サンリオ流アクセス解析! BigQueryなしでも実現、GA4でPDCAの回し方
GA4でBigQueryを使おうとするとなかなかハードルが高い。そこで、株式会社サンリオの一部の部署では、ExcelやLooker Studioを活用してWebサイトや広告の分析を行い、PDCAを回しつつ改善を続けているという。「デジタルマーケターズサミット 2024 Summer」では、同社事業戦略本部 エデュテイメント事業部の永井隆氏が、BigQueryを使わないGA4でのPDCAサイクルの回し方を紹介する。
サンリオ流「みんななかよく」のアクセス解析の秘訣とは
Webサイトや広告の改善には、GA4などのアクセス解析ツールを活用したPDCAサイクルが求められる。GA4は比較的容易にBigQueryとの接続が可能だが、BigQueryを使用することに抵抗を感じている人も多いだろう。永井氏は、BigQueryを使わず、GA4でPDCAサイクルを回すためのポイントを解説していった。
GA4で知りたいことはシンプルに2つ。
- ユーザーの来訪のきっかけは何か
- ユーザーにサイトで取ってほしい行動を取ってもらえているか
これらをユーザー視点と事業の視点両面から把握することがPDCAの第一歩。一方で、PDCAを効果的に回すには、上記のデータを把握するだけでは不十分で、戦略やフレームワーク、事業計画といった経営戦略やマーケティング理論の理解と応用が不可欠である。つまり、データを戦略に照らし合わせながら、現場に最適な施策に落とし込むことが必要だ。
これを通して、事業・現場・取引先と友好な関係を保ちながら改善をしていくことこそが永井氏が提唱するサンリオ流「みんななかよく」のアクセス解析の秘訣である。それではサンリオでは具体的にどのように分析しているのだろうか。
7つのマスト設定ではゴールとキーイベントの設定がカギ
まず、分析に先駆けて必須なGA4の「マスト設定」について7つ紹介された。
GA4に必須な「マスト設定」7つ
GA4の基本計測
サイトへGA4の計測タグを設定(参考リンク)追加イベントの設定
基本計測以外で計測の必要がある際に設定(Googleタグマネージャー、管理画面)(参考リンク)ゴール設定
キーイベント(=コンバージョン)の設定(参考リンク)身内のアクセス除外
自社/開発会社/代理店など内部関係者のアクセスを計測しない設定(参考リンク)ドメインをまたぐ場合の設定
ドメインを複数またぐサイトでの計測設定(クロスドメイントラッキング)(参考リンク)URLの整理
URLから不要な文字列(パラメータなど)をレポート上除外する設定(参考リンク)広告の効果測定
各施策へのUTMパラメータの設定(参考リンク)
これらの設定は基本的なものなので、事業目的に合わせて適切に設定したい。しかし「追加イベントの設定」と「ゴール設定」は特に重要で、ゴールを正確に見極め、イベントやコンバージョンに的確に紐づけることが求められる。サイトはビジネスの一部に過ぎないため、ビジネス全体の中でサイトのゴールを定義することが重要だ。
ゴールは「最も利益に直結するもの」に設定すべきだ。たとえば会員向けサイトの場合、購入後のユーザーには「フォローアップ情報の提供でロイヤルティ向上」、購入前のユーザーには「購入検討のための情報提供」がゴールとなる。
他には、「申し込み後のサンクスページ」への到達や「店舗リストの閲覧」、さらには「決算書のPDFダウンロード」などのアクションが該当する。複数ゴールを設定すれば、レポート上で閲覧・分析が可能である。
最近はLookerStudioでコンバージョンを分割して集計できるようになったため、サイト内でのゴールステップや複数ゴールの把握を自動化できるようになった。
ただし、イベントの設定などは目的のデータが取りたいタイミングや条件で取れているかを確かめながら設定することを推奨する。たとえば、Google タグマネージャでのイベント設定中にDebugViewを使用することで、正しくデータが取れているかをテストすることができる。
また、広告を実施しているならば「⑦広告効果の設定」も重要な設定の1つとなる。広告URLにUTMパラメータを追加すれば、施策ごとに広告効果を分析できる。Googleが提供するツールを使えば、キャンペーンごとの管理が容易になる(Campaign URL Builder)。
さらに、UTMパラメータを二次元バーコード化すれば、雑誌やチラシなどオフライン広告の効果も計測できる。UTMパラメータを表で管理し、キャンペーン名の重複を防ぐためにもおすすめだという。
サンリオ流! GA4のデータ分析・考え方
ケース0 計画時の仮説は“鳥の目”でサイト全体の流れを見ることから
