海外EC販路成功の秘訣は「地道なブランディング」「売り上げを焦らない」。プロが語る国内ブランドが取るべき戦略とは | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2025年1月22日(水) 07:00
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アジア圏を中心に海外EC販路の支援を手がけるキレイコムの上田社長は「日本国内の市場は停滞傾向。海外販路に目を向けることは必須」と提唱する。記事では中国を中心に、国内企業が海外販路で成功するためのノウハウを聞く

アフターコロナに加え、円安も後押しして爆発的なインバウンドブームが発生。これに伴って、訪日を機に国内ブランドを知り、帰国後に越境ECを利用してリピート購入する外国人も増えている。越境ECや海外販売の知見豊かなキレイコム 代表取締役社長の上田直之氏に、越境ECや海外販路で成功するためのノウハウ、足元の市況感について聞いた。

キレイコム 代表取締役社長 上田直之氏キレイコム 代表取締役社長 上田直之氏
越境EC市場はコロナ禍以前よりも成長

――越境ECの盛り上がりはコロナ禍以前に戻りつつある印象です。中国やその他アジア圏の市場進出を視野に入れている国内企業も多いようですが、実際のところはいかがでしょうか。

上田直之氏(以下、上田氏)コロナ禍やそれ以前よりも売り上げが伸びている印象です。日本の商品も売り上げを伸ばしているという話を耳にします。2024年は特に、618商戦(毎年6月18日付近に開催される中国の大型ECセール)はすごかったです。

世界の越境EC市場規模は2030年までに7兆9380億米ドルに拡大すると予測されている(画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)世界の越境EC市場規模は2030年までに7兆9380億米ドルに拡大すると予測されている(画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)
2023年の日本・米国・中国3か国間の越境EC市場規模(画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)2023年の日本・米国・中国3か国間の越境EC市場規模(画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)

上田氏:多くの事業者がご存じの通り、特に中国の越境EC市場、EC市場は目を見張る規模です。この大きな市場でのヒットをめざし、多くの国内企業が中国販路に参入しています。

中国は人口の多さに加え、EC大国でもあります。経産省の発表によると、2023年に中国でオンラインショッピングをする人口は8億8765人。全人口に占める割合は74.2%にのぼります。2027年にはオンラインショッピングをする人口は9億5165万人に増え、全人口に占める割合は78.1%になると推計されています。

2023年の世界のインターネット購買者人口。中国が圧倒的に多く、市場の大きさが推測される(画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)2023年の世界のインターネット購買者人口。中国が圧倒的に多く、市場の大きさが推測される(画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)

上田氏中国の越境EC市場も拡大傾向。2025年には、2149億ドルの市場規模に成長すると見られています。

中国の越境EC市場規模推計値(単位は億米ドル。変化率は%で表示。画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)中国の越境EC市場規模推計値(単位は億米ドル。変化率は%で表示。画像は経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」より編集部がキャプチャ)

上田氏:ちなみに、日本企業は代理店任せのマーケティングになっている企業が多い印象です。これに対して中国企業の多くは、企業のマーケティング担当者がかなり明確な指標を作っていて、支援会社に対して「この施策は可能か」「こういう戦略をとりたい」と積極的な姿勢でリードします。勝ちにいくなら、自社による自主的な情報収集や企業主導のマーケティングをするべきでしょう。

中国市場で国内企業が勝つためのポイント 「広告費をかける=売れる」ではない

――中国EC市場で「勝てる」企業になるためのポイントとは。

上田氏最低3か年ほどの事業計画が必要です。初年度からいきなり利益が出せるとは思わない方が良いでしょう。「消費者は知らないものを買わない」というのは日本も中国も同じ。認知されるまでには時間とお金が必要ですから、利益が出るまでにも時間とお金がかかります。「広告費さえかければすぐ売れる」ということはありません

ECモールに出店しコツコツ広告戦略を積み重ねたり、目先の売り上げを求めず、ブランディングに2〜3年投資できるかどうかが鍵になります。

加えて、中国では記者発表会にもしっかり取り組むことをお薦めします。記者発表会は中国ビジネスの代表的なカルチャーの1つ。ブランドの認知拡大の場として、日本よりも熱心に取り組む企業が多い印象です。中国におけるインフルエンサー、KOL(Key Opinion Leader)をブランドのアンバサダーにしたり、記者発表会のゲスト招いたりして、話題作りに取り組んでいます。こうした地道な積み重ねが成果につながるのは国内と同じです。

