落とし穴だらけ!CMS都市伝説
第三回
「コンテンツ投入機能」は万能じゃない
機能タイプごとの特徴を知る
いまやウェブサイトの運営にCMS(コンテンツ管理システム)は欠かせない。サイトのコンテンツ更新コストの削減、トラブルのないワークフローの確立、サイト全体にわたるデザイン変更、他のシステムとの連携によるコンテンツ表示など、CMSで実現できることは多く、ウェブサイト運営の要ともなり得る。
しかし、CMSは単に導入すればいいものではない。サイトの性質や組織によってどのCMSを選べばいいのかや注意すべき点などは異なる。間違ったCMS導入をしてしまうと、コストばかりかかって効果を得られない結果を生んでしまう。成功と失敗を分ける要因は何か。世にはびこるCMSに関する「勘違い」「理解不足」による都市伝説をあげながら、正しいCMS導入を解説しよう。
石村雅賜(株式会社ビジネス・アーキテクツ)
CMSを導入すれば、知識がない現場のスタッフがコンテンツをどんどん更新できるようになる
「コンテンツ投入機能」に込められた2つの要望
CMSの代表的な機能の1つとして、HTMLやCSSの専門知識がなくてもページを投稿できる「コンテンツ投入機能」があげられる。実際に、編集部で取材しているCMSの導入事例でも、CMS導入の目的を「現場のスタッフがコンテンツを更新できるようにして、情報の鮮度と更新頻度をアップする」こととするプロジェクトも多い。
しかし、CMSを導入してコンテンツ投入機能を利用している企業から聞かれる声には、「社内でコンテンツ更新ができるようになった」という声と、「使いにくくて役に立たない」という声の両方がある。
今回は、さまざまな種類のものが存在してわかりにくい状況になっている「コンテンツ投入機能」を、タイプ別に分類することで、成功と失敗を分ける要因を探ってみるとしよう。
CMSの導入を検討するにあたって「コンテンツ投入機能」に注目するサイト管理者の思いは、以下の2点に集約できる。
- 外部ウェブサイト制作会社への発注金額を削減したい。
- コンテンツ更新ニーズが発生してから公開するまでのリードタイムを短縮したい。
外部のウェブサイト制作会社を利用することの問題点(外注費がかかる。依頼しても作業完了までに時間がかかる)を抱えているサイト管理者が多く、その問題の解決をコンテンツ投入機能に期待しているのである。このような背景から、外部の制作会社に更新作業を依頼するのではなく、自社でコンテンツを更新できるようにすることで、金銭コストと時間コストの両方を削減したいという要望が出てくるのだ。
製品の特徴とニーズのミスマッチが生む都市伝説
企業内において、担当者のスキルを問わずにコンテンツを更新するには、更新時に利用するツールは、HTMLやJavaScriptの専門知識がなくても利用できるツールである必要がある。
このニーズに対応すべく、CMSベンダーはさまざまな形式でコンテンツ投入機能を提供し、「HTMLがわからなくても簡単な操作で更新可能」とか「大量のコンテンツを一括で自動生成」といった謳い文句で売り込んできた。
この謳い文句は決してウソではないが、注意しなければいけないのは、現状では万能なコンテンツ投入機能というものは存在せず、どの製品も、特化というほどではないにしろ、何らかのシチュエーションに対応すべく設計されているということだ。
ところが、こういったツールを売る側も導入する側もそれぞれの思惑が強く、導入企業の現状や要望に合わない製品を無理に適用してきている例が多いのが、ここ数年の状況だ。これにより、「CMSを使えばコンテンツ更新が楽になる」とか「CMSは使えない」といった両極端の評価が生まれることになったのだ。
シチュエーション別で選ぶコンテンツ投入機能のタイプ
どんなCMSを導入すれば失敗しないのかを判断するためには、自社の状況とニーズに合ったコンテンツ投入機能を持つCMSを選ぶことが大切だ。コンテンツ投入機能は、大きく4つの種類に分けられる。
入力フォームタイプ
WYSIWYGエディタタイプ
コンポーネント組み立てタイプ
オフィス文書変換タイプ
CMSによっては複数のタイプを利用できる場合もある。では、それぞれの特徴を見ていこう。それぞれ得意不得意なシチュエーションが存在するので、サイトの内容や更新担当者の作業内容を踏まえて適切なツールを選択する必要がある。
1.入力フォームタイプ
