味の素冷凍食品の新たなブランド戦略! SNSから始まった「冷凍餃子フライパンチャレンジ」で表現する“永久改良”の姿勢
1972年の発売から50年以上続くロングセラーであり、味の素冷凍食品の看板商品である「ギョーザ」。油・水なしで誰でも簡単に羽根つき餃子が作れるとして日本一の売り上げを誇っているが、ある日「味の素冷凍ギョーザがフライパンに張り付いてしまった」とのツイートが投稿され、「検証のために張り付いたフライパンを送ってほしい」と企業公式アカウントが反応したことで注目を集めた。張り付き検証のためにSNSで呼びかけ、集まったフライパンは3000個を超え、特設サイトやnoteで検証の様子を発信している。
今回は、そんな一連の騒動から始まった「冷凍餃子フライパンチャレンジ」のプロジェクトについて、味の素冷凍食品 戦略コミュニケーション部の勝村敬太氏と、PRストラテジストとして企画の指揮をとった本田事務所の本田哲也氏にお話を伺った。
「冷凍餃子フライパンチャレンジ」はある1件の投稿をきっかけにフライパンが大量に集まった
ある日、Twitter(現X)上で「味の素冷凍食品の生姜ギョーザを作ったらフライパンに張り付いた」とのツイートがギョーザの底がフライパンに張り付いた写真つきで投稿された。
その投稿は味の素冷凍食品の公式アカウント担当者の目にも止まり、急遽社内で対応を話し合うことに……。当時のことを、勝村氏はこう振り返っている。
最初は『どんなフライパンを使って張り付いたんだろう?』という素朴な疑問でした。SNSで社名と商品名をあげてもらったので、せっかくだから返信したいという思いもあって、『研究のためにフライパンを預からせてほしい』とリプライを送りました。すると、オーディエンスから『そこまでするんだ』といったお言葉をいただきました(勝村氏)
「当初はこんなに大きなプロジェクトになるとは思わなかった」と振り返る勝村氏。そのユーザーとはDMでやりとりしていたが、後にアカウントが閉じられてしまい、当該のフライパンは届かなかったという。
しかし、企業としては張り付くフライパンに対して何らかのアンサーを届けたかった。そこで、研究チームで古いフライパンでの調理を再現し、検証を行いました。その結果、張り付きやすいフライパンの場合は『大さじ1程度の油をひく』もしくは『弱火で10分蒸し焼きにする』という方法で改善することが確認できたとご案内しました(勝村氏)
とはいえ、これはあくまでも再現にすぎない。味の素冷凍食品は、さらなる研究・開発のため、「味の素の冷凍ギョーザが張り付くフライパンを持っていたら提供してほしい」と発信した。これが思わぬ事態を招く。
6月16日金曜日の夜に投稿したフライパン募集のツイートは予想以上の反響があった。月曜日の朝にはなんと1,000個以上のダンボールの山が届いたのだ。
想定を超えるフライパンが届き、当初は2週間募集する予定だったが、この日に受付を締め切ることになったという。
その後、募集期間中に遠方から送られたフライパンが時間差で届き、総数は3,520個に到達。募集した際は100個程度を見込み、1か月ほどで検証結果を伝える予想だったが、当初の想定を大幅に上回る量のフライパンを1か月で検証するのは物理的に不可能…。勝村氏は、今後の方針を正式に検討するため、PRの専門家である本田氏に相談を持ちかけた。同氏は、「冷凍餃子は手抜きだ」と夫に言われたという主婦のツイートから始まった「冷凍餃子手間抜き論争」の際も味の素冷凍食品のPR支援に務めている。
大量のフライパンがずらり! 展示室のような特設Webサイトの立ち上げ
一連の騒動を受け、勝村氏に相談された本田氏は「チャンスだと思った」と述べる。
最も重視したのは、3,520個のフライパンを丁寧に検証していくという、味の素冷凍食品の研究・商品開発に対する真摯な姿勢を可視化すること。また、これほどの数を検証するには時間がかかるため、恒常的に進捗を見せていく場が必要でした(本田氏)
そこで立ち上がったのが、「冷凍餃子フライパンチャレンジ プロジェクトサイト」だ。
サイトでは、ユーザーから提供されたフライパンが3Dスキャンされ、ずらりと並んでいる。それぞれのフライパンを360度自由に見ることができ、提供エリア、直径、フライパンの厚み、重さなどで絞り込み検索をかけることも可能だ。
商品のプロモーションをしたくなる気持ちをぐっとこらえ、『顧客への真摯な向き合い方を表す』という主旨をぶらさずにサイトを作りました(本田氏)
また、このサイトは開いてから5分が経過すると「あなたがサイトに滞在していた5分間で、ギョーザの蒸し焼きは完成です」と遊び心のある大きめのポップアップが表示される。
『あなたはこれらのフライパンを眺めるために5分使いましたよ』とリマインドすることで、ちょっとした“やられた感”が出ますよね。もともとこの企画自体、始まりからしてチャーミングな取り組みだったので、そうした意図も込めています(本田氏)
