次々に新しい手法に取り組む熱意と工夫が呼んだ成果/Z会の場合
PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ
多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。
従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。
広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。
この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。
神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)
読者の方にも、Z会にお世話になった人は多いのではないでしょうか? 受験生やその保護者をはじめ、絶大なる認知をもつZ会ですが、いまの若い人たちにとってZ会といえば「Z会ブログ」というほど、オンラインでの存在感を増しています。ダイレクトメールやテレビCMといった従来のマーケティング手法から、ブログをはじめとするCGMの積極活用で、少子化が進む今も受験生に圧倒的に強いブランドを保持し続けているZ会のオンラインでの取り組みについて、お話を聞きました。
製造現場の想いをメルマガで
Z会のオンラインへの取り組みの第一歩はメールマガジンでした。高校指導部の数学担当として、受験生向けの数学の問題と解答作りという「まさに製造現場」にいた寺西さん。
「問題の作りでいろいろと工夫をしても、冊子の中にはなかなか想いを反映できない。子どもたちにどうやって伝えればいいかというのを考えていたときに、インターネットのメルマガを発見したんです
」(寺西氏)
2001年にスタートしたメルマガは、まず会員向けの情報誌などを通じて告知。わずか1週間で約1000件、携帯電話からも含めて2000件を越える登録がありました。
「メール本文の文字数制限が250文字だった時代ですから、携帯電話からの登録が多いとは想定していませんでした。そこで、あわててモバイル向けのメルマガも用意し、250文字で伝わるメッセージを考えました
」(寺西氏)
250文字で、英単語の成り立ちを簡単に読めるコラムやOB・OGからの励ましのメッセージなどを配信したそうです。
ダイレクトメールの「次」を探して
いわゆる教育産業のマーケティング活動というと、一番に浮かぶのが家庭に届くダイレクトメールです。業界最大手では年間300億円もの予算を投入しているといわれるダイレクトメールを中心にした告知手法に、まったく新しい手法であるインターネットを取り入れていくのは、会社としても新しい挑戦だったのではないでしょうか?
「そもそもメルマガを始めるときから、『そんなもの、利益に貢献するのか』と言われていました。そこで、“メールモニター”ということを提案したんです。いきなりアンケートを送るのではなく、有用な情報を与えることでアンケートにも協力してもらい、回収率を上げるというイメージでした
」(寺西氏)
当初集まった2000件という数は上司の方が思っていたよりも、多かったそうです。
「ダイレクトメールは、AIDMAすべてを包括した魔法のツールだったんです。しかし情報の氾濫により、魔法が解けてしまいまして
」(寺西氏)
「ダイレクトメール以外のマーケティングツールの開拓が永遠の課題だった
」Z会に、寺西さんは「お客様のリアルの声が収集できる新しいツール
」として、まずはメルマガを提案しました。
現在では、マーケティングにおけるウェブの割合も随分伸びてきており「ダイレクトメールの役割は(AIDMAの)アクションのみに変わってきている
」そうです。
最初の一歩は、“安く”はじめる
最初のメルマガ開始後、広告宣伝担当へと異動になった寺西さんが、次に仕掛けたのはアフィリエイト広告。アクションクリックやバリューコマースを利用しました。そして2004年の夏頃からは検索連動型広告の利用も開始。
「代理店を通すという手法さえ知らなかったので(苦笑)、オーバーチュアの管理画面を使って自分で運用していました
」(寺西氏)
鉄道の改札機を通ったときに、地域情報などの情報を携帯電話にメールで送信するサービス。
小田急電鉄が2003年にサービスを開始し、その後、関西でもサービスが始まったが、2008年にサービスが終了。
現在は、子どもが改札機を通ったことをメールで知らせる「あんしんグーパス」のサービスが提供されている。
また、「お金のかからないやり方」として、小田急電鉄が提供していた「グーパス」というローカルな情報サービスに対して、「今日の一問」という形でZ会からコンテンツ提供ができないか検討。結果的には形にならなかったそうですが、コンテンツプロバイダーとしてZ会を位置づけた発想がユニークです。
2005年には高校生向けに、携帯メールを利用するQ&Aサービス「めるみぃ」を(現在はサービス終了)、2006年にはSNS「パルティオゼット」をサービス開始。そして、2009年2月には保護者が子どもと向き合うヒントを伝える「親子のやる気ラボ」を開き、さらにYouTubeにZ会の公式チャンネルを開設して「親子のやる気応援ムービー」を掲載しています。
- パルティオゼット
https://zkai.com/partioz/ - 親子のやる気ラボ
http://oya-zkai.jp/ - YouTubeのZ会チャンネル
http://www.youtube.com/user/zkaipr
「何でもやってみないとわかりません。そんなときは『どんな価値を創造できるか』という目標をもってやってみることが大事。YouTubeでZ会が公式チャンネルを持てるということを実現すると、社内からこれも載せてほしい、あれも載せてほしい、という話がくる。サーバーを借りるよりも断然安いですし、コンテンツがたまれば、そこに価値が生まれます
」(寺西氏)
次から次に新しい手法に挑戦していくには、社内の理解も必要です。「いろんな状況のなかで、最初の一歩を踏み出す。それをなるべく安いお金でやるというのが自分の仕事。実行したあとの“モノ”を見てもらえれば、不安を解消できますから
」と寺西さん。マスマーケティングと比べて「安く始める」ことができるのも、インターネットならでは。このメディアの特性が、新しいことへの挑戦のハードルを下げるポイントだったようです。
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