UXデザインの手法、その奥深さまで知ることができる8冊!
知るほどに奥が深く、必要な知識の多さに気づく。それがUXデザインではないだろうか。今回は、UXデザインに初めて取り組む人に向けて参考になる書籍を紹介する。お話を聞いたのは、freeeでプロダクトデザイナーとして活躍する森川裕美さんだ。
まずは、UXデザインが何かをおさえる
開発やマーケティング、いずれもユーザーのことを知ることから始まる。初めてUXデザインに関わることになったら読んでおきたいのがこの本だ。
1冊目
『UXリサーチの道具箱 - イノベーションのための質的調査・分析』
(樽本 徹也:著 オーム社:刊)
本書は、インタビュー、ペルソナ作成、シナリオ作成などでつまずきがちなポイントをおさえ、その上でシンプルなやり方がコンパクトに解説されている。
ユーザーの声を聞くとはどういうことなのか、インタビューの結果をどう分析するのか、そこからペルソナ、シナリオをどう作るのか。順を追ってわかりやすく書かれているので、UXデザインの全体感をおさえられます。UXデザインの新人だけでなく、デザイナーや企画担当者にもオススメです。比較的、薄いので読みやすいのもポイントです(森川さん)
例えば、インタビューでAという機能がほしいかどうかを聞くだけでは、ユーザー理解にはつながらない。本書を読めば、なぜその機能がほしいのか、どういう時に必要なのか、深堀して聞く必要があることがわかる。
インタビューの場では、ユーザーは事実とは異なる話をしてしまうこともあります。ほしいという声を信じて機能を開発したものの、実際に使われないということはけっこうたくさんあるので、行動の観察もあわせて、本当のニーズを掘り下げていかなくていけません(森川さん)
さらに、各章の終わりにオススメの書籍がブックガイドとして掲載されている。森川さんは、この選書が次に読む書籍選びの参考になると評価する。さらに深く知りたいテーマについては、このブックガイドにある関連書籍を読んでみるとよいだろう。
2冊目
『ユーザビリティエンジニアリング - ユーザ調査とユーザビリティ評価実践テクニック』(樽本徹也:著 オーム社:刊)
続いて紹介してくれたのは、1冊目の『UXリサーチの道具箱』と同じ著者が2005年に出版した書籍になる。『UXリサーチの道具箱』がユーザーを知るための書籍とするならば、この書籍は、設計・開発したUIが使いやすいものになっているかを評価することに特化している。
どこが使いにくのか、どこを直すべきか、ユーザーが実際に使っているところを観察して発見していく。こうしたユーザビリティ調査をして改善する方法は、Webサイトやアプリケーションなど、さまざまなインタフェースの評価に活用できます。本書では、リサーチの計画、インタビュー方法、分析方法などを、サンプルも含めて紹介しているので、まずはこの通りに試しやすいのがいいところです(森川さん)
3冊目
『ユーザーインタビューのやさしい教科書』(奥泉直子、山崎真湖人、三澤 直加、古田一義、伊藤英明:著 マイナビ出版:刊)
3冊目は、ユーザーインタビューにフォーカスした書籍だ。
インタビューは、つい誘導質問になってしまい、ユーザーの真意を聞けなかったり、普段の利用状況を知りたいのに聞き出せなかったりということがあります。こうした課題を踏まえて本書では、インタビューの計画の仕方、準備、場の作り方、聞き方などについて、具体的なテクニックを盛り込んで解説しています(森川さん)
なお、本書は2015年に出版された版の改訂版として2021年に出版された。改訂されたことでオンラインインタビューにも対応している。オンラインインタビューは、対面のインタビューと比べてコストがかからず、気軽にできるメリットがあり、会社としても取り組みやすい。
UXの奥深さに分け入っていく
ここからは、中級者向けの内容になる。
4冊目
『エクスペリエンス・ビジョン: ユーザーを見つめてうれしい体験を企画するビジョン提案型デザイン手法』(山崎和彦、上田義弘、高橋克実、早川誠二、郷健太郎、柳田宏治:著 丸善出版:刊)
『UXリサーチの道具箱』でもシナリオの話があるが、シナリオとは、ユーザーがどういう行動をとってゴールにたどり着くかという流れのことだ。一言でシナリオ作成といっても奥が深く、目的によって抽象度が違う。画面のUI操作に特化することもあれば、ユーザーの体験全体に渡ることもある。4冊目に取り上げる『エクスペリエンス・ビジョン』では、この抽象度について知ることができる。
道具が変わってもやりたいことを達成するまでのユーザーの行動をシナリオ化するのか、あるいは、道具を固定してやりたいことを達成するまでを書くのかでは、レイヤーが異なります。その抽象度の理解に役立つのがこの本です(森川さん)