ゴールの設定と計測タグの設置ができたら、次に重要なのはPDCAを整理することだ。まず、P(計画)については、サイトやビジネスの状況を把握していなければ仮説は立てられず、仮説がなければ施策も見えず、効果検証もできない。適切な仮説を立てるためには、サイト全体を「鳥の目」で捉える視点が有効だ。
たとえば、「問い合わせ」をゴールとするサイトでは、ファネル分析で「サイト表示」「サイト来訪」「サービス詳細閲覧」「フォーム到達」「問い合わせ」などの経路ごとにユーザー数を把握する。特に移行数が大きく減少する部分があれば、「サイトの導線に問題があるのでは?」という仮説が立てられる。
サイト全体や特定領域のユーザーやセッション数をExcelに記録するだけでも十分な分析が可能だ。GA4なら「ページとスクリーン」レポートでページを検索し、ユーザー数を記録すればよい(*このレポートのユーザー数は厳密には「アクティブユーザー」を指すため注意が必要である)。
さらに、GA4の「ファネルデータの探索」機能を使えば、サイト内の流れを可視化できる。
永井氏は「仮説はあてずっぽうではいけない。できるだけ広い視野でデータを見ることで、ユーザーのつまづきポイントをサイト上で発見・把握することが大切」「ページ単位など細かい改善にとらわれると全体の数値が改善しない。時おり、サイト全体のデータに戻りながら施策検討することが大切」と強調した。
そうして全体を見渡して立てた4つの仮説について、それぞれ分析に基づく考察・改善例が紹介された。
- 仮説1:ユーザーとの接点に課題がある
- 仮説2:流入元ごとに課題が異なる
- 仮説3:ランディングページのどれかに課題がある
- 仮説4:サイト導線に課題がある
仮説1 ユーザーとの接点に課題がある?
「ユーザーとの接点に課題がある」つまり、集客する場所が間違っているかもしれない、という仮説のもと参照元や流入元の分析が行われた。一般に、流入元の分析では「検索エンジンから100、デジタル広告から50」といった数値だけに注目しがちだが、適切な参照元からの流入が良質なユーザーをもたらすのは当然だ。
たとえば、永井氏が担当するサンリオの幼児向け英語学習教材「Sanrio English Master」のサイトでは、0歳~8歳からの子を持つ親がターゲットのため、保護者向けアプリやメディアとの相性が良い。
古典的なマーケティングフレームワークの「4P」は顧客に商品を売るための最も適切な資源の組み合わせを検討するフレームワークである。4つの「P」のひとつの「Promotion(販路)」もその要素の一つであり、デジタルマーケティングであってもそれを検討し続けることは重要である。そう考えると、参照元は単にコンバージョンを得るための入口というわけではなく、ユーザーの特徴をある程度反映していると考えられる。例えば、自然検索では、参照元はユーザーの特徴をある程度反映しており、自然検索は「何か目的があって探している」、登録メールは「興味を持って登録している」といったインサイトが見えてくる。
参照元によって異なるユーザーが、異なるニーズで来訪している」という視点で見ると、分析や仮説に幅が出てくる(永井氏)
最初の流入経路を把握するときに、GA4の「ユーザー獲得」レポートは役立つ。永井氏は「サイトに継続的に来てくれる人とは、どのようなニーズをもった人なのか、思いを巡らせることで、仮説やサイト改善の質が上がっていくのではないか」と語った。
仮説2 流入元ごとに課題が異なる?
流入元の分析を行うには、「トラフィック獲得」レポートを活用する。
流入元によって「セッション訪問数」と「セッションキーイベントレート=コンバージョン率」の2つを分析し、「数を獲得できている流入元」と「コンバージョン率が高い流入元」を特定する。それぞれに対して「数を獲得したい施策」と「コンバージョン率を高めたい施策」を立案し、流入元と会社のリソースなどに応じた最適な施策を検討する。
たとえば、自然検索からのコンバージョン率が高い場合は、SEO施策を強化すれば流入数が増え、コンバージョン数も増加する可能性が高い。メールやSNSからのコンバージョン率が高い場合は、メール会員の獲得施策を強化したり、フォロワーを増やすための広告キャンペーンを実施したりといった打ち手が考えられる(もちろん、そううまくいくことばかりではないが、少なくとも会社のリソースに応じてどの施策をどれくらい実施するかの検討はできる)。
たとえ、流入数が少なかったとしても、コンバージョンにつながるリアルなアポの獲得件数が多い場合は、その流入を増やす施策を取り入れたほうがよい。このように、サイトだけでなく、他のデータも組み合わせて、自社のリソースにあった施策を検討し、戦略を立てていくことが重要である。
仮説3 ランディングページに課題がある?
