ユーザーにとっての「価値」を提供できていますか? UX入門

経営者はもちろんサービス提供者全員に知ってほしいUX ――入門編

UXとは何か。UXの概念を改めて整理する
高平陽子(トランスコスモス) 2014/11/14 8:00 |

UXって使いやすさのことですよね?

UXとUI、どちらも似たようなものでしょう?

「UX(ユーザーエクスペリエンス)」という言葉を耳にする機会が多くなっています。しかし、UXについてきちんと説明できる人は少ないのではないでしょうか。UXという概念は決して新しいものではなく、十数年前からありました。ところが米Apple社が製品を核にしたユーザー経験を重視するサービスで成功したことや、ユーザーの利用環境の変化によって、ここ3~4年の間で急に着目されるようになりました。

一方、UXという言葉が多方面で多義的に使われ始めたことで、より複雑な印象を与えているように感じられます。概念の混乱と不一致によるコミュニケーションロスは不要なストレスを引き起こし、コスト増につながりかねません。「UX」に関係するすべての人の概念が、できるだけ一致していることが望ましいといえます。

そこで本連載の前編では、入門編として「UXとは何か?」をテーマに、UXの概念を改めて整理します。明日からすぐ使える手法や秘訣の話ではなく、視点や考え方の話を中心にしていきます。後編では「UXの視点からオウンドメディアを向上するにはどのようなアプローチがあるのか」を考えていきます。

UXはビジネスゴールにつながる

ユーザーをとりまく環境、さらにビジネスをとりまく環境はいま大きく変化しています。その要因に「デバイスの種類の多様化」「増えていくタッチポイント」「エンドユーザーの利用目的の変化」などが挙げられます。

スマートフォンをはじめとするモバイル機器が普及し、ユーザーが利用する道具が変化したことで、ユーザーの行動にも変化が起きています。ユーザーは「いつでも」「どこからでも」コンテンツやデジタルサービスに触れられるようになり、「達成したい目的」や「求める情報やサービス」はより具体的になっています。

様々なタッチポイントを通じて、ユーザーがより多くの情報と体験から吟味を重ねるようになったいま、「物を売る」「サービスを利用してもらう」ための競争はますます激しくなり、ユーザーの期待と要求に応えて満足感を促す「UXの向上」は、ビジネスゴールを達成するうえでも、一層重要度を増しています。

UXは日々の暮らしのなかに

UXって使いやすさのことですよね?

冒頭でも触れましたが、UXという言葉は知っていてもその概念や「UXの向上」がどのようにビジネスゴールにつながるのか、妥当な説明ができる人は少ないのではないでしょうか。

まずUXの概要をつかむために、特定の製品やサービスに出会って利用するところを想像してみてください。

私たちユーザーは生活のなかで、Webサイトで情報収集したり、電話で問い合わせたり、店舗へ行って接客を受けたり、サポートサイトを利用したり、特定の製品やサービスをめぐって色々なチャネルを横断的に利用しています。

Webサービスを利用するときは、その使用感が印象に残ることもあるでしょうし、店舗を訪れた場合は、店員の態度が印象に残ることもあるでしょう。製品やサービスをめぐって何か問題が起きたとしても、サポートサイトに自己解決するだけの十分な情報が掲載されていて、店舗や電話サポートで親身に対応してもらえたら、信頼度が増して安心して継続利用することにつながるかもしれません。

ユーザーは様々なタッチポイントを通じて、製品やサービスの提供者である「ブランド」を感じる個人的な体験を積み重ねています

時間や経験とともにUXも変化する

世界各国から集まった、30名ほどのUXの専門家が議論してまとめた「User Experience White Paper(UX白書)」の8ページに、時間の経過とともにユーザーの中でUXが生じる内在的なプロセスとUXの種類を図にしたものがあります。

たとえば、製品やサービスを実際に使い始める前の「利用前」は、まだ使っていないけれど友人知人から勧められたり、SNSのコメントに影響を受けたりしながら興味を持って、「どんな感じだろう?」と想像したり期待したりします。

実際に使い始めて「利用開始」すると、初めて使った感想を持つことになるでしょう。「利用中」は、それまで使っていた同様の製品やサービスと何気なく比較したり、使い込むごとに感想が生まれたり、気に入れば何度も繰り返し使うようになるかもしれません。「利用後」には、使用中に起きたことや感じたことなどを振り返って反芻することもあるでしょう。

製品やサービスを利用するときもあれば、利用しないときもあるというように、断続的な利用を繰り返していくなかで、このプロセスは多様な順序で重なります。それまでの経験が今後の利用や経験に影響するようになるなど、経験の質や内容も変化していくのです。

「UXとは何か?」を言葉で整理する

つまり、UXはユーザーが製品やサービスを経験すること?

