたトーモの東さんが、メディアやブロガーと良い関係を作れる理由(2019/04/03)
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