記者発表会は「ブランドを知ってもらう場」であって、売り上げを立てる場ではありません。そのため、記者発表会にお金をかけたくないと考える日本企業の担当者さんは少なくないです。

しかし、消費者側もどんどん賢くなっていますから、地道なアプローチを続けることが肝要です。オンラインでのブランディングや広告戦略だけでなく、記者発表会のようなオフラインの場も兼ね合わせて施策を重ねていくことを推奨します。

KOLの活用が中国市場での認知アップにつながる施策の1つにあげられると上田氏は指摘(画像は在日中国人KOLの活用例)KOLの活用が中国市場での認知アップにつながる施策の1つにあげられると上田氏は指摘(画像は在日中国人KOLの活用例)

――サポートしている通販事業者は、中国ではどのようなマーケティングを展開していますか。

上田氏:キレイコムがサポートしている事業者は中国でECの売り上げを伸ばしながら、オフラインの施策も同時に進めています。記者発表会だけにとどまらず、中国の展示会(博覧会)に出展し、展示会で現地の大口の卸売先を見つける――というやり方があげられます。

上田氏がサポートするEC事業者の、中国での展示会出展の様子上田氏がサポートするEC事業者の、中国での展示会出展の様子
地道な認知拡大、ブランディングにどれだけ取り組めるか

――中国越境EC市場における日本企業の課題とは。

上田氏:市場の大きさに魅力を感じて中国市場に乗り込む企業は多いものの、「ブランディングの需要性に対する認識の甘さ」が見て取れる企業が多いことです。

市場規模が大きいので、ヒットしたときの売り上げは大きいものの、ヒットするまでの間、日本国内よりもマーケティングコストが大きいのは避けようがありません。また、施策を打たなければいけないのは中国の大手ECモール「Tmall」だけでなく、「Tmall」以外の販売チャネル、メッセージアプリ「WeChat(ウィーチャット)」、「TikTok」も同様です。複数のチャネルで並行して施策を打ち続けなければなりません。

国内マーケティングでも同様ですが、地道な認知拡大施策、ブランディングが重要になります。

――中国市場に進出したものの、挫折して撤退する事業者も多く見てきたのでは。

上田氏:少なくない数を見てきました。広告の出稿額1つを見ても、多くの国内企業が従来のマーケティングでやってきたような「月100〜200万円を広告費に充てて……」という規模感では、中国市場では同じことをしても勝ち残ることが難しいと思われます。

原価高騰や人件費上昇の流れが目立つ現在、国内事業者の収益は潤っているとは言い難いでしょう。「それでも中国市場に挑戦したい」という企業と、あらゆる状況を踏まえた結果、「別の国で販路拡大に挑戦する」という企業とに大きく二分化している状況にあると見ています。

「TikTok」を運営するByteDanceに2023年、事業者による「TikTok」への広告出稿の話を聞く機会があったのですが、初年度に広告費を20億円を出稿し、その結果「TikTok」経由の売り上げが100億円を超えた企業が1000社以上あったそうです。しかし、そのなかには日本の事業者は1社もなかったと聞いています。

広告費をかければすぐに成果(売り上げ)につながるわけではありませんが、ある程度広告を展開しなくては、スピード感のある認知拡大は難しいのは事実です。

目先の利益を追わない

――中国市場でのECに挑戦するも、売り上げの目途が立たずに撤退する企業も多いですが、どのように考えていますか。

上田氏:市場に参入して、すぐに売り上げが立たないと不安になる気持ちは理解できます。上述の通り、「シーディング(seeding)」と言われるプロモーション施策をとり、認知が広がるまでは売り上げを求めすぎずに、地道な広告出稿や口コミの拡散といった種まきができるかどうかが鍵です。

たとえば、アリババグループが運営する「天猫国際(Tmall Global)」には7段階の「ショップランク」が7段階ほどあります。このランクを上げて「このショップなら商品が売れやすい」という状態にするのが理想の形です。

焦って「早く出店費用を回収したい」「売り上げを立てたい」と目先の利益だけを追えば、目先の金額しか追えないため、注意が必要です。たとえば、ECモールに出店したあと、思うように売り上げが上がらないことに焦って「ライブコマースをやろう」と考える事業者さんも少なくありません。しかし、ライブコマースに予算を投下して売れたとしても、すぐにショップランクが上がることにはつながりません。安定して長期的に「売れる」ショップにはならないのです。

