ミッシングリンクを埋めるのがウェブの役割/日清食品 宣伝部 白澤勉氏
自社商品におけるネットの役割
「どう使うか」はその理解のうえで
日清食品 宣伝部 白澤勉氏
かわちれい子(CreatorsNet)
写真:佐治輝幸(OPR)
会社によって大きく異なる「ウェブマスター」の実態。所属部署は? 予算確保は? ワークフローは? サイトの目的は? 注目しているテーマは? さまざまなウェブマスターの姿を見ることで、これからのウェブマスター像を見出したい。
TV・雑誌・DVD・屋外広告のミッシングリンクを埋めるのが
ウェブサイトの役割
●かわち FREEDOM PROJECT、盛り上がってますね。
●白澤 そうですね。ここまで大きなコラボレーションは初めてなので、いろいろなサプライズがありますけれど……。
●かわち どのようなきっかけで始まったプロジェクトなんですか?
●白澤 カップヌードルは今年発売35周年を迎えるのですが、35年前にカップヌードルが発売されたときの商品コンセプトが「自由」だったのです。食事するときにつきまとう「調理の手間」や「食べる場所を限定すること」からの自由、ですね。そのコンセプトに立ち戻って、「自由」がキーワードに決まりました。
半年ぐらいプランを練ったのですが、従来のマスメディアだけでは刺さらないティーンやM1に向けて、カップヌードルのメッセージを届けるには、いろいろなメディアを使わなくては、ということで、コンテンツを中心にしたキャンペーンに仕立てていこうということになりました。コンテンツならば、通常では届かないところにもメッセージを届けるチャンネルが開けますから。たとえば、TSUTAYAの店頭で露出したり、Yahoo! JAPANで独占配信したりなんて形ですね。
●かわち 中でも、ウェブサイトの役割って大きいですよね。
●白澤 メディアにはそれぞれの役割があって、TVにはTVの、DVDにはDVDの、また、雑誌には雑誌の役割があります。今回のプロジェクトでは、そういったメディアのミッシングリンクを埋める役割をウェブサイトが担っています。
●かわち ここまで大がかりなプロジェクトになると、関わる人数も多いんですよね。一緒に仕事をする外部の方との連携も重要ですよね。
●白澤 そうですね、代理店の担当の方とは、もう、一心同体というか(笑)。ウェブサイトだけでなく「宣伝」全体の面倒をみてもらっていますから、業務は多岐にわたります。
●かわち どのようなコミュニケーションをとっていらっしゃるのですか。
●白澤 外部の制作チームの方には、「日清食品の考え方を理解してください」とお願いしています。ブランドロイヤリティを高める、リーチをとる、ターゲットをよく考える、という3つにつきるんですが……。日清食品のこと、商品のこと、そして、その商品を買ってくださるお客様のこと。これらをきちんと考えていくと、世間の成功事例が、必ずしも日清食品に当てはまるわけではない、ということがわかるんです。じゃあ、どうやったら成功するキャンペーンになるんだろう、ということを、長い時間かけて一緒に考えていきます。
予算がなければ智恵を絞る
評価を得られれば次につながる
●かわち 白澤さんがウェブサイトに関わるようになったきっかけはなんですか?
●白澤 誘われたんです。当時のリーダーに。彼は1人で頑張ってたんですけれど、仲間が欲しかったらしくて(笑)。宣伝部に異動して5年ぐらいですが、それまでは営業部で関東地区の問屋さんを担当していました。
●かわち 日清食品での宣伝部の位置付けは、どのようなものなのですか?
●白澤 日清食品は、プロダクトブランドを前面に打ち出している企業です。なので、それぞれのブランドは社内競合を起こしているんです。そんな中で、宣伝部はわりとフラットな立場でそれぞれのブランドの広告制作と媒体を扱っています。僕は制作チームにいて、5人ですべてのブランドを担当しています。
●かわち 異動して5年ぐらいというと、ちょうどGooTaが発売になった頃ですか?