あらかじめ用意された入力フォーム形式のユーザーインターフェイスに沿ってコンテンツデータを入力していくタイプ(図1)。入力できる段落やセクションを増やしたり、使用フォントなどを指定したりといった機能を備えるものもある。
一部のコンテンツから適用していくことが可能なので、現実的にはこのタイプを利用しているケースが多いが、ページテンプレートの種類ごとに開発が発生するということから、すべてのコンテンツに対して適用できるケースはほとんどない。
長所
- 実際に入力する人はHTMLなどの知識は必要ないため、事業部の現場のスタッフでもコンテンツを更新できる。
- ページの種類ごとに異なる入力項目を柔軟に設定できるため、どんなページにでも対応できる。
- 必須項目が入力されていないと警告を出すなどの処理が比較的簡単に実現できる。
短所
- ページの種類ごとにどんな入力項目が必要なのかを設計し、出力テンプレートと併せて入力画面を作る必要があり、テンプレート化のコストがかさむ。
- 標準の入力項目しか利用できない場合はテンプレート化の工数はかからないが、その代わりに、ページ上に掲載するコンテンツを柔軟に変更できない。
- 「本文」のような大きな範囲を入力項目にしている場合、その中でのデザインにはコンテンツ投入者がHTMLのタグを入力する必要がある。
2.WYSIWYGエディタタイプ
ワープロソフトのWordのように、ページにどのように表示されるのかを画面で見ながら文字を入力したり色を変更したり太字にしたりできるタイプ(図2)。
最も柔軟性が高く、小規模のサイトでは有用だが、ユーザビリティやアクセシビリティなどのガイドラインを徹底するのが難しいため、大規模サイトには向かない場合もある。
長所
- HTMLなどの知識がなくてもワープロソフトを使える人ならばだれでも使える。
- 「本文」のような大きな範囲の入力項目でも、その中でのデザインを入力者が自由にできる。
短所
- 自由度が高いために、アクセシビリティの考慮やデザインルールを徹底するのが難しい。
- デザインのルールが徹底されていないと、蓄積したコンテンツのタグなどをあとから統一して変更する場合に1ページずつ手動で変更していく必要がある。
- 慣れた人が使うには、自由度が低かったり、HTMLを書くよりも手間がかかったりする。
閲覧者がサイトを見ているときとほぼ同じ画面でページのコンテンツを編集できる「ライブページ編集」が可能な製品もある(図3)。この場合、作業者ごとに、コンテンツ部分だけ編集できる権限、メニュー部分も編集できる権限などを設定できる。
3.コンポーネント組み立てタイプ
ページの一部の要素をコンポーネントとして技術者が開発し、更新担当者はそのコンポーネントをWYSIWYG的なエディタで貼り付けるといった方法でページを生成できるタイプ(図4)。「入力フォームタイプ」の問題や「WYSISYGエディタタイプ」の問題を解決する新たなトライだといえる。
- HTMLの知識がなくてもガイドラインに沿ったコンテンツの更新が可能となる。
- コンポーネントの組み合わせで異なるレイアウトのページを作ることが比較的容易となる。
- オブジェクトの位置が完全固定されてしまう場合がある。
- JavaScriptが必須だったりアクセシビリティが犠牲になってしまったりする場合がある。
4.オフィス文書変換タイプ
WordやPowerPointで作ったファイルをHTMLに変換してページを生成するタイプ。専用のインターフェイスにオフィス文書ファイルをドラッグ&ドロップすればサーバー側で適切なHTMLに自動的に変換してくれる(図5)。
- オフィスアプリケーションを使える人ならば現場のスタッフでもだれでもコンテンツを作れる。
- 社内で作成した既存の文書を手軽に公開できる。
- コンテンツのデザインやアクセシビリティなどを統一するのが困難。
- 蓄積したコンテンツのタグなどをあとから統一して変更する場合に1ページずつ手動で変更していく必要がある。
CMSとは「コンテンツ管理システム」の略だが、実はCMSによって、「ページ」を管理するものと、「コンテンツ」を管理するものがある。
安価に導入できるツールの多くはCMSといいながらも実際は「ページを管理」するものである場合が多い。ページごとにコンテンツを入力する構造のため、あるコンテンツを複数のページで利用するようなことは実現できない場合が多い。その代わりといっては何だが、入力したコンテンツがサイト上でどのように表示されるのかなどを設計するのは比較的簡単で、直観的に使える場合が多い。
