Webサイトレビューで見つかる“小さな傷”――なぜかなくならない単純な失敗
[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン
フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。
主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。
ウェブサイトレビューアの隠れた辛さ
あなたが今日一日の辛かったことを日記に書くとすると、どういう気持ちになりますか? 朝は目覚めが悪かった、シャンプーが切れていた、地下鉄に乗ったときに席がなくて満員電車で立ちっ放し……などなど。これを書き続けると疲れますよね。
アナリストが、ウェブサイトをレビューしているときも、同じ気持ちになります。1つひとつの障害、欠点を見つけては記録していく、それを繰り返し行わなければいけないというのは、実は大変疲れる作業なのです。
また、ウェブサイトレビューの作業を通じて、そのウェブサイトがどれだけ多くのユーザーを傷つけているかに気付きます。1つひとつの傷は小さくても、小さな傷がたくさん重なって、全体のイメージが悪くなっていることが多いのです。
逆に、サイトの良いところを記録するときは気持ちがいいのです。たとえば、頻繁に使う航空券購入サイトを訪問して、ホームエアポートが自動的にいつも利用する成田空港に表示されているときなど、スムーズに次に進めるので、大変気持ちがいいものです。
とはいえ、実際には、良いことよりも障害や欠点のほうが多いのが現状です。私も初めてウェブサイトレビューをしたとき、辛かったのを覚えています。同僚に相談したら、「サイトが悪ければ悪いほど、時間がかかる。でも、その分、ユーザーの痛みを共感できる」と励まされました。そして、お客様にとってはこれが改善のマニュアルになり、大変価値のあることだとわかったとき、やりがいを感じたのを今でも覚えています。
ウェブサイト制作にかかわっている人も痛みを負う
ウェブサイト制作にかかわっている人、特にサイトオーナーの中には、自分のサイトを我が子のように思っている人もいます。努力して作り上げた傑作。だから、レビューで他人から障害や欠点を指摘されても、受け入れにくい場合が、しばしばあります。
フォレスターでは、時間のないエグゼクティブのために、レビューの結果についてサマリープレゼンテーションを行ったりしていますが、そういった制作者のアレルギー反応を見ることは珍しくありません。
とはいうものの、レビューの結果は、ユーザーの立場から見た結果に基づいていますので、はっきりとした根拠があり、最終的にはみなさん納得されます。たとえば、社内だけでしか使わない専門用語がサイトに使われてることが、しばしばあります。この問題には、第三者から見てもらわなければ、いつまでたっても気付かないものです。私がプレゼンでそれを指摘すると、「なるほど、言われてみれば」と思わず納得されるのです。
企業がこの痛みを乗り越えて、問題解決のためのリニューアルに取りかかったとき、お互いに痛みが取れるのを感じます。先日も、あるヨーロッパの大手企業にプレゼンテーションを行い、このことを実感したところです。
まだまだ絶えない単純なミス
ウェブサイトのレビューを行っていて、不思議なくらい、シンプルかつすでにわかりきった問題が改善されていないケースを見てきました。
たとえば、文字のサイズ。文字が小さすぎるとせっかくの良いコンテンツも読めずに台無しです。どこまで小さな文字が読めるかは、すでにいろんな企業や大学で検証済みで公表されていますが、それでもまだ文字が小さすぎるサイトがたくさんあります。
“Once bitten twice shy”
~一度噛まれたら、二度目は用心深くなる
デザインの問題があるとわかると二度と同じデザインを作らないはずなのに、多くのサイトがまだこの問題を抱えています。ウェブが若いビジネスということもありますが、「小さい文字」に代表されるように簡単な失敗を続けているのは、おかしいですよね。
しかも、これは費用もほとんどかからず簡単に直せるはずです。
競合企業のサイトを真似して一緒に失敗するケースも
ここで少し例え話を。
2人の男が米国の国立公園でハイキングをしていたときに、クマに遭遇した。
クマは興奮して彼らに向かって走り出したとき、1人がハイキングシューズからランニングシューズに履き替えた。
もう1人がそれを見ながら言った
「そんなの履いてもクマよりも早く走れるわけがないじゃないか!」
すると、靴を履き替えた男は言った。
「それはわかっている。君より早く走れればいいんだよ」
ウェブサイト担当者も、競合他社のサイトだけを気にするケースが多々見られます。それが、良かろうと悪かろうと……。しかし、そこには2つの落とし穴があるのです。
1つは、真似をすると、そのサイトよりもいいサイトを作ることはできないこと。そして、もう1つは、悪いところを真似してしまうことです。
たとえば、自動車業界のサイトでは、大きなグラフィックがページの大部分を占めていて、肝心な情報が端に追いやられてしまっているケースが多々見られます。
小さな障害も集まれば大きな傷
繰り返しますが、ウェブサイトでは1つひとつは小さな障害や欠点が、積もり積もって大きな問題になってしまいます。
米国のテレビドラマ“The West Wing”で大統領が再立候補する際に雇ったコンサルタント、ブルーノ・ジネリーはこう言いました。
立候補者はみんな船みたいなものだ。船体に海草などがついていると、それがブレーキとなってうまく進まなくなる。
それと同じく、立候補者のメッセージがわかりやすくて、価値や良さがわかれば順調に進むけれども、疑いがあったり信用ができないなど心配があれば、進めなくなる。
逆に、競合者に障害がなければ、乗客はそちらに乗り変えるだろう。
ウェブサイトのデザインにも同じことが言えます。小さな障害が大きな障害となる。いくらすばらしいブランドを打ち出しても、ユーザビリティが良くなければ、進まないようになるのです。
だからこそ、小さな問題を繰り返し行うことをサイトデザイナーは許すべきではないのです。
まずは、すぐに簡単に修復できることはたくさんあります。それをしないのは、もったないです。ぜひできることから始めてください。
エキスパートレビューは、自社では気付かない問題を発見できる有効なメソロドジーです。次回は、実際にエキスパートレビューを使って良くなった事例などを紹介したいと思います。
コメント
銀行のサイトも同じです
自動車業界ばかりでなく、銀行サイトもみんな横並びです。INGやFirstDirectのようなサイトがあっても良いのにと思います。
Re: 銀行のサイトも同じです
編集部の安田です。コメントありがとうございます。
ホテル業界も同じようなサイトが多いですね。
でも、だからといって「同じだから違うようにする」という考えで変えようとすると、これまたおかしくなってしまうんですよね。
やはりここは、「ユーザーにとって役に立つサイト、使いやすいサイト」という視点で突き詰めていくのが大切なのではないかと。まぁ、どこかが良い仕組みを実現すると、他のところがまねをしちゃうものなのですが……。
ING Direct
ING Direct のトップ・ページはものすごくシンプルで魅力的ですね:
http://home.ingdirect.com/
Re: ING Direct
編集部の安田です。
この「jb」さんは、筆者のジョナサンさんです。わかりにくいユーザー名表示ですいません。
確かに、ING Directのトップページはシンプルに目的別でユーザーを振り分けている良い例ですね。
最近では日本の地方自治体のサイトが、さまざまな目的でサイトに来る人に対して、トップページでどのように情報を見せるかをがんばって工夫していますね。それでもやはりトップページには情報がたくさん詰まっているので、ING Directのようなシンプルなトップページは斬新で魅力的です。