●白澤 そうです。GooTaの発売当時は僕が担当していました。とても印象深いプロジェクトでした。
●かわち 話題になりましたよね。
●白澤 クロスメディアをちゃんとやった、ということだと思います。決して潤沢ではない宣伝予算の中で、GooTaがターゲットとする消費者とコミュニケーションするにはどうすれば良いのかと、知恵を絞った結果です。それぞれのメディアの溝を埋めるのに、ケータイをうまく使えたという事例ですね。もし予算が潤沢にあれば、あのキャンペーンは無かったかもしれません。
●かわち 話題になっただけでなく、評価も高かったですよね。
●白澤 おかげさまで(笑)。前例がないことをやろうとしているわけですから、誰も何もわからなくて大変でしたけれど、いい成功事例になったと思います。成功事例を積み上げていくことで、社内でもウェブサイトへの期待値が上がりますしね。次はウェブサイトをどう使おう、という前向きな考えにもつながります。社外で高い評価をいただくと、社内での仕事もやりやすくなります(笑)。社内では、ナレッジの共有も進めていますので、これまでのいろいろな経験がFREEDOM PROJECTには詰め込まれているし、また、FREEDOM PROJECTで得たナレッジも今後に活かされていきますね。
サイトの目的は
消費者との接点としての広告とロイヤリティ向上
●かわち 日清食品のブランドサイトはどのようなコンセプトや目的で運営されているのですか?
●白澤 サイトの目的は大きく2つですね。1つ目は、宣伝部が管轄していることもあり、消費者との接点として広告の役割を担うことです。こちらの目標は、広告ですのでリーチをとることが中心になります。非常に多くの方たちに食べてもらっている商品ということもありますので、できるだけ多くの人にサイトを訪れてもらうのが目標です。
2つ目は、サイトに訪れてくれるような重要なお客様を大切にするために、エンターテイメント要素を持たせて、楽しむことでブランドロイヤリティを高めてもらうことです。こちらは、サイト上の滞在時間やメール登録の会員数が指標になります。
●かわち 具体的には、どのようなコンテンツで構成されているのですか?
●白澤 チキンラーメンを例にすると、小さなお子様でも楽しんでもらえるような「チキラー島」を展開しています。ひよこちゃんをはじめとする「ちきらーず」のキャラクタを使用して、チキンラーメンの世界観を伝えるようなコンテンツになるようにしています。ぬり絵やゲームなどで楽しんでもらって、チキンラーメンを身近に感じていただくような努力をしています。
インターネットに浸かりすぎず
お客様と同じ世界にいるように
●かわち 白澤さんご自身は、インターネットはよく使っていらっしゃいますか?
●白澤 それが、あんまり使ってません(笑)。インターネットのことはインターネットのプロの方にお任せして、自分自身は自社ターゲットに近いところにいるようにしています。自分までが「インターネットのプロ」になってしまうと、どうしてもお客様不在になってしまいますから。
●かわち と言うと?
●白澤 日清食品の商品をよく買っていただく方というのは、インターネットのライトユーザーだと思うんです。そのような方に、やれブログだSNSだ、というコアなことをやっても、本当にメッセージを届けたい人たちに届かないんですよね。だからインターネットの仕組みをうまく使った他社さんの成功事例でも、お客様に合っていなければ日清食品ではうまくいかないかもしれない。
僕はケータイもそんなに使わないんですよ。メールも使いますけれど、顔文字とか使わないですし、基本的には電話として使っています。
●かわち じゃあ、電車に乗ったら即ケータイ、ということはしないんですね?
●白澤 そんなことよりも、人を見ていますね。通勤電車だと、自分の視界に入ってくる広告がどんなもので、その広告を見た人はどんな反応を示すか、とか。そのとき、ケータイは使われているのか、とか。そういうことを考えています。広告って、究極は商品を買ってもらうことだと思います。カップヌードルだと、ラーメンというシズルに寄せた表現をするか、自分のブランドだと思ってもらえるようなブランディングに寄せた表現にするかの2とおりのやり方があるのだと思うのですが、それを表現しきれるメディアの使い方に試行錯誤を重ねる毎日です。
●かわち そういった意味でいくと、ケータイの表現力はまだまだ?
