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Web 2.0が救う世界に忘れられる日本の危機/書評『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』

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『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』

評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)

ブログからスタートした米国在住ITママの現代日本分析
ボトムアップで「ゆるやかな開国」をするための道を考える

  • 海部 美知 著
  • ISBN:978-4-7561-5133-9
  • 定価:724円+税
  • アスキー

著者の海部美知さんは、シリコンバレー在住のITコンサルタント。子育て中の主婦でもある。その海部さんがご自身のブログ「Tech Mom from Silicon Valley」に「『日本はもう住みやすくなりすぎて、日本だけで閉じた生活でいいと思うようになってしまった』、つまり誰からも強制されない、『パラダイス的新鎖国時代』になってしまったように感じたのだった」と書いたのは、日本で夏休みを過ごして米国に戻った2005年7月28日のことだ。「パラダイス的新鎖国時代到来? ―いいのかいけないのか?」と題したこの記事は、その後シリーズで展開され、コメントやトラックバックで多くの反響があった。本書は、そのブログの中で読者と交わされたやりとりをベースに、「パラダイス的新鎖国」という仮説をさまざまなデータで検証し、まとめ上げたものである。

たしかに海部さんが指摘するように、最近の若年世代は、海外旅行に行かなくなった、聴く音楽は主にJ-POP、映画は邦画が中心、といったように、外国に対する関心が低下していることは、評者自身も感じていた。本書によると、「パラダイス鎖国」的傾向は、若年世代のみならず、さまざまな産業分野でも伺うことができるという。

本書の冒頭では、2008年1月にスイス開催されたダボス会議で「Japan: A Forgotten Power?」というセッションが開かれたことについて、「実はいまでも『大国』であるはずの日本が、貿易摩擦の時代も遠くなり、世界から忘れ去られつつあるというのだ。豊かさゆえに、その是非にかかわらず変化せざるをえないという時代の流れを受けて、最近では日本の国際競争力が落ちているのではないかとの懸念が取りざたされている」と述べている。

本書では、「閉じていく日本」と題した章の中で、各種の国際競争力の評価、大国10カ国のGDPと輸出貢献度、アジア諸国の国別経常収支といったデータを引用しながら、凋落しつつある日本の現状を分析。続いて、「日本の選択枝」と題した章では、「パラダイス鎖国」から抜け出すための、開国への道を、さまざまな観点から検討する。いまや、「デジタル・チープ革命」の影響をもろに受けた分野では、従来の「日本型のプロセス効率化」戦略はもはや通じなくなっているとして、Web 2.0によって利用可能になった双方向のコミュニケーション環境をベースとした、個人レベルからのボトムアップ戦略、「息長く、自然にグローバル化していく『ゆるやかな開国』」という方法を、海部さんは提唱する。政策や企業戦略を披露するのではなく、ひとりの普通の人間が変わることからスタートするというのが、“ママ海部”さんらしい発想だ。

個人のちょっとした変革が、多くの人を巻き込んで「クラスター化」し、やがて「ゆるやかな開国」へとつながるという戦略に対しては、賛否両論それぞれあるだろうが、彼女の子供のたちが活躍する次の時代には、「忘れられた大国」であってほしくないと願う気持ちは、誰もが素直に受け入れられるであろう。

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