ヤフーが思い起こさせてくれた初心。登録と送信のあいだに年度末のサイトチェック
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百六十壱
年度末に寄せての思い
4月のオフィス街で「フレッシャーズ」は目立ちます。スーツが身体に馴染んでおらず、そこはかとない緊張感に包まれているからです。ベテランのスーツ姿はホームグラウンド並みに街に馴染み、緊張感を自宅に忘れても気にしません。「汚れちまった悲しみに」と中原中也を呟くほど青くありませんが仕事においても同じです。
インターネット初心者時代に経験した、問い合わせメールの書き出し一行目に頭を抱えた時間をすっかり忘れて、自社のホームページに「お問い合わせはメールで」と掲載してしまうのも、ブラウザの「戻るボタン」があるからと、トップページや前ページに回帰するリンクを張り忘れるのも「汚れちまった悲しみ」です。アクセス解析は週計から月計となり、次第に記憶の片隅に追いやられ、情報発信のためにとはじめた「ツイッター」が本当の「つぶやき」となり、一方でそれを肯定する理論武装だけしっかりしているのも。
明日からは「新年度」です。フレッシャーズの心を取り戻すにはよいタイミングではないでしょうか。
ヤフーほどの企業が
先日ヤフーのリスティング広告の資料請求キャンペーンに応募しました。ヤフーがオーバーチュアを昨年吸収合併したことで、「オーバーチュア」が「Yahoo!リスティング広告」に変更され、各種案内メールもこの名前で届きます。しかし、すでに利用している「オーバーチュア」の管理画面は合併前と変わらず、情報を伝える「ダッシュボード」は「支払残高の減少」だけが表示されています。これらについての情報を期待しての資料請求です。
必要事項を入力し確認画面へ。上部にこうあります。
以下の内容でよろしければ、「登録する」ボタンをクリックしてください。
ざっくりと目を通してサイト下部へ移動すると、そこにあったのは「登録する」ボタンではなく、「送信」ボタンでした。
サイトの一斉点検を命じる
ネットに慣れていれば躊躇することなく「送信」をクリックするでしょう。しかし、キャンペーンのターゲットが「初級者」であるのは、届いた資料からも明らかです。
利用している入力フォームの仕様なのかもしれませんが、「登録する」が見つからずに資料請求を諦める可能性もあります。ネットに慣れ親しんでいないユーザーは、まさか「ヤフー」ほどの大企業がこんな単純なミスをするはずがなく自分に非があると思いこむのです。ネットの情報を丸呑みにしていた初心者の頃を思い出せば、大袈裟な話ではないと気づくでしょう。
「登録」と「送信」。たった2文字の違いで客を失うかも知れないとしたらもったいない話です。このあと弊社では管理サイトの一斉点検をしました。
送り先がない花はどこに届くのか
次は親切な機能が起こす不便について。
弊社クライアントがリニューアルオープンをするというので生花を送るよう我が社の専務に指示します。ネットで注文できるサービスがあったと報告を受け「よしなに」と任せます。便利な時代になったものだと呟いていると、専務が受話器を持ち、少し焦りながら話をしているのに気づいたので聞き耳を立てます。
届け先がない
ネットで注文したはいいが、届け先を記入する欄がなかったというクレームです。開店用の生花スタンドを届けるサービスで届け先の記入欄がないのはおかしな話です。その後、解決したと報告を受けたのですが、気になり私自身が試してみます。すると「お届け先入力」は「必須」としてあります。専務に確認すると自分の見落としだったと白状するので、状況を再現させると「見落とす理由」がわかりました。親切な機能が見落としの原因だったのです。
自動登録の裏目
このサイトはショッピングモールの決済機能を利用していました。ログアウトした状態でカートに入れると最初に「届け先情報」を尋ねる画面が表示されるのですが、専務のパソコンはこのモールに「ログイン」している状態でした。その状態のまま「買い物カゴ」に商品を入れると、「送り先」の欄に登録してある弊社の住所氏名が自動的に記載され、それはまるで「確認画面」のようです。専務は確認画面の次に届け先入力があるのだと独り合点し、そのまま発注を完了させたのでした。
一般的な通販ならば、登録してある個人情報が自動で反映されれば自宅住所を入力する手間がなく便利です。しかし、「お届け物」の商材で届け先に「自宅」が自動入力されるのは果たして親切なのか疑問が残ります。もちろん、見落とした専務のそこつさは注意しましたが。
そして自動入力系のチェックを専務に指示します。
初心忘るべからずとは
はじめてパソコンに触った日。当時はマイコンといいましたが、28年前の興奮を今でも覚えています。はじめてマックを操作した20年前の感動は鮮やかです。インターネットはパソコン通信との境界線から定かではありませんが、国境を越えて届いた国内ご禁制の画像に、土手で特殊な「雑誌」を探した少年時代の記憶が重なります。コホン。
はじめて「ネット通販」で購入した商品が届いた時のドキドキをすっかり忘れていたので、いま手伝っている通販サイトでは「ドキドキ見直し」に取り組んでいます。「パッケージ」「挨拶文」「梱包方法」「手にした時」「封を切る瞬間」「商品を見た喜び」。手を加える余地はまだまだありました。
明日から新年度。新た気持ちになるにはちょうど良いタイミングです。
今回のポイント
当たり前と思う心がすでに慢心。
虚心坦懐。新年度はフレッシュな気持ちで。
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コメント
はじめて「ネット通
あ、これはいいですね。
とってもよい気付きをいただきました。
ありがとうございます。
ちなみに私は、初心に立ち返りたいときには『ほぼ日刊イトイ新聞の本』という本を読んでいます。
糸井さんがインターネットにはじめて触れたときのドキドキが伝わってきて、なんだかこっちまでワクワクしてくるんですよね。
初心を思い出すために
コメントありがとうございます、小林さん。
「あなたにとっては何百人の客のなかの“ひとり”にすぎなくてもお客さんからみた、あなたは“たったひとり”の店の代表」
これは企業研修などの機会があると伝えるようにしていることですが、もちろんネットショップも同じです。
これも日々の業務の澱にまみれて汚れちまうので定期的にリフレッシュが必要です。
私が初心を思い出すのに利用するのは2点。ひとつはお客さんから寄せられた歓びの声や、会社員時代も含めて、その業務の初期「作品」をみること。そしてもうひとつは「求人情報誌」。
フリーターには戻りたくない……と念じる心が勤勉性をチャージしてくれます。