前述したように、私たちは特定の製品やサービスを様々なタッチポイントを通じて利用することで、「ブランドを感じる体験」を積み重ねています。その体験の積み重ねは、ユーザー個人の中にブランドに対する印象を育てていきます

しかし、まだもやもやとした気持ちの人もいるでしょう。そこで改めてUXを定義すると、次のように説明できるのではないでしょうか。

UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザーと「プロダクト」「サービス」「システム」などのやりとりを通じて、ユーザーにどのような反応が起き、どのように認識されたのかという体験を積み重ねた結果、ユーザーの内側に生じる「経験価値」であり、ブランドに近いものである。

ユーザーが存在してこそ価値が生まれる

前述の定義に基づくと、UXの向上を考えるときは、ユーザーにとっての「価値」をどのように生み出すのかがテーマになります。つまり「価値はどのように成立するのか」という問いが、避けては通れないものになります。

「この製品/サービス/サイトには価値がある」と提供側が思っていたとしても、そのもの単体では価値あるものになり得ません。価値は提供される製品やサービスに「心を動かされ、何かを感じ取り、受け取る人」が現れて、初めて「価値」として認識されます。

当たり前のことを改めて言うようですが、そこにある「価値」は「受け取ってくれる人」がいて成立します。そして何かを感じ取り受け取ることは、その人のなかで主観的に行われます。UXは徹底したユーザー目線による「ユーザー中心」で考えるとわかりやすく、ユーザー中心設計がUXを実現するアプローチの中心を占めるのはこのためです。

ユーザー中心設計とは、「ユーザーが商品やサービスを利用するときに体験するユーザー体験を対象」とし、それらを「使いやすく魅力的に設計するための取り組み」であり、プロセスや具体的な手法を提供するものなのですが、詳しくは後編で紹介します。

UXの継続的な向上は全員参加で実現する

UXの向上を考えるということは、端的には「どうしたらユーザーに喜んでもらえるのか。ユーザー視点でひたすら考えて探し、ユーザー要求に応える方法を具現化すること」だと言えるでしょう。

UXは流行り言葉で終わらせていいものではありません。優れたUXは「違い」という差別化を生み、ブランド力の向上、ファンの創出、競争力の強化といった効果が得られます。

前述で説明したように、ユーザーは複数のチャネルやタッチポイントを横断的に利用しています。そのチャネルやタッチポイントを形成する製品やサービスに関わるすべての人がUXに関与すべきであり、責任があるのです。つまり、優れたUXとその向上を継続的に実現していくには、ごく一部のメンバーの働きやボトムアップの取り組みだけでは難しく、組織的で横断的なUXの取り組みが必要です。

ユーザーに望まれ、感動や喜びにつながるUXの実現に、その組織らしさや持ち味を活かしながら取り組むことは、会社組織にとってもプラスの要素になると考えます。なぜなら、企業が提供する価値は、ユーザーにどう受け取られたかによって左右されるものであり、ブランドはユーザーの経験から生まれるものだからです。

ユーザーを思いやり、ユーザーに喜ばれるものづくりやサービスは、会社組織にとっても力を増すものになるはずです。

UXとUIはまったく異なる

UXとあわせて、「UX/UI」や「UX・UI」の表記を目にすることがありますが、誤解を与えがちな表記だと感じています。UXとUIが並列の関係にある言葉に見えますが、ここまで説明してきた「UXとは何か?」を念頭に置くと、UXとUIは同位並列の関係ではなく、まったく異なるものだと理解できるでしょう。

さらに補足するならば、UI(ユーザーインターフェース)とは、コンピュータやシステムとその利用者であるユーザーの間で情報のやりとりを行うインターフェースのことです。UIには「GUI」「CUI」「VUI」「Web UI」「タッチUI」「ジェスチャーUI」「タンジブルUI」などがあるように、色々な種類があることはよく知られています。

GUIやWeb UIのような視覚的なUIにおいては、言葉とその概念や表記は、UIを形成する重要な要素です。特に開発者には、言葉や概念の責任ある取り扱いが望まれていると気を引き締めたいところです。

UXとは何か

最後に「UXとは何か?」の今回の提言をまとめます。

  • UX(ユーザーエクスペリエンス)とは

    ユーザーと「プロダクト」「サービス」「システム」などのやりとりを通じて、ユーザーにどのような反応が起き、どのように認識されたのかという体験を積み重ねた結果、ユーザーの内側に生じる「経験価値」であり、ブランドに近いものです。

  • ユーザー中心で、ユーザーにとっての「価値」をどのように生みだすのか考える

    UXの向上を考えることは、端的には「どうしたらユーザーに喜んでもらえるのかをユーザー視点でひたすら考えて探し、ユーザー要求に応える方法を具現化すること」です。

  • UXは「違い」という差別化を生む

    優れたUXによって、ブランド力の向上、ファンの創出、競争力の強化といった効果が得られます。ブランドはユーザーの経験から生まれると言えます。

  • UXとUIは異なるもの

    言葉や概念の混乱はコミュニケーションロスにつながります。また、視覚的なUIにおいて言葉と概念や表記はUIを形成する重要な要素です。開発者には言葉や概念の責任ある取り扱いが望まれています。

後編はより具体的な取り組みとして、「UXの視点からオウンドメディアの価値を向上するにはどのようなアプローチがあるのか」をご紹介します。

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