●白澤 そうですね。まだまだ、足りないと思います。ケータイは、売り場と商品をつなげるツールだと思います。GooTaのキャンペーンではケータイを使いましたが、あれもコミュニケーションの溝を埋めるツールであって、決して、メディアではないんです。でも、おサイフケータイのような電子マネーがもっと普及していくと、コンビニエンスストアで売られている商品にも何らかの影響が出てくると思うので、無視はできないですね。日清食品の商品も、コンビニエンスストアで売られているわけですから。
●かわち ツールということは、工夫すればいろいろな使い方ができるということですよね。
●白澤 テレビを見ている人たちの行動もトラッキングできちゃいますね。ある特定の時間帯にTVCMを流すと、明らかにウェブサイトに訪れるユーザー数が増えるという現象が起きたりします。TVには「視聴率」という言葉がありますけれど、ウェブサイトをきちんとマーケティングに使うような設計にすると「視聴の質」も測ることができます。TVCMに積極的に関与している人たちを確実にとらえる広告のクリエイティブは明らかに存在すると思います。関与の薄い10人より濃い5人とコミュニケーションをとるほうが、我々としてはメッセージを伝えやすいですから。そのようないわゆるヘビーユーザーの方に繰り返し商品を買ってもらうようなことも考えなくちゃいけない、ということで、ウェブサイトでできるCRMを導入して、コミュニケーションの質を高めようとしています。
お客様が最初に触れるのは
企業名ではなくブランド名
●かわち 日清食品は、商品ブランドを前面に打ち出している企業である、とのことですが、ウェブサイトもブランドごとの展開ですね。
●白澤 広報部が管轄するコーポレートサイトはあるのですが、ブランドサイトはそれぞれ独自ドメインで運用して独自の世界観を出していますね。コーポレートサイトの下にブランドサイトが位置するのではなく、お客様がまず触れるのはブランドという形にしています。季節によって露出が増えるブランドもあったりしますが、主力のカップヌードル、チキンラーメン、どん兵衛、UFO、の4ブランドとその他のブランドそれぞれにブランドサイトがあります。
●かわち ブランドごとにユーザーの特性も違うでしょうから、独自ドメインでそれぞれの世界観を表現するのが理にかなってますよね。
●白澤 そうですね、販売チャンネルも違いますから。カップヌードルは10代から30代の男性が多いですが、袋麺はきっと主婦の方が購入されているんだろうな、と。袋面は簡単とはいえ調理する手間がかかりますし、スーパーマーケットで5食パックがよく買われているというようなこともありますから、そういったことを考えて生まれているのが、カップヌードルのFREEDOM PROJECTや、チキンラーメンのチキラー島のようなコンテンツなんです。最近では、どん兵衛がキツネのキャラクタを押し出したりして、これも独自の世界を展開していますね。
●かわち 「自社媒体」の特性を、とてもうまく使っていらっしゃいますよね。
●白澤 そうですね。自社商品におけるインターネットの役割を、きちんと考えないといけないと思います。企業や商品によってバックグラウンドはさまざまなので、それらをきちんと理解したうえでウェブサイトをどう使うかということを考えなくちゃならないと思います。
たとえば、日清食品ではウェブサイトをエンターテイメントとブランディングに貢献するようにと考えていますが、我々の考えが他社で通用するかというと、そうはいかない。エンターテイメントの要素が邪魔になる場合もあるはずですよね。FREEDOM PROJECTにしても、若い世代をしっかりつかむにはどうすればいいかと考えたうえでメジャー度を高めてきました。ウェブサイトのような自社媒体が強力なパフォーマンスを発揮しているからこそのプロジェクトの盛り上がりでもありますしね。
●かわち 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.3』 掲載の記事です。
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時(2006年11月)のものです。
http://freedom-project.jp/
FREEDOM PROJECT
カップヌードルのCMとアニメーション作品の融合というかつてない広告手法とコンテンツビジネスの連動したプロジェクト。
最終的には30分×6話のオリジナルビデオアニメのDVDを販売するプロジェクト。23世紀の少年たちがFREEDOMを勝ち取る物語に、カップヌードルのテーマ「真の自由=FREEDOM」が託されている。キャラクタ設定が「AKIRA」の大友克洋氏、主題歌を宇多田ヒカルさんということで話題を呼んだ。
各チャンネルでの展開
4月10日 | 屋外広告やTVC、ウェブサイトで予告カウントダウン開始 |
4月末 | ウェブサイト、雑誌広告、TVCM本格スタート |
6月 | Yahoo! JAPAN上で広告展開 |
9月18日 | カップヌードル35周年。 Yahoo! JAPANでFREEDOM特別編を先行 配信 |
10月27日 | 「FREEDOM previsited」DVD発売 |
11月17日 | 本編「FREEDOM1」をYahoo! JAPANで先行配信 |
11月24日 | 本編「FREEDOM1」DVD発売 |
日清食品の会社概要(2006年3月31日現在)
- 設立:1948年9月
- 資本金:825,122,718,774円
- 従業員数:1,411名
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