また、進め方のフレームワークについても解説されている。プロジェクト全体の中でのシナリオの位置づけ、また、分析結果を要求仕様や企画に落とし込むまでの繋がりがわかる内容だ。
プロジェクトを横断して、企画につなげるために段階的に進めていくためのやり方が学べます(森川さん)
5冊目
『UXデザインの教科書』(安藤昌也:著 丸善出版:刊)
人間中心設計(HCD: Human Centered Design)、UXなどを学術的に学ぶときに役立つのが本書だ。
HCDについてアカデミックな側面から体系的にまとまっているので、辞書的に手元に置いておくことをオススメします。
学び始めてすぐに、HCDのプロセスを最初から最後まで綺麗に回すのは、現場の理解が浸透していないと難しいことも多いです。そのため、「最初はユーザービリティテストの部分だけをやろう」というように、部分的な適用になることがあると思います。実施前にユーザービリティテストにはどういう裏付けがあるのかを知っておくと、関係者への説明にも役立つかもしれません。そうした裏付けへの理解を深めるのに役立つ書籍です(森川さん)
6冊目
『人間中心設計の基礎(HCDライブラリー第1巻)』(黒須正明:著 黒須正明、松原幸行、八木大彦、山崎和彦:編 近代科学社:刊)
6冊目の『人間中心設計の基礎』も、先の『UXデザインの教科書』同様、辞書的に手元に置いておきたい1冊だ。
利用状況の把握、デザインの評価など、HCDのプロセスに沿って細かく解説されているので、実践している最中に迷ったら、こちらも辞書的に参考にするといいと思います。人間工学や認知心理学など、『UXデザインの教科書』とはまた異なる視点も含まれています(森川さん)
デザインの世界に親しむ
7冊目
『デザインリサーチの教科書』(木浦幹雄:著 ビー・エヌ・エヌ新社:著)
7冊目に取り上げる『デザインリサーチの教科書』は、やや分厚いが、UXデザインへの意欲のある人にはぜひ読んでほしい本だ。
著者の木浦さんは、デンマーク コペンハーゲンのデザインスクール、Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)で学ばれた方です。北欧型のデザインリサーチの要素が入っていて、みんなを巻き込んでデザインするためのチームビルディング、組織にデザインリサーチを浸透させる方法、アジャイル開発の進め方ともからめて、プロダクトづくりに関わる関係者と一緒にデザインリサーチを役立てる方法がバランスよく書かれています(森川さん)
8冊目
『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 - 認知科学者のデザイン原論』(D. A. ノーマン:著 新曜社:刊)
8冊目として紹介してくれたのは、25年前に出版された「デザイン本の古典」ともいえる書籍の増補改訂版になる。
この書籍では、ユーザーインタフェースの考え方の話をしていて、ガスコンロやオフィスの電気のスイッチ、ドアなど「身近な事例」が取り上げられています。デザインに興味をもっている人であれば、デザインの読み物として面白く、役立つ内容だと思います(森川さん)
レベルアップし続けるための主な情報源
最後に、「レベルアップし続けるための情報源」をお聞きしたところ、森川さんは常日頃、安藤先生や木浦さん、樽本さんなど、今回紹介した書籍の著者の方々が発信しているSNS(TwitterやFacebook)をチェックしているという。
安藤先生:https://twitter.com/masaya21
木浦さん:https://twitter.com/kur
樽本さん:https://www.facebook.com/tetsuya.tarumoto
また、HCD-Netの会員になっている森川さんは、メールで配信される勉強会の告知などはチェックして興味があれば参加しているそうだ。
勉強会の情報:https://www.hcdnet.org/hcd/event/
これからUXデザインに取り組む方に向けて、書籍を8冊紹介してもらった。全体像を理解するための書籍、さらに踏み込んでプロジェクトを進めるための書籍、辞書的な書籍、読み物まで幅広く紹介してもらったので、自身のスキルや好奇心にあわせて書籍を手にとってほしい。
森川裕美
とある大手製造業のエンジニアとしてキャリアをスタート。WebフロントエンドのR&D業務に関わったのち,UI設計者として業務システムや新規事業を中心に,調査からUI設計,検証まで一貫して設計業務に従事。社内へのアジャイル開発の推進に携わったのち、現在はfreee株式会社のプロダクトデザイナーとしてプロダクトに向き合っている。
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