比較的高価なツールに見られる「コンテンツを管理」するタイプのCMSでは、入力するコンテンツは必ずしもページと一対一対応するとは限らない。入力部分と出力テンプレートの設計と実装に工数がかかるが、そのぶん入力したコンテンツをサイト上でさまざまな形で利用できるため、大規模なサイトでは有用だろう。
まずはフォーム型だが、費用対効果を検討
コンテンツ投入機能の基本タイプは入力フォーム型で、ほとんどのCMSではこの方式は利用できるため、まずは入力フォーム型の利用を検討することになるだろう。しかし、使いやすいフィールドの設計と入力画面/テンプレートの実装には、必ずといっていいほど何らかの工数がかかる。CMSによっては、この工数が必須で、設計しなければ一切使えないものもある。このコストはページの種類が増えれば増えるほど高くなり、導入初期にCMS本体のライセンス料と同じだけ、またはそれ以上のコストがかかってしまう場合もある。
CMSを導入してコンテンツ投入機能を利用する場合、その適用範囲を検討する際にROI(費用対効果)を考える必要がある。ROIを測る場合の「価値」と「コスト」としては、次のような点があげられる。
CMS導入によって創出される価値
- 外部業者に更新を依頼するコストの削減分
- 各更新のリードタイム短縮によって得られる時間
- ガイドライン遵守率の向上によって得られる改善
CMS導入時にかかる「コスト」
- 「コンテンツ投入機能」の開発費
- 作業者が機能を理解するためにかかる教育費
「価値」はコンテンツ投入機能を利用したコンテンツの更新回数に応じて増大し、「コスト」はテンプレート化する範囲によって調整できる。
極端な話、テンプレート化のコストが1億円かかったとしても、それによって制作会社に支払う金額が数年スパンで1億円削減できるのならば、更新リードタイムを短縮できることと相まって良いROIを実現できることになる(更新の作業をするスタッフの人件費は考慮する必要はあるが)。逆に、50万円で導入できたとしても、あまり価値が創出されないのであれば、費用対効果は低いと判断するべきだろう。
組み合わせや適用範囲で判断
適切なタイプの選択と費用対効果を考えるにあたっては、次の2点も重要だ。
- どんな人が実際に更新作業を行うのか。スキルは? 人件費は?
- サイトのコンテンツは何ページぐらいで、導入後はどんな情報をどれぐらいの頻度で更新するのか。
サイト全体のコンテンツ数が少ない場合や、コンテンツ更新の頻度があまり高くない場合は、テンプレート化が必要な入力フォーム型よりも、WYSIWYGエディタ型を選んだほうがいい場合もあるだろう。
逆に、「便利そうだから」とWYSIWYGエディタ型を選んでも、結果として定型のページを更新するのに入力フォーム型よりも余分に時間がかかってしまったり、ガイドラインに沿わないページばかりになってしまったりするようでは、逆効果だろう。
入力フォーム型を使う場合でも、必ずしもすべての種類のコンテンツにフォームを用意する必要はない。頻繁に更新される部分だけテンプレート化するという方法もある。めったに更新されないコンテンツに関しては、外部業者に制作してもらったHTMLをコンテンツの部分だけ切り出してまるごと本文として扱えばテンプレート化のコストを減らせる。
注意しなければいけないのは、一度テンプレート化したコンテンツに関しては、ページで表示する情報の構造を変えるには、入力画面も表示のためのテンプレートも改造する必要があり、さらにコストがかかるということだ。つまり、コンテンツ投入機能の開発の前に、サイト全体とページ種類ごとの情報構造を綿密に設計しておくことが中長期的な費用対効果の改善に役立つのだ。そこに失敗すると「使えない」CMS導入の事例が1つ増えるということになる。もちろん永遠に同じ情報構造のままでサイトを運営できるわけではないが、将来を見据えてしっかりと設計しておけば、次に改造するまでの期間を長く確保できるはずだ。
コンテンツ投入機能のタイプを適切に選び、ROIの検証に基づいた設計を綿密にできるかどうかが、CMS導入の成否を分けるのである。
- コンテンツ投入機能に種類を理解する。
- テンプレート化などの工数と導入で生まれる価値で費用対効果を検討。
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