大日本印刷Web担当者の「社内評価を大幅アップ」させた“サイトリニューアル成功”の全貌!
Webサイトはきちんと動いているのが当然で、Web担当者は社内でなかなか評価されにくい。毎日、通常運用をしているだけで何を目標にしているかよくわからないという悩みもよく聞く。
はたして、何をすればWeb担当者の社内評価をあげることができるのだろうか? 大日本印刷の田口佳央莉氏は、自社サイトの大規模リニューアルを成功させ、給料の大幅アップを勝ち取った強者だ。そこで、田口氏が「デジタルマーケターズサミット 2024 Summer」に登壇。どのような取り組みを行ったかを紹介した。
サイトへの集客アップで、田口氏の収入も大幅アップ!
大日本印刷と聞くと、「印刷だけの会社」と思う人が多いかもしれない。しかし実は、半導体など多様な事業(4事業領域でおよそ10事業部門、約100グループ会社)を展開している。このことを、最初にインプットしておいてほしい。
田口氏は、大日本印刷(以下、DNP)のグループ会社DNPデジタルコムに新卒で入社し、大手金融やECなど約150社のWeb解析を実施。その後、別のグループ会社に異動してDNP自身のWebサイトの解析を行い、問題点を洗い出して大規模なリニューアルを推進した。
リニューアル後のサイトアクセスは大きくあがり、それが評価され、現在ではDNP本社のコーポレートコミュニケーション本部に配属となり、年収も大幅にアップしたという。
グループ会社2社を経て本社へとステップアップしているわけだが、その間に、ウェブ解析士マスターを取得。ウェブ解析士会議2018でThe Best Evangelistを受賞し、外部評価も受けている。
リニューアル前の企業サイトの課題とは?
田口氏がDNPサイトの解析担当になった2015年の夏。当時のWebディレクターから解析の助けを求められた。当時のDNPサイトは以下のような課題を抱えていた。
コーポレート、ビジネスの区分けがない
まず、印刷会社のトップページで一番目にいくのが「栄養Pro」であることに疑問が生じるが、そこには目をつぶるとして、ヘッダー部分のナビゲーションとして「製品・サービス」「企業情報」「IR情報」「CSRの取り組み」「採用情報」など、コーポレート情報と事業情報の両方が混在している。
さらに、トップ画像の下に少し大きなバナーで「情報コミュニケーション」「生活・産業」「エレクトロニクス」とあるが、これは「製品・サービス」のカテゴリ(事業部門)である。各カテゴリのページに直接遷移するバナーが、トップページに配置されているわけだ。
このように、コーポレート、ビジネスの区分けが明確でないことが大きな課題だった。
さまざまな解析タグが混在し解析できない
さらに、解析タグが混在していることも大きな課題だった。もともと、2015年の夏にWebディレクターから助けを求められた内容こそ、「サイトの解析ができなくて困っている」ということだった。話を聞くと、サイト中にたくさんの解析タグが入っていてうまく解析できないとのこと。
確かに、アクセス解析用のGAタグ(Google アナリティクスのタグ)がどのように入っているかというと、トップページには当然ついているが、「製品・サービス」「情報コミュニケーション」「生活・産業」の各ページにもタグが入っていて、合計4つもある。各事業部が自分たちのページのアクセス状況を見たいために、このような状況になってしまったようだが、1つのサイトにアクセスデータを蓄積するボックスが4つある状態だ。
このままであれば、たとえばトップページから「製品・サービス」のボタンをクリックして遷移すると、トップページから離脱したというデータになってしまう。セッションが細切れになり、サイト内の一連のユーザー行動が解析できない状況だった。
目標がなく、Web担当者が評価されない
ユーザー行動がわからないのだから、目標を立てることもできない。目標がないということは、達成したかどうかの判断もできないため、評価もされない。おまけに主管部門はコンテンツの更新で手一杯で、課題解決のためにリニューアルしようという機運も生まれていなかった。かなり困った状況だったわけだ。
田口氏の考えた解決策
これを解決するために、田口氏は以下の2つに取り組んだ。
- Webガバナンスでの役割定義
- 大規模リニューアル
Webガバナンスでの役割定義
まず、解析タグの大掃除をして、きちんとした解析レポートをつくった。それを見ると、予想どおりアクセス数は少ないので、リニューアルプロジェクトを立ち上げた。そしてリニューアル後の運営のための体制をつくる必要があるので、最初に組織ごとの役割分担とWebガバナンスの制定を行った。
2015年当時のDNPサイトの運用体制は、以下のようになっていた。
主管部門として、総務、経理、CC本部、IR、広報部といった本社のコーポレート部門と、全部で10の事業部門がある。それぞれがコンテンツの更新を担当し、更新で手一杯の状態だった。田口氏が所属しているのは制作部門だが、当時はCMSの使い方の質問しかこなかったという。
この状態から、2017年には以下のような体制に大きく変更した。
ポイントは、組織を次のように3つの役割に分けたことだ。
- ルール:サイト全体の管理やルールづくり、戦略を決める
- 権限:コンテンツをつくり、部門内で承認する
- 仕組み:サイト来訪者に適切な施策を実施する
これで、主幹部門はコンテンツづくりのみに注力できるようになった。
大規模リニューアル
次に実際のリニューアルだが、主な目的は以下の2つ。
- コーポレートサイトとビジネスサイトの区分けをはっきりさせる
- それぞれのサイトの役割や機能を拡張する
リニューアル後のDNPサイトでは「ソリューション/製品・サービス」のページを新設し、コーポレートとビジネスの区分けをはっきりさせたほか、ビジネスサイトのコンテンツの種類を増やしている。
