消費者行動研究から学ぶ! デジタル時代のチャネル戦略フレームワーク
現代社会は、情報が爆発的に増加し、消費者は日々大量の情報にさらされています。しかし、その一方で「情報は溢れているのに、本当に必要な情報にたどり着けない」という課題も生まれています。
このような状況下で企業はどのように、消費者と適切なコミュニケーションを図ればよいのでしょうか? この記事では、消費者行動研究の知見を基に、デジタル時代における最適なチャネル戦略のフレームワークを提案します。
このフレームワークを活用することで、あなたは自社のマーケティング戦略をより効果的に、そして効率的に展開することができるでしょう。
本記事は、2024年日本マーケティング・サイエンス学会の第116回研究大会にて「デジタルシフト時代におけるユーザー接点チャネルの仮説検証」というテーマで芹澤和樹(株式会社電通・シニアプランナー/日本マーケティング学会理事)が発表し簡易的に内容をまとめたものです。
ヘンリー・アサエルの購買行動類型-消費者理解の第一歩
現代の消費者行動を理解するための第一歩として、ヘンリー・アサエルの購買行動類型を今回は参考にしました。この類型は、消費者の「関与の程度」と「ブランド間の知覚差異」の2つの軸で購買行動を4つのタイプに分類しています。

1. 複雑な購買行動型
- 関与の程度: 高い
- ブランド間の知覚差異: 大きい
- 特徴: 価格が高く、消費者は事前に情報を調べ、納得した上で購入
2. バラエティ・シーキング型
- 関与の程度: 低い
- ブランド間の知覚差異: 大きい
- 特徴: 目新しさやバリエーションを求め、ブランドスイッチが発生
3. 不協和解消型
- 関与の程度: 高い
- ブランド間の知覚差異: 小さい
- 特徴: 選択に迷い、最終的には価格や口コミを重視
4. 習慣型
- 関与の程度: 低い
- ブランド間の知覚差異: 小さい
- 特徴: こだわりなく、習慣的に購入
また、池尾恭一氏の「消費者業態選択の規定因」や、青木幸弘氏の「消費者関与概念の尺度と測定」などの研究も参考にしました。この4つの消費者タイプが、現代のマーケティングフレームやチャネルフレームでどういう行動に分類されるのか、検証していきます。
検証方法
今回の検証では、以下の手順を採用しました。
- インターネットによる定量調査(20~60代の男女950人、2024年10月末実施)
- 知覚差異と製品関与の分類(4象限への区分け)
- 4象限の分析
- 情報接触回数の分析(対象商品に対する意識的な情報取得の頻度)
- マーケティングフレーム「DEEPTL」とチャネルフレーム「POER」を用いた変化の分析
DEEPTL(ディープツール)
分析するにあたり、消費者の購買行動モデルの「AIDMA」から発展させた新たなフレーム「DEEPTL(ディープツール)」を独自の視点で設計しています。

オリジナルのフレームワーク
Discovery(発見):
さまざまな情報や商品チャネルがある中で、新たな発見や知識を得る。Engagement(つながり):
発見した商品・サービスに対してつながりや接点を持とうとする。Evaluation(比較・評価):
自分にとって必要なのか比較・評価をする。Pre-Purchase(購入前):
購入直前に最後の比較と納得あるよう正しい評価を行う。Transaction(購入):
納得した上で最寄りのチャネルで購入をするLoyalty(ロイヤル化):
商品サービスを体験し、ファン化やシェアをする。また購入前ファネルに戻らず直に購入することもある。
DEEPTLは、消費者が情報を多方面から取得する現代の購買行動を反映し、各フェーズでの評価によって初期段階に戻る可能性も考慮しています。
POER(Paid・Owned・Earned+Real)
従来の「POE(Paid、Owned、 Earned)」に加え、リアルチャネルの重要性を考慮し「Real(オフラインでの接点)」を加えたオリジナルのフレームです。
POERの考え方を取り入れることで、デジタルとリアルを統合したマーケティング戦略の構築が可能になります。
Paid:ペイドメディア(Paid media)に該当し、主にマス4媒体やweb広告を指す
Owned:オウンドメディア(Owned media)主に自社が所有しているメディアを指す
Earned:アーンドメディア(Earned media)主に生活者が関与するブログや口コミなどを指す
Real:Real(オフラインでの接点)主に販売場所などデジタル以外の接点を指す