ランディングページはユーザーが最初に見る重要なページだ。しかし、単独で分析するのではなく、参照元や広告との組み合わせで分析したほうが、改善のヒントが得られる。
たとえば、バナー広告とランディングページの組み合わせを比較した結果、広告のイメージを踏襲したランディングページのほうが効果的である。広告と一貫したデザインにより、ユーザーは安心感を得られ、さらに「無料サンプルプレゼント中」のアクションボタンが効果的で、コンバージョン率が0.3ポイント向上した。
永井氏は、ランディングページの改善には、購入検討中のユーザーを対象とした聞き込みやアンケートが有効だと述べる。サンリオでは、Adele Revella(2015)の提唱するバイヤーペルソナ5つの要素、「譲れない条件」「購入後の期待」「購入後の不安」「競合との比較基準」「有効な媒体」を採用。これに基づいて、あらかじめサイト内で補完すべき情報を洗い出し、ランディングページやサイトのコンテンツに反映させている。なぜアンケートで補完するかというと、ユーザーが求めていることがすべてGA4のデータとして集計できるわけではないからである。
サイト分析以外にも、ユーザーが求めているのにサイトに足りない情報が無いかを探ることは必ずやってもらいたいことの一つ(永井氏)
ランディングページの分析では、「参照元=ターゲットグループ」との組み合わせを意識することが重要だ。たとえば、あるメールから多くのコンバージョンが得られた場合、メールだけでなくランディングページもユーザーのニーズに合致していたと判断でき、その知見を次回に生かすことができる。
ランディングページ自体の精査・改善には、Microsoftが提供する「Microsoft Clarity(クラリティ)」のヒートマップやレコーディング機能を活用して、ユーザーが熟読している箇所を把握。熟読後に離脱する場合は「何かが足りない」と考え、その仮説をもとにコンテンツや見せ方を工夫している。
ランディングページでも、どんな方が見ているか、あと必要な情報を提供できているかを意識しながら、データを見ることで、さまざまな発見ができる(永井氏)
仮説4 サイト導線に課題がある?
最後に「サイトの導線に課題がある」という仮説のケース分析が紹介された。サイト内導線では「ユーザーが思わぬ動きをしていないか?」を意識することが重要だ。特に、ユーザーを様々なページに誘導する役割をもつページ(ここでは「扉ページ」と呼ぶ)では、ユーザー自身が取りたい行動をとっているか(あるいは企業側が求めている行動をとっているか)を分析することで、様々な発見や施策につながる。
永井氏は、Steve Krugの著書『DON'T MAKE ME THINK』(2013)を引用し、クリックボタンの表現やテキストがユーザーの無意識の行動に影響を与えることを指摘した。考えさせないUIがユーザーをスムーズに遷移させる前提であり、これができていないと導線が分断されてしまう。サンリオのサイトでも「購入」「無料体験」「無料サンプル」のボタンを並べたことで、ユーザーを混乱させた経験がある。
遷移分析にはGA4の「経路データ探索」を利用すると良い。ユーザーが想定していない動きをしている場合などは改善のヒントになる。例えば、申込フォームの次ページの多くがサイトのTOPページとなってしまっている場合には、申し込みを検討しているユーザーの多くが申し込みせずに戻ってしまっていることを指す。(もちろん、場合にもよるが)ユーザーがTOPページに戻らないように、リンクを目立たせないなどの改善が必要となるだろう。
また、「経路データ探索」では「終点」から遡る分析も可能であり、ユーザーがどのページから目的のページ(終点ページ)に到達しているかを分析できる。例えば、コンバージョン前のページを見ることで、どういったニーズを持ったユーザーがコンバージョンをしているかがわかることがある。
重要なのはこうしたデータを「事実」として記憶することでなく、ユーザー行動の裏側の意図を推察しながら顧客理解に努め、施策を検討することである。
最後に、永井氏は「GA4だけではPDCAを回せない。鳥の目を持ち、マーケティングやUIの理論、事業計画と照らし合わせながら現場に合った考察と改善提案を行うことが大切」「改善案が戦略や現場に合っていなければ、GA4での分析が意味をなさなくなる」と述べ、セッションをまとめた。
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