なぜUXを考えるのか

Webプロダクトにとっての「UXとは何か?」「なぜUXを考える必要があるのか?」について考えてみたいと思います。
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こんにちは、株式会社ECナビUIO戦略室の榎本です。
「ユーザー・エクスペリエンス(UX)」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?直訳すると、「ユーザー体験」。普段意識しているかどうかはさておき、UXという概念は、Webプロダクトを開発する私たちにとって、とても身近なものです。UIOプロセスとUXの追求も、切り離して考えることはできません。
今回は、Webプロダクトにとっての「UXとは何か?」「なぜUXを考える必要があるのか?」について考えてみたいと思います。

やってる人はやっている

ユーザーエクスペリエンス(UX)、あるいはユーザーエクスペリエンス・デザイン(UXD)という言葉は、人によっては新しいものかもしれません。しかしながら、特にUXDの概念については、人によっては「前からやってますけど何か?」という程度のものかもしれません。優れたプロダクトの作り手はUXDの概念や方法論を学ばずとも、自然とやってのけています。代表格はスティーブ・ジョブズでしょう。

「我々が作っているのはコンピューターではなく、”体験”である。」

「いいデザインをしようと思えば、まず真に理解にする必要がある。それが何なのか、心でつかむ必要があるんだ。」

彼が見ているものは何なのでしょう?それを理解するためのヒントが、これまでUX研究者が導き出した概念に含まれているのではないかと思います。

なぜUX?

私たちは、ユーザーに対して直接、自社開発のWebプロダクトを提供しています。そんな我々の願いとは、なんでしょうか?

  • 我々は、利用者に愛されるWebプロダクトを作りたい。
  • どのようなWebプロダクトならば、より多くの人に、より多くの時間、使ってもらえるのか?を知りたい。
  • なぜなら、ユーザー数と利用時間が事業価値に直結するから。

このような事業を行っているという前提に立ったとき、以下の観点が生まれます。

「使い続けてもらう」必要がある

私たちのプロダクトの対価は、「広告」または「課金」といった方式でユーザーまたは広告主から徴収されます。事業の価値を最大化するためには、「できるだけ多くのユーザーに、できるだけ長期間使ってもらうことがよい」というモデルが多くを占めていると思います。というよりも、それを前提にビジネス・プランをたてているのではないでしょうか。
多くの場合、ユーザーは大金を払う必要はありません。無料か、数百~数千円の課金が多いでしょう。ということは、気軽に利用をやめる/他のプロダクトへ乗り換えることが可能です。「10万円も支払ったのだから、元をとるまで我慢して使う」ようなことは稀でしょう。(スイッチングコストが低い)。

「利用体験」を幅広くシェアされる

実際使ってみてどうだったか、をユーザーが伝え合う。いわゆる「口コミ」ですが、利用者の感想は即座にかつ長期間にわたり、インターネットで伝播します。売れたらしまい、ではないということです。感動体験が伝播すれば、瞬く間に大量の利用者を獲得できることになります。

「エンゲージメント」を維持するには方法論が必要

高度なインタラクションが発生するWebプロダクトにおいては、必ず実現すべきクオリティとして、利用中のエンゲージメント(没入)があります。これを維持し、破壊しないことが「使われる」ために最低限必要となります。Webサイトは、インタラクション設計の自由度が高いぶん、ユーザーが操作した時にエラーが発生しやすくなります。「ユーザビリティ」に代表されるようなこの手の品質は、UXの一側面でしかありませんが、特にWebサイトにおいては、エンゲージメントのクオリティについて積極的に設計・評価できるべきです。

UXを知り、設計し、検証できるようになる必要がある

このような状況の中で、我々が知るべきなのは、
「プロダクトの何がユーザーの利用意欲を高めて(削いで)いるのかを知る。」
ということです。そして、そのためには、この場合「利用意欲」といわれるような「満足感」の一要素は、どのように形成されているのか?を、インタラクティブなモノづくりをする上では押さえておかねばなりません。これがUXといわれる分野です。
さらに、ゴールとしては、
「ユーザーの利用意欲を高め続けるようプロダクトをデザインする」必要があります。これが、Webの世界でのUXデザインという領域です。

UXDをプロセスとして組織に導入する理由

UXDを実現するものとして、例えばHCD(Human Centered Design)というデザインプロセスがあります。HCDに代表されるような体系だてられたプロセスを、チーム全員が学ぶ理由。それは、全員が「モノのデザイン」ではなく、「コトのデザイン」に視点をおけること。個人的には、この理由は小さくないと思います。

どういうことかというと、「プロダクトの顧客価値」=「機能」 ではありません。「プロダクトの顧客価値」=「使うことで生活がどれくらい生活が豊かになったと利用者が感じるか?」ということです。私たちの多くは、「このモノを使ったら、こんなすてきなコトに!」という着想を得てつくりはじめるにもかかわらず、いざプロジェクトがローンチすれば「すてきなコト」ではなく「このモノ」に没頭してしまいがちです。作業として、作っていくのは一つ一つの機能です。膨大な機能要件リストをこなし、作り手は「これはすごいものを作ったぜ!」と満腹になってしまうのはよくある話です。

「機能」と「価値」をつなぐ役割が、UXDです。
図で示すとすると、弊社藤井が書いたジェネシックスのモノづくり哲学がイメージしやすいかもしれません。

UXとは何なのか

さて、ユーザー・エクスペリエンスというのは様々な定義が氾濫していますが、今のところもっとも国際的なコンセンサスが集約しているであろう、二つのリソースを参照してみたいと思います。