企業の裏側を赤裸々に伝える・記録するための「note」
もう1つ、味の素冷凍食品の取り組みを発信していく場として選ばれたのが「note」だ。勝村氏を含むコミュニケーションチームと、実際にフライパンの検証を行っている技術部のR&Dメンバーが執筆している。
味の素冷凍食品公式フライパンnoteでは、フライパンの検証作業から、フライパンメーカーに行った様子まで伝えており、進捗をつぶさに伝えている。2024年の1月には半年間の検証から得られた知見をもとに、商品改良を行いリニューアルした冷凍ギョーザを発表、2月に発売される。
noteでは、『自分達だけで盛り上がっちゃいけない』というのを意識しています。お客様がフライパンを送ってくれたからこそ、できたプロジェクト。我々が積み上げてきたことをフランクに見てもらう場として、noteではかっこつけずに事実を伝えるようにしています(勝村氏)
また、本田氏によると、今回の「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は、以下の3つのフェーズに分けられるという。
- 「フライパンが張り付いた」投稿とリアクション
- 生活者にフライパンを募集
- Webサイト立ち上げ、新聞広告やnoteでの発信
3つ目の「Webサイト立ち上げ」が、正式なプロジェクトとしての表明だ。つまり、「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は特設サイトだが単発的な企画ではないのだ。ブランドアクションとして長期的な視点に立つと、次の施策をどんどん打っていくような初期段階にあたる。そしてブランドアクションの4つ目の波、5つ目の波を想定したとき、既存のファンが進捗を確認するためだけでなく、新しくブランドのファンになった顧客が出来事を「さかのぼる」ための媒体としても、noteが活用できるだろうと本田氏は述べる。
「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は“可視化のプロジェクト”
本田氏は、「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は全編を通じて“可視化のプロジェクト”だと語る。
きっかけとなったSNSの投稿に関しても、DMでクローズなやりとりすればいいことをあえて引用RTで行い、企業としてのアクションを見せた。また、フライパン募集から受付終了までの経過、届いたフライパンの内容まで、大々的に公表している。
通常ならば企業があまり見せない裏側を率先して出していく、透明性をもって可視化することが、今回の取り組みの基本的なコンセプトです(本田氏)
そうした企業の裏側をオープンにしていくことについて、PR担当として不安はなかったのだろうか。勝村氏は「ある意味、当たり前のことをやっているだけ」だと語る。
味の素冷凍食品は『永久改良』を開発の合言葉として、これまでも生活者の声に応えて商品をブラッシュアップしてきました。だからこそ、困っているお客様の声が届いたなら、アクションを起こすのは当たり前。SNSで話題になったから特別なことをやっているわけじゃなく、今までと同じように生活者に向き合っているつもりです(勝村氏)
『永久改良』は、味の素冷凍食品さんがずっと持ってきた考え方です。でも、こういった“企業の姿勢”をどう伝えていくかが難しい。そこで大切なのが、やはりSNSやWebの活用。マス広告や商品PRだけでは伝えられないことを、生活者との直接的な接点において、現在進行形で伝えられる場が、より重要になってきます(本田氏)
多くのフライパンで、羽根つき餃子がおいしく焼けるように
1件のツイートから始まり、Webサイトやnoteを用いた企業ブランディングにまでつながった「フライパンチャレンジ」。プロジェクトとしてはまだ始まったばかりとのことで、今後の展開にも期待したい。
勝村氏は最後に、「いただいたフライパンをきちんと検証して、結果を皆さんに返したい。多くのフライパンで綺麗に餃子が焼けるように、これからも尽力していく」と意気込みを語った。
また、本田氏はフライパンチャレンジのWebサイトについて、「味の素さんの思いや動向を世の中に共有、報告していくプラットフォームとして大いに活用してほしい。これからの企業コミュニケーションにおいて、一種のベンチマークになるのでは」と述べた。
なお、サイトの下部では「special thanks」として、協力してくれた生活者や企業への感謝が述べられている。ここはあえて編集が容易な形式にしているとのことで、本田氏は「本プロジェクトが“共創活動”であることを意識してこの形に。今後、この欄に載る企業が倍くらいに増えてほしい」と思いの丈を語った。
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