「ボタニスト」のI-neが挑むD2C人材育成。責任者が語る「育成戦略」と「脱属人化」
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
顧客との距離感が近く、高い収益性を狙いやすいD2C。その特徴から、D2Cはコロナ禍のEC業界で市場参入が激化している。一方で、D2Cブランドが成功するための知識やノウハウは社内で属人化しやすいという課題が伴う。本連載では次世代のD2C人材の育成戦略に乗り出したI-neの取り組みをひもとく。第1回はプロジェクト責任者の伊藤翔哉氏に戦略の概要を聞いた。
「ボタニスト」の立役者が人材育成のキーパーソンに
D2Cのボタニカルライフスタイルブランド「BOTANIST(ボタニスト)」を一大ブランドに成長させたI-ne。美容家電ブランド「SALONIA(サロニア)」、ナイトケアビューティーブランド「YOLU(ヨル)」など、I-neが市場に送り出すD2Cブランドは現在もヒットを生み続けている。
I-neの伊藤翔哉執行役員は、「ボタニスト」を世に送り出した立役者の1人だ。I-neが2022年1月に設置した「ダイレクトマーケティング本部」の本部長たる伊藤氏は、D2Cを企画・運用できる経営人材の育成プロジェクトの責任者を務めるキーパーソンだ。
ダイレクトマーケティング本部では、D2Cブランドを経営できるダイレクトマーケターを育成するための社内プログラム「Master of Direct Marketing(M.D.M)」を開発し、2022年3月18日から運用開始。「D2Cブランドの経営人材」を「ダイレクトマーケター」と定義し、その育成に取り組んでいる。運用から約8か月が経過した2022年11月現在、伊藤氏は取り組みの手応えを次のように話す。
育成プログラムの参加者には「F2転換率」「CVR」といったダイレクトマーケティングの共通言語の意味が伝わるようになり、社内でコミュニケーションがスムーズになった。従来は、分かりやすくかみ砕いた言葉に置き換えて説明していた。自社ECとECモール出店店舗の運用のポイントや違いなど、テクニカルな部分の理解も深まってきた。今後は育成プログラム受講者による、ブランド運用の実践を視野にしていく。(伊藤氏)
なぜ「M.D.M」がI-neに必要なのか?
なぜI-neは人材育成戦略にかじを切ったのか。そして「M.D.M」を採用したのか。その理由は、「アイデアはあるが人がいない」状況を解消するためだった。
D2Cブランドの企画・運営は属人化しやすく、ノウハウを後進に育成しづらい。結果として、D2Cの運営は人手不足に陥りやすい。I-neがD2Cブランドのヒットメーカーであり続けるためには、企画から物流、運用、顧客とのコミュニケーション設計まで一気通貫に対応できる人材の育成が必須だった。
外部からの人材流入にも一役
さらに、伊藤氏は「社外の方から『I-neならD2Cに挑戦できる』。I-neに参画したい」と思ってもらう土壌を作ることも目的の1つだと語る。優秀な人材の獲得につながるからだ。
たとえば、「デジタルマーケティングの知識はあるが物流のノウハウに自信がない」という理由でD2Cブランドの立ち上げに二の足を踏んでいる人は、I-neの一員になれば不安要素を解消して自身の力を試せる。
個々のスキルを可視化、長所を伸ばす
現在、育成プログラムには約20人が参加している。「M.D.M」は、人材育成サービスを手掛けるGrowthX(グロースX)が提供する「マーケティングスキルトラッカー」をベースにカスタマイズを加え、I-neが自社開発した。
「マーケティングスキルトラッカー」および、これを昇華した「M.D.M」は、個々のスキルを可視化して評価できる点が特徴だ。企画、CRM、広告運用、SNS、物流など、D2Cのマーケティングに必要な各項目について、それぞれの実力や特性、キャリアプランに適した育成につなげることができている。
受講者のスキルは、受講者自身の自己評価と、他者からの評価を照らし合わせる。自己評価と他者評価には必ずギャップがある。受講者には現状の得意、不得意を認識してもらいながら、育成プログラムを通じてギャップを埋めていく。(伊藤氏)
受講者は、月に1度社内講座を実施。講座には、社内のマーケターや、外部から招いた識者が登壇し、D2Cブランド運営のノウハウや事例を教える。受講者は講座の受講、知識を深めるための学習コンテンツ、自学を通じて主体的に学びを深めていく。
受講者には隔週で上席との1on1を実施。取り組みの振り返りや、伸ばしていく強みなどを確認する。
I-neではこのほか、IR資料を読み解く力の醸成や、受講者のレベルよりも上位層の社内会議に参加してもらうなど、日々の業務のなかでも成長の場を設けている。
ブランディングと販売力のバランスがとれる経営人材をめざして
セールやキャンペーンの乱発は、販売の訴求力はあるものの薄利多売に陥りやすい。I-neがめざすのは、ブランディングと販売力のバランス感覚に長けた経営人材の育成だ。
一般的に、人材育成を行うとき、育成される側の人間は2:6:2の種別に分かれていくという。種別の内訳は、上位層の2割が意欲的で優秀なタイプ、中間層の6割は指示されたことを堅実に対応するタイプ、下位層の2割はあまり意欲的ではないタイプだ。
この種別に当てはめると、I-neの受講者は4:4:2の割合に分かれているように感じる。下位層の2割は、意欲に欠けるというよりも『マーケターよりも別の業務に適正があることがわかった』という表現のほうが正しい。今後は上位層の4割を軸にアップデートを重ねていく形で、優秀なダイレクトマーケターの育成に磨きをかけていく。(伊藤氏)
オリジナル記事はこちら:「ボタニスト」のI-neが挑むD2C人材育成。責任者が語る「育成戦略」と「脱属人化」【連載第1回】(2022/12/07)
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