海外販路でヒットするための商品開発 「MADE IN JAPAN」であることにあぐらをかかない

――現地にローカライズした商品開発について言及していました。国内企業にどのような懸念を持っていますか。

上田氏:中国市場にすでに進出していたり、進出を予定しているにもかかわらず、中国市場向けの商品開発が遅れている日本企業が多いことが気になります。

国内市場で展開している商品をそのまま海外向けに販売するのではなく、まず、現地にローカライズした商品開発から考える必要があります。「日本で売れている」という国内での実績に頼らず、現地の市場調査をして、文化を理解した上でローカライズしたプロモーションや商品開発をしていくべきです。

たとえば、現地の人が商品名を発音できない商品は覚えてもらえないですし、好まれるパッケージ、トレンドの成分も各国ごとに違います。

いまだに「MADE IN JAPANであることは有利。日本企業の商品なら売れるはず」という考えを持っている担当者もいるのでは。残念ながら、そのようなことはありません。

世界中の企業が中国市場に注目して、市場で勝つためのさまざまな施策を投下しています。各社、中国の消費者から細かくヒアリングを重ね、現地の人に好まれる香りや色など、中国向けに商品を作り込んでいます。

特にフランスの化粧品業界は国策レベルで中国向けの商品開発を重視し、取り組んでいます。国内同様に、韓国コスメも中国で人気です。日本でも、韓国ブランドの人気は続いていますよね。「この商品を店頭でよく見かけるし気になっている。国内企業の商品だと思っていたけど、よく見たら韓国製だった」と後から気づく消費者の方が多いのではないでしょうか。アジア圏や、フランスをはじめとしたヨーロッパブランドの競合も多くいる市場で「日本製だから」「日本で売れたから」だけで戦おうとしても通用しません

海外販路にローカライズした商品の成功事例

――海外販路にローカライズした商品の成功事例ではどのようなものがありますか。

上田氏:日本市場に浸透した海外商品の例をあげます。「コカ・コーラ」は今では言わずと知れた人気の清涼飲料水ですが、日本の消費者に浸透するのに40年ほどかかったそうです。日本に進出した当時、コーラを初めて見た人は「黒くてシュワシュワした妙な液体。これを飲むの?」みたいな状態だったかと予想されますが、きちんとCMを打って消費者に認知を拡大し、飲んだ人たちが自分たちの子どもに飲ませるようになり、その子どもが大人になってまた子どもに飲ませて......というように徐々に浸透していったと考えられます。やはり時間がかかるものなのです。

結果(売り上げ)を早く求めてしまうくらいなら、進出は見送るという選択肢もあります。「将来的に市場でこれだけのシェアを獲得する」という長期目線での明確な目標と情熱が必要です。

ケンタッキー・フライド・チキンは中国の店舗ではメニューにお粥があります。国内企業では、たとえばカシオ計算機の「G-SHOCK」は、中東向けの販路ではお祈りの時間がわかるようになっています。中東はイスラム教徒の方が多いことが理由です。

販路を拡大しようとする国や地域の文化を研究・熟知すれば、国内では売れゆきが良くない仕様やカテゴリの商品でも、海外では売れる可能性があります。そういうところに目をつけて、日本ブランドがどんどんシェアを広げていったらいいなと思います。

ベトナム、シンガポール市場はテストマーケティングに最適

――中国のほかに、日本企業の進出先として選ばれることが多い、ベトナム、シンガポールの市場はどのように見ていますか。

上田氏:ベトナムは少額の広告費でチャレンジしやすい市場として注目されています。

越境ECで食品などを扱う際に、避けて通れないのが各国の輸入規制。ベトナムの輸入規制は「DAV(Drug Administration of Vietnam)」というものがありますが、比較的取得しやすく、コストもあまりかかりません。ただし、越境ECの販路はなく、現地の小売店に商品を卸売りして販売する一般貿易のみです。

特筆すべきは、ベトナムは「TikTok」の利用が盛んなこと。ベトナムではTikTokアプリ内で商品を販売できるEC機能「TikTok Shop」もすでに展開しており、利用が拡大しています。1回のライブコマースで6億円売り上げたインフルエンサーもいるほどです。

シンガポール向けの販路は、キレイコムでは現地のテレビショッピングに出稿できるルートを紹介しています。「広告費を出したから取り扱われる」というよりも、現地のディレクターがきちんと商品を見て選定されたものだけ取り扱われるため、番組側がプロモーションをしっかりと作り込んで商品を売ってくれる印象です。こちらも、費用をかけずにテストマーケティングができる市場です。

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オリジナル記事:海外EC販路成功の秘訣は「地道なブランディング」「売り上げを焦らない」。プロが語る国内ブランドが取るべき戦略とは
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