ニュースリリースは、メルマガと同じ感覚で
ニュースリリースは、メルマガと同じ感覚で
NECでは、ニュースリリースによる情報発信も活用しています。採用を検討するにあたって、広報を統括しているコーポレートコミュニケーション部に相談した朝火さん。マスコミ向けの広報ではなく、「ネットを活用したプロモーションツール」としてカスタマーリレーション推進本部でニュースリリースを利用することにしたそうです。
「広報はプレス向けのリリースが中心。一方で、私たちカスタマーリレーション部門からすると、ウェブのニュースリリースは一般向けの情報発信なので、メルマガやバナー広告などWebプロモーションに近い感覚なのです」(NEC・朝火氏)
発表する内容については、広報部に確認を依頼するそうですが、タイムラグや修正対応などのワークフローでの問題はなかったのでしょうか?
「広報のメンバーとは、密に連絡をとるようにしています。NECの広報案件と内容が重複しないように配慮をするなど、配信予定やリリース原稿などを事前に連絡することで、連携をとっています」(NEC・朝火氏)
NECソフトでは、プレスリリースとニュースリリースをどのように考えているのでしょうか?
「私たちも、プレスリリースとニュースリリースはまったく違うという考え方でとらえています。PRを戦略的にマーケティングに組み込んでいくという発想です。支社の営業や支社独自のニュースは、広報サイドからプレスリリースとして情報発信しづらいですよね。元気のある地方の支社のイベントなどの小さなニュースを情報発信するツールとして、ニュースリリースを活用しています。
逆に、プレスリリースでありがちな人事や組織改正などの(一般の人にとって)おもしろくないものは、ニュースリリースとしては掲載していません」(NECソフト・野坂氏)
目的にあわせて、ニュースリリースの活用方法も運営方法も異なる両社ですが、とはいえ、「お客さま側からすると、ニュースリリースもプレスリリースに見えるのも事実です」と朝火さんが指摘しているように、リリースだけでなく、広告も含めて、企業から発信される情報としてユーザーが受けとめているという視点が大事だと思います。
C&Cユーザーフォーラムで実感した「リリース=コンテンツ」
「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO」は、カスタマーリレーション推進本部で企画・運営している展示会です。2008年11月に開催された「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2008」では、開催に関連するニュースリリースを6回も発信しています。どういう目的でリリースの内容や回数を分けたのでしょうか?
- NEC、「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO 2008」の事前登録受付を開始(2008年10月1日)
- NEC、「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO 2008」にて、宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟のロボットアーム操作のバーチャル体験が可能(2008年10月30日)
「今回はリリースの内容を、『事前告知』や『見どころ紹介』などに分けて情報発信しました。イベント告知のマスプロモーションやバナー広告はもちろんこれまでと同様にしているのですが、雑誌や新聞広告では伝えきれない内容をリリースで伝えるという試みです。あらかじめリリース発信のスケジュールを決め、それにあわせてランディングページとしてのオフィシャルサイトも公開しました。そこから確実に申し込みへの導線を作ったんです」(NEC・朝火氏)
「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO」は大きなイベントであり、展示内容もさまざまです。「展示によってターゲットが違うので、ターゲットごとに分けて伝える」ためにニュースリリースを活用したという朝火さん。ニュースリリースは告知だけでなく、「SEO施策の要素」や「ブランディング要素」も強いと言っています。
結果として、一連のニュースリリース経由で、実に150人以上の方がイベントに事前登録されたことが検証され、そのコンバージョン率は20%以上だったそうです。メールマガジンで培ってきた経験をニュースリリースに応用した今回のリリース活用マーケティングの手法は、一定の評価を得られたようです。
「今回は実行できなかったのですが、メールマガジンでよく使う手法をニュースリリースでも使うという考え方があるんです。何回かニュースリリースを出していって、会期が近づいた段階では、ニュースリリースの誘導先をランディングページではなくて直接申し込みページに飛ぶように切り替えるという手法です。しかも、ニュースリリースを最初に表示した状態でURLが見えるようにして。そうすると、ニュースリリースがランディングページの役割をするようにできます。ニュースリリースがメディアでありコンテンツそのものであるという考え方ですね」(NEC・朝火氏)
担当者に求められるのは、経営企画的な視点
さまざまなバックグラウンドを持った人が集まってスタートした企業のウェブ部門ですが、大企業においても、Web担当者は不足しているのが現状です。ウェブを統括する立場から見てお二人は、どんなスキルや視点がウェブ担当者に必要だと考えているのでしょうか?
