消費心理で考える、2019年消費税率アップの影響とは?
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2019年10月に消費税率が上がる予定だ。その是非はあえて問うまい。 当たり前だが、消費税は商品価格に直結するために、上がる直前には耐久財を中心に買い溜め特需が起き、上がった後は反動として買い控えが起きる。今回も確実だろう。だが、そのうちに消費動向は元の水準に戻ると一般的には考えられている。 しかし、現実はそんなに簡単ではない。というのも、人はモノの値段を、単純で絶対的な貨幣価格ではなく、「何かの基準」や「別のモノ」と比較した相対価格で認知するからだ。
必ず起きる低価格シフト。ほかにも軽減税率で大問題が起きそうな予感
消費税アップの場合、言うまでもなく基準値は以前の価格である。そして、1000円の商品Aと2000円の商品Bを考えると、当然ながらBの方が消費税アップによる値上がり幅の方が大きい。そして人は支払い(≒手持ちのお金が減ること)が基本的に大嫌いだ。
このときAとBが代替可能であれば、値上がり幅が小さいAを、すなわち低価格商品を買いたくなるのは当然の心理だ。つまり消費税アップは必然的に、同じ商品カテゴリーの中で、低価格商品シフトを誘引するのである。
例えば、発泡酒・第三のビールと消費税とは決して無関係ではない。実は発泡酒の歴史は意外に古くて1950・60年代には複数ブランドが販売されていたが、日本人が豊かになるにつれて、高価だが美味しいビールが好まれるようになり、いつしか発泡酒は市場から姿を消してしまった。
それが1989年に、消費税が導入された直後から量販店間でビール価格の低価格競争が激化し、その流れを受けて1994年に発泡酒が発売され、さらに安い第三のビールも登場して、今やそれらの市場は本家のビールをはるかに凌ぐほどに成長している。まさに、消費税が低価格の発泡酒を墓場から蘇らせた、と言っても過言ではない。
また、導入以降の消費税は数度にわたって引き上げられてきたが、その間に牛丼やハンバーガーの低価格競争や、低価格ファストファッションや100円ショップの台頭などに代表される低価格志向が次々と起きて、日本経済はデフレからなかなか抜け出せないでいる。
そして歴史は繰り返す。2019年の消費税アップの際にも、消費者の低価格商品へのシフトは間違いなく起きるはずだ。メーカー、流通を問わず、低価格志向への対応が待ったなし、である(そしてデフレ脱却はまた遠のく・・)。
しかも、毎度の低価格商品シフトだけでも悩ましいのに、今回は酒類を除く飲食料品と定期購読新聞だけに日本初の軽減税率が適応されることで、新種の大問題が起きそうだ。
軽減税率の適応がひきおこす問題とは?
例えば、マクドナルドや吉野家などの場合、店内で食べれば外食として10%(2%価格アップ)、テイクアウトすれば8%(価格据え置き)の消費税が適応され、一物二価となる。
「テイクアウト用として安く購入してこっそりと店内飲食」というズルイ抜け道はひとまず考えないこととすると、現在店内飲食している多くの客は、消費税アップ後はどういう行動を取るだろうか。
わざわざ認知的不協和の法則を持ち出すほどもないが、以下の3タイプの消費行動に別れるだろう。
①価格アップを不本意ながら受け入れて、これまで通り店内飲食
②価格アップが嫌なので、仕方なくテイクアウト
③価格アップかテイクアウトかの葛藤を避けるために、その店舗に行くこと自体を止める
実は飲食店にとっては①も②も、それに前述の抜け道「テイクアウト→店内飲食」も同じこと。後から行政に納める消費税額の違いだけであって、飲食店の実質的売上には関係ない。
その意味では、飲食店にとって問題になるのは③のケースだけだが、私はそういう人が少なからず出てくるのではないかと思う。
と言うのも、当初は結構な人が「テイクアウト→店内飲食」をちゃっかりと選択するような気がするが、ルールを厳守する日本人の気質を考慮すると、彼らの大多数が後ろめたいとか恥ずかしく感じるはずで、やがては否応なく③を選択するようになる、と推察できるからだ。また、①と②を選んだ人にとっても、決して後味がよいわけではない。①ではまるでボラレタような悔しさを、②では店から追い出されたような雪辱感を覚えて顧客価値が下がり、やがては来店しなくなる危惧もある。ファストフード業界にとって、軽減税率はさぞや頭の痛い問題だろう。
EC業界、Webマーケティング領域への消費税アップ後の影響
それに比較すると、ネット通販などのwebマーケティングの領域はまだ平穏かもしれないが、別種の相対価格の問題を抱えることになろう。
それは、「消費税が据え置きの飲食料品」と「アップするそれ以外の一般商品」との間で、相対価格が変化するからだ。特に飲食料品を多く購入している人の場合は、消費税アップ後の一般商品が割高に感じられて、購入を躊躇するケースが出てくるだろう。
対策としてクーポンなどが考えられるが、どのような対策も利幅を下げることになるので、やはり頭が痛い問題だ。
そもそも税制は、広く社会やビジネスの基幹構造までも変質させる強大な力を持っていることに留意して欲しい。
例えば、京都の古い家屋には間口が極端に狭く奥に細長く、住むには不便な町屋作りが多いが、これはかつて間口の幅で課税したためだ。
また、前述のように発泡酒・第三のビールが盛んなのも消費税によるところが大きい。結果として日本のビール業界のカラパゴス化を招いているのだから、なんと罪作りな税制改革であろうか。
しかし、否、だからこそ税制はビジネスの基幹ルールだと認識して対応しなければならない。悪法だろうが何だろうが、税制変化への対応次第で企業の命運が別れるのも厳然たる事実であり、大胆かつ戦略的な対応が望まれる。
最悪なのは後手後手に回って、ビジネストレンドに置いていかれること。それはwebマーケティングも例外ではない。
この記事の著者
四元マーケティングデザイン研究室 代表 四元正弘
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。 サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。 1987年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表を務める。
【Web行動心理学研究所】に掲載されているオリジナル版はコチラ
消費心理で考える、2019年消費税率アップの影響とは?
https://wbpl.infodex.co.jp/entry/consumption-tax
(2019年1月15日(火))
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