コーポレートとビジネスでは、展開するコンテンツの目的、役割、ターゲットが次のように異なる。
コーポレートサイト
DNPの企業活動の根源的な責任としての「企業価値の創造」の役割を主に担う。そのための最重要目的達成指標(KGI)として、「コーポレートブランディング」「コーポレートマーケティング」「ビジネスサイトへの送客」という3つを設定した。それぞれをさらに具体的な目的と、成功するための重要成功要因(KSF)に分解したのが、以下の図だ。
掲載するコンテンツは、企業情報、技術・研究開発、IR情報、サステナビリティ、ニュース、採用、グループ会社ページ、Discover DNPなどで、コンテンツ運用は主に本社部門が行うこととした。
ビジネスサイト
より良い社会の実現と、DNPが持続的な成長を享受するために必要な「事業価値創造」への貢献を主に担う。平たくいえば、「売るためのサイト」ということだ。KGIは「プロダクトブランディング」「プロダクトマーケティング」「カスタマーリレーション」の3つで、これらの軸で運用する。以下の図が、ビジネスサイトのKGI&KSFだ。
さらに、以前のサイトでは製品・サービスの詳細情報のページがあるだけだったが、導入事例、コラム・記事といったBtoBユーザー向けの情報を展開し、役割や機能を拡張した。コンテンツ運用は、主に事業部門が行うこととした。
解析タグを1つに統一し、改善点を洗い出せる体制に
各サイトの目的が明確になり目標ができたので、あとは達成するべく動くだけという状態になった。解析タグはもちろん1つに統一し、田口氏がWeb解析士として、しっかり分析して、改善点を洗い出す体制とした。
リニューアルの結果、アクセス数は以下のように伸びている。
リニューアル後、Webユーザビリティ診断を受けるも139位→3年後に1位獲得!
リニューアル後のサイトは社内外からの評判もよく、得意先からの見積り依頼も増えた。そこで、自信をもってトライベック・ブランド戦略研究所にWebユーザビリティ診断をしてもらったという。ところが、結果は139位。当時の最新のWebサイトになっているはずなのに、何がダメだったのか。調査結果の指摘を精査した。
ユーザビリティは、以下の5つの軸で調査されている。
- A.アクセス性
- B.サイト全体の明快性
- C.ナビゲーションの使いやすさ
- D.コンテンツの適切性
- E.ヘルプ・安全性
全体的に指摘事項が多いが、なかでもサイト全体の明快性、ナビゲーションの使いやすさ、ヘルプ・安全性の3軸では平均を下回っている。
これを改善するには、Web戦略室で「できること」と「できないこと」がある。たとえば、表示速度やSNSへの配慮、ナビゲーションの一貫性などはWeb戦略室で改善できる。一方で、以下のような点は、コーポレート部門や事業部門に協力してもらわなければ改善できない。
- 主体的な疑問解決手段の提供
- 全体プロセスの明示
- ブランドイメージの一貫性
- 商品・CP情報の興味喚起
- ディスクリプション
- 製品ページでの問合わせ意向の醸成
そこで他部門に協力してもらうにはどうすればいいかと考えた結果、Web関係者のネットワークづくりをしようと一念発起。以下の3つの施策に絞り込んだ。
- Web関係者同士の双方向コミュニケーションの場づくり
- 誰もが簡単に定量評価できる指標と仕組み、ナレッジを強化
- ほめあう文化づくり
これらの取り組みによって、3年後にはWebユーザビリティランキング1位を獲得できた。具体的な内容を簡単に紹介しよう。
1. Web関係者同士の双方向コミュニケーションの場づくり
Microsoft Teamsを使用して、約500人のWeb担当者を集めて資料をすべて共有。その場で質問も受け付けるなど、オープンな場ですべてのコミュニケーションが取れるようにした。
さらに、オンラインのWeb担当者会議を2カ月に1回実施。表現方法などルールの話をする守りのパートと、マーケティング活用のベストプラクティス共有のような攻めのパートの2部構成とした。
2. 誰もが簡単に定量評価できる指標と仕組み、ナレッジを強化
自分が担当しているページがどのくらい見られていて、他サイトと比較してどうなのかを自覚してもらうため、次のような「コンテンツ通信簿」を作成し、2カ月に1回配布。データドリブン思考の種まきを行った。
その結果、Web担会議の場では、「ディスクリプションのないページが○ページあります」など、具体的な改善提案が提出されるようになった。また、成果の出ているページの担当者には、施策の実施ポイントを発表してもらっている。
3. ほめあう文化づくり
成果を出しても、直属の上司は「できて当たり前」という感覚のことが多い。それでは担当者のモチベーションもあがらないので、「ビジネスWebコンテンツ大賞」というコンテストのようなものを開催した。1年間のコンテンツ通信簿の結果から、好成績の事業部門を選出し、そこのWeb担当者に役員から表彰してもらうというものだ。会社の上層部から直接表彰されるという環境をつくれたことで、意欲的な若手が出てきたという。
Web担当者発信で新しい取り組みを
以前からよくいわれていることだが、「データをもつ者が強い」ので、まずは解析レポートをつくることが大切だ。さらに、「いい出す人」と「進める人」の役割分担を明確にし、成果を出せる仕組みをつくることが大事になる。
伝統企業のDNPで、これだけの改革を行ってきた。Web担当者発信で新しい取り組みに挑戦してほしいと田口氏はいう。もし上司の説得に困ったら、「他社はこれが常識ですよ!」が効くそうだ。試してみてほしい。
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