コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の六十六
ウェブ担当者に必要な力
先日とある企業の方から問われました。
「ウェブ担当者にもっとも必要な能力はなんでしょうか」
担当者を任命するにあたって選考基準にしたいというのです。また、「これを尋ねれば技術的な実力がわかる質問」も教えてほしいと加え、最後に「仮に適任者がいなければ何から教えていけばいいのでしょうか」とたたみかけます。
大変難しい質問であることを断った上でこう切り出しました。
「教えるのであればホウレンソウ(報連相)を」
4月。新年度の始まりに「心得」恒例の勝手に連続企画「新社会人ウェブ担当者のための心得 報連相考察」をお届けします。
素人を小馬鹿にする技術者
必要な能力は後述しますが、この場合の「能力」とは技術や知識、経験といった「技能」です。制作者としてもホームページビルダーが使えればいいのか、フォトショップやイラストレーターが使えて、なおかつ「物撮り(ブツドリ:商品撮影)」までを守備範囲とするかでは次元が違いますし、制作業者を上手に使いこなすには交渉力や管理能力が要求されます。
禅問答のようですが、欲するところを見つけていない人に具体的な指摘は危険です。また、うろ覚えの技術的な質問によって相手に「素人」と小馬鹿にされては目も当てられないので、やめておいた方が無難です。
最後の「何を教えるか(または覚えるか)」という企業の相談は多く、パソコン教室やセミナーに通わせた方がいいのかと続きます。「勉強方法」は個人の性質にも依りますので一般論に留め、そこでも「報連相」の重要性を説くことにしています。
ホウレンソウを育てましょう
その日暮らしのフリーター生活から、社会復帰のために潜り込んだ広告代理店営業部。初出社の際、最初に目に飛び込んできたのが「ホウレンソウ(報連相)を育てましょう」という貼り紙でした。
「報連相」とは「報告」「連絡」「相談」からの造語で、山種美術館名誉館長の山崎富治さんが社内コミュニケーションのために発案されたものだといわれています。報告は縦、連絡は横、そして相談は集団のコミュニケーションを密にし、風通しの良い組織を目指すためのスローガンでした。しかし実際には、部下を叱責する際のお題目や、行動を「管理」するためのルールとして用いられることが多く、広告代理店に自由闊達なイメージを抱いていた私は違和感を覚えたものです。
許される担当者と飛ばされる担当者
何度か指摘しましたが「ウェブ担当者」は誤解されやすい職種です。理解不足のオジサンからは「遊んでいる」といわれ、予算も人材も十分に与えられずに「コカ・コーラ」のサイトと比較され、どこかで聞きかじってきた上司が「SEO対策とは」と文法の間違ったご高説を垂れます。特に「非IT系企業」のウェブ担当者の自由(裁量権)はわずかで、知識と情熱とセンスを総動員した提案は、「素人」にズタズタにされ、返す刀で「結果は?」と切り捨てらます。
ウェブ担当者に必要な能力は「コミュニケーション能力」です。周囲の無理解と抗するためにも必須能力です。また、重大なトラブルの際に「許される担当者」と「飛ばされる担当者」とわかれるのはコミュニケーション能力に依るところが大きいのです。
ビジネスでのコミュニケーション能力は「人当たり」や「馴れ合い」ではなく、信頼に足る人間関係を構築するためのものです。許される担当者は信頼されており、「報連相」に取り組むことで信頼関係を構築する基礎を学ぶことができます。
入社3年目に新事業を立ち上げることができたのは「報連相」のお陰です。
報連相――光の章
報告は面倒なものです。同じ話を繰り返えして、書面提出の上、口頭で説明する二度手間は日常茶飯事です。作業の開始や終了などは、予定通りでも「予定通りです」という報告は欠かせません。連絡も同様です。回覧を廻しても手応えはなく、メールでの一斉配信も右から左へ受け流されているかのようです。
相談にいたっては迷惑がられることもありますし、答えを貰えないことの方が多いでしょう。しかし、それでも報告を心がけ、連絡を密にし、まめに相談をします。
自分の混乱に他人を巻き込もうとする「大人」は残念ながら多く、報連相を過剰に求めるのは「わかっていない大人」だったりします。自分の理解不足を補うために、逐一状況説明を求め、見当違いの口を挟み、現場(ウェブ担当者)を混乱に陥れます。「非IT系企業」ではよくある風景です。
報連相を「活用」することで、円満に彼らを大人しくすることができます。
なんとなく納得させるという大人技
「挨拶」はコミュニケーションの基本です。報連相を「挨拶」のように使います。些細なことでも報告し、知っていることでも連絡し、誰でも答えられることを相談します。極端にいえば「おはよう」「こんばんは」ぐらいの頻度で。
「マメ」さは男女間でなくとも互いの距離を縮め、信頼関係を構築し、無理難題を言い難くさせます。ウェブはわからなくても「人」が理解できれば、「なんとなく安心」し、混乱は収束へと向かいます。そして他人との接触時間の多さが、ウェブ担当者のコミュニケーション能力を高めてくれ一石二鳥です。
但し、報告で労い(ねぎらい)の言葉を、連絡で理解を、相談で答えを……望んではいけません。報告には適切な指示がでて、連絡にリアクションがあり、相談すれば最善策を示してくれるという「ハウツー本」にある「報連相」への期待を捨てるのもポイントです。次回で詳しく触れますが、上司を買い被ってはいけません。
技術や経験は外注したり、勉強することで「仕入れる」ことができます。しかし、コミュニケーション能力はそうはいきません。そこを、学ぶために「報連相」を勧めるのです。
次回はさらに踏み込みます。報連相の「活用法」について。来週号は上司には見せないことをお勧めします。
♪今回のポイント
報連相はコミュニケーション能力を磨く道標。
最初から多くを求めてはいけないのは男女の仲と同じ。
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