グーグルの唱える自由の正体と卵焼きとトコロテン
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百伍十伍
ネットは自由であるという誤り
グーグルと中国がにらみ合っています。状況をかいつまんで説明すると、中国を発信源とする大規模なサイバー攻撃が、中国の人権活動家のgmailアカウントのほか、複数の大手企業に対して行われ、これに怒ったグーグルが中国市場から撤退の可能性を示唆したのです。その後、グーグルは今まで中国側の意向に「配慮」して「検索結果」に出していなかった情報の一部を反映させはじめています。さらに米国政府も援護ととれるコメントを発表し「国家レベル」の懸案となりました。中国のネットは当局の検閲がありアクセスできる情報に制限がありますが、一方の米国は「ネットの自由」を掲げています。
ネットは自由か。インターネット上の書き込みが「便所の落書き」と呼ばれていた頃からの古くて新しいテーマです。そして両者の主張する「自由」とは「商売の発想力」を身につけるケーススタディとなります。あらかじめお断りしておきますが、本稿は「現場の心得」。グーグル礼賛派も中国万歳なあなたも喜ばせるものではありませんのであしからず。
Scrambling Rock'n' Roll
本題に入る前に「自由」について。「自由っていったいなんだい」と問いかけたのは故、尾崎豊さんです。自由になりたくないかという問いかけに続くこのフレーズに思春期の葛藤を重ねたものですが、アラフォーを迎えて「自由」の正体がわかりました。
例示は以下。
- 「修学旅行における“自由”行動」
- 「博物館の“自由”見学」
- 「合唱コンクールでの“自由”曲」
修学旅行先の地域という限定の上での「自由行動」であり、博物館の公開エリアのみの「自由見学」で、合唱という前提での「自由曲」です。ひとりがヒップホップを、となりはR&Bを、さらには尾崎豊をシャウトしてよいということではなく、自由とは一定の制約下において成立する概念で独立して存在するものではないのです。
国を越えれば変わるネットの自由
インターネットの「グローバル」は時に「国内法」に抵触します。主権国家では、それぞれの国内法が優先されます(国際条約による制限も各国によって解釈が異なるようです)。
下世話なたとえでは日本国内法では「わいせつ物」を公開すれば法に触れ検閲、取締の対象です。一方、世界では合法の国も多く、そこでは取り締まられることはありません。そして、合法の国から非合法な国へと、グローバルなネット経由で公開されます。現在は「黙認」されていますが、インターネット普及期には規制が真剣に議論されたものです。
インターネットのルールは国によって異なり、「自由」の形も異なります。
卵焼きは何味か
いよいよ本題。この「価値観の違い」が「商売の発想力」につながります。
唐突ですがあなたの家の「卵焼き」は何味でしょうか?
関西圏をルーツに持つ私は塩味ですが、東京都足立区竹の塚出身の妻は砂糖味です。一般的に「関東」の卵焼きは甘く「東京育ち」の同級生に「塩味」だと告げると奇異な目で見られ変人扱いされたものです。反対に本稿をお読みの「関西」の方には、甘い卵焼きを想像すらできない人もいるでしょう。
同様に「ところてん」の食べ方を「黒蜜」と答えると、「東京人」は決まって眉間にしわを寄せるのですが、関東の「酢醤油」で食べる方法を兵庫県尼崎在住の知人に伝えると「ゲェ」と声を震わせます。味付けも1つの「価値観」で、東京で販売されるお弁当の卵焼きは甘くなければ売れません。一方、関西では塩味……というより「だし巻き」でしょうか。
価値観は地域や文化で変わる
これからのウェブ世界は欧米の価値観やイデオロギーに強く牽引された「共有地たるグローバルウェブ(主に英語圏)」と「政治体制や文化・言語圏に閉ざされたローカルウェブ」がせめぎあい、分断されて林立する時代を迎えるのであろう(一部筆者要約)
平成22年1月31日付け、産経新聞に掲載された米ミューズ・アソシエイツ社長 梅田望夫さんのグーグル・中国問題における指摘です。
泥にまみれる現場にいると、なかなか頷くことの少なかったIT業界のカリスマ 梅田望夫さんの発言ですがこれには頷きました。いまから4年前に刊行した拙著「Web2.0が殺すもの」で「Webの普及が途上国の経済格差を拡大させる危険性」という指摘に重なるからです。今回の主題と同じく、価値観は地域や民族、文化で異なり、いわゆる「欧米文化圏」以外の世界には、「リアル」と対をなす合わせ鏡の「ウェブ世界(梅田氏の表現を借用)」が生まれます。
相手と立場を入れ替える
思考実験として「中国」の立場に立ちます。グーグルや米国が主張する「ネットの自由」とは、中国にとって不都合な真実を流布する「自由」も含んでいます。為政者として国家体制を維持することは職務であり責務であり「大儀」です。そして「国家体制に影響を与えない情報についての自由」は認めています。つまり「検閲」とは国家の安定のためであり、グーグルや米国の主張する「自由」の定義には従えない……となります。
商売の発想力を伸ばす簡単な方法は「価値観」を入れ替えることです。品質、価格、納期、ブランド、時に国家体制も。自分が考える「価値観」と客のそれが必ずしも一致するとは限りません。自由にもいろいろあるように、価値観は人それぞれあり、それが商売の種となります。
結婚して13年が経ち、妻は「塩味の卵焼き」を好んで食べるようになりました。しかし、今でも「黒蜜のところてん」は東京人の価値観から認めないと拒否します。美味しいのですが。
今回のポイント
文化が異なれば価値観が異なる。
善悪や優劣で測ると見誤る。
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
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現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
インプレスの配信の
インプレスの配信のリンクで読んだが、話にならない感想文レベル。
Googleは資本主義システムと自由主義のわかちがたい関係をよく理解しており、
実は中国共産党でもそのドグマを認めている。
中国共産党は、自由を前提としない資本主義体制の構築に
未だ見通しをつけておらず、将来的には自由主義と民主主義を貫徹するインドとの競争に
破れることを懸念している。
インプレスもトップコンサルや大学教授に配信するメルマガのリンクは
もう少し考えて載せた方が良いのではないだろうか。
記事の主旨はそこではありません
宮脇氏が冒頭で、
と書かれているように、グーグルと中国の件はあくまでもテーマへの導入の“話題”でしかなく、記事の本題ではありません。
この記事の本題は、あくまでも「文化が異なれば価値観が異なる」「商売をするなら客の価値観を理解すること」といった、現場の心得を説くものですのですので、みなさま、記事テーマを読み間違えることのないよう、ご注意くださいませ。