検証結果
調査結果をプロットし、4象限の特徴を以下のように整理しました。

1. 複雑な購買行動型(認知高 × 関与高)
- 高価格帯の商品に多く見られ、比較的に情報収集が必要。
- ブランド意識が強く、情報接触回数が多い。
- 情報接触の許容ライン:4~6回
- 各ファネルの最頻チャネル:
- 発見:ペイド
- つながり:ペイド
- 比較・検討:ペイド
- 購入前:ペイド
- ロイヤル化:リアル
傾向:情報接触には寛容だが、多くの情報を提供しなければ認知につながらない。
戦略:多くの接触機会を確保し、利用シーンを明確に訴求。
2. 不協和解消型(認知高 × 関与低)
- 関与が低いため、情報接触の許容範囲が広い。
- 情報接触の許容ライン:4~6回
- 各ファネルの最頻チャネル:
- 発見:リアル
- つながり:ペイド
- 比較・検討:ペイド
- 購入前:リアル
- ロイヤル化:リアル
傾向:購買決定前にはリアルチャネルが重要。
戦略:認知フェーズでのリーチを強化し、実店舗での視認性を高める。
3. バラエティ・シンキング型(認知低 × 関与高)
- 他者の情報を積極的に受け入れやすい。
- 情報接触の許容ライン:4~6回
- 各ファネルの最頻チャネル:
- 発見:リアル
- つながり:リアル
- 比較・検討:リアル
- 購入前:リアル
- ロイヤル化:リアル
傾向:最頻チャネルはリアルではあるものの、さまざまなチャネルで情報収集を行う。
戦略:1to1マーケティングを活用し、購買率を向上させる。
4. 習慣型(認知低 × 関与低)
- 商品をすでに認知しているため、情報接触の必要性が低い。
- 情報接触の許容ライン:1~3回
- 各ファネルの最頻チャネル:
- 発見:リアル
- つながり:リアル
- 比較・検討:リアル
- 購入前:リアル
- ロイヤル化:リアル
傾向:過度な情報提供は離反につながる可能性あり。
戦略:ロイヤリティプログラムを活用し、価格戦略を重視。
消費者購買行動類型×POER×意識的接触を組み合わせたフレームを「Integrated Engagement Model」と命名し、これを活用することで、自社商材の立ち位置を明確にし、適切な戦略を立てることが可能です。

フレームの応用
たとえば、飲料の「低価格ジュース」という商材について、戦略を考える際のポイントを整理します。
まず、情報接触のデータを見てみると、「4.習慣型(認知低 × 関与低)」に該当し、情報接触は、1~3回で十分と感じており、それ以上の情報は逆に敬遠される傾向にあります。また、購買につながるチャネルを分析すると、リアル(店頭など)での影響が大きいことがわかっています。
この状況を踏まえ、次の点を考える必要があります。
リアルチャネルでの戦略が機能しているか?
店頭でのプロモーションや陳列の工夫ができているかを確認する。過度な情報接触になっていないか?
消費者にとって適切な情報量で、押しつけにならない伝え方をする。印象に残るクリエイティブになっているか?
ユニークなデザインや動きのある仕掛けを活用し、手に取ってもらいやすくする。
さらに、広告のチャネルごとに(例:Instagram、検索広告など)どこまで施策が実施できているのかを細分化し、戦略の精度を高めることが重要です。
また、「低価格ジュース」が一度購入されると継続して買われる習慣型の商材である場合、次のような施策が有効です。
- 初回購入を促す施策(価格を一時的に下げることやインセンティブを付けて試しやすくする など)
- 定期購入を促す仕組み(サブスクやリピート購入の特典 など)
このように、初期購入から継続的な購入につなげる視点を持ち、PDCAを回しながら最適な施策を実施していくことが重要です。下記の例はあくまで仮であり、実際はもっとさまざまなファクターを絡ませながら考える必要があります。

まとめ
本内容は簡易化しているため最頻チャネルという限定的な表現となります。実際詳細を見てみると各チャネルや媒体粒度などで様々な傾向が見られました。本研究は今後も継続的に実施し、日本マーケティング・サイエンス学会やWeb担などの場で詳細を発表していく予定です。今回のフレームが皆さまのマーケティング戦略に役立てば幸いです。
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