「私たちがいま求めているのは、スペシャリストではありません。いま必要なのは、戦略・方針を描いてルールを作り全社レベルで推進できる人です。経営企画的な要素がいまの企業サイトには必要なのです。あとはやはり、Webコミュニケーションの仕掛けを運営システム的な面も含めて理解できる人ですね。
私自身、以前にBIGLOBEに所属したスキルが今、大いに役立っています。宣伝広告・プロモーションの考え方も、マス広告ではなくウェブ中心で検討する習慣がついていたので、メディア・ツールとしての企業サイトの重要性や、プロモーションにおけるメディアニュートラルの考え方は非常に納得できました」(NEC・朝火氏)
一方、より営業的、マーケティング的な視点でアプローチをしているNECソフトの場合はどうでしょうか?
「そうですね、唯一求めているのは『常に発信していくこと』でしょうか。自ら発信する人しか情報収集はできないですから。新人には『ブログを書け』と言っています。あとはコミュニケーション能力。(オンラインマーケティングへの理解促進のために)プレゼン資料を作ってグループ内で説明するよりも、メンバーに『明日の広告』(佐藤 尚之著)を読んでもらった方がより理解してもらえたというようなこともあり、形にとらわれず、いろいろな手法を使っての共感者作りを心がけています」(NECソフト・野坂氏)
「マスやウェブという分け方はもうやめましょう、フラットに考えられないと何もできないですよ」という朝火さん。企業にとって、もはやウェブはあって当然のコミュニケーションツールなのです。「あとは実践。場数を踏んで、どれだけ経験できるか」(NEC・朝火氏)。従来型の“コミュニケーション”を脱却し、新しいことに挑戦して得てきたお二人の経験の深さを感じます。
維持・運営と新しい取り組みのジレンマ
企業規模が大きくなればなるほど、Webサイトのボリュームも増えていきます。それらの運営・維持をしつつ、新しいことに取り組むのもウェブ担当者の仕事。「Webサイトの維持・運営の比重が高くなっています。やっても、やってもきりがない」という朝火さん。その一方で、話題になった3D仮想空間「セカンドライフ」にも進出するなど、新しい取り組みにも挑戦しています。こういったチャレンジとサイト運営のバランスについてどう考えているのでしょうか?
「新しいものには、手をつけておきたい。セカンドライフは、Web新技術への試行とパブリシティ効果を期待して実施しました。トライアルとしてやっていたので明確な効果がうまく出せたか課題はありますが(笑)」(NEC・朝火氏)
「Webサイトのルールやガイドラインはグループ企業を含めた全社に向けて提供しています。でもその一方で、一度ルールを決めてしまうと改訂するのが難しいという問題もあります。日々、ウェブの環境・トレンドは変化しているのに、逆に自らルールを決める難しさを感じます」(NEC・朝火氏)
NECソフトでの野坂さんの課題はどういったものなのでしょうか?
「『コンバージョン率』などのウェブ独特の指標を、誰でもわかる指標にどうやって落とし込んでいくのかが課題です。問い合わせが何回目の人は案件が進捗しやすい、といったような情報に組み替えてあげる必要があるのです。ルールを作るといった高い視点が大事ですね」(NECソフト・野坂氏)
「思いとしては、SIerの(B2Bの)マーケティングプラットフォームを作りたい」という野坂さん。営業の近くで、営業と連携しているからこそ見えることがたくさんありますし、その分、課題も増えてくるのかもしれません。
NECグループでは、定期的に「ウェブ活用推進連絡会」というミーティングを開催しています。グループ各社からウェブを担当する人たちが100人以上集まる情報交換会だそうです。会では、NECグループ全体のWeb戦略・方針や、施策の進捗状況、各社の成功事例を共有するなど活発な意見交換が行われており、NECソフトがアクセス解析ツールとしてオムニチュアのサイトカタリストを導入したのも、この連絡会での情報交換がきっかけだったそうです。
「個別の施策としてではなく、全社レベルでウェブをメディアかつツールとして機能させていくことがいくことが求められている」というNECの朝火さん。「ニュースリリースは、RSSフィードと同様にコンテンツをネット上に解き放つ感じ」だというNECソフトの野坂さん。お二人をはじめ、グループ各社のさまざまな施策と成功体験が共有され、柔軟に対応されています。大企業ならではの課題もありながら、ITの最先端の企業であるスピード感を感じました。
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