ISO 9241-210

ISO 9241 「Ergonomics of human-system interaction」 のサブパートの一つである9241-210において、UXとは:
製品やシステム、サービスの利用、および/もしくは予想された使い方によってもたらされる人々の知覚と反応
とされています。
ここで注目すべきは、2点。「予想された」すなわち、実際にプロダクトを使っていない時間も対象となっていること。「知覚と反応」については、利用者/関係者における内面の出来事だということです。

UX White Paper

2011年2月に公開されたUX White Paper(PDF)は、世界中のUX研究者の意見を集約したもの(日本からも)となっています。ここでは、UXを大きく3つに分類してたり、UXの構成要素について触れていたりして、ベーシックながら目を通すのは面白いと思います。
さて、詳細は本紙をご覧いただくとして、ここで興味深いのは、UXのタイム・スパンについて触れられていることです。タイム・スパンの観点からUXを4つの種類に分けられています。

  1. プロダクト利用前に想像することで経験する「予期された」UX
  2. プロダクト利用中に経験する「瞬間的」UX
  3. プロダクト利用後に振り返ることで経験する「エピソードとしての」UX
  4. これらの繰り返しによる「蓄積された」UX

ここでも、「プロダクトを使っていない時間」も対象になっています。ユーザーがその「モノ」ではなく、その「コト」に触れるときでも、「モノ」に関するUXは発生しているということです。

なぜプロダクトがなくてもUXなの?

確かに、ユーザーはプロダクトを使ったことのことを思い出したり、予想したりすることはあります。またそれによって何らかの現象がユーザーの中で発生していることでしょう。だからといって、Webサイトを使っていないときのことまで考えることは、ビジネスにとって何の意味があるのでしょうか?
これには理由があります。そして、そこを考慮できていないとすれば、UXデザインができているとは到底いえないほど、重要なことなのです。

ここで、千葉工業大学の安藤昌也氏のスライドを引用させて下さい。

ユーザエクスペリエンスの本質に迫る ~ UXの理解とビジネスへの応用に向けて

この資料によれば、Marc Hassenzahlが提唱するUXのモデルに、Hedonic Quality(快楽的品質)というものがあります。Hedonic Qualityは、UXだからこそ対象となりうるQualityであるといえるでしょう。

では、「モノ」ではなく「ユーザーの内面」で発生するHedonic Qualityは、当然、ユーザーの内面の状態に左右されることが予想されます。同スライドに記載されている安藤氏の研究によれば、インタラクティブ製品の
「利用意欲」は、「製品関与」「自己効力感」という2つと因果関係があるようだ、としています。

利用していない時のUXが、利用時のUXを決定する!?

「興味や知識をうえつけ、使える実感を醸成する」、といった利用前の期待値形成がUXの中でとても大事だということです。そう、プロダクトを利用していないときのUXですね。

同じく安藤氏によるスライドで、Webプロダクト向けに超シンプルにまとめられたものがあります。

WEBにおけるUXとは何か?

ここでは、「ことWebにおいては、利用前(間)→ランディング時 の、期待値形成→期待値調整のチューニングが肝要」ということがいわれています。

UXDとは何なのか

ユーザーの体験タイムラインをデザイン

UXは、時間とともにダイナミックに変化すします。よって、裏返せば、時間に沿ったユーザーの内面の変化をデザインすることがUXデザインの重大な側面となってきます。それゆえ、時としてUXデザインというよりも、「シナリオ・デザイン」「ストーリー・デザイン」と言い換えたほうが誤解を避けられてよいくらいだと思います。
昨今、「ストーリー・テリング(Story Telling)」が注目されているのは、そういうわけでもあります(ちなみに、国内の大規模メディアで活躍するUXDたちが進めている、ストーリー・テリングに関するプロジェクトも年内にアウトプットが出るという話です、目がはなせません)。

どうやるのか

IDEOに代表されるような、イタラティブなHCDプロセスを基本的には踏むことになります。ビジネス要求とユーザー要求の本質を素早くつかむこと。できるだけ素早くプロトタイピングすること。それらを高速で繰り返すこと。
UXデザインプロセスについては、日本語でも多くのリソースが転がっていますので、ここでは省略します。

UXD≠UX

有名な「ギャレットのThe Elements of User Experience」や「The User Experience Honeycomb
は、「UXD」の構造やコンセプトを提案しているのであって、これ自体は「UX」そのもの、あるいはその構成要素ではありえないはずです。このあたりの言葉の使い方が、混乱を招いていると思います。

まとめ

  • ユーザーの「満足感」、その構成要素で特に「利用意欲」の継続的な創造が成功を左右するビジネスである。
  • そのために、UXおよび関連分野の研究成果を知っておくと、思考ツールとして役立つ。
  • UXデザインとは、「満足感」のデザインであり、それはユーザー内面の「時間の流れ」のデザインである。
  • Webサイトを開いていないときもUXは発生するし、UXデザインの対象である。

参考

UIO戦略室について

「日本で一番、数値で語れるエンジニアやデザイナーがいるスゴい組織を作る」をミッションとする、株式会社ECナビの全社横断プロジェクト。
UIO戦略室ブログ
なぜUXを考えるのか

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